日本の木材輸出というと中国の存在感が大きいのですが、その次に控えるのが韓国と台湾です。2022年の輸出額は対韓国が約100億円(シェア15%)、対台湾が約65億円(10%)。両国を合わせると輸出全体の約4分の1を占めます。
面白いのは、中身が中国とまるで違うこと。中国向けが安い丸太中心なのに対し、韓国・台湾向けは製材・合板・建具・木製品が主役で、しかも単価が高いのです。住宅建材からDIY、家具、寺社建築まで用途が幅広く、日本産材の「品質ブランド」が試される市場になっています。
韓国・台湾はなぜ日本の木材を必要とするのか
シンプルに言えば、自前の森林が足りないからです。韓国の木材自給率は16%前後、台湾にいたっては1%未満。消費量の大半を輸入に頼っています。日本産材は量ではロシア材・北米材・ニュージーランド材に及びませんが、「品質ニッチ」では確かな地位を保っています。
とくに台湾には特殊な事情があります。1980年代まで自国で台湾ヒノキを伐っていたのですが、現在は伐採が制限され、寺社や伝統建築に使うヒノキを日本産に頼らざるを得なくなりました。この需要が、日本のヒノキ輸出の安定した受け皿になっています。
対韓100億円——DIY・家具・住宅建材の3本柱
韓国向け100億円の中身は、製材が約45%、合板25%、木製建具・LVL15%、その他15%。樹種はスギ約50%、ヒノキ25%、カラマツ15%で、住宅建材・DIY・家具・梱包材に分散しています。
韓国はDIY・ホームファニシング市場が2000年代以降に急成長しました。IKEA韓国や地場のホームセンターチェーンで、スギ製材やSPF材が広く流通しています。日本産スギは節が少なく色合いが均一で安定供給される点が評価され、DIY向けの1×4・2×4寸法材として一定のシェアを確保。価格帯は1m³あたり5万〜8万円規模で、中国向け丸太のおよそ2〜3倍の単価です。
ただし韓国のDIY材はインチサイズ規格(断面19×89mm、38×89mmなど)で、日本国内向けの寸法とは違います。そのため宮崎・熊本・鹿児島・大分のスギ製材工場の一部は、海外規格対応の専用ラインを稼働させ、含水率15〜18%のKD材に仕上げてから釜山港・仁川港へ送り出しています。
住宅市場でも需要があります。韓国の住宅着工は年30〜50万戸(マンション中心)で、ソウル首都圏の高級マンション・ヴィラ向けにはヒノキ無垢フローリングや羽目板が流通し、1m³あたり10万〜15万円という高単価帯で取引されます。シェアは数%にとどまりますが、富裕層向けプレミアム市場という収益性の高いニッチです。京畿道・忠清南道の家具・建具メーカーが、日本の中堅製材工場と直接契約を結んで特注寸法を発注するケースも増えています。
対台湾65億円——寺社建築用ヒノキの伝統市場
台湾向け65億円の最大の特徴は、寺社建築用ヒノキという高付加価値品の比重が伝統的に高いことです。台湾全土には大小の寺院・廟・古蹟が1万2,000カ所以上あるとされ、毎年1,000件以上の修復・改築が発生します。台北・台中・台南・高雄の国家級古蹟は定期的な大規模修復が義務付けられ、その柱材・梁材・桁材に日本産ヒノキが指定されることも少なくありません。年間のヒノキ需要は推定3〜5万m³規模で、安定して存在します。
| 用途 | 主な品目 | 価格帯 |
|---|---|---|
| 寺社建築・廟 | ヒノキ柱・梁・桁 | 15万〜30万円/m³ |
| 高級住宅・別荘 | ヒノキ・スギ製材 | 8万〜15万円/m³ |
| 一般住宅構造材 | スギ製材・LVL | 5万〜8万円/m³ |
| 家具・内装材 | スギ・ヒノキ製材 | 6万〜10万円/m³ |
寺社用ヒノキは1m³あたり15万〜30万円。中国向けスギ丸太(1.5〜3万円/m³)の5〜10倍です。「少量だが高単価」というこの構造は、岡山(美作)・三重(尾鷲)・奈良(吉野)・愛媛(久万)・高知(四万十)といったヒノキ産地の地域経済を支えています。神社建材には樹齢150年以上、長尺6m・断面300×300mm以上といった特殊寸法の大径ヒノキ柱が選好され、こうした材を安定供給できるのは数百年の植林歴を持つ銘木産地に限られます。これが日本側産地のブランド力の基盤です。
台北・新竹・高雄の高級別荘市場でも、浴室材・床材・天井材として日本産ヒノキ無垢材が人気です。日本式の温泉風呂を備えた物件では木曽ヒノキ・吉野ヒノキが指定され、1物件あたり数十万〜数百万円のヒノキ材費用が発生することもあります。
住宅構造の違いが用途を決めている
