家を建てるとき、柱や梁にどんな木材が使われているか──普段あまり意識しない部分ですが、建物の強さと安全を支えているのはまさにこの「構造材」です。木造の構造材は、品質がどう保証されているか(JAS材か無等級材か)と、どんな形に加工されているか(無垢材・集成材・合板・LVL・CLT・I型ジョイスト)の2つの軸で整理できます。そして2025年4月、建築基準法の「4号特例」が大きく縮小され、これまで審査が省略されてきた小規模な住宅でも、構造材の選び方がぐっと重みを増しました。この記事では、構造材の種類とJAS制度の基本、4号特例縮小がもたらす変化、そして実務での選定基準までを、設計者・工務店・家づくりを考える人の視点でまとめます。

そもそもJASとは──木材の「品質保証書」
JAS(日本農林規格)は、農林水産大臣が定める品質規格です。木材分野では1947年の製材規格を皮切りに、合板(1950年代)、集成材(1960年代)、LVL(1980年代)、CLT(2013年)と対象を広げてきました。規格は5年ごとに見直され、そのつど最新の構造設計理論や市場ニーズが反映されます。
JAS認定を受けるには、登録された認証機関の工場審査を通り、製品ロットごとの品質試験データを記録・保管しなければなりません。認定工場数は2024年時点で、製材JASが約450工場、集成材JASが約60工場、構造用合板JASが約30工場、LVL JASが約15工場、CLT JASが7工場。製材は流通量に対して認定工場が少なく地域差も大きいため、これがJAS材のシェアの低さにつながっています。
設計図書では、規格を番号で参照します。主要なものを挙げると次の通りです。
- JAS 1083 構造用製材:機械等級・目視等級・たて継ぎ製材を規定。針葉樹構造材の基本規格。
- JAS 234 集成材:構造用・造作用集成材を規定。層構成に同一等級・対称異等級などの区分がある。
- JAS 233 構造用合板:1類・2類・特類の使用環境区分、強度等級1級・2級を規定。
- JAS 237 単板積層材(LVL):曲げヤング係数で90E〜180Eの等級表示。
- JAS 3079 直交集成板(CLT):3〜9層の層構成と強度等級を規定。
- JAS 600 木質I型ジョイスト:フランジ材とウェブ材の組合せを規定。
JAS材を使う実務上のメリットは大きく4つあります。第1に、機械等級の表示値(E70・E90など)が建築基準法施行令の基準強度表に直結し、構造計算でそのまま使えること。第2に、含水率がD15/D20/D25で管理され、施工後の乾燥収縮による狂い・割れが大幅に抑えられること。第3に、寸法精度が規定され、プレカット加工が安定すること。第4に、認証ラベルによって施主や行政への品質説明がしやすいこと。とくに4号特例縮小後は、設計図書に「JAS 1083 機械等級E90 D20」のように品質要求を明記する運用が標準になりつつあります。
構造材の6つの顔──加工形態で性格が変わる
同じ木材でも、どう加工するかで性格はまるで違います。1本ものの無垢材から、薄板を貼り合わせた集成材、面で支えるCLTまで、それぞれに得意分野があります。まず全体像をマトリクスで掴んでみましょう。
無垢材(JAS 1083)は、立木から製材した1本もの。柱用の芯持ち材、梁桁用の芯去り材に分かれます。樹種はスギ・ヒノキ・カラマツ・ベイマツ・ベイツガが主流。人工乾燥したKD材と未乾燥のGRN材で寸法安定性が大きく異なり、現代の住宅では狂いの少ないKD材が基本です。一般住宅では機械等級E70〜E90が標準、中大規模木造ではE110以上が指定されることもあります。
集成材(JAS 234)は、厚さ20〜45mmの「ラミナ」を繊維方向を揃えて接着積層した製品。強度のばらつきが小さく、柱・梁・桁の主構造材として住宅で広く使われます。海外大径材から作る大断面集成材(800×1500mmなど)は、体育館やオフィス、大型店舗の柱梁に使われる中大規模木造の主役級部材です。
構造用合板(JAS 233)は、薄い単板を繊維方向を交互に直交させて積層した面材。耐力壁・床下地・屋根下地として、壁量計算の根拠材料に欠かせません。厚9mmで耐力壁倍率2.5倍、厚12mmで3.7倍といった倍率表が施行令で整備されています。年間生産量は約280万m³と、構造用面材として最大の使用量を誇ります。
