晩秋の林を歩いていて、一本の枝に真っ赤な実と咲いたばかりの花が同居しているのを見つけたら、立ち止まって葉を裏返してみてください。裏面が銀白色にきらめいていたら、それがシロダモ(白椨、Neolitsea sericea)です。クスノキ科の常緑樹で、関東以南の照葉樹林や鎮守の森でよく見かけます。「実と花が一緒に見られる」「葉裏が真っ白」という二つの分かりやすい特徴で、観察者をいちばん楽しませてくれる木のひとつです。
葉裏を見れば一発で分かる
シロダモの最大の目印は、なんといっても葉裏の白さです。表は光沢のある暗緑色なのに、裏返すと銀白色〜淡青白色に輝きます。和名の「シロダモ」も「葉裏が白いタブの仲間」という意味です。葉は長楕円形で長さ8〜18cm、革質で厚く、基部から3本の脈が立ち上がる「三行脈」を持ちます。
春の芽吹きも見逃せません。新葉は金色の絹のような毛にびっしり覆われ、きらきらと光ります。学名の sericea(絹のような)はこの毛に由来します。毛は若葉を強い日差しや乾燥から守る役割があり、葉が硬くなる初夏には抜け落ちます。葉裏の白さと金色の若葉──この二つを覚えておけば、よく似たクスノキ科の仲間のなかでもシロダモは迷わず見分けられます。
赤い実と花が同時に並ぶ理由
シロダモが観察者を惹きつける最大の理由が、同じ枝に赤い実と花が並ぶ光景です。種明かしはこうです。シロダモは秋(10〜11月)に花を咲かせますが、その実が熟すまでに約13か月もかかります。だから翌年の秋、新しい花が咲くちょうどその頃に、前年の実が真っ赤に熟しているのです。
なぜこんな悠長なサイクルなのか。冬の低温を利用して種子の休眠を整えたり、鳥が最も活発に動く時期に実の熟期を合わせたりするための工夫だと考えられています。実は鳥たちにとって秋から冬の大事なごちそうで、ヒヨドリ・ツグミ・シロハラ・メジロなどが食べ、種を遠くへ運んでくれます。なお、シロダモは雌雄異株。実をつけるのは雌株だけで、近くに雄株がないと結実しません。庭で実を楽しみたいなら、雌雄をそろえて植える必要があります。
鎮守の森を支える脇役
シロダモは、スダジイやタブノキ、カシ類が高木層をつくる照葉樹林の、その下の中木層を担う樹種です。耐陰性がとても強く、母樹の下の暗い林床でも芽生えから育っていける、いわゆる遷移後期の木。だから関東以南の鎮守の森に入ると、中木層をシロダモが占め、足元にその実生がびっしり生えている光景によく出会います。
近年、各地でニホンジカの食害が深刻になっていますが、シロダモは比較的シカに好まれないため、ほかの木が食べ尽くされた林床でも残りやすい性質があります。葉に含まれるテルペン類などの成分が忌避要因とみられ、シカ食害下の照葉樹林を再生する際の指標種としても注目されています。こうした照葉樹林・社叢林の保全整備は森林環境譲与税の活用対象でもあり、詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。
木材は気乾比重0.5前後の中軽量材で、切削しやすく、楊枝やこけし、小型家具などに使われてきました。果実から採れる油は、かつて照明用や整髪用として里山暮らしを支えた歴史もあります。ただ流通量はごくわずかで、用材としての存在感は控えめ。シロダモの値打ちは、むしろ観賞性と里山生態系の一員としての役割にあります。
よくある質問
実と花が同時に見られるのはなぜ?
秋に咲いた花の実が熟すまで約13か月かかるため、翌年の秋に新しい花が咲くころ前年の実が赤く熟すからです。クスノキ科のシロダモ属に特徴的な長い結実サイクルによるものです。
庭木にできますか?
関東以南なら和風庭園や生垣に向きます。耐陰性が高く北側の半日陰でも育ち、葉裏の銀白と赤い実が美しい常緑樹です。ただし雌雄異株なので、実を楽しむには雄株と雌株の両方が必要です。寒冷地での戸外越冬は難しい点に注意してください。
実は食べられますか?
人の食用には向きません。鳥にとっては大切な餌ですが、人が食べた安全性は確認されておらず、伝統的にも食用とされた記録はほぼありません。観察を楽しむにとどめましょう。

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