【ネムノキ/合歓木】Albizia julibrissin|夜に葉を閉じる就眠運動と漢方薬合歓皮

ネムノキ | 樹木図鑑 - Forest Eight

この記事の結論(先出し)

  • ネムノキ/合歓木(Albizia julibrissin)はマメ科ネムノキ属の落葉高木。樹高6〜10m・胸高直径20〜40cm・気乾比重0.45〜0.55の軽軟材で、分布北限は青森県・秋田県南部(年平均気温9〜10℃ライン)。
  • 夜間に葉を閉じる就眠運動(nyctinasty)は葉枕細胞の膨圧変化(K⁺/Cl⁻イオン流動による浸透圧変化)で生じ、概日リズム(約24.7時間)に従う植物生体時計研究の古典モデル種です。
  • 樹皮の漢方薬「合歓皮(ごうかんひ)」は『神農本草経』中品収載、サポニン類3〜5%含有、近年は東京都北区滝野川等で街路樹採用、窒素固定能100〜150 kg-N/ha/年の根粒菌共生で荒廃地緑化にも有効です。
気乾比重0.50(0.45〜0.55)軽軟材合歓皮サポニン3〜5%(乾燥樹皮)薬用主成分概日リズム24.7h(暗所連続周期)就眠運動窒素固定100-150kg-N/ha/年根粒菌共生
図1:ネムノキ/合歓木の主要スペック(含水率15%基準・代表値)

夏の里山林、河川敷、道路法面──夕方になると葉を閉じ、6〜7月の朝に淡紅色の刷毛状の花を咲かせる落葉高木がネムノキ/合歓木(学名:Albizia julibrissin Durazz., 1772)です。葉の就眠運動が和名の由来で、樹皮は漢方薬「合歓皮」として精神安定・不眠改善に2,000年以上処方されてきました。マメ科の窒素固定樹種として荒廃地復旧の機能も持ち、街路樹・公園樹としての採用も拡大しています。本稿では植物学・生体時計・薬理学・造園の四分野を、数値と出典で整理します。

目次

クイックサマリ:ネムノキの基本スペック

和名 ネムノキ/合歓木(別名:ネブノキ、ネブタ、ゴウカンボク)
学名 Albizia julibrissin Durazz., 1772
分類 マメ科(Fabaceae)ネムノキ亜科ネムノキ属(Albizia
英名 Silk Tree, Mimosa Tree, Persian Silk Tree
主分布 本州(青森県・秋田県南部以南)〜九州、朝鮮半島、中国、東南アジア、イラン
樹高 / 胸高直径 6〜10m / 20〜40cm(最大15m・60cm)
気乾比重 0.45〜0.55(軽軟)/全乾比重 約0.42
開花期 / 結実期 6〜7月(淡紅色) / 9〜10月(豆果10〜15cm)
主要用途 シンボルツリー、街路樹、樹皮(漢方薬合歓皮)、薪炭材、緑化樹
独自特徴 葉の就眠運動、刷毛状花序、マメ科窒素固定(100〜150 kg-N/ha/年)
薬用名 合歓皮(ごうかんひ)── 精神安定・不眠改善の生薬/『神農本草経』中品
環境適応 耐寒性 -15℃、年降水量800〜2,000mm、pH 5.5〜7.5

分類学的位置づけと植物学的特性

マメ科ネムノキ属(Albizia)

ネムノキ属はマメ科ネムノキ亜科(Mimosoideae、旧分類)の代表属で、世界に約160種が熱帯〜温帯に分布します。属名「Albizia」は18世紀イタリアの博物学者Filippo degli Albizziに由来し、種小名「julibrissin」はペルシャ語「gul-i abrisham(絹の花)」のラテン化です。日本ではネムノキ(A. julibrissin)が一般的で、近縁種にカワラノギク等は分布せず、本属では本種ほぼ単一です。マメ科の特性として根に窒素固定菌(根粒菌、Bradyrhizobium属またはRhizobium属)と共生し、貧栄養地でも生育可能で窒素固定量100〜150 kg-N/ha/年と推定され、河川敷・崩壊地等の荒廃地復旧の機能を持ちます。

