【スダジイ】Castanopsis sieboldii|照葉樹林の代表優占種、神社境内林の中核樹種

スダジイ | Forest Eight

神社の境内に足を踏み入れたとき、空をふさぐように茂る大きな常緑樹――その多くがスダジイ(Castanopsis sieboldii)です。関東以西の暖かい地域に広がる「照葉樹林(しょうようじゅりん)」の主役であり、樹齢千年を超える巨木となって「鎮守の森」をかたちづくってきました。秋にはシイの実(ドングリ)を落とし、縄文の昔から人の食料にもなってきた、自然・信仰・暮らしの交差点に立つ木です。

気乾比重0.59(0.55〜0.65)中重量・耐摩耗樹高25m(20〜30m級)照葉樹林極相堅果径1.5cm(長楕円形)食用ドングリ分布関東以西〜南西諸島暖温帯極相
図1:スダジイの主要スペック(代表値)
目次

「照葉樹林」の主役とは

スダジイは、年平均気温13℃以上の暖かい地域で森が行き着く最終形(極相)をつくる木です。関東以西の太平洋側から九州、南西諸島にかけて広がる照葉樹林帯で、タブノキやシラカシ、アラカシなどと混じり合って林の天井(林冠)をおおいます。葉の表面がテカテカ光るのが照葉樹林の名の由来で、その下にはアオキやヤブツバキ、シダ類が茂る独特の薄暗い森が広がります。

分布の北限はおおよそ福島県南部・新潟県下越あたりで、これは年平均気温13℃の線とほぼ一致します。温暖化の影響で、林木育種センターの観測では過去30年で北限が約30km北へ動いたと報告されています。一方、沖縄では亜熱帯向けに変化したオキナワジイという変種に分かれており、南北で姿を変える幅の広い木でもあります。

千年生きて「鎮守の森」になる

スダジイがここまで人に大切にされてきた最大の理由は、その長寿と耐風性です。樹齢千年級まで生き、幹周り10mを超す巨木に育つうえ、根を深く張るため台風にも倒れにくい。だから古来、神社の「鎮守の森」「氏神の森」の中心樹として守られてきました。

東京の明治神宮は、1920年(大正9年)の造営時にスダジイやカシ類を中心に約12万本を植えたもので、100年かけて自然の照葉樹林へと育ち、いまや東京23区で最大の社叢林になっています。大阪の住吉大社、愛媛の大山祇神社など、各地の境内に樹齢500〜1,000年級の個体があり、国や自治体の天然記念物に指定されています。生態学者の宮脇昭は、この「鎮守の森」を日本独自の自然保全林のモデルとして高く評価し、各地で再現を試みました。神様を祀る信仰と、防風・防火という実用が一体になった、世界でも珍しい森の守り方です。

縄文人も食べたシイの実

スダジイのドングリ(シイの実)は、ブナ科では珍しくアク抜きなしで食べられます。生でもほんのり、炒れば栗のような甘い香ばしさ。縄文時代の遺跡からはシイやカシの実をためた貯蔵穴が大量に見つかっており、ドングリは当時の主食の一角でした。今でも秋に神社の境内や公園で拾い集めるのは、各地に残る季節の楽しみです。鹿児島の「シイの実飴」、和歌山の「シイ団子」など郷土菓子にも姿を変え、「縄文食」を売りにした観光資源にもなっています。栄養は炭水化物が約6割で、栗に近い組成です。

シイタケ原木から染料まで

木材は気乾比重0.55〜0.65(平均0.59)の中重量材で、心材は淡い黄褐色。乾燥でやや狂いやすい欠点はありますが、用途は幅広いです。

  • シイタケ原木:コナラ・クヌギに次ぐ第3位の重要原木。菌のつきがよく秋に一斉に発生します。
  • 薪炭材:火持ちがよく高熱量(約4,400kcal/kg)で、九州・四国では昔から20〜30年周期の薪炭林として使われ、近年はバイオマス燃料としても再注目。
  • 家具・建築造作材:落ち着いた色合いを活かしてフローリングや家具、和太鼓の胴などに。
  • 染料:樹皮を煎じて鉄媒染すると黒〜茶褐色に発色。沖縄の芭蕉布の染色にも使われてきました。
  • 都市緑化:大気汚染や強風に強く常緑なので、明治神宮外苑や新宿御苑など大都市の公園・街路樹に多用されています。
シイタケ原木35%薪炭材25%家具・建築20%食用ドングリ12%染料・その他8%
図2:スダジイの主用途構成(推定値、林野庁特用林産統計・森林総研より)

見分け方

  • 葉裏の色:これが決め手。淡褐色〜金褐色に光ります。よく似たツブラジイ(コジイ)は葉裏が銀白色なので、ひっくり返せば一発で見分けられます。
  • :長楕円形で8〜12cm、厚い革質。上半分のふちに波打つような細かいギザギザがあります。
  • ドングリ:細長い長楕円形で1.5〜2cm。殻斗(ぼうし)が実全体をすっぽり包んでいるのがシイ属の特徴で、カップ状のカシ類とはっきり違います。
  • 香り:5〜6月の花期には、数十m先からも届くアニスのような独特の甘い匂いを放ちます。

よくある質問

スダジイとツブラジイはどう違いますか?

葉裏の色がいちばんの違いで、スダジイは金褐色、ツブラジイは銀白色。ドングリもスダジイは細長く(1.5〜2cm)、ツブラジイは丸い(約1cm)。スダジイは関東以西〜南西諸島、ツブラジイは西日本中心に分布します。詳しくはツブラジイの記事を参照してください。

庭木として育てられますか?

関東以南なら植えられますが、20〜30mの大木になるので、本来は広い敷地や記念樹向き。狭い庭では剪定で5〜8mに抑えますが、強い剪定は木を弱らせるのでほどほどに。

ナラ枯れ病にかかりますか?

かかります。コナラ・ミズナラよりは強いものの、2010年代以降スダジイの被害も増えています。境内の巨木では、媒介するカシノナガキクイムシの見回りや予防処置が大切です。温暖化による夏の高温・乾燥で巨木の樹勢が落ちる例も各地で報告され、土壌改良などの保全が課題になっています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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