LiDARボクセルで読む森林3D構造:機械学習で精度R²=0.87を実現する炭素推計革命

LiDARボクセルで読む森林3D構造 | Forest Eight

森にどれだけの炭素が蓄えられているか——この問いに、林業は長らく「標準木を切って測り、アロメトリ式で全体を推し量る」という地道な方法で答えてきました。そこへLiDAR(レーザー測距)が登場し、森をまるごと3次元の点群として捉え、立体ピクセル=ボクセル単位で構造を読み解く時代が来ています。本稿では、ボクセルベースのLiDAR解析がいまどこまで来ているのか、機械学習・衛星LiDAR・ドローンを組み合わせた最新の到達点を、具体的な精度数値とコストを添えて整理します。

目次

計測プラットフォームの全体像

ひとくちにLiDARと言っても、地上据え置き型から衛星まで、スケールとコストはまるで違います。まずは全体像をつかんでおきましょう。

プラットフォーム 分解能 主な用途 カバレッジ 典型コスト
地上LiDAR(TLS) 0.1〜2 cm 個体木3D形状、幹直径精密計測 0.1〜1 ha 機材1,500〜3,000万円
UAV LiDAR 2〜10 cm 林分構造解析、ボクセル化 10〜100 ha 機材500〜1,500万円
航空機LiDAR(ALS) 10〜50 cm 地形+林冠、広域マッピング 1,000〜100,000 ha 取得委託500〜2,000円/ha
衛星LiDAR(GEDI等) 25 m(フットプリント) 地球規模バイオマス 全球(緯度51.6°帯) 無償(NASA)

分解能を上げれば狭い範囲しか測れず、広く測れば粗くなる——この見事なトレードオフが、用途ごとの使い分けを決めています。ha単位の高精度な材積マップなら航空機+UAV LiDAR、地球規模の炭素検証なら衛星のGEDIが、それぞれ事実上の標準です。

ボクセル化とは何をしているのか

LiDARが吐き出すのは、空間に散らばった数百万〜数億の点の座標データです。これをそのまま扱うのは重すぎるので、一定サイズの立方格子(たとえば5cm角)に区切り、各マスに点があるか・どれくらい密かを集計します。これがボクセル化です。

利点は3つ。処理が安定すること、空間構造を数値化できること(ボクセルの占有率がそのまま樹冠の密度になる)、そして異なる機材や撮影日のデータを統合しやすくなることです。森林学的には、ボクセルの3D占有率から葉面積密度(PAD)や樹冠ボリューム(m³/ha)を直接見積もれます。ツールはCloudCompareやLAStools、R言語のlidRといったオープンソース/商用が出そろい、LASフォーマットでほぼ相互に読み書きできるため、データ移行の障壁は低くなっています。

LiDAR点群とボクセル化の概念図 点群データを立体格子(ボクセル)に集約し、各ボクセルの占有率・密度から樹冠構造を定量化する。 LiDAR点群とボクセル化(5cm³格子) ①点群データ(数百万点) ②ボクセル化(占有率記録) 各ボクセルの占有率→葉面積密度PAD→バイオマス→炭素蓄積量 出典:Béland et al. 2014, Agricultural and Forest Meteorology の概念を参照
図1:LiDAR点群とボクセル化(概念図)。点群を立体格子に集約し、占有率・密度から樹冠構造を定量化する。

機械学習で精度はどこまで上がったか

近年の進展の主役は機械学習です。2024年のFrontiers in Plant Science誌の研究では、衛星LiDAR(GEDI)とサポートベクター回帰(SVR)・ランダムフォレスト・XGBoostを地理統計手法と組み合わせ、ユーカリ林の地上部バイオマス推計でR²=0.868、RMSE=7.93 t/haを達成しました。点群を直接ニューラルネットに入力する深層学習(Minkowski CNN, Krisanski 2023)では、個体木でR²=0.92という高精度も報告されています。

研究/プラットフォーム 対象 モデル RMSE
Frontiers Plant Sci 2024 / GEDI ユーカリ人工林 SVR 0.868 7.93 t/ha
同上 同上 Random Forest 0.851 8.45 t/ha
MDPI Sensors 2024 / UAV-LiDAR+RGB 個体木(混交林) XGBoost 0.770 21.5 kg/木
Krisanski 2023 / ALS 豪州ユーカリ Minkowski CNN 0.920 53 kg/木
FFPRI 2023 / 航空機LiDAR 北海道トドマツ 線形重回帰 0.84 32 m³/ha