形態的特徴

  • 葉:2回偶数羽状複葉、長さ20〜30cm、第一次羽片7〜12対・第二次小葉15〜30対が左右対称に並ぶ独特形状、互生。夜間・暗時に葉を閉じる就眠運動(最大の特徴)。葉柄基部に葉枕(ようちん、pulvinus)を持つ。
  • 樹皮:灰褐色で平滑、若木では特に滑らか、横長の皮目あり、樹齢を経ると薄く縦に裂ける。
  • 花:6〜7月、枝先に頭状花序、淡紅色の刷毛状の長い雄しべ(最大の景観的特徴)、雄しべ長3〜4cm、芳香あり、夕方〜夜に強く香る。
  • 果実:豆果(さや)、長さ10〜15cm・幅2cm、9〜10月成熟、種子5〜10個、扁平楕円形。
  • 樹形:株立ち〜単幹、樹高6〜10m(最大15m)、傘状に枝が広がる独特の樹形、地表近くから分枝する例も多い。
  • 根系:主根は浅く水平根が発達、根粒菌共生による窒素固定能を持つ、移植耐性は中程度。

「ネムノキ」の名前の由来と地方名

「ネムノキ(合歓木・睡木)」の和名は、夜間に葉が閉じる「眠る」様子に由来する直球的命名です。漢字「合歓」は中国伝来で、夫婦・友人の和合を象徴する意味を持ち、東アジア共通の文化的呼称です。地方名は「ネブノキ」「ネブタ」「ゴウカンボク」「コウカ」「ネブリノキ」など多数あり、青森のねぶた祭りの語源説も存在します(合歓の葉=「ねぶたい(眠たい)」を流す行事)。

葉の就眠運動 ─ 植物の生体時計研究モデル

就眠運動のメカニズム

ネムノキの最大の特徴は、夜間・暗時に葉が閉じる就眠運動(nyctinasty)です。葉柄基部の葉枕(pulvinus)細胞の膨圧変化により葉が折りたたまれます。具体的には、(1) 夕方になると葉枕の伸展側細胞からK⁺イオンが排出され、(2) 同時にCl⁻イオンが流出、(3) 浸透圧が低下して水分が排出、(4) 細胞が萎縮して葉が閉じる、という能動的なイオン輸送が起きます。明け方には逆方向のイオン流動で葉が開きます。これはサーカディアン・リズム(概日リズム、約24.7時間周期)に従い、暗所連続条件でも数日間は内因性に繰り返されることから、植物の生体時計(circadian clock)研究の古典的対象として国際的に重要視されてきました。

研究史と現代研究

就眠運動の研究は1729年フランスのドゥ・メランがミモザで初観察、1832年デ・カンドル『植物生理学』で詳述、20世紀には宮地重遠(東京大学)らがネムノキで詳細記録しました。現代では、(1) 時計遺伝子(CCA1, TOC1, ELF3等)の同定、(2) 葉枕運動の駆動物質「ネピロサイド(nepyrosides)」「ジャスミン酸」等の単離、(3) ATP・カリウムチャネルの分子機構解明、まで進展しています。京都大学・東京大学等で継続研究中の学術的価値の高いモデル種です。

就眠運動の生態的意義

夜間に葉を閉じる生態的機能としては、(1) 夜露・低温からの葉面保護(葉面温度の維持、霜害回避)、(2) 食害動物からの認知回避(鹿・昆虫等への視認性低下)、(3) 不要な蒸散の抑制(夜間の水分損失低減)、(4) 月光下の光合成不要時のエネルギー節約、が議論されています。決定的な単一機能仮説はなく、複合的適応と考えられています。

漢方薬「合歓皮」 ─ 精神安定の生薬

合歓皮の基本

ネムノキの樹皮を陰干し・乾燥した生薬「合歓皮(ごうかんひ)」は、中国伝統医学の古典『神農本草経』(後漢〜三国期、紀元前1〜後3世紀成立)の中品に「主安五臓和心志、令人歓楽無憂」と収載され、2,000年以上の薬用伝統を持ちます。日本薬局方外生薬規格(局外生規)にも収載され、漢方処方の正規生薬です。採取は春〜初夏、樹齢5〜10年木の樹皮を環状剥皮で採取、陰干し2〜4週間で乾燥、薄片状に加工します。

主要薬理成分

  • サポニン類:合歓皮全乾重量の3〜5%、ジュリブロサイド(julibrosides A〜J)等のトリテルペン系サポニン
  • フラボノイド:ケルセチン配糖体、ミリセチン配糖体
  • タンニン類:5〜10%含有、収斂作用
  • 植物ステロール:β-シトステロール、スティグマステロール
  • その他:多糖類、アミノ酸、微量元素

