森にどれだけの炭素が蓄えられているか——この問いに、林業は長らく「標準木を切って測り、アロメトリ式で全体を推し量る」という地道な方法で答えてきました。そこへLiDAR(レーザー測距)が登場し、森をまるごと3次元の点群として捉え、立体ピクセル=ボクセル単位で構造を読み解く時代が来ています。本稿では、ボクセルベースのLiDAR解析がいまどこまで来ているのか、機械学習・衛星LiDAR・ドローンを組み合わせた最新の到達点を、具体的な精度数値とコストを添えて整理します。
計測プラットフォームの全体像
ひとくちにLiDARと言っても、地上据え置き型から衛星まで、スケールとコストはまるで違います。まずは全体像をつかんでおきましょう。
| プラットフォーム | 分解能 | 主な用途 | カバレッジ | 典型コスト |
|---|---|---|---|---|
| 地上LiDAR(TLS) | 0.1〜2 cm | 個体木3D形状、幹直径精密計測 | 0.1〜1 ha | 機材1,500〜3,000万円 |
| UAV LiDAR | 2〜10 cm | 林分構造解析、ボクセル化 | 10〜100 ha | 機材500〜1,500万円 |
| 航空機LiDAR(ALS) | 10〜50 cm | 地形+林冠、広域マッピング | 1,000〜100,000 ha | 取得委託500〜2,000円/ha |
| 衛星LiDAR(GEDI等) | 25 m(フットプリント) | 地球規模バイオマス | 全球(緯度51.6°帯) | 無償(NASA) |
分解能を上げれば狭い範囲しか測れず、広く測れば粗くなる——この見事なトレードオフが、用途ごとの使い分けを決めています。ha単位の高精度な材積マップなら航空機+UAV LiDAR、地球規模の炭素検証なら衛星のGEDIが、それぞれ事実上の標準です。
ボクセル化とは何をしているのか
LiDARが吐き出すのは、空間に散らばった数百万〜数億の点の座標データです。これをそのまま扱うのは重すぎるので、一定サイズの立方格子(たとえば5cm角)に区切り、各マスに点があるか・どれくらい密かを集計します。これがボクセル化です。
利点は3つ。処理が安定すること、空間構造を数値化できること(ボクセルの占有率がそのまま樹冠の密度になる)、そして異なる機材や撮影日のデータを統合しやすくなることです。森林学的には、ボクセルの3D占有率から葉面積密度(PAD)や樹冠ボリューム(m³/ha)を直接見積もれます。ツールはCloudCompareやLAStools、R言語のlidRといったオープンソース/商用が出そろい、LASフォーマットでほぼ相互に読み書きできるため、データ移行の障壁は低くなっています。
機械学習で精度はどこまで上がったか
近年の進展の主役は機械学習です。2024年のFrontiers in Plant Science誌の研究では、衛星LiDAR(GEDI)とサポートベクター回帰(SVR)・ランダムフォレスト・XGBoostを地理統計手法と組み合わせ、ユーカリ林の地上部バイオマス推計でR²=0.868、RMSE=7.93 t/haを達成しました。点群を直接ニューラルネットに入力する深層学習(Minkowski CNN, Krisanski 2023)では、個体木でR²=0.92という高精度も報告されています。
| 研究/プラットフォーム | 対象 | モデル | R² | RMSE |
|---|---|---|---|---|
| Frontiers Plant Sci 2024 / GEDI | ユーカリ人工林 | SVR | 0.868 | 7.93 t/ha |
| 同上 | 同上 | Random Forest | 0.851 | 8.45 t/ha |
| MDPI Sensors 2024 / UAV-LiDAR+RGB | 個体木(混交林) | XGBoost | 0.770 | 21.5 kg/木 |
| Krisanski 2023 / ALS | 豪州ユーカリ | Minkowski CNN | 0.920 | 53 kg/木 |
| FFPRI 2023 / 航空機LiDAR | 北海道トドマツ | 線形重回帰 | 0.84 | 32 m³/ha |
興味深いのは、多くの研究が「樹高や樹冠ボリュームといった構造の特徴量のほうが、反射強度や分光の特徴量より効く」という同じ結論に行き着いていることです。これは、わざわざ3Dで森を測る価値そのものを裏づけています。特徴量の重要度を調べると、樹冠高・ボクセル占有率の上位値・葉面積指数(PAI)が、いつも上位3つに顔を出します。
NASA GEDI:宇宙から森を測る
