林業労働の賃金構造|日給・出来高・固定給の比較

林業の賃金3つの体系

「林業で働くと、年収はどれくらいになるんだろう?」——そんな疑問を持ったとき、ひとつの平均値だけを見ても実態はつかめません。林業の賃金は、働き方そのものによって大きく姿を変えるからです。日給でもらうのか、伐った量に応じて稼ぐのか、それとも固定の月給か。この3つの違いが、同じ「林業労働者」でも収入に大きな開きを生み出しています。この記事では、その構造を一枚ずつほどいていきます。

目次

まず押さえたい、3つの賃金体系

林業の賃金は、大きく分けて日給制・出来高制(請負)・月給制(固定給)の3つに分かれます。それぞれ仕組みも、向き不向きも、年収の伸び方もまったく違います。

  • 日給制:現場に出た日数だけ支払われる方式。1日あたり1万数千円が目安。かつての林業で主流でした。
  • 出来高制(請負):伐った材積(m³)や造材本数に単価をかけて稼ぐ方式。腕がそのまま収入に直結します。
  • 月給制(固定給):毎月決まった額を受け取る形。2003年度に始まった「緑の雇用」事業をきっかけに広がってきました。

林野庁の白書によると、雇用労働者に占める月給制の割合は32%(令和4年度)で、「徐々に増えているものの、まだ低い」状況。年間就業日数が210日以上(ほぼ通年雇用)の割合は67%です。裏を返せば、いまも日給・出来高で働き、冬季や悪天候で就業日数が減る人が相当数いるということです。

日給制の弱点は「雨の日は収入ゼロ」

なぜ日給制がこれほど根強かったのか。それは林業の仕事が天候や地形に大きく左右され、「出た日だけ払う」やり方が事業体にとって経営上ラクだったからです。けれど裏を返せば、日給制は雨や雪の日にそのまま収入ゼロを意味します。この収入の空白こそが、若い人の参入をためらわせ、定着率を下げてきた最大の壁でした。緑の雇用が補助金で月給化を後押ししたのも、まさにここを埋めるためです。

出役日数は地域でかなり違います。雪の多い北海道・東北では冬季に山仕事がほぼ止まるため年180日前後、温暖な九州・四国では年220〜240日。同じ日給でも、住む場所で年収が数十万円変わってきます。

出来高制は、腕がそのまま単価になる

出来高制(請負)は、伐倒m³あたり、あるいは造材本数あたりの単価で支払われます。熟練した伐木手ほど1日に処理できる量が多く、その差がそのまま収入の差になります。経験の浅い新人が同じ単価で働いても処理量が伸びず、収入は低くとどまる。同じ仕事でも大きく差がつくのが出来高制の世界です。ベテランは高く稼げる一方、収入が不安定になりやすく、けがや高齢で処理量が落ちれば収入も落ちます。

機械を操る技能への評価が上がっている

近年はっきりしてきたのが、機械オペレーターの評価の高まりです。プロセッサやフォワーダといった高性能林業機械の導入が進み、「機械を操る技能」への需要が増えています。1日に大量の造材をこなせるオペレーターは、月給制でも高めの水準が設定され、資格手当も乗ります。機械化は労務費を削るだけでなく、「より高単価の働き手」を生み出す面もあるわけです。チェーンソー作業の特別教育や、移動式クレーン・車両系建設機械などの資格は、月給アップや出来高単価の交渉材料として効いてきます。

危険なわりに、賃金は高くない

賃金を語るうえで避けて通れないのが安全の問題です。林業の死傷年千人率は令和5年で22.8と、全産業平均2.4のおよそ10倍。ところが林業労働者の平均年収は、全産業平均を下回る水準にとどまります。危険は10倍、賃金はむしろ低い——この非対称こそ、林業が人材獲得で苦戦している根っこにあります。

本来、危険な仕事には賃金プレミアムが上乗せされてしかるべきですが、現実にはそうなっていません。林業の労働市場が地域限定で替えの仕事が少ないこと、小規模事業体が多く価格交渉力に乏しいこと、出来高制が「高い賃金」を一部の熟練者だけに集中させてしまうこと。これらが重なって、危険とお金が釣り合わない歪みが生まれています。

これから、林業の賃金はどう変わるのか

賃金構造は、いま月給化・機械化・大規模化の3つの軸でゆっくり動いています。月給制の割合は少しずつ上がり、通年雇用化も進んでいます。高性能林業機械の保有台数はこの10年で2倍以上に増え、オペレーター需要を押し上げています。年間素材生産量の大きい大規模事業体では、「月給制 × 機械集約 × 通年雇用」をセットで採る経営が増えてきました。

これら3つが噛み合えば、今後10年で林業の賃金は「日給制中心の不安定な低賃金」から「月給制と機械化による安定した賃金」へと姿を変えていくと予想されます。ただしそれが実現するには、素材生産量の拡大と路網整備の加速が前提。最後は政策の継続性が鍵を握る、というところに落ち着きます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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