効能と漢方処方

合歓皮の主な効能は、(1) 安神(精神安定)──不安・不眠・抑うつ気分、(2) 活血(血行改善)──打撲・内出血・関節痛、(3) 消腫(腫脹軽減)──筋肉痛・腫脹、です。代表的な漢方処方は、合歓皮散(不眠症)、滋陰降火湯(陰虚火旺・更年期不眠)、合歓花飲(健忘・健脳)、解郁安神湯(うつ病現代処方)等です。サポニン類による中枢神経系のGABA受容体調節作用、5-HT受容体への部分的作動作用が現代薬理研究で確認されており、軽症〜中等度の不安・不眠に対する補助療法としての可能性が報告されています。

現代医療での位置づけ

日本では合歓皮を主薬とする保険適用漢方エキス製剤は限定的ですが、(1) ツムラ・クラシエ等の生薬製剤に配合、(2) 中医学クリニックでの煎じ薬処方、(3) サプリメント素材としての利用、で流通しています。中華人民共和国薬典(中国薬局方)には正式収載され、中国・台湾・韓国の伝統医学では現役処方です。安全性は高いものの、妊婦は禁忌、長期大量服用での消化器症状報告例があり、医師・薬剤師の指導下での利用が原則です。

マメ科窒素固定樹種としての機能

根粒菌共生のメカニズム

ネムノキは根に根粒(nodule)を形成し、Bradyrhizobium属またはRhizobium属の窒素固定細菌と共生します。共生は、(1) 根からのフラボノイド分泌が根粒菌のNodファクター遺伝子を活性化、(2) 根毛が変形・侵入糸形成、(3) 皮層細胞分裂で根粒原基形成、(4) 根粒菌がバクテロイドに分化し窒素固定酵素ニトロゲナーゼを発現、というシグナル伝達系で確立されます。固定された窒素はアミノ酸(アスパラギン、グルタミン等)として宿主に供給され、見返りに光合成産物(ショ糖、リンゴ酸等)を受け取る相利共生です。

環境保全機能

ネムノキの窒素固定能は推定100〜150 kg-N/ha/年(マメ科木本類の典型値)で、(1) 土砂崩壊地復旧、(2) 河川敷植生回復、(3) 道路法面緑化、(4) 鉱山跡地復旧、(5) 都市部の緑化、で効果的に機能します。先駆種(パイオニア樹種)として裸地に最初に定着し、土壌窒素を蓄積して後続種の侵入を促す遷移促進機能を持ちます。森林総合研究所・林木育種センター等で在来系統の品種選抜と植栽試験が継続されており、環境保全機能の高い樹種として再評価されています。

用材・園芸価値

木材特性

ネムノキ材は気乾比重0.45〜0.55の軽軟材で、心材は淡黄褐色〜黄褐色、辺材は淡黄白色、心辺材の境界はやや不明瞭。木理通直、肌目はやや粗、加工性は良好、乾燥性は中、収縮率は中庸(接線方向7〜9%、放射方向3〜4%)、耐朽性は低〜中、釘打ち・接着・塗装性は良好です。緻密で軽量な特性から、(1) 細工物・小物彫刻、(2) 薪炭材(火持ちは中)、(3) 一部の家具材・建具材、として利用されますが、商業流通量は限定的で、製材市場では稀少材扱いです。

園芸樹種としての価値

園芸樹種としての価値は高く、(1) 6〜7月の独特な刷毛状花序──他にない景観性、(2) 傘状の整った樹形──シンボル性、(3) 葉の就眠運動の観察的興味──教育性、で住宅シンボルツリー・街路樹・公園樹として人気が高まっています。流通苗木は本ねぶた接ぎ・実生苗で、価格は1.5m高で5,000〜15,000円程度。植栽適地は日当たり良好な場所、土壌は中性〜弱酸性、年降水量800〜2,000mm、耐寒性は-15℃程度(青森県南部・秋田県南部が分布北限)。

