木の経年変化を楽しむ|飴色化・銀白化と樹種別の経年美

木の経年変化を楽しむ | Forest Eight

無垢の床を入れたお宅にお邪魔すると、ときどき「最近、床の色が濃くなってきて」と少し心配そうに言われることがあります。けれど、それは不具合ではありません。木が時間をかけて深まっていく、ごく自然な変化です。新材のときの色のまま留まらないのが無垢材の魅力で、多くの設計者や住み手は塗装で固めてしまうのではなく、その変化を「育てる」感覚で楽しんでいます。この記事では、木の色が変わる仕組みを押さえたうえで、樹種ごとの個性、屋外材ならではの銀白化、そして法隆寺に残る千年スケールの古色までを、肩の力を抜いて眺めていきます。

木の年輪と木目のマクロ
木材の年輪・木目 (Photo by Engin Akyurt on Unsplash)
目次

なぜ木の色は変わるのか

木の色変化を起こす主役は、おもに三つです。一つ目は、木材の重量の25〜35%を占めるリグニンの光酸化。紫外線と酸素を浴びてリグニンが酸化し、淡い褐色から濃い褐色へと発色します。森林総合研究所の実験では、UVB照射100時間で表面リグニンの約30%が酸化変化したと報告されています。

二つ目は抽出成分の酸化重合。樹種ごとに含まれる樹脂やタンニン、フラボノイドといった微量成分が空気中で結びつき、深い色をつくります。チークのキノン類、ウォルナットのジュグロン、ケヤキのカテキン類――この「個性の素」が違うからこそ、樹種ごとに到達する色が変わるのです。三つ目は湿乾の繰り返しによる表面の変化で、年間を通じて30〜70%を行き来する室内湿度のなかで細胞壁が微細に伸び縮みし、表面が滑らかになって艶が深まります。職人さんが「枯れる」と表現するのがこれです。

屋内は飴色、屋外は銀白色

面白いのは、同じ木でも屋内と屋外で変化の方向が真逆になることです。屋内材は飴色へと「濃く」なりますが、雨と紫外線にさらされる屋外材は銀白化(シルバーグレー)して「白っぽく」なります。これは表面のリグニンが紫外線で分解され、水に溶けて雨で流れ落ち、白いセルロースが露出するため。そこへ黒色酵母などの微生物が定着して、あの渋いシルバーグレーに落ち着きます。スギの板塀が数年で銀色になるのは、まさにこの現象です。林産試験場の屋外曝露試験では、南面のスギ板で3年、北面で5〜7年が銀白化の目安とされています。

樹種ごとの経年パターン

屋内で使われる代表樹種が、10年・30年でどう変わるか。日射や湿度で実際は前後しますが、標準的な目安としてまとめました。

樹種 新材色 10年後 30年後 特徴
スギ(赤身) 淡赤褐色 深い飴色 濃飴色〜古色 艶が増し温かみが深まる
ヒノキ 淡黄白色 淡橙褐色 飴色 上品でゆっくり深まる
ヒバ 淡黄色 淡褐色 褐色 緑がかった独特の経年
カラマツ 淡赤褐色 濃赤褐色 暗褐色 赤みが強く残る
ナラ(オーク) 淡褐色 暗褐色 古色 力強く貫禄が出る
ケヤキ 淡黄褐色 深い飴色 古色(濃飴) 木目が際立つ寺社の風格
サクラ 淡赤褐色 暗赤色 渋い赤褐色 家具で美しい渋い赤
チーク(輸入) 濃褐色 飴色(明るく) 金茶色 逆に明るくなる、油脂多い
ウォルナット(輸入) 濃紫褐色 赤褐色 暖かい褐色 逆に明るくなる珍しい樹種
メープル(輸入) 淡白色 淡飴色 飴色 変化が遅く穏やか

多くの木は「濃く深まる」方向ですが、表の下のほうに例外がいます。ウォルナットとチークは、経年でむしろ明るくなるのです。ウォルナットの色素ジュグロンが紫外線で分解されるためで、「10年後がいちばん美しい」と評する人も少なくありません。設計時に色の到達点をイメージするとき、この逆パターンは覚えておくと役に立ちます。

逆に、ナラやケヤキ、クリのようにタンニンが豊富な樹種は酸化が速く、力強く深まって貫禄が出ます。法隆寺の金堂や五重塔が1300年を経て深い古色をたたえているのは、ヒノキの抽出成分(ヒノキチオール)が持つ抗菌・抗酸化作用と、高温多湿の日本気候への相性の良さがあってこそ。木が時間を味方につけている、その実例が今も奈良に立っています。

仕上げで「変化の許し方」が変わる

経年変化を楽しめるかどうかは、じつは仕上げ選びでほぼ決まります。

仕上げ 経年変化 耐久性 メンテ周期
オイル(蜜蝋・オスモ等) ◎ 美しく進行 1〜2年に1回
無塗装 ○ 自然進行 汚れに弱い 必要時のみ
ウレタン塗装 △ ほぼ停止 10〜15年で再塗装
UVカットウレタン × 完全停止 非常に強 10〜15年で再塗装

木材内部に浸透して表面に膜をつくらないオイル仕上げ(蜜蝋ワックス、オスモカラー等)なら、紫外線も酸素も木に届くので、自然な経年変化がそのまま進みます。年に1〜2回、雑巾で薄く塗り広げるだけでよく、施主自身のDIYでも十分。一方、フィルムで覆うウレタン塗装は紫外線も水分も遮断するので、経年変化はほぼ止まります。商業施設や賃貸では合理的ですが、「育てたい」住宅では選ばないほうが後悔がありません。窓のUVカットフィルムや、養生シートの貼りっぱなしも変化を止めたりムラを作ったりするので注意したいところです。

変化が気に入らなくても、やり直せる

無垢材の安心なところは、たとえ経年色が好みでなくても「リセット」できる点です。表面を0.5〜2mmサンディング(研磨)すれば、新材に近い色が顔を出します。30〜40mm厚のフローリングなら生涯で3〜5回は削り直せる計算で、100年以上付き合える素材になります。表面プリントが剥がれたら張り替えるしかない合板フローリングにはない、無垢ならではの強みです。日当たりで窓側だけ濃くなったり、家具の下が新材色で残ったりするのも不具合ではなく、気になれば家具の配置を1〜2年で動かせば色ムラは平準化していきます。あえて家具跡を残して、家族の歴史を床に刻むという付き合い方もあります。

よくある質問

経年変化を完全に止めたいのですが

UVカットウレタン塗装で90%ほどは止められますが、塗膜が10〜15年で劣化して再塗装が必要になります。完全に止めるのは現実的でなく、商業施設や賃貸住宅以外ではあまりおすすめしません。

古い無垢材のような風合いを最初から出せますか

古色仕上げ(ステインや染色オイル)で「最初から飴色」に見せることはできます。ただし化学的には染色であり、本物の経年色とは別物。紫外線でさらに深まることは少なく、むしろ色が抜けることもあります。本物の経年美を求めるなら、無塗装かオイル仕上げで時間をかけるのが王道です。

国産材と輸入材、経年美ではどちらが良いですか

30〜50年スパンなら、日本の気候に適合した国産材(スギ・ヒノキ・ナラ)が安定していておすすめです。チークやウォルナットは経年で明るくなる特殊性があるので、その表情が好みかどうかで選ぶとよいでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次