結論先出し
- Pan & Birdsey et al.(Nature 2024年7月)が世界の森林炭素吸収量を再計算。1990年代〜2010年代まで持続的に約3.5 Pg C/年(35億トン)を維持していると結論。気候変動で減少が予測されたが「驚くべき安定性」と表現。
- 地域別では温帯林+30%・熱帯再生林+29%(増加)、北方林-36%・熱帯原生林-31%(減少)と二極化。森林破壊・火災・干ばつによる損失を、再造林・植林・自然回復が相殺している構造。
- IPCC AR6(2022〜2023年公表)の報告と整合し、森林部門が依然世界のカーボンバジェットの重要構成要素。1.5℃目標達成への森林政策の継続的重要性を再確認。
地球上の森林がどれだけのCO2を吸収・貯蔵しているかは、気候変動対策の根幹的な定量問題です。2024年7月、Nature誌に発表された Pan & Birdsey らの大規模再計算研究は、地球規模の森林炭素吸収量を10年以上にわたって直接データから検証し、世界の森林が依然として大きな炭素吸収源として機能していることを実証しました。本稿はこの最新研究と IPCC AR6(第6次評価報告書)の知見を統合し、森林の炭素機能の現状を整理します。
クイックサマリ:世界森林炭素吸収量
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 世界森林炭素吸収量 | 約3.5 Pg C/年(35億トン C/年、≒128億トンCO2/年) |
| 1990年代 | 3.6 ± 0.4 Pg C/年 |
| 2000年代 | 3.6 ± 0.4 Pg C/年 |
| 2010年代 | 3.5 ± 0.4 Pg C/年 |
| 世界全体の人為CO2排出量との比 | 約30%相当 |
| 主要研究 | Pan, Birdsey et al. 2024 Nature; IPCC AR6 WGIII Ch.7 (2022) |
| 地域別変化(10年単位) | 温帯林+30%、熱帯再生林+29%、北方林-36%、熱帯原生林-31% |
背景:世界の森林炭素吸収量はなぜ繰り返し再計算されるのか
世界の森林がどれだけのCO2を吸収・貯蔵するかという問いは、20世紀後半の気候研究黎明期から繰り返し計算されてきました。1980年代の Sundquist 1985、1990年代の Dixon 1994、2000年代の Bonan 2008、2011年の Pan et al. Science 333、そして2024年のPan & Birdsey 2024 Natureまで、研究手法・データの精度向上に伴って数値の更新が続いています。当初は土地利用変化による排出と吸収を差し引きしたネット値しか得られませんでしたが、衛星リモートセンシング・地上インベントリ・大気逆解析の三系統が補完される現在のフレームワークでは、地域別・期間別の精緻な分解が可能になりました。Pan & Birdsey 2024はこのうち地上インベントリ系の集大成と位置づけられ、Nature誌の査読を通じて世界中の森林研究コミュニティから検証された数値となっています。
再計算の動機は科学的精度の追求だけではありません。パリ協定下で各国が提出するNDC(Nationally Determined Contributions、自国が決定する貢献)の進捗評価、JCMやREDD+などの国際クレジット制度の信頼性担保、企業のSBT(Science Based Targets)認定にも、世界森林吸収量の最新値が直接影響します。気候政策が「定量データに基づく合意形成」へと移行するなかで、Pan & Birdsey 2024のような大規模再計算研究は、科学と政策の橋渡しを担う重要なインフラストラクチャでもあります。
Pan & Birdsey 2024:世界森林インベントリの再解析
Yude Pan(米国USDA Forest Service Northern Research Station)と Richard Birdsey(Woodwell Climate Research Center)を共同主筆とする17名の研究チームが、Nature 631: 563-569(2024年7月18日)に発表した「The enduring world forest carbon sink」(DOI: 10.1038/s41586-024-07602-x)は、世界規模の森林炭素吸収量を最新インベントリで再評価した画期的な論文です。