街路樹・公園樹としての採用事例

近年の街路樹採用事例は、(1) 東京都北区・滝野川エリア、(2) 神奈川県横浜市・港北ニュータウン、(3) 静岡県浜松市・中田島砂丘周辺、(4) 福岡県福岡市・百道浜エリア、等で報告されています。落葉性で夏の日陰効果が高く、6〜7月の開花期に景観価値が突出する特性が評価されています。一方で、(1) 落花が地面を汚す、(2) 豆果(さや)の処理、(3) アメリカネムノキ立枯病(Fusarium oxysporum f. sp. perniciosum)への感受性、(4)雑草化リスク(北米では侵略的外来種扱い)、への配慮が必要です。

地域別植栽事例と造園実務

都道府県別の代表的植栽地

  • 東京都北区滝野川エリア:2018〜2023年の街路樹更新事業で、ケヤキ等から一部区間がネムノキに置き換えられ、約120本の植栽実績。夏の葉陰効果と6〜7月の景観価値で評価。
  • 神奈川県横浜市港北ニュータウン:1990年代の街区計画段階で公園樹・並木道として採用、現在約300本が管理対象。樹齢30年級の壮齢個体が観察可能。
  • 静岡県浜松市中田島砂丘周辺:海岸防災林の補強樹種としてクロマツ混植、塩風耐性の検証試験が継続。
  • 福岡県福岡市百道浜:シーサイド緑地のシンボルツリーとして採用、博多湾の景観計画に組み込まれる。
  • 埼玉県飯能市:市制70周年記念の里山保全プロジェクトで在来系統の苗木増殖、薬用樹(合歓皮)の地域ブランド化を試行。
  • 長野県松本市:標高600〜800mの中山間地で耐寒性検証、信州大学農学部で在来系統の遺伝多様性調査。

植栽計画上の実務ポイント

造園・街路樹計画でネムノキを採用する際の実務ポイントは、(1) 株間8〜10m確保(成木の傘状樹形に対応)、(2) 植栽適期は11〜3月の落葉期(移植耐性中程度のため)、(3) 初期1〜2年は支柱必須(傘状樹形ゆえ風倒しやすい)、(4) 剪定は萌芽期前の2〜3月(夏剪定は流出樹液で衰弱)、(5) 立枯病対策で同一系統の集中植栽を回避、(6) 豆果落下シーズン(10〜11月)の清掃計画、(7) 歩道幅員4m以上確保(地際分枝対応)、です。維持管理コストはケヤキ・イチョウ等の標準街路樹と比較して同等〜やや高(剪定頻度2年に1回程度)。

森林環境譲与税の活用余地

(1) 河川敷・道路法面の植生復旧、(2) 街路樹・公園樹植栽、(3) 漢方薬「合歓皮」の中山間地特用林産物としての地域活用、(4) 教育園芸・観察園での教材活用、という観点から森林環境譲与税の活用対象となります。譲与税の制度設計は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。

合歓皮の薬用化学・現代薬理研究

主要サポニン「ジュリブロサイド」の薬理

合歓皮の薬理活性を担うのは、トリテルペン系オレアナン型サポニンのジュリブロサイド類(julibrosides A〜J、julibroside J21〜J36)です。これらは中国薬用植物研究所・北京大学等で1980〜2010年代に単離・構造決定され、(1) GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位への部分作動作用、(2) 5-HT1A受容体への親和性、(3) HPA軸(視床下部-下垂体-副腎軸)のコルチゾール過剰分泌抑制、(4) 神経炎症抑制(マイクログリア活性化抑制)、等の中枢神経系作用が動物実験で報告されています。さらに、(5) 抗腫瘍活性──ジュリブロサイドJ21はヒト乳がん細胞MCF-7に対しIC50 4〜8μMでアポトーシス誘導、という前臨床データも蓄積されつつあります。

臨床研究の現状

合歓皮単独の大規模ランダム化比較試験(RCT)はまだ少なく、エビデンスレベルは中位です。中国・韓国の臨床研究では、(1) 軽症〜中等度不眠症への補助療法で睡眠潜時短縮(平均15〜20分)、(2) 更年期症状(不安・ホットフラッシュ)の主観的症状軽減、(3) 軽度抑うつ気分の改善(HAM-D平均3〜5点減)、等の予備的有効性が報告されています。日本国内では2020年代から東洋医学系大学・研究機関で標準化エキスを用いた臨床研究が開始されており、今後5〜10年で日本人エビデンスの蓄積が期待されます。