2018年に国際宇宙ステーションへ搭載されたNASAのGEDIは、地球規模で森林の3D構造を体系的に取得する衛星LiDARです。25m径のフットプリントで温帯〜熱帯林をほぼ全面カバーし、波形から樹冠高や垂直構造を読み取ります。2022年に1km解像度のバイオマスマップ(L4B)が公開されて以降、グローバルな炭素収支の精緻化が一気に進みました。
ただしGEDIのピクセル単独の精度は限定的(RMSE 30〜80 t/ha)で、信頼できるのは広域平均です。J-クレジット申請のようにピクセル精度が要る用途では、GEDIを教師データとしてSentinelやLandsat、PALSAR-2と機械学習で組み合わせるのが定石になっています。
日本の現場:林野庁・FFPRIの広域取得
林野庁と森林研究・整備機構(FFPRI)は航空機LiDARによる森林資源解析を全国で進めており、2026年時点で1道2府18県以上で広域取得が完了しています。点密度は3〜10点/m²が標準で、トドマツ・カラマツ造林地の林分材積推計はRMSE 30〜60 m³/ha(地上検証比R²=0.80〜0.88)という水準です。これらは各県の森林簿GISに統合され、スマート林業の基盤として動いています。
とくに北海道は航空機LiDARの取得率が高く、ha単位の立木材積マップが整備済み。長野・静岡は県全域の取得を終えています。こうしたデータは森林環境譲与税の市町村事業やJ-クレジット制度の吸収量算定の基礎データとして活用されています。
コストで見るLiDARの経済性
結局のところ、現場に効くのはコストです。ha単価で並べると、LiDARの強みがはっきりします。
| 計測手法 | ha単価 | 取得期間 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 毎木調査(標準木採取+胸高直径) | 30,000〜80,000円 | 1〜3日/ha | 地上検証、補正 |
| UAV LiDAR(自社運用) | 1,000〜5,000円 | 15〜30分/ha | 林分構造、ha単位材積 |
| UAV LiDAR(外部委託) | 5,000〜15,000円 | 同上 | 同上 |
| 航空機LiDAR(県事業) | 500〜2,000円 | 1日で1万ha | 広域材積マップ |
| 衛星画像(Sentinel-2) | 0円 | 1日で全国 | 大局トレンド、変化検出 |
毎木調査の10分の1以下のコストで計測できるわけですから、年間1,000ha以上を扱う中規模以上の事業者なら、3〜5年で機材投資を回収できる計算です。逆に小規模な事業者には、外部委託での部分活用や、県・国の広域LiDARデータの2次利用が現実的な入り口になります。スギ・ヒノキの単純林ならUAV LiDARと機械学習で個体木抽出精度95%以上が報告されており、広葉樹混交林でも林分単位の材積推定なら十分な精度(R²=0.85前後)が得られます。
よくある質問
LiDARボクセル解析と従来のアロメトリ式、どちらが正確?
大規模で均質な人工林なら、よく校正されたアロメトリ式がコスト面で今も優位です。一方、複層林・天然林・撹乱を受けた林・大径木の多い林では、LiDARボクセル解析が圧倒的に強い。実際には両者を組み合わせて校正・検証するのが標準で、LiDAR+機械学習でRMSEが従来式比30〜50%改善した事例も複数報告されています。
NASA GEDIのデータは無料で使える?
はい、すべて無料・オープンアクセスです。NASA EarthdataやUSGSのLP DAACから配信されており、Google Earth Engineにも全プロダクトが取り込まれているので、JavaScript/Python APIで即座に解析を始められます。
- Frontiers in Plant Science 15: 1428268 (2024) Forest aboveground biomass estimation based on spaceborne LiDAR combining machine learning and geostatistics.
- MDPI Sensors 24(21): 7071 (2024) UAV-LiDAR and RGB Machine Learning for AGB
- Krisanski S et al. Deep point cloud regression for above-ground forest biomass estimation. Remote Sensing of Environment 305 (2024)
- NASA GEDI(Global Ecosystem Dynamics Investigation)公式
- 森林研究・整備機構(FFPRI)

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