ストリゴラクトン:菌根菌誘引・植物枝分かれ抑制の多機能ホルモン

ストリゴラクトン | 森と所有 - Forest Eight

結論先出し

  • ストリゴラクトン(strigolactone, SL)は植物根が分泌するテルペノイド系シグナル分子。アーバスキュラー菌根菌(AM菌)誘引・植物枝分かれ抑制・寄生植物発芽誘導の三大機能を担う植物ホルモン。
  • 発見:1966年に綿の根滲出液からStriga発芽因子として単離、2008年にNature・Science誌で植物ホルモン認定(Gomez-Roldan, Umehara両グループ同時報告)。
  • 応用:アフリカStriga被害(年間穀物損失推計1兆円)対策・菌根接種・農薬・医薬探索。日本のCREST「ストリゴラクトン研究」(2014–2019, 8.5億円)が世界を主導。

ストリゴラクトン(SL)は、植物が根から微量分泌するカロテノイド由来の三環性ラクトン化合物で、植物ホルモンとして2008年に正式認定されました。AM菌根菌の菌糸分枝を促す共生シグナル、地上部の枝分かれを抑制する内生ホルモン、Striga・Orobanche等の根寄生植物の発芽を誘発する化学誘引物質という三つの相反する役割を一分子で担う点が特徴です。本稿では発見史、化学構造、生合成経路、機能、農業・林業応用、CRESTプロジェクト、関与企業、最新研究動向まで数値ベースで詳述します。

初発見1966Cook, 綿根滲出液ホルモン認定2008年(Nature/Science)同時2報Striga被害約1兆円/年(推計)サブサハラ穀物CREST総予算8.5億円(2014-2019)JST
図1:ストリゴラクトン研究の主要数値
目次

発見の歴史と植物ホルモン認定への道

ストリゴラクトン研究は半世紀以上の蓄積を経て、近年ようやく植物ホルモンとして体系化されました。主要な節目を時系列で整理します。

1. 1966年:初単離 A.W. Cook(米農務省)らが、綿(Gossypium hirsutum)根滲出液から寄生雑草Striga lutea種子の発芽誘導因子を単離。Strigaを語源に「strigol(ストリゴール)」と命名(J. Am. Chem. Soc., 1966)。

2. 1972年:化学構造決定 Cookらが続いてストリゴールの化学構造を確定。三環性ラクトン(ABC環)にメチルブテノライド(D環)がエノールエーテル結合する特異な骨格を提案。

3. 1980-90年代:類縁体拡大 ソルゴラクトン(Sorghum bicolorから)、オロバンコール(Trifolium pratenseから)、5-デオキシストリゴール、オロバンキル等が次々単離。植物界に広く分布する化合物群と判明。

4. 2005年:菌根菌誘引活性 Akiyamaら(大阪府大)が、AM菌根菌(Gigaspora margarita)の菌糸分枝を5-デオキシストリゴールが10⁻⁹ M(ナノモル)レベルで強力に誘導することをNature誌で報告。寄生雑草の発芽因子と菌根共生シグナルが同一物質と判明し、概念が大転換。

5. 2008年:植物ホルモン認定 Gomez-Roldanら(仏INRA)とUmeharaら(理研、当時)がNature・Science誌に同時掲載。SLが地上部の枝分かれを抑制する内生ホルモンと証明。エンドウmax/d変異体・イネd10変異体・シロイヌナズナmax2変異体の解析で、合成・受容両側を遺伝学的に同定。

6. 2010-2013年:受容体・伝達経路 D14受容体(α/βヒドロラーゼ型)・D3/MAX2 F-boxタンパク質・D53/SMXL抑制因子からなるシグナル経路を解明。受容体がリガンドを加水分解しながら認識する独特の機構が判明。

7. 2013-2018年:合成と農業応用 GR24(合成アゴニスト)が標準ツールとして普及。Toh, Zwanenburgらが構造活性相関を整理し、農業展開の基盤確立。

8. 2018-2024年:構造多様性と機能分化 カノニカル型(典型骨格)と非カノニカル型(カーラクトン酸エステル等)の二大系統が共存することが明確化。種ごとに数十種類の誘導体が報告される。

9. 主要研究者 山口信次郎(理研→京大化研、2008年Umehara論文の指導者)、秋山康紀(大阪府大→大阪公大)、土屋雄一朗(名大ITbM)、Catherine Beveridge(Queensland大)、Harro Bouwmeester(アムステルダム大)、Steven Smith(西オーストラリア大)が世界を牽引。

