ドローンLiDAR|UAV搭載型の単木解析

ドローンLiDAR | Forest Eight

ドローンLiDAR(UAV-LS)は、無人航空機に小型のレーザースキャナを載せ、対地高度80〜120mから1平方メートルあたり200〜800点という超高密度の点群を取得する計測手法です。航空機LiDAR(10〜30点/m²)の10〜30倍の点密度があり、これまで見落とされがちだった被圧木まで拾えるのが大きな特徴。樹高は±0.3m、胸高直径は±2cm程度の精度で推定でき、現場踏査を大幅に減らしながら一本ずつの立木を把握できるようになりました。ここでは機材・飛行計画・点群処理・コスト・精度を、森林研究整備機構や自治体の実証事例にそって整理します。

目次

機材は5つの部品でできている

ドローンLiDARは、(1)UAV機体、(2)LiDARセンサ、(3)GNSS/IMU(位置・姿勢計測)、(4)RTK基準局、(5)解析ソフトの5要素で成り立っています。林業現場でいちばん普及しているのはDJI Matrice 350 RTKにZenmuse L2を組み合わせた構成で、機体・センサ・解析PCまで含めて初期投資はおおむね1,000万円規模。より高精度を求める研究現場ではRIEGL miniVUX-3UAVやYellowScan Mapperといった専用機が選ばれます。

ドローンLiDARシステム構成 UAV機体・LiDARセンサ・GNSS/IMU・RTK基準局・解析PCの5要素構成 ドローンLiDARシステムの構成要素 UAV機体 DJI M350 RTK等 飛行時間40分・耐風12m/s LiDARセンサ DJI L2 / RIEGL等 240,000pps GNSS/IMU 姿勢±0.05度 位置±2cm RTK基準局 電子基準点利用 後処理キネマティク 解析PC RAM 64GB+ 機材費用内訳の目安 UAV機体 200〜400万円/LiDARセンサ 150〜800万円/RTK 50〜100万円 解析PC・ソフト 50〜200万円/総額 1,000〜3,000万円
図1:ドローンLiDARシステムの構成要素(出典:森林研究整備機構実証事例より)

センサ選びで効いてくるのはパルス周波数・スキャン周波数・視野角・レーザー波長の4つ。DJI Zenmuse L2は240,000pps・5リターン対応・波長905nmで、林業実務には十分なスペックです。RIEGLのminiVUX-3UAVは波長1,550nm・360度視野角で密生林の透過性に優れ、研究用途で選ばれます。

飛行計画で点密度が決まる

点密度は対地高度・飛行速度・パルス周波数・スワス幅・サイドラップの組み合わせで決まります。標準的には対地100m・速度5m/s・サイドラップ50%でおよそ400点/m²。航空法の目視内飛行(VLOS)では高度150m以下に制限されるため、林業現場の実用域は80〜120mです。

ドローンLiDAR飛行計画の設計 対地高度・飛行速度・サイドラップから点密度を算出する飛行設計図 飛行計画と点密度設計 100m UAV スワス幅 約140m 飛行高度 100m → スワス幅 140m 飛行速度 5m/s → 滞空時間 30分 サイドラップ 50% → 重複帯 点密度の計算式 点密度 = (パルス頻度 × リターン数) /      (飛行速度 × スワス幅) 240,000 × 1.5 / (5 × 140) = 約514点/m² 点密度の選択指針 100点/m²: 林分平均値・ABA法に十分 300点/m²: 単木抽出・優勢木中心 500点/m²: 被圧木検出・全林相把握 800点/m²以上: 樹冠構造・幹形抽出
図2:ドローンLiDAR飛行計画と点密度の関係(出典:DJI技術仕様および森林研究整備機構実証)

飛行計画ソフト(DJI Pilot 2、UgCS等)に範囲・高度・サイドラップを入れると、自動でウェイポイント飛行が生成されます。山岳地では地形追従モードが必須で、DTMを読み込ませて対地高度を一定に保つのがコツ。バッテリー1本の実飛行時間は25〜40分、効率の目安は1フライト10haです。

