雪起こし作業─冠雪曲がり若齢木の立て直し

雪起こし作業─冠雪曲がり若齢木の… | Forest Eight

雪国の造林地では、冬を越えた若い木が根元から「く」の字に曲がっていることがあります。樹冠に積もった重い湿雪に押し倒されたまま、雪の中で固まってしまうのです。これを雪解けとともに一本ずつ立て直してやる――それが「雪起こし」。北日本や北海道のスギ・トドマツ・カラマツの林では、春先の欠かせない仕事です。地味な作業ですが、ここを手抜きすると数十年後の木材の値段に、はっきり差が出てきます。

対象地域北日本+北海道豪雪地帯実施時期3-5雪解け期労働投入5-15人日/ha1回あたり対象林齢5-20若齢林
図1:雪起こし作業の主要諸元
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なぜ若い木は曲がるのか

雪曲がりは、樹冠に積もる湿雪の重さと、木がそれに耐えようとする力の綱引きが崩れた瞬間に起こります。森林総研の試算では、若齢針葉樹1本あたりの冠雪重量は樹高1メートルにつき3〜8キロ。樹高8メートルのスギなら24〜64キロもの荷重が梢から幹の中ほどに集中し、まだ細い幹の弾性限界を超えて、根元から下1/3あたりがぐにゃりと曲がってしまうわけです。

曲がりやすさには、いくつか条件があります。被害がいちばん多いのは樹齢8〜15年・樹高5〜12メートル。幹がしなりやすく、根もまだ完成していない過渡期の木です。20年を超えると幹が太くなって曲がりにくく、5年未満だと雪に埋もれて荷重が分散されます。樹種ではスギ>トドマツ>カラマツ>ヒバの順に弱く、枝を水平に張って雪を抱え込みやすいスギが筆頭。さらに傾斜30度を超える斜面では、ずり落ちる雪と冠雪の重みが合わさって、谷側へ集団で倒れることもあります。

規模感もおさえておきましょう。林野庁の森林被害統計(2023年度)では、全国の森林被害面積3,827haのうち気象害が2,914ha。その約65%にあたる1,891haが冠雪害で、被害金額は年間およそ42億円にのぼります。

放っておくと、どれだけ損をするか

曲がった木をそのままにすると、まず幹の通直性が失われます。製材時に「あて材」として弾かれる割合が増え、森林総研の追跡では未実施区の柱材歩留まりは適期施業区の42〜55%まで落ちました。曲がった姿勢では日光をうまく受けられず成長も鈍り、年輪幅は健全木より年0.8〜1.4ミリ細くなります。

さらに厄介なのが悪循環です。曲がった枝が翌冬また雪を抱え、被害が雪だるま式に膨らむ。青森県津軽地方では、3冬続けて放置した林分で本数被害率が初年度15%から3年目には38%まで増えた事例が報告されています。最終的に主伐時の収入で見ると、通直材率が半減した50年生スギ林は健全林より120〜180万円も手取りが減る計算。雪起こしのコストが10万円/ha程度であることを思えば、投資回収は12〜18倍。これほど割のいい施業はそうありません。

太さと曲がり具合で、道具を使い分ける

雪起こしには決まったやり方がいくつかあり、木の太さと曲がり方で選びます。

技法 向く対象 主な道具 1人日の処理本数
手起こし 胸高直径3cm未満の幼木 素手 200〜400本
添木支持 5〜10cmの若齢木 杭・支柱 80〜150本
絞り上げ 5〜15cmの根曲がり 縄・専用具 60〜120本
ロープ・滑車補助 10〜20cm ロープ・滑車 40〜80本
電動ウインチ 10〜25cmの太径 ウインチ 50〜100本

いちばん基本は立て起こし。作業者が幹を押し戻し、根元の雪を踏み固めて固定します。直径5センチ以下なら一人で、それ以上は2〜3人がかりが標準です。新潟・東北には絞り上げという伝統技があり、ナイロン製の専用縄(長さ4〜6m)を幹の中ほどに巻いて、てこの原理で曲がりを直します。「ヌクリアゲ」「フリオコシ」などと方言で呼ばれ、熟練者は1日100本以上をこなします。

起こしたあとは添木補強が欠かせません。長さ1.5〜2.5メートルの間伐材や竹を添えて2〜3点で縛り、再び曲がるのを防ぎます。近年は電動ウインチも普及しました。12V/24Vのバッテリー駆動で牽引力500〜1,500キロ、隣の健全木をアンカーにして引き起こします。1台30〜80万円ですが、北陸の林業会社では導入で人手を約3割減らせたという報告もあります。

「いつやるか」で効果が大きく変わる

雪起こしは時期がすべてと言ってもいいくらいです。樹液が流れ始めて幹に柔らかさが戻る雪解け直後がゴールデンタイム。早すぎると雪が残って木がまた埋もれたり、凍った根を傷めたりします。逆に新葉が開いてしまうと曲がりが固定化し、無理に起こせば幹割れや梢折れを招きます。地域ごとの目安はこの通りです。

