通勤路のイチョウ並木や、休日に散歩する公園の木々。あれが実は、街なかの「もうひとつの森」として、せっせとCO2を吸っているのをご存じでしょうか。全国の街路樹は約670万本、都市公園は約13万ha。合わせて年間およそ160万t-CO2を吸収していると試算されます。日本の森林全体の吸収量(4,500万t-CO2)の3.6%ほど。森に比べれば小さく見えますが、人が暮らすすぐそばで効いている、という点に意味があります。
街路樹670万本は何の木か
日本の街路樹(高木)は全国で約670万本。いちばん多いのはイチョウ(約57万本)で、サクラ類、ケヤキ、ハナミズキ、トウカエデと続きます。上位5樹種で全体の3割ほど。関東はイチョウ・ケヤキ、関西はクスノキ・ハナミズキ、北海道はナナカマド・プラタナス、九州はクスノキ・センダンと、土地の気候によって顔ぶれが変わるのも面白いところです。
街路樹は1970年の約110万本から、いまの670万本へと半世紀で6倍に増えました。大気汚染対策、景観づくり、温暖化対策と、時代ごとの政策が積み重なった結果です。ただ最近は樹齢40年を超える老木が約3割に達し、根上がりによる歩道の段差や台風時の倒木リスクが課題に。新しく植える本数より撤去のほうが多い自治体も出てきています。
1本でどれだけ吸うのか
街路樹1本の年間CO2吸収量は、樹種や太さで大きく変わります。国交省のマニュアルによれば、胸高直径20cmの若木で年12kg前後、40cmの中径木で約25kg、60cmを超える大径木では45kg近くにもなります。クスノキやプラタナスのような常緑・半常緑樹は、落葉樹より光合成できる期間が長く、1〜2割ほど多めに吸う傾向があります。
| 樹種 | 若木(直径20cm) | 中径木(40cm) | 大径木(60cm) |
|---|---|---|---|
| ケヤキ | 約12 kg/年 | 約25 kg/年 | 約45 kg/年 |
| イチョウ | 約10 kg/年 | 約22 kg/年 | 約40 kg/年 |
| クスノキ(常緑) | 約14 kg/年 | 約30 kg/年 | 約50 kg/年 |
| サクラ類 | 約11 kg/年 | 約24 kg/年 | 約42 kg/年 |
| プラタナス | 約14 kg/年 | 約28 kg/年 | 約48 kg/年 |
670万本の街路樹のうち約半数が中径木〜大径木に育っており、1本あたり年30kgとすると、街路樹だけで年約20万t-CO2を吸う計算になります。
都市公園は1haで森に匹敵する
都市公園のCO2吸収量は、緑被率(樹冠でどれだけ覆われているか)でほぼ決まります。緑被率70%・中〜大径木中心の公園なら、1ヘクタールあたり年11〜13t-CO2。これは天然林(年8〜12t-CO2/ha)と同等か、むしろやや上回る水準です。計画的に植えられた都市公園は、樹木の密度もサイズもよく揃っているため、面積あたりの吸収力では森に引けを取らないのです。
| 公園の規模 | 典型的な緑被率 | 1ha吸収量(t-CO2/年) |
|---|---|---|
| 大規模公園(明治神宮等) | 80〜90% | 13〜15 |
| 中規模公園(代々木公園級) | 70〜80% | 11〜13 |
| 近隣公園 | 50〜70% | 8〜11 |
| 街区公園・小規模緑地 | 30〜50% | 5〜8 |
全国13万haの都市公園の加重平均をとると、1haあたり年10〜11t-CO2、合計で約140万t-CO2。これに街路樹の20万tを足したのが、冒頭の160万t-CO2という数字です。
明治神宮の森、100年越しの計画
都市林の話で外せないのが、東京・原宿の明治神宮の森(約70ha)です。1915年から1920年代にかけて、林学者の本多静六らが「100年後に自然の極相林になること」を見越して設計しました。当初はマツやスギの針葉樹を中心に、全国から献納された約10万本の苗木で人工的に植えた森。その狙いどおり、100年後のいまはシイ・カシ・クスノキの照葉樹林へと遷移し、約7万本・230種を擁する都市の森になっています。
| 項目 | 1920年代の植栽時 | 100年後(現在) |
|---|---|---|
| 樹木本数 | 約10万本 | 約7万本 |
| 主要樹種 | マツ・スギ中心 | シイ・カシ・クスノキ(230種) |
| 林相 | 針葉樹人工林 | 照葉樹自然林(極相林) |
| 年間CO2吸収量 | — | 約900〜1,000t-CO2 |
100年先を見据えて森を設計するという発想は、都市林計画のお手本として国際的にも評価されています。隣接する代々木公園(54ha)や新宿御苑(58ha)とあわせ、東京都心の貴重なCO2吸収源です。
吸収だけじゃない、街路樹のしごと
都市の森のもうひとつの大きな役割が、ヒートアイランドの緩和です。公園の中と周りの市街地では、真夏のピークで2〜3℃の気温差が生まれます。これは樹冠が日差しを遮り、葉が水分を蒸散させ、地面の熱容量を増やす、3つの効果の合わせ技。中〜大径木1本は1日に200〜400Lもの水を蒸散させ、これは家庭用エアコン10台分に相当する冷却効果と言われます。樹冠の下の地面は、日なたより10〜15℃も低くなります。
さらに都市の森は、雨水を地下に浸透させて洪水を和らげ(1haあたり年1,500〜2,500m³)、PM2.5やNOxといった大気汚染物質を吸着し、鳥や昆虫のすみかになり、人のストレスを和らげてくれます。公園に隣接する不動産には1〜2割の価格プレミアムがつくという研究もあり、これら多面的な便益の合計は、CO2吸収だけの価値の何十倍にもなると見積もられています。
こうした都市の緑は、都市緑地法や都市計画法、国交省の道路緑化技術基準といった枠組みで守られ、整えられてきました。これからの課題は、200万本を超える老木の計画的な更新、そして航空レーザー測量などを使った吸収量の精密な「見える化」です。CO2吸収・気温緩和・生物多様性といった役割をきちんと数字で示せれば、都市の森を守り育てる動機づけも、もっと強くなっていくはずです。
よくある質問
街路樹のCO2吸収量はどう測るのですか?
胸高直径(地上1.3mの幹の太さ)と樹高を実測し、樹種ごとの吸収係数を掛けて算定します。国交省のマニュアルでは樹種・サイズ別の標準係数が用意されており、直径20cmのケヤキ若木で約12kg/年、直径60cmの大径木で約45kg/年が目安です。
なぜ都市公園1haの吸収量が森林と同じくらいなのですか?
都市公園は計画的に植栽された緑地で、緑被率70〜90%・中〜大径木中心の構成だからです。樹木の密度とサイズが森林に近く、年11〜13t-CO2/haを実現します。自然林は幼木の比率も高いため平均では8〜12t-CO2/haで、結果的に同等水準になります。
明治神宮の森はなぜ100年計画なのですか?
1915〜1920年代の造林時に、本多静六ら林学者が「将来の極相林」を目指したためです。手のかかる針葉樹から自然に遷移させ、100年後にシイ・カシなどの照葉樹林になるよう設計しました。狙いどおり、現在は約7万本・230種の照葉樹林に育っています。

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