チェーンソーの世界でSTIHLと双璧をなすのが、スウェーデン生まれのHusqvarna(ハスクバーナ)です。一日中木を相手にする北欧の林業現場で鍛えられた同社の機械は、「軽くて、扱いやすくて、振動が少ない」という一貫した個性を持っています。面白いのは、この会社がチェーンソーを作り始めたのは1959年なのに、創業そのものは1689年――実に335年も前にさかのぼること。マスケット銃の工場から始まった老舗が、なぜいま世界第2位のチェーンソーブランドになったのか。その歩みと主力モデルを見ていきます。
銃 → ミシン → バイク → 林業機械という長い旅
Husqvarnaの起源は1689年、スウェーデン南部のフスクヴァルナ町に設けられた王立兵器工場です。川の水力と豊富な鉄鉱石を背景に、19世紀には軍用ライフルの欧州主要供給元の一つになりました。やがて軍需依存からの脱却を図り、1872年にミシン、1903年に自転車とモーターサイクル、第一次大戦後にはストーブや冷蔵庫といった家電へ――時代の要請に合わせて主力製品を大胆に乗り換えてきた歴史を持ちます。
林業機械に踏み込んだのは1956年の刈払機、そして1959年の初のチェーンソー「Husqvarna 90」から。この機械は競合より騒音が約半分という革新性で注目を集めました。335年にわたって積み上げてきた精密機械加工の技術蓄積こそが、後発でありながら一気にトップ集団へ駆け上がれた土台になっています。
その後も技術の節目が続きます。1973年のModel 162では自動チェーンブレーキを標準装備してキックバック事故を大きく減らし、1985年のModel 252XPで、のちに同社の代名詞となる防振技術LowVibを初採用。2006年には長く傘下にあったElectroluxからスピンオフして独立上場し、2007年には日本のゼノア(小松ゼノア)を子会社化して、日本市場での足場を固めました。
家庭用からプロ最大級まで:出力と重量で見る
Husqvarnaのラインナップは、家庭の薪づくり向けの120シリーズから、製材現場の超大型3120XP(118.8cc)まで幅広く揃います。選ぶ軸はSTIHLと同じで、扱う木の太さと作業時間に見合った出力・重量の一台を見極めること。下の図で各機種の立ち位置を掴めます。
572XP ── 大型プロ機の主役
排気量70.6cc、出力4.3kW、パワーヘッド6.6kg。大径木の伐倒から玉切り、製材まで幅広くこなす同社プロ機の中心です。前モデル576XPに対して切断能力を最大12%向上させながら約1kg軽量化し、振動も抑えました。STIHLのMS462C-Mが直接の競合で、出力はほぼ拮抗、メンテ性と防振では一歩リードという評価。北欧・北西欧の大規模林業の標準機です。価格は日本で22〜28万円が目安。
545 Mark II ── 中径木をこなす中堅
排気量50.1cc、出力2.7kW、4.9kg。STIHLのMS261 C-Mに対抗する中堅プロ機で、中径木の伐倒や薪づくりの主力です。軽さと低振動が効いて、薪業者や小規模林業のリピート購入が多い一台。14〜16万円という価格に対し、寿命と残価のバランスが良くコスパに優れます。
540i XP ── プロ向けバッテリー機の先駆け
36Vリチウムイオンを積み、本体2.4kgと軽量。2017年に登場したプロ用バッテリーチェーンソーの草分けで、樹上作業や住宅街、低騒音が求められる現場で活躍します。連続稼働がエンジン式より短い制約はあるものの、即時起動・低騒音・無排ガスという価値はほかに代えがたいもの。9.4Ahバッテリーで間伐作業なら実働45〜60分が目安で、予備を回せば一日の作業をまかなえます。
Husqvarnaを支える独自技術
同社の「軽量・操作性・低振動」という個性は、いくつかの看板技術に支えられています。
- X-Torq®エンジン(2008年〜):層状掃気で未燃焼ガスの排出を抑え、燃費を約20%改善・排ガスを約60%低減。低速トルクも太く、負荷が急に増えてもストールしにくいのが現場で好まれます。
- LowVib®(1985年〜):エンジンとハンドルの間にスプリングとダンパーを挟んで振動を遮断。572XPの計測値は前ハンドル2.4m/s²と、ISO基準の作業者振動曝露限度を下回り、長時間使用での振動障害(白蝋病)リスクを抑えます。
- AutoTune™(2014年〜):温度・気圧・燃料状態を読んでキャブを自動調整。標高差の大きい山間地でも手動調整が要らず、STIHLのM-Tronicに相当する技術です。
- Air Injection™ / TrioBrake™:遠心力で粗い粉塵を先に飛ばしフィルターの目詰まりを減らす機構と、後ハンドルにも追加したチェーンブレーキ。塵埃の多い現場や、姿勢が変則的になる樹上作業で効きます。
STIHLとどう違う? そして日本での立ち位置
両社は技術力もラインナップもほぼ互角で、最後は好みと地域のディーラー網で決まります。大づかみに言えば、STIHLは電子化・自動化に振り切り、Husqvarnaは軽量・操作性・防振を磨く――開発思想の違いです。森林労働者の好みも地域で分かれ、北欧・北西欧はHusqvarna、ドイツ・アルプス・北米はSTIHL寄りの傾向があります。資本構造も対照的で、STIHLが家族経営の非公開なのに対し、Husqvarnaは上場企業ゆえ年次報告書などの開示が手厚いのも特徴です。
日本では2007年に旧ゼノア(小松製作所傘下)と統合し、ハスクバーナ・ゼノア株式会社(埼玉県川越市)として展開。日本市場向けに最適化されたゼノアの国産機(GZシリーズ)と、540i XPや572XPといった国際プロ機が並んで売られています。全国200店超のディーラー網による整備・部品供給の現実的な可用性が、競合との実質的な差を生む部分。価格は海外定価より1〜2割高めですが、これは関税・物流費とサポート体制が反映されたものです。プロ用途でSTIHLとHusqvarnaのどちらを選ぶかは、結局「実機を触れる近場のディーラーが圏内にあるか」が長期運用で最も効いてきます。

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