韓国・台湾の住宅は中高層マンションが主流で、純木造の比率は両国とも数%以下。韓国は新築の8割以上が鉄筋コンクリート造、台湾も同様です。だからこそ日本産材は構造材ではなく、内装・家具・寺社・DIYといった補完用途が中心になります。これが中国向け丸太とは異なる単価・品目構成を生む根本要因です。
とはいえ、近年は両国とも中大規模木造(マスティンバー)への関心が高まりつつあります。韓国では脱炭素政策とESG投資を背景に、首都圏のオフィス・公共施設の一部でCLT・集成材を使った建築が試行され、台湾でも台北市・新北市の小学校やコミュニティセンターで木造化を試みる事例が出てきています。
九州の港から1〜5日で届く近さ
韓国・台湾市場の強みは、なんといっても近さです。博多→釜山は約200km・1日航海、博多→基隆でも約1,200km・3〜4日。日本から最も近い東アジア接続路線として、物流コストで圧倒的に有利です。
| 積出港 | 主な仕向地 | 航海日数 | 主要品目 |
|---|---|---|---|
| 博多港 | 釜山・仁川・基隆・台中 | 1〜4日 | スギ製材・合板 |
| 下関港 | 釜山・仁川 | 1〜2日 | スギ製材・木製品 |
| 神戸港 | 基隆・高雄・釜山 | 3〜5日 | ヒノキ柱材・建具 |
| 横浜港 | 基隆・釜山 | 4〜5日 | 合板・LVL・建具 |
海上運賃は20フィートコンテナ1本あたり、博多→釜山で5〜8万円、博多→基隆で15〜25万円程度。スギ製材を1コンテナ20〜25m³積めるので、1m³あたりの海上輸送コストは博多→釜山で2,000〜4,000円、神戸→基隆でも8,000〜12,000円ほどに収まります。欧米向け(1m³あたり1.5〜3万円)と比べて格段に低く、韓台市場の単価優位を物流面からも支えています。
供給側を見ると、対韓スギ製材は宮崎・熊本・大分・鹿児島の九州4県で6〜7割。年輪が密で色合いが均一なKD製材が韓国で評価されています。対台湾ヒノキ柱材は岡山(美作)・三重(尾鷲)・奈良(吉野)・愛媛(久万)・高知(四万十)が中心で、大径木供給地としての伝統がそのままブランドになっています。
韓台市場の戦略的価値と展望
対中45%・対韓15%・対台湾10%——東アジアに7割が集中する構造ですが、質はまるで違います。中国は「量」を支える市場、韓国・台湾は「質」を試される市場。両者は補完的で、対中の量を安定確保しつつ韓台で付加価値品を売り続ける、この両輪が収益安定化の鍵です。
さらに見逃せないのが、韓台での実績が米国・欧州・中東といった遠距離高単価市場への足がかりになる点です。寺社建築・高級住宅・家具で韓台の顧客との取引実績を持つメーカーは、欧米バイヤーにも信頼できる供給者として認知されやすい。CoC認証材の継続出荷実績は、欧米が求める持続可能性ガバナンスの実証にも直接役立ちます。
もっとも、リスクもあります。為替変動、両国の住宅景気循環、地政学的緊張による物流変動、欧米・南方材との価格競争——。これらに備えて、樹種・用途・相手国の三重分散を意識した経営判断が求められます。林野庁・JETROは韓国KOREA BUILDや台湾TIBEといった建材展への共同出展、CoC認証材のブランド化、産地視察ツアーなどで両国市場を後押ししており、2030年代には両国合計で250〜300億円規模への拡大が政策目標として議論されています。
よくある質問
台湾向けヒノキはなぜ高単価で取引されるのですか?
台湾国内の台湾ヒノキ伐採が制限され、日本産ヒノキが寺社建築・高級住宅の代替供給源になっているためです。寺社建築用は1m³あたり15万〜30万円規模。希少性、施工要求の高さ、長尺材、節の少なさが単価を押し上げます。岡山・三重・奈良・愛媛・高知のヒノキ産地にとって、安定した高収益市場です。
韓国・台湾市場のリスクは何ですか?
韓国は政治・経済関係の変動による通関・輸入規制リスク、台湾は地政学的緊張による物流リスクが挙げられます。ただし、長期的な取引関係・地理的近接性・品質面での日本産材選好が下支えとなっており、中国市場のような急激な変動は相対的に少ない傾向です。
主要積出港はどこで、所要日数は?
九州の博多・下関・伊万里、関西の神戸・大阪、関東の横浜・東京などです。博多→釜山が1〜2日、博多→基隆が3〜4日、神戸→基隆が4〜5日が目安で、欧米向け(20〜30日)と比べて圧倒的に短時間で配送できます。

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