デジタルツイン森林|3次元仮想森林の構築

森を丸ごと3Dで再現する

「森林をまるごとコンピューターの中に再現する」と聞くと、少し未来の話のように感じるかもしれません。けれども、デジタルツイン林業——現実の森林を3次元の仮想空間に写し取り、成長予測や収穫計画をシミュレーションする技術——は、すでに日本各地で動き始めています。林野庁のスマート林業推進事業(2018年〜)と森林総合研究所(FFPRI)の研究を土台に、実証や導入に取り組む市町村が全国に広がっています。

仕組みを大づかみに言えば、航空レーザーで森林を3Dで測り、AIが一本ずつの木を認識し、その木が将来どう育つかを計算する——この流れを一つにつないだものです。本稿では、精度・コスト・導入事例を中心に、現場でどんな効果が出ているのかを整理していきます。

測る 航空 レーザー 森を3Dで計測 見分ける AI解析 一本ずつ認識 健康診断 予測する 成長 シミュ 5〜30年後の姿 活かす 施業計画 Jクレジット 収穫・炭素管理
図1:デジタルツイン林業の4つの要素(測る→見分ける→予測する→活かす)
目次

土台は航空レーザー測量

この技術の出発点になるのが、航空レーザー測量(ALS)です。航空機やドローンに積んだLiDARセンサーが、毎秒10万点を超えるレーザーパルスを地表へ撃ち込み、木々の立体構造を高い精度で写し取ります。樹木の位置や樹高は、条件がよければ熟練者が地上を歩いて測る従来の踏査に近い精度で把握できます。

計測項目 把握のしかた
樹木位置(X,Y) 点群から木を一本ずつ識別
樹高 樹冠頂点と地面の標高差から算出、精度は高い
胸高直径 樹冠の広がりや樹高から推定(誤差はやや大きい)
林分材積(合計) 個別木の積算、まとまった単位では精度が高い
地表面の地形 地面だけを抽出したDEM

違いが大きいのは測定の密度と速さです。標本点だけを測って全体に当てはめる従来手法に対し、レーザー測量は森全体を一本単位で捉え、現地作業を大幅に減らせます。林野庁主導で全国の人工林の航空レーザ計測が進んでいます。これに、必要なときに飛ばせる高解像度のドローン(5cm/pixel以下)を組み合わせれば、成長や被害の様子を細かく追いかけられます。

AIが木を見分け、未来を描く

集めた3Dデータを意味のある情報に変えるのがAI画像解析です。深層学習を使って、航空写真やLiDAR点群から樹冠を一本ずつ識別します。植栽列のそろった針葉樹人工林では精度が高く、樹種の判別もかなりの確度でこなせます。さらにNDVIなどの指標から弱った木・枯れかけた木を見つける健康診断もできます。

そして、この技術のいちばんの見どころが成長シミュレーションです。いまの樹種・樹齢・密度から、5年後・10年後・30年後の森の姿を予測します。予測の期間が長くなるほど不確実性は増しますが、施業計画や収穫予測、森林J-クレジットの計画づくりには実用的です。FFPRIが整備してきた収穫予測システムや地位指数曲線などが、その科学的な土台になっています。

1ha当たり1〜3万円という投資

気になるのが費用でしょう。航空レーザー測量に5,000〜15,000円、ドローン計測に1,000〜5,000円、AI解析・3Dモデル化に3,000〜10,000円——これらを合わせると、初年度はおおむね1ha当たり1〜3万円が目安です。100haの市町村なら100〜300万円、1,000haなら1,000〜3,000万円規模になります。

初期投資は決して小さくありませんが、計測精度の向上、施業計画の効率化、木材生産性の底上げなどを通じて、中期的に投資を上回る効果が見込まれます。森林環境譲与税やスマート林業補助金が市町村の導入を後押ししており、ここ数年で一気に広がってきました。

各地で動き出す現場

先進的な取り組みはすでに各地で生まれています。北海道下川町は町有林をデジタルツイン化し、FSC認証材やCO2クレジットと組み合わせて地域ブランドづくりに活かしています。岩手県住田町は森林経営管理法と連動させ、岐阜県中津川市は東濃ヒノキの資源把握に、高知県では急傾斜地での実証に取り組むなど、地域ごとに色合いが異なるのが面白いところです。

こうした市町村では、森林計測の精度が大きく上がり、木材生産の効率が改善したり、森林J-クレジットの創出が進んだりといった成果が報告されています。図面や台帳づくりの手間が減り、事務の効率化につながる点も大きい。若い世代が林業に入るきっかけになっている点も見逃せません。

これからの課題と展望

もちろん万能ではありません。初期投資の重さに加え、データ解析・GIS・林業の三つに通じた人材が足りないこと、天然林や広葉樹では木の個別認識の精度が落ちること、データを更新し続けるコストがかかることなど、乗り越えるべき壁は残っています。クラウド型サービスの普及や人材育成、データ共有の仕組みづくりが、その答えになりそうです。

世界に目を向ければ、フィンランドやスウェーデンでは商業林業の大部分で全国LiDARと成長モデルが標準的に使われています。日本はまだ導入拡大期ですが、急傾斜地という独自の条件に合わせた技術開発が進んでいます。全国の人工林の3Dモデル化や、個別林業者へのクラウドサービス提供も現実味を帯びてきました。戦後に植えた人工林を、気候変動と脱炭素の時代にどう活かすか——デジタルツインは、その問いに答えるための心強い道具になりつつあります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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