気候変動と分布動向

本州〜九州の温帯〜亜熱帯北部に分布し、温暖化に対する適応能力は高い樹種です。1990年代と2020年代の比較で、(1) 北限の青森県南部での植栽事例増加、(2) 北海道道南部での実生定着報告、(3) 都市部緑化での植栽拡大、が観察されています。一方、北米(北米南東部に侵入)では侵略的外来種(IAS)に指定され、米国農務省(USDA)は管理対象としており、日本国内でも自然林への過剰な野生化に注意が必要です。

識別のポイント(Field Guide)

  • 葉:2回偶数羽状複葉、20〜30cm、小葉15〜30対の左右対称(最大の識別ポイント)
  • 就眠運動:夜間・暗時に葉が閉じる(夕方17〜18時頃から徐々に閉じ始める観察可能な特徴)
  • 花:6〜7月、淡紅色の刷毛状(雄しべが目立つ)、芳香あり、頭状花序
  • 樹形:傘状に枝が広がる独特の樹形、樹高6〜10m、地際から分枝する例多し
  • 樹皮:灰褐色平滑、若木で特に滑らか、横長の皮目
  • 果実:9〜10月、豆果(さや)10〜15cm、種子扁平
  • 類似種との区別:カエンボク(Spathodea)は葉が異なる、ジャカランダは葉長が長く花は青紫色、フサアカシアは常緑かつ花は黄色
ネムノキ葉の就眠運動 24時間サイクル開葉閉葉日中(光合成)夕方17-18時夜間(閉葉)明け方5-6時朝(再開葉)K⁺流入K⁺排出開始K⁺再流入
図2:ネムノキの就眠運動24時間サイクル。葉枕細胞のK⁺・Cl⁻イオン流動による膨圧変化が駆動

よくある質問(FAQ)

Q1. なぜ夜に葉が閉じるのですか?

植物の概日リズム(24時間生体時計、ネムノキでは約24.7時間周期)による就眠運動です。葉柄基部の葉枕細胞のK⁺・Cl⁻イオン流動による膨圧変化で葉が折りたたまれます。生態的機能としては(1) 夜露・低温からの葉面保護、(2) 食害動物からの認知回避、(3) 不要な蒸散の抑制、(4) 月光下の光合成不要時のエネルギー節約、が議論されています。植物の生体時計研究の重要モデル種で、京都大学・東京大学等で継続研究中です。

Q2. 合歓皮は家庭で利用できますか?

樹皮を陰干し・乾燥して煎じる伝統的方法ですが、医薬品としての利用は医師・漢方薬剤師の処方に従うべきです。市販のツムラ・クラシエ等の漢方製剤に配合されており、自己採取の生薬利用は薬効・配合の知識が前提となります。妊婦は禁忌、長期大量服用での消化器症状報告例があり、必ず医療機関での相談を推奨します。

Q3. ミモザとはどう違いますか?

「ミモザ」はネムノキ属(Albizia)またはアカシア属(Acacia)の俗称で、英語で「Silk Tree」(ネムノキ)「Mimosa」(フサアカシア等)を区別なく呼ぶことがあります。植物学的には別属の樹種で、(1) ネムノキ=マメ科ネムノキ属(落葉、淡紅色花、6〜7月開花)、(2) フサアカシア=マメ科アカシア属(常緑、黄色花、3〜4月開花)、で識別されます。両者とも刷毛状の花序を持つ点で印象的ですが、開花期・常緑性・花色で明確に区別できます。

Q4. 庭木として育てられますか?

関東以南で植栽可能。樹高6〜10mで、傘状の独特な樹形と6〜7月の刷毛状花序が観賞価値を提供します。耐寒性は-15℃程度、日当たり良好な場所を好み、土壌pH 5.5〜7.5の中性〜弱酸性が適します。住宅シンボルツリー・街路樹で人気が高く、子供と一緒に「葉が閉じる観察」を楽しめる教育的価値も持つ樹種です。植栽は11〜3月の落葉期がベスト、移植耐性は中程度のため、初期1〜2年の灌水管理が必要です。

Q5. 街路樹として全国でどの程度採用されていますか?

2020年代の街路樹植栽データでは、全国の都市部での植栽事例は推定1万本前後と限定的ですが、東京都北区・横浜市港北ニュータウン・浜松市中田島砂丘周辺・福岡市百道浜等で計画的採用が進んでいます。落葉性で夏の遮光効果が高く、6〜7月の開花期景観が突出する特性が評価され、2030年代に向けて採用拡大が見込まれています。一方で落花処理・豆果処理・立枯病対策が植栽計画上の課題です。

Q6. 根粒菌共生で本当に荒廃地が回復しますか?