10. 賞・認知 山口信次郎は2014年日本学術振興会賞、2018年日本農芸化学会賞等を受賞。Bouwmeesterはオランダ王立芸術科学アカデミー会員。日本発の植物ホルモンとして国際的に認知。

出典・参考

化学構造・生合成経路

ストリゴラクトンの分子構造と生合成は、近年急速に解明が進みました。

1. 基本骨格 三環性ラクトン(A・B・C環)に、エノールエーテル結合でメチルブテノライド(D環)が連結する四環性化合物。分子量はストリゴール 346、5-デオキシストリゴール 330と中程度。

2. カノニカル型と非カノニカル型 ABC環すべてを持つカノニカル型(ストリゴール、オロバンコール、ソルゴラクトン等20種以上)と、ABC環の一部を欠くカーラクトン酸メチル(MeCLA)等の非カノニカル型に大別。シロイヌナズナはMeCLA系のみ生産。

3. 立体化学 D環のC2’位の立体配置(R/S)で活性が大きく変化。天然型は2’R配置が主。GR24は2’R体(GR24⁵ᴰˢ)と2’S体の混合物として市販。

4. 生合成出発物質 全trans-β-カロテン(C₄₀テルペノイド)から開始。プラスチド内で進行。

5. 鍵酵素1:D27 β-カロテン異性化酵素。9-cis-β-カロテンに変換。

6. 鍵酵素2:CCD7(MAX3) カロテノイド開裂酵素。9-cis-β-カロテンを9-cis-β-アポ-10′-カロテナールに開裂。

7. 鍵酵素3:CCD8(MAX4) 追加開裂と環化を担い、カーラクトン(CL, C₁₉H₂₆O₃)を生成。SL生合成の最初のSLライク中間体。

8. 鍵酵素4:MAX1(CYP711A) チトクロームP450。カーラクトンを酸化してカーラクトン酸(CLA)、さらにMeCLAやストリゴラクトン類へ変換。MAX1ファミリーの種特異性が誘導体多様性を生む。

9. 受容体D14 α/βヒドロラーゼ型受容体。リガンドのD環を加水分解しつつ共有結合形成、F-box D3/MAX2と複合体を作りSMXL/D53を分解標的化。

10. 制御因子 窒素・リン酸欠乏で生合成遺伝子(D27, MAX3, MAX4, MAX1)が一斉誘導。リン欠乏イネでは根のSL分泌が10〜100倍増加することがUmehara 2010で報告。

三大機能:菌根共生・枝分かれ抑制・寄生植物誘発

SLが「マスターホルモン」と呼ばれる所以は、進化的にも生態的にも対照的な三機能を一分子で担う点にあります。

1. AM菌根共生シグナル 約4億年前に陸上植物と共進化したAM菌は、宿主根からのSLを胞子発芽後に感知し菌糸を分枝させ宿主に到達。Akiyama 2005で5-デオキシストリゴールが10⁻⁹ Mで誘導活性を示すと実証。

2. 共生シグナル後段 菌側Myc因子(リポキトオリゴ糖)を経て植物側CCaMKシグナルを起動、共生器官アーバスキュール形成へ。SLは初動の鍵分子。

3. 枝分かれ抑制(地上部) 頂芽からのオーキシン下流で、SLが側芽休眠維持。max/d変異体は多分枝矮性。トマトSLCCD8抑制系統では地上部分枝が約2倍に増加(Vogel 2010等)。

4. 根構造制御 主根長・側根密度・根毛発達を調節。リン欠乏下で根毛伸長を促進し、土壌探索能を高める。

5. 寄生植物誘発(負の機能) Striga hermonthicaやOrobanche属の種子は宿主根近傍のSLを10⁻¹² M レベルで感知し発芽。寄生植物にとってSLは「宿主到達の指標」となる。Strigaは年間サブサハラ4000万ha以上を侵し、年間1兆円規模の穀物(モロコシ、トウジンビエ、トウモロコシ、コメ)損失をもたらす。