研究設計は次の通り:
- 北方林・温帯林・熱帯林の3バイオームに分類
- 11カ国の研究者から地上の森林資源インベントリデータを収集
- 1990年代・2000年代・2010年代の3期間で炭素フラックスを計算
- 立木材積から地上部・地下部・枯死木・落葉・土壌の各炭素プールを推計
- 森林破壊・火災・劣化による損失も併せて計上
主要発見は世界森林の炭素吸収量がほぼ一定(約3.5 Pg C/年)に保たれていることです。Pan・Birdseyの2011年論文(Science 333: 988-993)の値と整合し、その後10年間でも持続。これは「森林破壊と気候変動で吸収量が大幅減少する」という多くの予測に反する結果でした。
- Pan Y, Birdsey RA, Phillips OL, et al. The enduring world forest carbon sink. Nature 631: 563-569 (2024). DOI: 10.1038/s41586-024-07602-x
- USDA Forest Service: The enduring world forest carbon sink (PDF)
- IIASA: Forests endure as carbon sink despite regional pressures
- Pan Y et al. A Large and Persistent Carbon Sink in the World’s Forests. Science 333: 988-993 (2011)
地域別の二極化:勝者と敗者
世界全体は安定でも、地域別に見ると大きな二極化が観察されています:
| 森林タイプ | 地域 | 10年間の変化 | 主要要因 |
|---|---|---|---|
| 温帯林 | 米国、欧州、中国、日本 | +30 ± 5% | 植林・天然回復、面積拡大 |
| 熱帯再生林(二次林) | 東南アジア、南米、アフリカ | +29 ± 8% | 放棄農地の自然再生 |
| 北方林 | シベリア、カナダ、アラスカ | -36 ± 6% | 火災増加、害虫被害(前A03記事参照) |
| 熱帯原生林 | アマゾン、コンゴ盆地、東南アジア | -31 ± 7% | 森林破壊、劣化(前A02記事参照) |
つまり、「失われている地域」と「回復している地域」がほぼ均衡し、世界全体の数字としては安定して見えるが、内実は大きな構造変化が進行中という状態です。これは森林炭素クレジット制度の永続性リスク評価、森林政策の優先順位判断に重要な示唆を持ちます。
IPCC AR6(2022〜2023)との整合
IPCC AR6 第3作業部会(WGIII、緩和策、2022年4月公表)の第7章「Agriculture, Forestry and Other Land Uses(AFOLU)」では、森林部門が以下の重要性を持つと整理されています:
- 2010〜2019年のAFOLU(土地利用部門)からの正味CO2排出は3.0±2.7 Gt CO2/年(人為総排出の約12%)
- 森林の純吸収(森林損失と再生の差し引き)は3.4 Gt CO2/年程度
- 森林由来排出と吸収のネットは±数Gt CO2/年で大きな不確実性
- 1.5℃目標達成には森林部門が約7.5 Gt CO2/年の削減ポテンシャル(NCS、Natural Climate Solutions)
Pan & Birdsey 2024の地上インベントリ研究は、IPCC AR6が衛星リモセン主体で示した数値(3.4 Gt CO2/年程度)とほぼ一致し、地上データでの検証を提供します。両者の整合は、世界森林炭素吸収量の信頼性を大幅に高めました。
IPCC 2019 Refinement と国別インベントリ算定の方法論
