「卯の花の匂う垣根に 時鳥(ほととぎす)早も来鳴きて」――唱歌「夏は来ぬ」の出だしを覚えている人は多いでしょう。あの「卯の花」が、このウツギ(学名:Deutzia crenata)です。アジサイ科の落葉低木で、5〜6月に枝先いっぱいに白い小花を咲かせ、初夏の里山を彩ります。
名前は二つあります。「卯の花」は旧暦4月=卯月に咲くことから生まれた古典文学上の呼び名。もうひとつの「空木(うつぎ)」は、枝の中が空洞になっていることに由来します。この「中空の枝」こそ、ウツギを暮らしの道具にしてきた最大の特徴でした。
万葉集から唱歌まで――1,300年詠まれ続けた花
ウツギは『万葉集』に24首詠まれています。大伴家持らがホトトギスと取り合わせて好んで歌に詠み、初夏の長雨を「卯の花腐し(うのはなくたし)」と呼ぶなど、古代の人々の季節感に深く入り込んでいました。その系譜は古今和歌集以下の勅撰集、芭蕉らの俳諧へと受け継がれ、歳時記では今も夏の代表的な季語です。
そして明治29年(1896年)、万葉集研究の第一人者・佐佐木信綱が作詞した唱歌「夏は来ぬ」が、卯の花を冒頭に据えました。この歌は以後5代にわたり小学校の音楽教科書に載り続け、「初夏といえば卯の花」というイメージを国民的な記憶にしました。桜が春、紅葉が秋を象徴するように、卯の花は初夏の清涼感を代表する花になったのです。なお、おからを「卯の花」と呼ぶのは、白く細かい粒がこの花に似ているからで、植物そのものは食べません。
「空木」――中空の枝が生んだ暮らしの道具
ウツギの枝は、2年目以降になると髄が抜けて完全に中空になります。和名「空木」はここから来ています。この空洞の枝が、江戸から昭和初期まで農村で重宝されました。軽くて適度に丈夫なので鍬や鎌の柄になり、緻密で割れにくい性質を活かして家具を組む木釘(楊子釘)にも削られました。木目が細かく口当たりがやわらかいことから「卯の花楊枝」として商品化された記録もあり、子どもは中空の枝を笛やストロー代わりにして遊びました。
いまでは木材としての商業流通はほぼありませんが、木工・指物の世界では「ウツギ釘」が特注で使われることがあります。軽さ・振動吸収性・加工しやすさを兼ね備えた中空構造は、近年では軽量材料を考えるバイオミメティクス(生体模倣)の観点からも注目されています。
白い花は蜜の宝庫――養蜂とのつながり
一株に100〜300輪も咲く白花は、蜜源としても優秀です。レンゲ(4〜5月)からクリ・ニセアカシア(6月)へと続く蜜源リレーのちょうど谷間、5月下旬〜6月中旬を埋めてくれるのがウツギ。採れる蜂蜜は淡い黄色で透明感があり、クセのない「初夏蜜」として親しまれます。長野・島根・岡山などの中山間地では「卯の花蜂蜜」のブランド化も進んでいます。
花だけでなく、株立ちで地際から密に枝分かれする姿はウグイスやメジロの格好の営巣場所にもなります。「卯の花の蔭で鶯が鳴く」という古典的な景色は、こうした生態の上に成り立っているわけです。
庭に植える――「卯の花の匂う垣根」を自分の庭に
樹高1〜3mと住宅の庭にちょうど収まり、シンボルツリーにも生垣にも向きます。萌芽力が強く刈り込みに耐えるので、まさに歌詞どおりの「卯の花の垣根」を作ることもできます。生垣にするなら40〜60cm間隔で列植し、2〜3年で目隠しになります。茶道では初夏の床の間花の定番でもあり、切り花としても親しまれてきました。八重咲きのサラサウツギや極矮性のコンパクタなど園芸品種も豊富です。
育てやすさは折り紙つき。耐寒性・耐乾性・耐陰性に優れ、土質もあまり選びません。ひとつだけ大事なのが剪定の時期で、花が終わったらすぐ(6月中旬〜7月上旬)に行うこと。花芽は前年の枝に作られるため、秋冬に刈ると翌年の花がごっそり減ってしまいます。肥料は2月の寒肥だけで十分。シカの食害も比較的受けにくく、初心者でも安心して育てられる花木です。
なお「○○ウツギ」と名のつく植物は20種以上ありますが、ピンクの花のタニウツギ(スイカズラ科)や大きな白花のバイカウツギなどは別の仲間。いずれも「枝が中空または髄が大きい」という共通点から同じ名で呼ばれてきた、いわば名前のうえでの親戚です。

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