点群処理と単木抽出の精度

処理の流れは、生データのGNSS/IMU統合 → 点群分類(地上点・植生点) → DTM/DSM/CHM生成 → 単木抽出 → 樹高・胸高直径推定 → 材積換算の6段階。点密度が桁違いに高いぶん、樹冠形状ベース(CHM)と点群幾何ベース(PCD)の両方の抽出手法が使えます。

ドローンLiDARの単木抽出精度比較 航空機LiDARとドローンLiDARの単木抽出率を樹冠位置別に比較 単木抽出率の比較(航空機LiDAR vs ドローンLiDAR) 100 75 50 25 0 抽出率(%) 95 90 優勢木 88 62 準優勢木 75 38 被圧木 ドローンLiDAR(500点/m²) 航空機LiDAR(10点/m²)
図3:樹冠位置別の単木抽出率比較(出典:森林研究整備機構スギ・ヒノキ林分実証2022)

森林研究整備機構の千葉演習林・スギ45年生林分での実証では、地上計測1,800本/haに対しドローンLiDAR(500点/m²)で1,700本/ha(抽出率94%)を抽出。航空機LiDAR(15点/m²)は1,200本/ha(67%)にとどまりました。とくに被圧木の検出率はドローンLiDAR75%・航空機LiDAR38%と差が大きく、本数管理や密度管理に必要な情報が空から得られる水準にあります。高密度点群では幹に沿った点から胸高位置の断面を切り出し、胸高直径(DBH)を直接推定でき、実証ではDBH誤差±2.4cm、樹高と組み合わせた単木材積の誤差は±10%以内でした。

解析ソフトの組み合わせ

前処理(点群生成)にはDJI Terra、TerraSolid、RIEGL RiPROCESSといった商用ソフト。後段の単木抽出・材積推定にはFUSION/LDV、LAStools、CloudCompare、PDALなどのオープンソースが広く使われます。研究では実質的な標準となっているR言語のlidRパッケージが、樹冠分割から地上点分類・DTM生成・単木抽出までを一気通貫で処理できて便利です。商用ソフトのライセンスは年間20〜100万円規模、オープンソース系は解析者の習熟という人件費が主なコストになります。

施業計画・路網設計への応用

抽出した単木情報は、間伐計画・主伐選定・本数調整にそのまま使えます。1ha 1,500〜3,000本のスギ40〜50年生林で、劣性木や形質不良木を空間配置ごと抽出し、間伐率20〜35%の最適選定を机上で組める。岐阜県森林研究所の実証では、この方法で現地踏査時間が従来の1/5に短縮されたと報告されています。主伐側でも、平均樹高・本数密度・林分材積をha単位で図面化し、蓄積を基準値(例:500m³/ha以上)でスクリーニングして優先度マップを作れます。

さらに点群から1mグリッド以下の高精度DTMを起こせば、傾斜・斜面方位・微地形を反映した路網(林道・作業道)の線形最適化が可能に。崩壊危険箇所を避けながら傾斜30度以下の作業道を引く、といった設計を机上で詰められます。

ドローンLiDARの応用領域 単木抽出・施業計画・路網設計・経年モニタリングの4つの応用領域 ドローンLiDARの4つの応用領域 1. 単木解析・本数管理 ・本数密度1,500〜3,000本/haの正確な把握 ・優勢木・劣性木の空間配置 ・間伐対象木の事前選定 ・収量比数(Ry)の算出 2. 主伐対象地選定 ・林分材積500m³/ha以上の抽出 ・伐採搬出経路の3D設計 ・素材生産量の事前見積 ・主伐優先度マップの作成 3. 路網・作業道設計 ・1mグリッド高精度DTM ・傾斜30度以下の最適線形 ・崩壊危険箇所の回避 ・搬出効率の数値評価 4. 経年モニタリング ・成長量0.2〜0.4m/年の検出 ・気象害・病虫害被害把握 ・再造林進捗のha単位検証 ・J-クレジット吸収量検証
図4:ドローンLiDARの応用領域マトリクス(概念整理)