各国の森林吸収量算定は、IPCCが定める「国家温室効果ガスインベントリのためのガイドライン」に従って実施されます。日本を含む先進国(附属書I国)が用いる現行版は、2006 IPCC Guidelines に2019年公表のRefinement(改訂版)を組み合わせたものです。2019 Refinementでは、土壌炭素プールの動態、撹乱による排出、HWP(伐採木材製品)の継続貯留、Tier 3手法(プロセスベースモデル)など、Pan & Birdsey 2024が扱う論点に対応する更新が施されています。
算定区分はAFOLU(Agriculture, Forestry and Other Land Uses)部門のうち、森林分類の主軸は次の6カテゴリです。森林として残存する森林(FL-FL)、農地などから森林に転換された土地(L-FL)、森林から農地などに転換された土地(FL-L)、草地への転換、湿地・居住地への転換、その他土地への転換。各カテゴリで地上部バイオマス、地下部バイオマス、枯死木、リター、土壌有機炭素という5つの炭素プールを別々に推計し、ネット吸収・排出を集計します。Tier 1(IPCC既定値の流用)、Tier 2(自国計測パラメータの組み込み)、Tier 3(精緻なモデル計算)の3階層が存在し、日本はFL-FLについてTier 3に該当する林野庁の森林簿・国家森林資源データベース(NFI)を活用しています。
世界全体集計とのギャップが論点となるのは、開発途上国の多くが依然Tier 1・Tier 2にとどまり、衛星リモセンと既定値に頼った推計をしている点です。Pan & Birdsey 2024が示した地上インベントリベースの値とNDC自己申告値の乖離は、UNFCCCのERT(Expert Review Team)による技術評価でしばしば指摘される論点でもあります。
森林吸収量3,800万tから2,300万tへ:日本のNDC2030再算定の意味
日本政府は2021年10月に決定した「地球温暖化対策計画」で、2030年度の温室効果ガス排出削減目標を2013年度比46%とするNDCを国連に提出しました。森林吸収量については当初3,800万t-CO2/年を見込んでいましたが、その後の人工林高齢化に伴う成長量低下、計算手法の精緻化、保安林・国有林の取扱い見直しなどを反映し、2024年公表の最新インベントリでは概ね2,300万t-CO2/年前後の見込みへと下方修正されました。
この差分1,500万t-CO2/年は、日本の年間家庭部門排出量の約1割に相当する規模であり、46%目標の達成可能性を巡って関係省庁内で議論が続いています。林野庁は対策強化として、再造林率の現状3〜4割から6割超への引き上げ、エリートツリー(成長量が在来種比1.5倍程度の精英樹由来種苗)の本格導入、施業集約化と林業機械化による生産コスト低減などを盛り込んだ「みどりの食料システム戦略」「森林・林業基本計画」を相次いで改定しました。Pan & Birdsey 2024が示す世界温帯林の吸収量増加トレンドは、こうした再造林・施業改善が機能すれば日本でも吸収量回復が可能であることを示唆しています。
「Persistence」の含意:何が起きていたのか
Birdseyは「森林炭素吸収量の持続性は驚くべきこと」と表現しました。その理由は、過去10年で:
- 世界の森林破壊は持続(2010年代年間 約460万 ha)
- 大規模火災が頻発(2019豪州、2020米西部、2023カナダ等)
- 害虫被害拡大(北米マウンテンパインビートル、欧州キクイムシ)
- 気候変動による干ばつ・劣化進行
これらの負の要因にもかかわらず、世界全体の純吸収量が維持された理由:
- 温帯林の継続的成長:米国・欧州・中国の長期植林の蓄積効果。中国だけで2010年代に4億 ha以上の人工林を達成。
- 熱帯再生林の急速回復:放棄農地の自然再生・植林政策で数千万 ha規模の二次林面積が拡大
- CO2施肥効果:大気CO2濃度上昇による光合成促進(条件付きで継続)
- 植生の北方拡大:温暖化による樹線上昇等で植被面積わずか拡大
これらの正の要因が、北方林・熱帯原生林の損失をちょうど打ち消す形で全体安定が達成されました。
