5〜6月、社寺の塀やフェンスで、白い風車のような小さな花を一面に咲かせ、甘い香りを漂わせる常緑のつる植物がテイカカズラ(学名:Trachelospermum asiaticum)です。和名「定家葛」は、平安末から鎌倉初期の歌人・藤原定家(1162-1241)に由来します。式子内親王への定家の執心が、死後に蔓となって墓に絡みついた──能「定家」が描くこの伝説から名づけられた、文学の香りをまとった樹です。
気根でよじ登る、暖地の常緑つる
テイカカズラはキョウチクトウ科の常緑つる性木本。最大の特徴は、茎の節から出る気根(不定根)で樹皮・岩・コンクリート壁などに固着しながら這い登る力です。成熟株ではつるが5〜10mに伸び、数十kgのつる体全体を壁面に支えます。葉は革質で光沢があり対生・全縁。冬には紫〜赤褐色を帯びることもあり、これは低温と強光から身を守る働きです。
花は白い5裂の風車状で直径2〜3cm。花冠の先が右巻きにねじれるのはキョウチクトウ科らしい形です。夜に香りが強まることから、主な送粉者は夜行性のガの仲間とみられます。秋には15〜25cmの細長い袋果が対になって垂れ下がり、裂けて綿毛つきの種子を風に乗せます。本州(東北南部以南)から九州・沖縄、朝鮮半島南部の暖温帯に分布し、半日陰でも日向でもよく育つ広適応種です。
「定家葛」という名前の物語
和名は『新古今和歌集』『小倉百人一首』の撰者として知られる藤原定家にちなみます。後白河院の皇女・式子内親王への秘めた思慕で歴史に残る定家。その執心が死後に蔓となって内親王の墓に絡みつき、僧の祈祷で一度はほどけてもまた絡みつく──能「定家」はそう描きます。墓所や旧跡に這い登るこのつるが「定家葛」と呼ばれるようになり、江戸期の本草書にも定着しました。
もっとも、植物としての歴史はこの伝説よりずっと古く、『万葉集』の時代には「マサキノカズラ(柾の蔓)」の名で神事の祭具に使われた記録もあります。京都・嵯峨の二尊院、奈良の般若寺など能「定家」ゆかりの社寺には今も古株が残り、茶道では夏の茶花として一輪挿しに好まれます。観賞価値と文学・芸能・茶道の伝統が一体になった、ちょっと珍しい樹です。
都市の緑化を支える働き者
文学的な顔とは別に、テイカカズラは都市緑化の主力でもあります。グランドカバー、壁面緑化、盆栽、庭園のシンボル、茶花と用途は幅広い。半日陰の傾斜地や法面に1㎡あたり3〜5株植えれば2〜3年で全面を覆い、土壌侵食を抑えます。常緑なので冬も景観が保たれ、刈り込み管理も比較的ラクです。
壁面緑化では、葉の蒸散と日射の遮蔽で夏の外壁表面温度が無処理面より5〜10℃下がるという実測例もあり、ヒートアイランド対策として国も推奨しています。気根が外装を傷めるという心配は、フェンスやトレリスを介して直接外壁に這わせないこと、定期的に剪定して過密を防ぐことで抑えられます。園芸品種も豊富で、新葉がピンクに染まる「ハッピーアワー」、真っ白に展開する「初雪カズラ」など、葉色を楽しむカラーリーフ系が人気です。
キョウチクトウ科の例にもれず、テイカカズラの全草には強心配糖体やアルカロイドが含まれます。誤食すると消化器・神経・心臓の症状を起こすため、子ども・ペット・家畜の口に入らないよう注意を。剪定で出る白い乳液も皮膚炎の原因になるので、作業時は手袋を着けてください。距離を置いて眺める分には安全な樹です。
よくある質問
アイビー(セイヨウキヅタ)とどう違うの?
テイカカズラ(キョウチクトウ科)は白い風車状の花に芳香があり、葉は対生で切れ込みのない革質。アイビー(ウコギ科)は花が地味で葉が互生・切れ込みあり、樹液も無色です。どちらも壁面緑化に使われますが、花の観賞価値と香りはテイカカズラの大きな魅力です。
庭木として育てやすいですか?
育てやすい樹です。日当たり〜半日陰、水はけのよい弱酸性〜中性土壌を好み、誘引のためのトレリスやフェンスを用意します。耐寒性は-10℃前後なので、寒冷地以外なら全国で栽培可能。植え付けは春か秋、剪定は冬か花後に行い、肥料は年1〜2回の緩効性肥料で十分です。

コメント