地域 標準実施時期 判断の目安
北海道 道央〜道北 4月中旬〜5月中旬 残雪50cm以下・日平均5℃超
東北日本海側(青森・秋田・山形) 3月下旬〜4月中旬 融雪進行・土壌露出率30%超
新潟・北陸(石川・富山・福井) 4月初旬〜4月下旬 新芽が動き出し、樹液流動再開
長野山間部・群馬北部 4月初旬〜4月下旬 標高800m基準で2週間調整

実務では「融雪指数(積算正温度)」も使われ、日平均5℃超えが15日続く、あるいは積算正温度が100℃・日に達したころが開始の合図。森林組合や普及指導員が現地観察と気象データを合わせて、組合員へ適期を知らせる体制が一般的です。

コストは投資、しかも回収率が高い

雪起こしには1haあたり5〜15人日(地方賃金で7.5〜22.5万円)の手間がかかります。間伐や枝打ちと並ぶ造林の主要コストですが、長い目で見れば実に効率のいい投資です。

項目 未実施区 適期実施区
雪起こしコスト(10年累計) 0円 15〜30万円
50年生時の柱材歩留まり 40〜55% 72〜88%
主伐収入(出材250m³/ha) 180〜250万円 340〜420万円

コツは、全部の木を起こそうとしないこと。被害の大きい木と、将来の主伐対象になる優勢木を中心に、全本数の30〜50%に絞るのが現実的です。軽い曲がりは自然回復に任せます。ただ、担い手の確保は切実な課題で、新潟県森林組合連合会の2024年調査では雪起こし作業者の平均年齢が62.4歳。電動ウインチのような省力機材は、もはや「あれば便利」ではなく「ないと回らない」道具になりつつあります。

補助金を上手に使う

雪起こしは公的支援の対象です。林野庁の「森林環境保全直接支援事業」は標準経費の68%を補助。これに加えて豪雪県が独自制度を持っており、新潟県(上限25万円/ha)、富山県(上限20万円/ha)、山形県(上限30万円/ha)、北海道(標準経費の50〜70%)などがあります。申請は森林経営計画の認定地で、森林組合や認定林業事業体を通すのが基本です。最近は市町村の森林環境譲与税を使い、自伐林家や小規模林家が支援を受ける事例も増えてきました。新潟県魚沼市や長野県木島平村の取り組みが先進例として知られています。

機械化と、起こさずに済ます工夫

労働力不足を背景に、機械化は急ピッチで進んでいます。背負える軽量電動ウインチ(5〜12キロ)、太径木も直せる油圧式起こし機、雪上を走る小型クローラ車。さらにマルチスペクトルドローンで雪解け直後の林冠を撮り、AI画像解析で曲がり木を自動検出する実証も進み、検出精度85〜92%を達成しています。ヤマハ発動機などが試作するリモコン式の雪起こしロボットは、2027〜2030年の実用化が見込まれています。

もっと根本的なのは、そもそも曲がりにくい林をつくること。被害感受性の高いスギ純林を、ヒバ・トドマツ・カラマツと混ぜた混交林に再編すると、青森県十和田の長期試験地では雪曲がり発生率が40〜55%下がりました。森林総研林木育種センターは「ホクシン」「ジョウシン」「ユウシン」など20系統以上の耐雪スギを実用化しており、これらは幹の弾性係数が在来種より15〜25%高く、同じ雪荷重でも曲がりにくい。雪害の多い土地にこうした系統を集中配置すれば、雪起こしの回数を半分ほどに減らせます。

世界の雪国は、どうしている?

実は、毎年人力で木を起こすという日本の慣行は、世界的に見るとかなり独特です。スウェーデンやフィンランドでは、耐雪系統のトウヒ・マツを選び、早めに間伐することで雪曲がりそのものを回避し、雪起こし作業を行いません。これができるのは、北欧が冷涼で乾いた雪が中心の気候だから。日本は湿った重い雪が多く、スギ依存度も高いため、独自の技術として雪起こしが発達してきたのです。とはいえ樹種転換や耐雪品種化が進めば、長期的には日本でも作業量は減っていくと見られています。

よくある質問

雪起こしを省略するとどうなる?

曲がりが固定化して、将来の柱材としての価値が大きく下がります。1ha放置すると伐採時に120〜180万円規模の収入減につながることも。雪起こしコストの12〜18倍のリターンが期待できる、費用対効果の高い作業です。

全部の木を起こす必要がある?

いいえ。重度被害の若齢木と、将来の主伐対象になる優勢木を中心に、全本数の30〜50%に絞るのが現実的です。軽い曲がりは自然回復に任せる場合もあります。

適期はいつ?

雪解け期の3月下旬〜5月初旬が標準です。北海道道央・道北は4月中旬〜5月中旬、東北日本海側は3月下旬〜4月中旬、新潟・北陸・長野山間部は4月初旬〜4月下旬が目安。融雪指数(積算正温度100℃・日)も判断材料になります。

出典・参考

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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