大きな山火事のニュースを見るたびに、「あの森はどのくらいで元に戻るのだろう」と気になったことはないでしょうか。じつは今、宇宙から地球を見つめる衛星のおかげで、焼けた森がどれだけ傷んだか、そしてどのくらいの速さで回復しているかを、世界規模で追えるようになっています。この記事では、山火事が森に何をもたらすのか、そして衛星リモートセンシングがその回復をどう見守っているのかを、できるだけわかりやすくお伝えします。
火は森に何を残すのか
ひとくちに山火事といっても、その激しさはさまざまです。林床の落ち葉や草だけが燃える地表火なら樹冠は無事ですが、樹冠まで燃え上がる「冠火」になると火炎の高さは30mを超え、時速10km以上で広がる、最も激しい火災になります。激しい火は樹木を枯らすだけでなく、土の中5cmほどでも温度が70℃を超えれば微生物の大半が死に、林床の有機物も焼き尽くされます。
影響は火が消えたあとにも続きます。地表をおおっていた植物が失われるため、火災後1年で表土の流亡は通常の10〜100倍にもなり、河川の濁りや水質の変化、風下数百kmに及ぶPM2.5の上昇まで引き起こします。世界全体の数字を見ると、2024年の森林火災による焼失面積は約3,930万ヘクタールと、2001年比でおよそ2倍に拡大しました。とくにシベリアやカナダといった寒冷なボレアル帯での増加が顕著です。一方で、北米のポンデローサマツ林のように、もともと数十年ごとの火災と共に更新してきた「火災依存型」の森もあり、なかには高温で初めて球果が開いて種を放つ樹種さえあります。火と森の関係は、決して一面的ではありません。
宇宙から焼け跡を見る
では、衛星はどうやって焼け跡を捉えるのでしょうか。用途に応じて、いくつものタイプの衛星が使い分けられています。
| 衛星 | 解像度 | 再訪周期 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| Landsat 8/9(USGS) | 30m | 16日 | 火災跡地検出、長期トレンド |
| Sentinel-2(ESA) | 10/20m | 5日 | 詳細な被害状況、NBR算出 |
| MODIS / VIIRS(NASA) | 250m〜1km / 375m | 毎日2回 | 全球の火災動向、活火災のリアルタイム検出 |
| Sentinel-1(CバンドSAR) | 10〜25m | 6〜12日 | 雲・煙の下の観測、構造変化 |
| ALOS-2(JAXA、LバンドSAR) | 10〜100m | 14日 | 森林バイオマス、貫通性が高い |
| GEDI(NASA、衛星LiDAR) | 25mフットプリント | 不定期 | 森林の3D構造、樹高 |
とりわけ価値が高いのがLandsatです。1972年から50年以上にわたって連続して撮り続けられた唯一の長期アーカイブで、何十年も前の火災跡地の回復過程までさかのぼって解析できます。雲や煙にさえぎられず観測できるSAR(合成開口レーダー)は、火災が燃え続けている最中でも被害を把握できるのが強みです。そして驚くことに、これらLandsat・Sentinel・MODISといった主要な衛星データは、すべて無償で公開されています。技術的な知識は要りますが、研究や教育、市民科学のために誰でも使えるのです。
焼け具合と回復を数値にする
衛星画像から焼け具合を測るときによく使われるのがNBR(正規化燃焼指数)という指標です。健全な植生では+0.6〜0.9ほどの値が、重度に焼けると−0.3〜−0.6まで下がります。火災前と後のNBRの差をとったdNBRを使えば、被害の程度を「軽微」から「重度」まで5段階に分類できます。米国地質調査所のMTBSというプロジェクトは、この手法で1984年以降の大規模火災すべての被害地図を整備し、2万件を超えるデータベースを公開しています。
一方、その後の回復を年単位で追いかけるのに向くのが、おなじみのNDVI(正規化植生指数)です。火災直後は0.1以下まで落ち込み、植物が戻るにつれて少しずつ上がっていきます。つまり、dNBRで「どれだけ焼けたか」を測り、NDVIで「どれだけ戻ったか」を追う——この二つを組み合わせるのが標準的なやり方です。