樹種・季節で精度は変わる

計測精度は林相にかなり左右されます。スギ・ヒノキの針葉樹人工林は樹冠形状が円錐型・円柱型で単純なため抽出が容易で、樹高±0.3〜0.5m、DBH±2.0〜2.5cmの高精度。一方、広葉樹混交林・天然林は樹冠が不規則で重なり合いも多く、抽出率は70〜85%、DBH誤差も±3〜5cmに広がります。林齢では壮齢林(25〜50年生)が最も精度が高く、若齢林は樹冠が小さくて難しく、高齢林(60年生以上)は800点/m²以上に点密度を高める必要があります。

季節も重要です。最適条件は風速5m/s以下・降雨なし・視程5km以上・気温-5〜35度の4つ。落葉広葉樹林は落葉期(11〜3月)の計測でDTM精度が上がるため、地形把握では冬季が標準です。針葉樹人工林は葉量が年間ほぼ一定で季節依存が小さく、成長計測の安定を狙うなら春・秋が無難。北海道など積雪50cm以上の地域では地表面DTMが乱れるので積雪期は要注意です。

運用に必要な手続きとコスト感

運用には機体登録・操縦者技能証明・飛行許可申請の3つが関わります。航空法(2022年改正)で100g以上のUAVは登録義務があり、人口集中地区上空や150m以上では国交大臣の許可が必須。森林域は大半が人口集中地区外で、目視内飛行なら許可不要のケースが多いものの、山林上空は地形変化が大きいため第三者賠償責任保険(最低1億円補償)への加入が業界標準です。2022年12月に始まった国家資格の一等・二等は、目視外飛行(BVLOS)の規制緩和に直結し、急峻地での連続自動計測で1日50ha以上のカバーを可能にしました。

コストは初期投資1,000〜3,000万円、年間運用費100〜300万円が目安。外注の計測委託は1ha 3〜10万円なので、年20〜50箇所以上を継続計測するなら内製化に経済合理性が出ます。岐阜県森林組合連合会の試算では、年500ha規模の施業計画作成でドローンLiDAR導入の経済効果は年1,500〜2,500万円、投資回収は3年以内とされています。2024年時点で国内100組織以上が機材を保有し、地域の委託計測を請け負う「計測サービス事業者」型の運用も登場しています。

よくある質問

雨や霧でも計測できますか?

できません。雨粒・霧粒がレーザーパルスを散乱させて点群品質が大きく落ちるためで、風速10m/s以上・雨量1mm/h以上・視程1km以下では飛行中止が運用標準です。曇天はむしろ樹冠の温度上昇を避けられて好まれます。

密生林でも地表点は取れますか?

樹冠閉鎖率90%以上のスギ・ヒノキ密生林でも、点密度500点/m²以上あれば1m²あたり10〜30点の地上点が確保でき、DTM精度±15cm以内が実現できます。地上点取得率の高さが航空機LiDARに対する優位点です。

地上LiDAR(TLS)とはどう使い分けますか?

ドローンLiDARは樹冠上面〜中層が得意で、樹高・本数・上層材積の推定に最適。地上LiDARは幹・林床が得意で、胸高直径や幹形の精密計測に向きます。両者を組み合わせれば上層から下層まで高密度に押さえられ、研究レベルの基準データ作成に使われます。

SLAMドローンとJ-クレジットへの広がり

2023年以降は、GNSS信号に頼らず樹冠下を自律飛行するSLAMドローン(Emesent社のHOVERMAP等)が登場しました。点密度1万点/m²超を取得でき、DBH誤差±1cm以下、幹の通直性や腐朽の検出まで空中から可能に。ただし1フライト1ha程度と効率は低く、当面は研究や問題箇所の精査に限定されます。空中ドローンLiDARと地上SLAMドローンを組み合わせた階層的計測が次の標準になりそうです。

単木材積・林分蓄積の精密推定は、J-クレジット森林管理プロジェクトの吸収量算定エビデンスとしても効きます。従来の標準地調査ベースでは誤差±15〜25%でしたが、ドローンLiDARなら±10%以内に縮小し、クレジット発行量の精度が上がります。FSC・PEFC・SGECといった森林認証の現況把握・施業実績検証にも使われ始め、林野庁のマニュアル整備とあわせて、ドローンLiDARは「特殊計測ツール」から「日常業務インフラ」へと位置づけを変えつつあります。導入と同時に解析人材の育成とデータ運用体制をどう組むかが、組織の次の課題になっています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次