3つの観測系統:地上インベントリ・衛星リモセン・大気逆解析の比較
世界森林炭素吸収量の推計には、大きく3つの独立した観測系統があり、それぞれ強みと弱みが異なります。Pan & Birdsey 2024が依拠するのは「地上インベントリ」アプローチで、各国の森林資源調査の立木データから炭素プールを積算します。これに対し、NASA GEDIなどの衛星LiDAR、Sentinel-2やLandsatの光学センサ、PALSARなどのSARを組み合わせた「衛星リモセン」アプローチでは、空間的な網羅性と時間分解能で優位を持ちます。さらに、CO2濃度のフラスコ観測網と大気輸送モデルを組み合わせた「大気逆解析」では、フラックスを直接推定できる強みがあります。
| 系統 | 強み | 弱み | 代表事例 |
|---|---|---|---|
| 地上インベントリ | 樹種別・齢級別の精緻な計算、樹下バイオマス把握 | 調査国数限定、頻度低、標本誤差 | Pan & Birdsey 2024、米国FIA |
| 衛星リモセン | 網羅性・時系列・劣化検出 | 地下部・土壌は不可視、教師データ不足 | NASA GEDI、Hansen Global Forest Change |
| 大気逆解析 | フラックス直接、人為・自然の合算把握 | 陸海分離・空間解像度の制約 | OCO-2、GOSAT、CarbonTracker |
Pan & Birdsey 2024の意義は、衛星と大気逆解析が10年前から指摘してきた「世界森林は約3 Gt CO2/年規模の純吸収源」という大枠を、地上の実測データからも独立に再現したことです。3系統の値が概ね収束した状態は、政策議論の土台として大きな意味を持ちます。一方で、3系統間でも数十%レベルのずれが残っており、特に熱帯地域の劣化(degradation:森林面積は維持したまま炭素密度が低下する現象)の評価は依然として大きな課題です。
不確実性と将来見通し
研究にはいくつかの大きな不確実性が残ります:
| 不確実性源 | 影響 |
|---|---|
| 地下部炭素 | 根系・土壌炭素の推計は地上部より精度低い |
| 枯死木分解 | 分解速度の地域差・気候変動応答の評価困難 |
| 劣化森林 | 「森林面積は維持・密度低下」の場合の正確な計上 |
| 気候フィードバック | CO2施肥・温暖化応答の長期予測困難 |
| 若齢林の成長 | 急成長期と成熟期での吸収速度差 |
2030年代に向けた予測としては、Pan & Birdsey 2024の論文は「現状トレンドが継続すれば持続的吸収は可能」とする一方、温暖化加速・大規模火災増加・熱帯破壊継続のシナリオでは数十年以内に純放出側に転じる可能性も指摘しています。
気候変動による森林吸収量の長期見通し:シナリオ別予測
Pan & Birdsey 2024は過去30年の実測データを扱った遡及的な研究ですが、世界の森林吸収量が今後も維持されるかどうかは別の問いです。気候モデルと植生動態モデル(DGVM、Dynamic Global Vegetation Model)を組み合わせた将来予測では、SSPシナリオ(共有社会経済経路)ごとに大きく異なる将来像が描かれます。SSP1-1.9(1.5℃整合)では世界森林吸収量は2050年代まで概ね現状水準を維持する一方、SSP3-7.0(高排出)では2040年代後半から熱帯森林を中心に純放出側へ反転するシナリオが多数報告されています。
反転リスクの主因は3つあります。第一に、CO2施肥効果の飽和です。大気中CO2濃度が高まれば光合成が増進する効果は知られていますが、窒素・リン・水などの他資源が不足すれば飽和に達することが、屋外CO2付加実験(FACE実験)で繰り返し確認されています。第二に、熱波・干ばつによる枯死率上昇です。2003年欧州熱波、2010年・2015年アマゾン干ばつ、2018年中欧森林枯死などが事例として報告され、温暖化加速で頻度・強度ともに増大すると予測されています。第三に、北方林の山火事面積急増です。シベリア・カナダ・アラスカで2010年代以降、過去最大規模の火災が連続しており、年間排出規模が世界の航空機産業に匹敵する事例も観測されています。
