海外生まれのLEEDやBREEAMに対して、日本には「CASBEE(カスビー)」という独自の物差しがあります。面白いのは、その評価のしかた。多くの制度が点数を足し上げていくなかで、CASBEEは「品質」を「環境負荷」で割る——いわば燃費のような比率で建物を採点します。そして木造建築は、この物差しの上でなかなか良い数字を出すのです。なぜか、を見ていきましょう。
BEE値という発想
CASBEEは国土交通省の支援のもと2002年に運用が始まり、建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が運営しています。核心にあるのが「BEE(建築環境効率)」という指標。環境品質Qを分子、環境負荷Lを分母に置き、その比率で建物を評価します。少ない環境負荷で高い品質を実現するほど、BEE値は大きくなる。同じ快適さを、より少ないエネルギーと資源で達成しているかを問う考え方です。
この値に応じて、建物はC・B-・B+・A・Sの5段階に分けられます。
| ランク | BEE値 | 意味 |
|---|---|---|
| S | 3.0以上かつQ≧50 | 素晴らしい |
| A | 1.5〜3.0 | 大変良い |
| B+ | 1.0〜1.5 | 良い |
| B- | 0.5〜1.0 | やや劣る |
| C | 0.5未満 | 劣る |
最高位のSランクは「BEE値3.0以上」かつ「Qスコア50点以上」という二重の条件をクリアしなければなりません。全建築種を合わせても、年間の取得は数十件にとどまる狭き門です。
なぜ木造は強いのか
評価はQ軸(室内環境・サービス性能・敷地内環境)とL軸(エネルギー・資源マテリアル・敷地外環境)の計6カテゴリで行われます。木造建築が構造的に有利なのは、いくつかの理由があります。
まず炭素の収支。木材は1m³あたりおよそ0.9トンのCO2を蓄え、製造時の排出量も鉄筋コンクリート造の4分の1ほど。だからライフサイクルのCO2(LCCO2)を評価するL軸で点を稼ぎやすいのです。次に地域材。CASBEEは「どこで採れた材か」という地域性・トレーサビリティを高く評価するため、県産材・市内産材を使うことが加点につながります。これは絶対点数を積む海外制度にはない、日本ならではの視点です。
木の調湿性能も効いてきます。湿度を吸ったり吐いたりして室内環境を安定させる性質が、Q軸の温熱・空気質の評価に貢献します。さらに木造の軸組は部分交換がしやすく、解体後も再利用やバイオマス燃料化が可能。これらが耐用性や廃棄物の項目で得点になります。木は採点表の複数箇所で、静かに加点を重ねていく素材なのです。
ただし、木造だから自動的にSランク、というわけではありません。Sを取るには、ZEB Ready以上のエネルギー性能、外皮の高断熱化、耐震等級3や100年級の長寿命設計、緑地の確保など、各分野で高い水準を同時に満たす必要があります。「地域材を使い、省エネで、長持ちし、まちなみにも配慮する」——この四拍子を高いレベルで揃えた建物だけが、最高位に届きます。
木でSランクを取った建物たち
木造でCASBEEの高評価を得た建物は、用途を超えて広がっています。横浜の「大林組 Port Plus」は純木造11階建てという挑戦的なオフィス。千葉の「三井ホーム MOCXION INZAI」は純木造5階建ての集合住宅です。住友林業の研究施設はCLTと大断面集成材のハイブリッドで、林業系・木造専門の企業が技術を競っています。公共建築でも、県産スギ・ヒノキを構造材に使い、ZEB Readyを達成した林業系の庁舎や研究施設が高評価を得ています。
これらに共通するのは、地域材活用・ZEB対応・長寿命化・コミュニティ配慮の四つを、高い水準で同時に成立させている点です。設計の初期段階からCASBEE評価員が入り、目標とする配点を逆算して設計に織り込んでいく——その積み重ねが最高位の認証を支えています。
海外制度との違い、そして使い分け
累計の取得件数で見れば、BREEAM(約60万件)やLEED(約12万件)に対し、CASBEEは8,000件ほどと数では及びません。けれど国内の大規模建築では2〜3割がCASBEE評価の対象とされ、国内での浸透度は高い水準にあります。
制度ごとに得意分野は異なります。LEEDは世界的な認知度で、グローバル企業の本社ビルに。BREEAMは欧州を中心にライフサイクル評価を重視。DGNBはライフサイクルコストや経済性に強く、WELLは人の健康・ウェルビーイングに特化します。そしてCASBEEは、BEE比率という独自の発想と、日本の高温多湿気候・地震対策・地域材文化を反映した項目に持ち味があります。だから海外投資家を意識するならLEED、国内で地域材を活かすならCASBEE、と目的に応じて選ぶことになります。大規模な再開発では、両方を取得する事例も増えてきました。
取得のコストとリターン
Sランクの取得には、設計段階からの計画的な取り組みと第三者機関の評価が必要です。CASBEE評価員の報酬や登録機関の審査料に加え、ZEB対応などの高性能化で建築費が3〜10%上振れするのが目安。延床1,000m²の中規模建築なら、総追加コストはおおむね500万〜2,000万円といったところです。
負担は小さくありませんが、見返りも多面的です。サステナブル建築物等先導事業やZEB実証事業といった補助金、自治体による固定資産税の軽減や容積率の緩和、そして賃料プレミアムや稼働率の向上。運用エネルギーの削減効果も大きく、補助と運用メリットを合わせれば5〜10年で投資を回収する事例が多く報告されています。横浜市・川崎市などでは一定規模以上の建築にCASBEE評価書の提出を義務づけており、公共建築の木造化率も2010年からの十数年で大きく伸びています。
残された課題
普及にはまだ壁があります。建築業界では知られていても、一般のテナント企業や消費者の認知度はLEEDに及びません。BEE値という独自指標は他制度との直接比較が難しく、グローバルな投資家には説明が要ります。地方ではCASBEEに詳しい評価員、とりわけ木造に通じた評価員が限られ、報酬が高止まりしがちです。地域材の範囲をどこまでとするかの定義が地域でばらつくこと、設計時のSランクが運用段階でも保たれているかをどう担保するか——こうした論点を一つずつ詰めながら、日本の木造化・脱炭素の道しるべとして、CASBEEは進化を続けています。
よくある質問
Sランクはどれくらい難しいですか?
全建築種を合わせても年間数十件程度と、非常に高い水準です。BEE値3.0以上かつQ≧50点という二重条件を満たす必要があり、木造の場合は地域材調達・ZEB対応・長寿命化を同時に達成することが求められます。
LEEDとCASBEE、どちらを取得すべき?
用途次第です。国内中心・地域材重視ならCASBEE、グローバル展開や海外投資家対応ならLEED。両方を取得する大規模事例も増えています。木造では地域材評価が独自のCASBEEに分があります。
木造なら自動的にSランクになりますか?
いいえ。炭素貯蔵や調湿性、地域材の加点など有利な要素は多いものの、ZEB対応や長寿命化といった他の要件も満たす必要があります。木造はあくまで「Sを狙いやすい出発点」です。

コメント