LVL(JAS 237)は、厚さ3〜4mmの単板を全層平行に積層した製品。合板と集成材の中間的な構成で、180E等級なら集成材の最高等級を超える剛性を実現します。ばらつきの少なさを活かし、10mを超える長尺の梁桁やI型ジョイストのフランジ材に向きます。
CLT(JAS 3079)は、ラミナを直交させて積層した面材。床版・壁版として「面で構造が成立する」材料で、中大規模木造の主役格です。日本の生産能力は2024年時点で年間約13万m³、認定工場は7工場まで拡大しました。製品単価は120mm厚で集成材柱梁の1.3〜1.8倍と高めで、住宅単体では経済性が限られますが、4階建以上の中層木造や保育園・福祉施設で採用が広がっています。
I型ジョイストは、フランジ(水平材)とウェブ(垂直のせん断材)をH型断面に組み立てた複合梁。長スパン・軽量・高剛性で、住宅2階床の根太や長尺の小梁に使われます。配管・配線の貫通孔をウェブに開けやすいのも実務上の利点です。
強さを数字で測る──機械等級というしくみ
「この木はどれくらい強いのか」を客観的な数字にしたのが機械等級区分です。JAS 1083では、製材を1本ずつ非破壊で測定し、ヤング係数(たわみにくさ)に応じてE50・E70・E90・E110・E130・E150の6等級に分けます。等級番号はヤング係数の値(GPa)にほぼ対応し、E70なら7.0GPa相当です。建築基準法施行令の基準強度表では、この等級ごとに曲げ・圧縮・引張・せん断の基準強度が定められています。
樹種によって取れる等級の分布は決まってきます。スギは比重0.38前後と軽く、E50〜E90が主流(中央値E70)。ヒノキはやや密でE70〜E110(中央値E90)、カラマツはE70〜E110、ベイマツはE90〜E130と高めです。つまり樹種を決めると、おおよその強度の上限も決まる関係にあります。機械等級と並んで、節や割れを目で見て1〜3級に分ける目視等級区分もあり、設備のない地方の小規模製材所などで使われています。
もう一つ大事なのが含水率です。JAS材ではD15(15%以下)・D20(20%以下)・D25(25%以下)の3区分で表示が義務化されており、住宅構造材ではD15かD20が要求水準。未乾燥材は構造的に不可で、施工後に乾燥収縮(接線方向で5〜8%)による狂い・割れ・接合金物の緩みを引き起こすからです。プレカット工場では入荷時に含水率を測定し、規格外材は再乾燥に回します。
JAS材と無等級材──同じ木でも設計が変わる
意外に思われるかもしれませんが、流通している構造材の7〜8割は、実はJAS認定を受けていない「無等級材」です。地域の製材所からの直送や流通慣行で、無等級材が主流のまま残っているのです。両者の違いを整理してみましょう。
無等級材も、もちろん使えます。ただし構造計算では、樹種ごとに定められた「無等級材」の基準強度(実際の強度より保守的に小さい値)で設計する必要があります。たとえばスギの無等級材の基準曲げ強度は22.2N/mm²ですが、JAS機械等級ならE70で25.5、E90で33.0、E110で38.4N/mm²。同じ断面でJAS E90を使えば、無等級材のおよそ1.5倍の曲げに耐える設計ができます。
これは設計の自由度に直結します。4mスパンの梁なら、JAS E90で105×240で済むところ、無等級材では120×270が必要になることがあり、材積にして約20%の差。柱・梁を細くできる、スパンを伸ばせる、間取りが広がる──こうしたメリットから、構造計算が前提になる中大規模木造ではJAS材の選定が一般化しています。
2025年4月、4号特例が縮小された
そして今、構造材選びを後押ししているのが、建築基準法の「4号特例」縮小です。これまで木造2階建・延床500m²以下の住宅では、構造関係の図書審査が省略され、建築士の責任で適合を確認すればよいとされてきました。1983年の制度創設以来、この4号建築物は年間約30万棟と木造住宅市場の主流でしたが、審査が省略される運用には構造設計の質をめぐる議論が続いていました。
2025年4月の改正で、この区分が再編されました。特例が残るのは「新3号建築物」(平屋・延床200m²以下)のみ。それ以外、つまり一般的な木造2階建(延床200m²超)は「新2号建築物」となり、構造関係規定の審査が義務化されます。対象は年間およそ20〜25万棟。設計事務所・工務店・プレカット工場にとって、その影響は決して小さくありません。