興味深いのは、多くの研究が「樹高や樹冠ボリュームといった構造の特徴量のほうが、反射強度や分光の特徴量より効く」という同じ結論に行き着いていることです。これは、わざわざ3Dで森を測る価値そのものを裏づけています。特徴量の重要度を調べると、樹冠高・ボクセル占有率の上位値・葉面積指数(PAI)が、いつも上位3つに顔を出します。

NASA GEDI:宇宙から森を測る

2018年に国際宇宙ステーションへ搭載されたNASAのGEDIは、地球規模で森林の3D構造を体系的に取得する衛星LiDARです。25m径のフットプリントで温帯〜熱帯林をほぼ全面カバーし、波形から樹冠高や垂直構造を読み取ります。2022年に1km解像度のバイオマスマップ(L4B)が公開されて以降、グローバルな炭素収支の精緻化が一気に進みました。

ただしGEDIのピクセル単独の精度は限定的(RMSE 30〜80 t/ha)で、信頼できるのは広域平均です。J-クレジット申請のようにピクセル精度が要る用途では、GEDIを教師データとしてSentinelやLandsat、PALSAR-2と機械学習で組み合わせるのが定石になっています。

LiDAR森林計測精度のプラットフォーム別比較 TLS・UAV・ALS・GEDIで分解能と適用面積のトレードオフ。 LiDAR森林計測:分解能 vs 適用面積 0.1ha 10ha 1,000ha 100,000ha 1Mha+ 適用面積 分解能(cm、対数) 1cm 10cm 1m 25m TLS 0.1〜2cm UAV 2〜10cm ALS 10〜50cm GEDI 25m径 出典: 林野庁・FFPRI・NASA GEDI公式資料を参照して概念図化 トレードオフ:高分解能なほど狭域、広域なほど低分解能
図2:LiDARプラットフォーム別の分解能と適用面積(概念図)。TLS〜GEDIでトレードオフ関係。

日本の現場:林野庁・FFPRIの広域取得

林野庁と森林研究・整備機構(FFPRI)は航空機LiDARによる森林資源解析を全国で進めており、2026年時点で1道2府18県以上で広域取得が完了しています。点密度は3〜10点/m²が標準で、トドマツ・カラマツ造林地の林分材積推計はRMSE 30〜60 m³/ha(地上検証比R²=0.80〜0.88)という水準です。これらは各県の森林簿GISに統合され、スマート林業の基盤として動いています。

とくに北海道は航空機LiDARの取得率が高く、ha単位の立木材積マップが整備済み。長野・静岡は県全域の取得を終えています。こうしたデータは森林環境譲与税の市町村事業やJ-クレジット制度の吸収量算定の基礎データとして活用されています。

コストで見るLiDARの経済性

結局のところ、現場に効くのはコストです。ha単価で並べると、LiDARの強みがはっきりします。

計測手法 ha単価 取得期間 主な用途
毎木調査(標準木採取+胸高直径) 30,000〜80,000円 1〜3日/ha 地上検証、補正
UAV LiDAR(自社運用) 1,000〜5,000円 15〜30分/ha 林分構造、ha単位材積
UAV LiDAR(外部委託) 5,000〜15,000円 同上 同上
航空機LiDAR(県事業) 500〜2,000円 1日で1万ha 広域材積マップ
衛星画像(Sentinel-2) 0円 1日で全国 大局トレンド、変化検出

毎木調査の10分の1以下のコストで計測できるわけですから、年間1,000ha以上を扱う中規模以上の事業者なら、3〜5年で機材投資を回収できる計算です。逆に小規模な事業者には、外部委託での部分活用や、県・国の広域LiDARデータの2次利用が現実的な入り口になります。スギ・ヒノキの単純林ならUAV LiDARと機械学習で個体木抽出精度95%以上が報告されており、広葉樹混交林でも林分単位の材積推定なら十分な精度(R²=0.85前後)が得られます。

よくある質問

LiDARボクセル解析と従来のアロメトリ式、どちらが正確?

大規模で均質な人工林なら、よく校正されたアロメトリ式がコスト面で今も優位です。一方、複層林・天然林・撹乱を受けた林・大径木の多い林では、LiDARボクセル解析が圧倒的に強い。実際には両者を組み合わせて校正・検証するのが標準で、LiDAR+機械学習でRMSEが従来式比30〜50%改善した事例も複数報告されています。

NASA GEDIのデータは無料で使える?

はい、すべて無料・オープンアクセスです。NASA EarthdataやUSGSのLP DAACから配信されており、Google Earth Engineにも全プロダクトが取り込まれているので、JavaScript/Python APIで即座に解析を始められます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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