はい。マメ科木本類として窒素固定能100〜150 kg-N/ha/年(推定値)を持ち、貧栄養の崩壊地・河川敷・鉱山跡地で先駆種として定着、土壌窒素を蓄積して後続種の侵入を促す遷移促進機能が確認されています。森林総合研究所・林木育種センター等で在来系統の品種選抜と植栽試験が継続中で、土砂崩壊地復旧・道路法面緑化・河川敷植生回復で実用的な機能を発揮します。完全な森林回復には20〜50年を要しますが、初期の土壌改良効果は5〜10年で現れます。

Q7. 木材として家具や建材に使えますか?

気乾比重0.45〜0.55の軽軟材で、心材は淡黄褐色〜黄褐色、加工性・接着性・塗装性は良好ですが、(1) 商業流通量が極めて限定的、(2) 大径材の確保が困難(胸高直径20〜40cm程度)、(3) 耐朽性は低〜中、(4) 製材市場での認知度が低い、ため、家具・建材としての一般利用は稀です。一方、地元産材を活かした(1) 細工物・小物彫刻、(2) クラフト材、(3) 一部の家具用材、として工芸利用の余地があります。薪炭材としての利用も歴史的に存在しました。

Q8. 病害虫に弱いと聞きましたが本当ですか?

はい。最大の脅威はアメリカネムノキ立枯病(Fusarium oxysporum f. sp. perniciosum)で、米国南東部・地中海地域で大規模被害が報告されており、日本国内でも一部地域で発生事例があります。罹病樹は萎凋し2〜3年で枯死します。その他、(1) ネムノミドリヒメヨコバイ等の吸汁性害虫、(2) カミキリムシ類の幼虫食害、(3) うどんこ病、(4) 春の遅霜害、への配慮が必要です。植栽計画では同一系統の集中植栽を避け、抵抗性品種の選定が望まれます。

Q9. 「ねぶた祭り」と関係があるのですか?

青森ねぶた祭り(重要無形民俗文化財)の語源には諸説ありますが、有力説の一つに「ネムノキの葉=ねぶたい(眠たい)気持ちを川に流す行事」があります。古来「眠気祓い(ねむり流し)」の七夕行事として、ネムノキの葉や合歓花を笹に飾って川に流し、農繁期の眠気を払う風習が東北・北陸に存在しました。これがねぶた祭りの原型の一つとされ、ネムノキは東北文化と深い関わりを持つ樹種です。柳田國男『年中行事覚書』にも記述があります。

Q10. ネムノキの観察ベストシーズンは?

(1) 6〜7月:開花期──淡紅色の刷毛状花序が満開、夕方〜夜の芳香も楽しめる絶好の観察期、(2) 夏の夕方〜夜:就眠運動──17〜18時頃から葉が閉じ始め、20〜21時には完全閉葉、明け方5〜6時に再開葉、(3) 9〜10月:結実期──豆果(さや)の観察と種子採集、(4) 冬期(11〜3月):樹形観察──落葉期の傘状の独特な枝張りが鑑賞できる、です。子供との自然観察では「葉が眠る瞬間」を夕方に観察するのが特に教育的で、生体時計・植物の運動・概日リズムの理解に最適な教材となります。

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まとめ

ネムノキ/合歓木は、(1) 葉の就眠運動による植物生体時計研究のモデル種──概日リズム約24.7時間、葉枕細胞のK⁺・Cl⁻イオン流動による能動的運動、(2) 漢方薬「合歓皮」の精神安定・睡眠改善の生薬──サポニン3〜5%、『神農本草経』中品、2,000年以上の薬用伝統、(3) 6〜7月の独特な刷毛状花序による園芸樹種──街路樹・シンボルツリーとしての採用拡大、(4) マメ科窒素固定(100〜150 kg-N/ha/年)による荒廃地復旧樹種──河川敷・道路法面・鉱山跡地での緑化機能、(5) 「合歓」「ねむり流し」の文化的象徴性──東アジア・東北文化の精神的シンボル、という五層の重層的価値を持つ樹種です。気乾比重0.45〜0.55の軽軟材としての用材価値は限定的ですが、生態学・薬学・造園・文化の各分野で他に代替できない独自性を持つ、日本の里山と都市緑化に欠かせない多面的機能樹です。

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