影響は大きく3つに整理できます。第1に設計実務の負担増。壁量計算・偏心率・N値計算・接合金物選定などの図書化が必要になり、設計工数は1案件あたり10〜30%増える見込みです。第2にJAS構造材の追い風。構造計算ではJAS材の機械等級表示値がそのまま使えるため、無等級材より設計が楽になり、JAS材のシェア拡大を後押しします。第3に省エネ基準適合義務化との同時施行。断熱層と耐力壁の取り合い、貫通配管との干渉など、構造と省エネを両立させる設計が新たな課題になります。2025〜2027年は、JAS材・構造計算・電子図書化の3領域が一気に動く過渡期になりそうです。
結局どう選ぶ?──部位別の選定と価格感
では実際の選定はどう考えるか。原則はシンプルで、柱は耐久性(ヒノキ)か経済性(スギ)の選択、梁は強度(ベイマツ集成材・LVL)か国産材活用(カラマツ集成材)、土台は耐朽性(ヒノキ・ヒバ)が鉄則です。部位ごとに整理すると次のようになります。
- 土台:耐朽性が最優先。ヒノキD15またはヒバD15が標準。スギは防腐処理材なら可。
- 柱:スギJAS E70 D15が住宅標準。耐震等級2以上ではヒノキJAS E90への置き換えが増える。
- 梁・桁(4m以下):ベイマツ集成材E105-F300、またはスギJAS E90 D20。
- 梁・桁(4〜6m):ベイマツ集成材E120-F375、またはカラマツ集成材E105-F300。
- 梁・桁(6m超):LVL 180E、または大断面集成材E150-F435。
- 耐力壁面材:構造用合板1類 厚9〜12mmが住宅標準。
- 床版:構造用合板1類 厚24〜28mm(剛床仕様)。CLTは中大規模のみ。
価格感もつかんでおきましょう。2024〜2025年時点のおおよそのm³単価(KD材ベース、産地・規格で変動)は、スギ無等級材(柱用)が8〜10万円、スギJAS E90が10〜13万円、ヒノキJAS E90が13.5〜18万円、カラマツ集成材(梁用)が10.5〜14万円、ベイマツ集成材(梁用)が12〜16万円、CLT(120mm厚)が15〜22万円ほどです。
住宅1棟(延床120m²、木造2階建、在来工法)あたりの構造材コストは、無等級材中心で180〜230万円、JAS材+集成材中心で210〜280万円が目安。JAS材化による追加コストは1棟あたり20〜50万円ですが、構造計算のしやすさ、住宅性能評価書の取得、耐震等級の向上といったメリットを考えると、住宅価格全体(2,500〜3,600万円規模)に対しては1〜2%程度の上乗せにとどまります。長い目で見れば、十分に割に合う投資と言えるでしょう。
よくある質問
Q. 無等級材は使ってはいけないの?
使えます。ただし構造計算では基準強度の最低クラスで設計するため、同じ部材でもJAS材より大断面が必要になりがちです。スギ無等級材はJAS E90と比べて材積で15〜20%増になることもあり、価格差を織り込んでもJAS材のほうが経済的になるケースが増えています。
Q. 集成材は無垢材より強いって本当?
「強い」というより「ばらつきが小さく信頼できる」が正確です。無垢材の強度の変動係数20〜25%に対し、集成材は10〜15%と小さく、設計値どおりの性能が出やすいのが利点。ただし接着剤の劣化が長期信頼性の鍵なので、使用環境区分(A種・B種・C種)の選定が重要です。住宅構造ではB種が標準です。
Q. CLTは普通の住宅でも使える?
使えますが、製品コストが集成材の1.5〜2倍、施工に専用クレーンと高いプレカット精度が必要なため、住宅単体では経済合理性が限られます。本領を発揮するのは4階建以上の中層木造や、300m²以上の保育園・福祉施設など。住宅では、大空間リビングや薄型床版を求める意匠優先のケースが中心です。
Q. これからは全部の住宅で構造計算が必要になるの?
新3号(平屋・延床200m²以下)以外は、構造関係規定の図書審査の対象になります。標準的な木造2階建なら壁量計算+N値計算で対応できることが多いですが、図書化と保存の義務が新たに発生します。許容応力度計算が必要になるのは3階建以上や混構造、大スパンなどのケースです。
Q. 国産材構造材のシェアは伸びる?
伸びると見られます。4号特例縮小で構造計算の根拠材料としてJAS国産材の優位性が出るうえ、林野庁の「ウッド・チェンジ」事業で公共建築の国産JAS材活用も進んでいます。木材自給率も2010年代の26%から2024年には約42%まで回復しており、国産JAS構造材の供給体制が整いつつあります。

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