日本の森林炭素吸収量の位置付け
日本の森林(約2,500万 ha)は、約4,000〜5,000万 トンCO2/年の純吸収を達成と推計されています(環境省・林野庁 2023年実績ベース)。これは世界の森林炭素吸収量約128億 トンCO2/年の0.3〜0.4%程度に相当します。
日本の森林吸収量は近年緩やかに低下傾向(人工林の高齢化による成長速度低下)にあり、再造林率向上・主伐後の確実な再造林・スマート林業による生産性向上が、長期的な吸収量維持の鍵です。森林環境譲与税・J-クレジット制度森林管理等の制度も、この文脈で理解されるべきです。
都道府県別に見た日本の森林吸収ポテンシャル
日本の森林吸収量は全国一律ではなく、人工林率・林齢構成・主要樹種・気候帯によって地域差が大きいことが知られています。林野庁の資料によれば、人工林率が高くスギ・ヒノキの主伐期にある地域(南九州・四国・中国・北関東)では、再造林の進捗如何で2030年代の吸収量に大きな影響が及びます。一方、北海道はトドマツ・カラマツの広大な人工林を抱え、長伐期施業と若齢林への更新で炭素貯留と吸収のバランスを取る試みが進められています。
都道府県別の主な動向としては、宮崎・大分・熊本・高知などが先進的な再造林率向上策を採用し、苗木供給体制の強化と植栽機械化を進めています。長野・岐阜・富山・新潟ではエリートツリー導入と複層林化施業、神奈川・東京・千葉では森林環境譲与税を活用した地域内流通促進と都市部木造化により、吸収源と都市需要を結びつける施策が展開されています。Pan & Birdsey 2024が示した「温帯林吸収量+30%」というポジティブトレンドの恩恵を日本が享受するには、こうした地域施策の継続的な実装が不可欠です。
J-クレジット森林管理プロジェクトとPan & Birdsey 2024の関係
日本国内の自主的カーボンクレジット制度であるJ-クレジット制度には、森林管理プロジェクトという類型が用意されており、間伐・再造林・植林・木材利用などにより追加的に獲得できる吸収量をクレジット化できます。森林由来のJ-クレジットは2024年時点で発行残高数十万t-CO2規模に達し、企業がScope 3排出のオフセット手段として購入する事例が増えています。
Pan & Birdsey 2024の「世界森林吸収は10年で安定」という知見は、森林クレジット市場のリスク評価にも示唆を与えます。地域別二極化が示すように、北方林・熱帯原生林をベースとするクレジットは火災・劣化リスクが大きく、永続性確保のためのバッファプール設定が一層重要になります。一方、温帯林・熱帯再生林のクレジットは追加性・永続性ともに比較的安定しているため、購入側企業にとって有望な選択肢となり得ます。日本のJ-クレジット森林管理は温帯林カテゴリに属し、地域の人工林管理と連動して比較的安定した発行が期待できる位置にあります。
森林吸収量とパリ協定・1.5℃目標
パリ協定(2015年)の1.5℃目標達成には、化石燃料排出削減と並んで「自然由来吸収(NCS、Natural Climate Solutions)」が大きく寄与する必要があります。森林部門のNCSポテンシャルは年間7.5 Gt CO2/年(IPCC AR6推計)で、人為的吸収の約3〜5割を占める可能性があります。
具体的なNCS施策:
- 森林減少防止:熱帯林破壊抑制(REDD+、EUDR等)
- 植林・再造林:放棄地・劣化地への植林
- 森林管理改善:施業最適化、母樹保残、長伐期化
- 木材製品の継続的炭素貯留(HWP, Harvested Wood Products):CLT・大規模木造建築(前C01・C02記事参照)
カーボンクレジット制度の含意
森林由来カーボンクレジット(J-クレジット森林、REDD+クレジット、Verra、Gold Standard等)は、Pan & Birdsey 2024の知見が直接影響します。地域別の二極化を踏まえれば:
- 温帯林・熱帯再生林:吸収量増加トレンド、クレジット創出ポテンシャル大
- 北方林:火災・害虫リスクで永続性懸念、バッファ強化必要
- 熱帯原生林:保全価値高、REDD+クレジット重視
