【ホオノキ/朴の木】Magnolia obovata|日本最大級の葉、木彫・刀剣鞘・朴葉味噌の伝統樹種

ホオノキ | Forest Eight

山地の落葉広葉樹林を歩いていて、地面に座布団のような大きな楕円の葉が落ちていたら、たいていホオノキ(Magnolia obovata)です。葉の長さは20〜40cmと日本の樹木では群を抜く大きさ。5〜6月には直径15〜20cmの白い大きな花を、強い芳香とともに咲かせます。木材は刀の白鞘や仏像彫刻の定番材、大きな葉は朴葉味噌の包み、樹皮は漢方薬と、ひとつの木が暮らしのあちこちで活躍してきた、いかにも日本的な樹種です。

気乾比重0.49(0.45〜0.55)軽軟・中庸葉長20-40cm(日本産最大級)識別決定打樹高30 m胸高直径 60-100cm落葉広葉高木主用途数5+用材・葉・樹皮多面活用
図1:ホオノキの主要スペック
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とにかく葉が大きい

最大の特徴は、なんといっても葉の大きさ。倒卵形で長さ20〜40cm、裏は白っぽい微毛で粉を吹いたように見えます。互生ですが枝先にまとまってつくので、輪生のように見えるのも特徴です。万葉集にも「保宝葉(ほほがしわ)」として登場し、奈良時代にはすでに「大きな葉の木」として知られていました。「ホオ」という名も「葉が大きい」を意味する古語に由来するとされます。葉が大きいのは、渓畔林のような湿った場所で効率よく光を受けるための戦略。葉のふちに鋸歯がなく全縁なのは、大きな葉が風で破れにくくするための工夫とも考えられています。

「彫刻材の王様」

木材は気乾比重0.49前後の軽くて柔らかい広葉樹。緻密で均質、絹のような光沢があり、何より乾燥後の狂いが少ない(接線方向の収縮率はブナやナラより小さい約7%)のが身上です。油やヤニをほとんど含まないので彫刻刀の刃を傷めず、繊細な刃跡をきれいに残します。仏像、能面、版木、下駄、まな板と、精密さを求められる用途で奈良時代から使われ続け、「彫刻材の王様」と呼ばれてきました。

なかでも有名なのが日本刀の白鞘(しらさや)。刀身を保管するための素木の鞘です。油やヤニが刀身に移らない、湿度が変わっても狂いにくい、刀身を擦らない緻密さ──この三拍子を同時に満たす木が他にないため、白鞘材といえばホオノキと決まっています。文化庁に登録された刀剣は約300万口。その保管・修理のたびに白鞘の需要が生まれ、鞘を仕立てる鞘師(さやし)の技術は文化庁の選定保存技術にも含まれます。

朴葉味噌、朴葉寿司の葉

大きな葉は、岐阜の飛騨地方を中心に郷土食を支えてきました。代表は朴葉味噌。乾燥した朴葉に味噌・ネギ・きのこをのせ、囲炉裏や七輪で焼きながら食べる料理で、こんがり焼けた味噌に葉の香りが移ります。飛騨高山の旅館の朝食でおなじみですね。木曽や吉野では、夏の握り寿司や押し寿司を朴葉で包む朴葉寿司が田植え時の弁当として発展しました。葉に含まれる芳香成分(ボルネオールやリモネンなどのモノテルペン類)には抗菌作用があり、夏場の食べ物を傷みにくくする経験の知恵です。家庭でも乾燥朴葉が手に入り、フライパンやグリルで朴葉味噌を再現できます。

樹皮は漢方薬「厚朴」

樹皮を陰干しした生薬は「厚朴(こうぼく)」と呼ばれ、日本薬局方にも収載されています。健胃・整腸や、のどのつかえ感に使われ、半夏厚朴湯や平胃散といった処方に配合されます。有効成分のマグノロールとホノキオールには抗酸化・抗菌作用などが報告され、近年は欧米でも機能性素材として再評価されています。ただし樹皮の採取には森林所有者の許可が必要なことがあり、薬としての利用は必ず医師や漢方薬剤師の指示に従ってください。

トチノキとの混同に注意

地方によってはホオノキを「トチノキ」と誤って呼ぶことがありますが、両者は科レベルで別物です。落ちた大きな葉を遠目に見ると似て見えるのが原因ですが、近づけばまったく違います。

項目 ホオノキ トチノキ
モクレン科 ムクロジ科
単葉、倒卵形、20〜40cm 掌状複葉、小葉5〜7枚
果実 集合袋果、朱色の種子 球形、栗状の堅果(栃の実)
主用途 白鞘・木彫・朴葉・厚朴 栃餅・用材・蜜源

同じモクレン属のコブシとも似ますが、コブシは葉が半分以下の大きさで、花が葉より先に1〜2か月早く咲くので区別できます。

よくある質問

庭木として育てられますか?

樹高20〜30mに育つ大木なので、住宅の庭には大きすぎます。広い敷地や公園向き。大きな白花とその芳香、大型葉、秋の黄葉と観賞価値は高い木です。半日陰〜日向で、湿って水はけのよい土を好みます。植えるなら頭上に10m以上の空間がほしいところです。

朴葉味噌はどう食べますか?

朴葉に味噌とネギ・きのこ・薬味をのせ、囲炉裏や七輪、家庭ならフライパンやグリルで焼きながらいただきます。葉の香りが味噌に移り、白米や酒の肴にぴったり。卵黄や野菜を加えるなどアレンジも自由で、店ごとのレシピの違いも楽しめます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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