ハーベスタのキャブに座って、レバー2本で木を伐り、枝を払い、玉切りまで済ませる。日本の林業でいちばん生産性が高い作業がこれです。この機械を運転するには、伐木等機械の運転の業務に係る特別教育を修了していなければなりません。学科6時間+実技6時間の12時間。緑の雇用ではフォレストワーカー3年目に置かれることが多い資格です。
2014年12月まで、この機械に運転資格はなかった
意外に思われるかもしれませんが、ハーベスタやプロセッサの運転には、長らく法律上の資格が要りませんでした。労働安全衛生法が想定していたのは機械集材装置と運材索道――つまり架線集材の設備だけで、林内を自走する高性能林業機械は規制の外にあったのです。
状況を変えたのは災害統計でした。厚生労働省の資料によれば、車両系木材伐出機械による休業4日以上の死傷災害は増加傾向にあり、しかも死亡など重篤な災害の割合が高かった。そこで平成26年(2014年)6月1日に労働安全衛生規則が改正され、伐木等機械・走行集材機械・架線集材機械をまとめた「車両系木材伐出機械」という枠組みが新設されます。前照灯・ヘッドガード・運転席の防護柵の設置、作業計画の作成、作業指揮者の選任といった措置が義務づけられました。
そして運転者への特別教育の義務は、半年遅れの平成26年12月1日から施行されました。準備期間を置いたわけです。したがって、それ以前から機械に乗っていたベテランも、12月1日以降に運転を続けるなら特別教育が必要になりました。
どの機械が「伐木等機械」なのか
安衛則第36条第6号の2は、伐木等機械をこう定義します。「伐木、造材又は原木若しくは薪炭材の集積を行うための機械であつて、動力を用い、かつ、不特定の場所に自走できるもの」。長い定義ですが、要は自走できる伐木・造材の機械です。
厚生労働省のリーフレットが例示しているのは、フェラーバンチャ、ハーベスタ、プロセッサ、グラップルソー、木材グラップル機。日本の現場では、油圧ショベルをベースマシンにしてハーベスタヘッドやグラップルを装着した機械が主流ですが、これも当然含まれます。
注意すべきは、ベースマシンが油圧ショベルの場合、伐木等機械の特別教育だけでは足りないことがある点です。同じ機械で作業道の開設や土工をするなら、車両系建設機械(整地・運搬・積込み用及び掘削用)運転技能講習が別に要ります。アタッチメントと作業内容で必要な資格が変わるので、現場で兼務させるなら両方を押さえておくのが安全です。なお、道路上を走行させる運転は除かれます(そちらは道路交通法の免許の話になります)。
12時間で何を学ぶのか
カリキュラムは安全衛生特別教育規程第8条の2で科目・範囲・時間が定められています。事業者が独自にアレンジできるのは順序だけで、内容と最低時間は全国共通です。
学科の中心は「伐木等機械の作業に関する知識」2時間。機械の構造よりも、作業方法に重きが置かれています。傾斜地での機体の据え方、伐倒方向の決め方、幹をつかんだまま旋回するときの重心移動――ここを誤ると転倒します。「運転に必要な一般的事項」1時間では力学と電気の基礎を扱い、「関係法令」1時間で改正安衛則の危険防止措置を確認します。
実技6時間のうち4時間が作業装置の操作です。定められた方法による伐木、造材、原木の集積。走行の操作は2時間しかありません。この配分は、この機械の危険が「走ること」ではなく「作業すること」にあるという認識を表しています。
登録教習機関では、すでに持っている資格に応じて時間を短縮したコースを設定しています。たとえば車両系建設機械運転技能講習の修了者は装置の構造や力学の科目が免除され、8〜10時間程度に収まることがあります。受講前に、自分の修了証を持って相談してください。
受講先と費用
実施しているのは、林業・木材製造業労働災害防止協会(林災防)の各都道府県支部、コベルコ教習所やキャタピラー教習所などの民間教習機関、都道府県の林業機械化推進センター、林業大学校などです。受講料は2〜4万円が目安で、テキスト代を含みます。
実技には実機が要るため、開催地と日程が限られます。とくに大型のハーベスタを保有している教習機関は多くありません。緑の雇用の研修に乗れば、県の支援センターが機械と日程を手配してくれるので、この点でも制度を使う価値があります。
なお、特別教育に有効期限はありません。一度修了すれば生涯有効です。ただし機械の世代交代は速く、ワンマンコントロールの操作系やICT搭載機の普及で、10年前の知識では追いつかない部分が増えています。安全衛生教育指針に基づく「危険有害業務従事者に対する定期教育」を、おおむね5年ごとに受けることが推奨されています。
この資格の位置づけ
伐木等機械の特別教育は、「機械化された林業」への入場券です。チェーンソーの特別教育で人力の伐木を覚え、走行集材機械で運搬を覚え、最後にこの資格で伐倒そのものを機械に載せ替える。緑の雇用が3年目にこれを置くのは、順番として理にかなっています。
そして機械化は、労働災害の構図も変えます。令和6年の林業の死亡災害31人のうち22人は伐木作業中でした。人が斧やチェーンソーを持って倒れてくる木の下に立たなくてよくなることは、それ自体が最大の安全対策です。資格を取ることと、死なずに定年を迎えることは、この業界では同じ意味を持ちます。

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