各認証機関は地域別リスク評価の精緻化、自然撹乱バッファ枠の見直しを継続中です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「森林吸収量が安定」とは森林状態が良好ということですか
A. 必ずしもイエスではありません。「世界平均は安定」だが、北方林・熱帯原生林等のバイオームでは大幅な減少が進行中です。「平均値の安定」が示すのは「相殺関係が成立している」状態で、地域別の状況評価は必須です。
Q2. アマゾンが炭素ソース化(前A02)と整合しますか
A. 整合します。Pan & Birdsey 2024で熱帯原生林の吸収減少(-31%)が示され、これはGatti 2021のアマゾン論文と方向性が一致。アマゾン東南部の劣化が、世界全体の熱帯原生林減少を主導している構造です。
Q3. 中国の植林の影響はどのくらいですか
A. 中国は2010年代に約4億 haの人工林を維持・拡大。世界の温帯林吸収量増加の主要因の一つで、Pan & Birdsey 2024の温帯林+30%の数字に大きく寄与しています。
Q4. 日本の森林吸収量は今後増えますか
A. 短期的には人工林の高齢化により緩やかな減少傾向が続く可能性。一方、主伐後の確実な再造林・施業最適化・若齢林の成長促進で、長期的には維持・微増の余地があります。森林環境譲与税等の制度活用が鍵となります。
Q5. 森林吸収量を増やすために個人ができることは
A. 国産材製品・FSC/PEFC認証材の選択、住宅の木造化(中規模木造含む)、地域森林整備への寄付・参加、J-クレジット購入によるカーボンオフセット、等が具体的アクションです。
Q6. NDCの森林吸収量が下方修正された原因は何ですか
A. 主因は3点あります。1点目は人工林高齢化に伴う材積成長量の低下で、戦後造林されたスギ・ヒノキの大半が成熟期を超えつつあります。2点目はインベントリ算定方法の精緻化で、2019 IPCC Refinementを反映して土壌・枯死木プールの取扱いがより保守的になりました。3点目は保安林・国有林の取扱い見直しで、施業制約を考慮した結果として吸収量計上が下方化されています。これらが複合し、当初3,800万t-CO2/年の見込みが2,300万t-CO2/年前後に修正されました。
Q7. Pan & Birdsey 2024と他の最近研究との関係は
A. Harris et al. 2021、Xu et al. 2021(衛星)、Friedlingstein et al. 2024(大気逆解析)と3系統が約3 Gt CO2/年で一致しており、Pan & Birdsey 2024は地上データからの独立検証となります。
Q8. 1.5℃目標達成に森林政策はどこまで貢献できますか
A. IPCC AR6 WGIIIではNCSの年間ポテンシャルは7.5 Gt CO2/年で、うち森林部門が約半分。ただし化石燃料排出削減が主軸で、森林単独で1.5℃目標達成は不可能です。
Q9. 森林吸収量の不確実性はどの程度ですか
A. Pan & Birdsey 2024の世界全体推計は3.5 ± 0.4 Pg C/年(約12%)。地域別では±20〜30%、土壌・枯死木プール由来の誤差が支配的で、日本国内NFIは相対誤差数%程度です。
まとめ:再計算がもたらした3つの意義
Pan & Birdsey 2024 Natureが世界の森林研究と気候政策コミュニティに残した意義は、3つに整理できます。第一に、地上インベントリという独立データソースから世界森林吸収量3.5 Pg C/年規模の安定が再現された点で、衛星リモセン・大気逆解析と独立な観測体系の収束は政策議論の根拠を強化しました。第二に、地域別の二極化(温帯林・熱帯再生林の増加対北方林・熱帯原生林の減少)が定量的に示された点で、これは森林クレジット制度の地域別リスク評価、再造林政策の優先順位付けに直接の示唆を与えます。第三に、「持続性」が動的均衡として理解されるべきだと示された点で、再造林・植林を停止すれば吸収源は縮小に向かう可能性が高く、人為的な政策介入の継続が前提となります。

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