回復の速さは森のタイプ次第
火災のあと、森が元の姿に戻るまでの年数は、気候や樹種によって驚くほど違います。NDVIが火災前の90%まで戻るのを「回復」の目安とすると、温暖で乾いた地中海性の森では5〜15年と比較的早いのに対し、温帯の落葉樹林では20〜50年、そして寒冷なボレアル針葉樹林では50〜150年もかかります。同じ「森の回復」でも、人の一生をはるかに超える時間が必要な場合があるのです。
近年は、こうした解析に機械学習が大きく貢献しています。U-Netなどの深層学習モデルが衛星画像から焼損地の境界を自動で抽出し、その精度はF1値0.92以上に達しました。人手では膨大な時間がかかる作業を、AIが一気に処理できるようになったのです。
日本と世界の現場から
日本は湿潤な気候のため大規模な火災は限られますが、無縁ではありません。林野庁の統計では令和4年度(2022年)に1,239件の山火事が発生し、605ヘクタールが焼失しました。記憶に新しいのは、2017年の岩手県釜石市の大火(焼失413ヘクタール)と、2021年の栃木県足利市の山火事(106ヘクタール)です。釜石ではSentinel-2とLandsatで被害域が画定され、5年後の解析でNDVIは火災前の75%まで回復、枯死したアカマツに代わって広葉樹が優占する森へと移り変わっていることが確認されました。足利では、冬の乾いた空気のなか発生した火災を、雲や煙の影響を受けないALOS-2のレーダーが捉えました。
世界に目を向けると、規模はけた違いです。2023年のカナダでは過去最大の1,840万ヘクタールが焼け、年間の炭素排出量は通常の3倍を超えました。2019〜2020年のオーストラリア「ブラック・サマー」では2,400万ヘクタールが焼失し、コアラなど30億を超える野生動物に影響が及びました。森林火災は今や世界の人為的なCO2排出の5〜10%に相当するとされ、その監視はもはや一国だけの問題ではありません。欧州のEFFIS、NASAのFIRMS、そしてJAXAが運営しアジア太平洋25か国が参加するSentinel Asiaなど、国境を越えた監視ネットワークが、刻一刻と変わる火災の状況を見守り続けています。
よくある質問
Q. リモートセンシングのデータは、専門家でなくても使えますか?
使えます。Landsat・Sentinel・MODIS/VIIRSはすべて無償で公開されており、Google Earth EngineやCopernicus Data Spaceといった処理基盤も無料です。ブラウザやPython・R環境があれば、研究・教育・市民科学の目的に十分活用できます。NASA Worldviewなどで衛星画像をそのまま眺めることも可能です。
Q. dNBRとNDVIはどう使い分けるのですか?
dNBRは火災直後(おおむね60〜90日以内)の被害の強さを測るのに最適で、土壌や植生の変化を敏感に捉えます。NDVIはその後の数年〜数十年にわたる回復過程を追うのに向いています。両者は補い合う関係で、災害評価では併用するのが標準です。
Q. 火災後の森は何年で回復しますか?
気候・樹種・火災の強さで大きく変わります。NDVIが火災前の90%に戻る目安で、地中海林5〜15年、温帯落葉樹林20〜50年、熱帯雨林50〜80年、ボレアル針葉樹林50〜150年ほど。樹種構成や林床の多様性まで含めた本当の意味での回復は、さらに長く数百年スケールになることもあります。
- NASA FIRMS(Fire Information for Resource Management System)
- Global Forest Watch / WRI
- USGS/USFS MTBS(Monitoring Trends in Burn Severity)
- EFFIS(European Forest Fire Information System)
- Pickell et al. (2016); Hermosilla et al. (2022) — 再生過程の長期解析

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