【キヅタ/フユヅタ】Hedera rhombea|冬も緑の常緑つる、都市緑化の戦略樹種

キヅタ | Forest Eight

冬、雑木林がすっかり葉を落として枝だけになった頃も、古木の幹をくっきりとした緑で覆い続けるつる植物がキヅタ(学名:Hedera rhombea)です。別名「フユヅタ(冬蔦)」。秋に紅葉して枝だけになる落葉性のツタ(夏蔦)と対になる、冬も緑を保つ常緑のつるという、観察の鋭い古来の命名です。社寺の老木や都市のビル壁面で、いまや壁面緑化の主役として全国で活躍しています。

登攀方式気根壁面に固着自立型緑化つる長10-30m高樹冠到達壁面温度低減5-10℃(夏季)省エネ効果耐陰性★★★★★最強級北側壁面可
図1:キヅタ/フユヅタの主要スペック(代表値)
目次

気根で壁をよじ登る、日本固有のアイビー

キヅタはウコギ科キヅタ属の常緑つる性木本で、本州(青森以南)から沖縄、朝鮮半島南部や台湾にも分布します。葉は革質で光沢があり互生。おもしろいのは、伸び盛りの枝(栄養枝)の葉が3〜5裂の菱形なのに、成熟して花をつける枝(花枝)の葉は切れ込みのない卵形になる葉の二形性です。種小名 rhombea(菱形)も、この若い葉の形に由来します。

最大の武器は、節から多数出る気根(付着根)。先端から粘着物質を出し、根毛が基質の微細な凹凸に食い込んで強力に固着します。コンクリートやモルタル、古レンガ、自然石といった多孔質で凹凸のある面に特に強く、ガラスや金属の平滑面は苦手です。この力のおかげで、足場やワイヤーガイドなしで壁を覆える「自立型」の緑化が成立します。花は晩秋10〜12月に淡黄緑色の小花を咲かせ、他の蜜源が乏しい時期のハチやアブを支え、翌春に熟す黒紫色の実はヒヨドリやムクドリが運んでくれます。

都市の壁を冷やす、ヒートアイランド対策の主力

耐陰性・耐潮性・耐大気汚染性が高く、病害虫も少なく、剪定後の再生力も旺盛。この丈夫さで、キヅタは壁面緑化・グランドカバー・都市緑化の中心に座っています。葉の蒸散と日射の遮蔽により、夏の壁面温度を5〜10℃、室温を1〜3℃下げ、冷房負荷を1〜3割削減するという報告もあります。葉面で粉じんを吸着する効果もあり、環境省や東京都の緑化施策でも壁面緑化の中核樹種とされています。日陰でもよく育つので、建物の北側や階段まわりの緑化にも向きます。

欧米のセイヨウキヅタ(H. helix、English Ivy)とは近縁ですが、キヅタは葉がやや大きく濃緑で光沢が強いのが特徴。国際園芸市場では「Japanese Ivy」として別カテゴリで流通します。なお日本の自然林では、外来のセイヨウキヅタとの雑種化リスクを避けるため、在来種であるキヅタの使用が推奨されています。

紛らわしい3種の見分け方

  • キヅタ(ウコギ科)…常緑・気根で登攀・葉は互生で切れ込みあり。冬も緑。
  • ツタ/夏蔦(ブドウ科)…落葉・吸盤で登攀・秋に紅葉して冬は枝だけ。
  • テイカカズラ(キョウチクトウ科)…常緑・気根で登攀だが葉は対生・全縁。初夏に白い風車状の花。

植えるなら──壁面緑化の実務

壁面緑化に使うなら、植穴は基礎から30〜50cm離して掘り、苗の根鉢を据えます。植栽密度は壁面1㎡あたり1〜2株が目安。初年度は伸びがゆっくりですが、2〜3年目から年1〜3mのペースで一気に広がります。最初はワイヤーや麻ロープでつる先を壁へ向けて固定すると、気根の発生と付着が進みます。剪定は冬に過繁茂部を整理し、窓・換気口・雨樋を覆う部分を間引く程度。ハダニやカイガラムシがつくことはありますが、いずれも軽微で薬剤散布はふつう不要です。

建物への影響は、健全なコンクリートやタイル、塗装面ならダメージは限定的。ただしモルタルの劣化部や塗膜の浮いた古い壁では、気根が亀裂に入り込んで劣化を進めることがあるので、古い建物では年1〜2回の点検と補修をおすすめします。室内では明るい日陰に置けば観葉植物としても楽しめ、ハンギングでつるを垂らすスタイルが人気です。

よくある質問

落葉樹に巻き付いたキヅタは取るべき?

キヅタは宿主から養分を奪う寄生植物ではなく、ただ寄りかかって登る着生型なので、基本的に除去は不要です。ただしつるが密集して宿主の葉に光が届かない、幹をきつく締める、倒伏リスクが増す、といった場合は部分的に取り除きます。社寺の老木では景観・生態の価値もあるので、専門家と相談して判断してください。

庭木として育てやすいですか?

耐寒性・耐乾性・耐陰性のすべてに優れ、とても育てやすい樹です。日陰でもよく育つのでグランドカバーや北側壁面にうってつけ。剪定は年1〜2回、強く刈り込んでも回復力が高く、挿し木の発根率も高いので増やすのも簡単です。「育て損ねにくい」つる植物の代表格です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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