6. 葉老化制御 葉のクロロフィル分解・老化進行を促進。窒素再分配の制御因子。

7. 二次成長 形成層活性に関与し、樹木の肥大成長や木部分化に影響。

8. 乾燥応答 気孔閉鎖をABA経路と協調的に促進、乾燥耐性に寄与。max3/max4変異体は乾燥感受性。

9. 共生バクテリア・根圏生態系 根圏細菌の走化性応答、根粒菌共生にも間接関与。

10. 全身シグナル性 根→地上部の長距離輸送が確認され、栄養状態を全身に伝える「環境センサー」として機能。

SL分泌(根から)AM菌誘引10⁻⁹M で菌糸分枝共生形成シグナル枝分かれ抑制頂芽優位の維持D14受容体経由寄生植物発芽誘導Striga, Orobanche10⁻¹²M で発芽
図2:SL三大機能(菌根共生・枝分かれ抑制・寄生植物誘発)

農業応用:Striga対策と菌根利用

SL研究の最大の応用ターゲットは、サブサハラアフリカで深刻なStriga(魔女草)対策と、リン欠乏耕作地での菌根共生強化です。

1. Striga被害規模 影響面積はサブサハラ約4000万ha、3億人以上の小規模農家に直接影響。年間穀物損失推計は70億〜100億USドル(1兆円規模)。モロコシ・トウジンビエ・コメ・トウモロコシで深刻。

2. 自殺発芽戦略 Strigaを宿主不在で発芽させ枯死させる「suicidal germination」。SL類縁体MP3、Nijmegen-1、T-010等の合成アゴニストを散布する手法。Zwanenburg(オランダ)、Bouwmeesterら主導。

3. 抵抗性品種育種 SL分泌量の少ないコメ・モロコシ品種の育成。IRRI(国際稲研究所)、ICRISAT(国際半乾燥熱帯作物研究所)が品種改良を進行。SL生合成低減型イネ系統で実証圃場試験中。

4. 菌根接種剤 商業的AM菌資材(Glomus属)と組合せ、植物のリン吸収効率を平均20〜40%向上。SLは初動シグナルとして菌根確立を加速。

5. リン酸肥料削減 菌根活用で化学肥料投入を30%以上削減可能(FAO報告)。SL機構解明でこの効率がさらに向上。

6. 園芸・観賞 max-like変異やSL阻害剤TIS108等で枝分かれ制御し、ポインセチア・キクの草姿改善。

7. 穀物茎数制御 SLレベル調整でイネの分げつ数(茎数)を最適化、収量向上。中国・国際稲研究所で品種開発進行。

8. 乾燥耐性育種 SL/ABAクロストーク利用で乾燥耐性強化品種開発。

9. 生物農薬 SLアゴニスト・拮抗剤の生物農薬化。化学農薬と異なる作用機序が利点。

10. 規制状況 日本ではSL関連製品の農薬登録は限定的。EU・米国でも研究段階が中心。

樹木・林業研究

樹木へのSL研究は穀物に比べ進展が遅れていましたが、2015年以降に急速に展開しています。

1. 樹木種ごとの差 ポプラ・ユーカリ・松等で生合成遺伝子(CCD7/8、MAX1)が同定。樹種によりSL組成が大きく異なる。

2. 菌根接種苗(B19)への活用 ECM菌(外生菌根菌)はAM菌と異なる経路だが、SLが補助シグナルになる可能性が示唆。スギ・ヒノキ・マツ類の苗木接種研究で関連性検証中。

3. 樹形制御 果樹の側枝制御、用材樹の通直性向上にSL代謝改変品種の応用検討。

4. 萌芽抑制 切株からの萌芽(株立ち)にSLが関与。森林管理での操作可能性。

5. 根系発達 苗木の活着率向上にSL介入研究。

6. 乾燥応答 気候変動下の植林木耐乾性研究で重要シグナル。

7. ポプラCCD8変異 ポプラCCD8 RNAi系統で多分枝化、バイオマス増加が報告される一方、抗ストレス性低下のトレードオフあり。

8. アグロフォレストリー 樹木と作物の混栽でSL介在の根圏相互作用。Strigaリスクの逆効果も検証必要。

9. 都市緑化 街路樹・公園樹のコンパクト化、剪定省力化への応用候補。

10. 国内研究機関 森林総合研究所、京大農、北大農等で樹木SL研究が進展。

CRESTプロジェクトと産業連携

日本のSL研究を国際トップに押し上げた中核は、JST CREST「植物の生産性を制御するストリゴラクトン情報伝達」(2014–2019, 研究総括:山口信次郎)でした。

1. CREST概要 JST戦略的創造研究推進事業 CREST、領域「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用」。総予算約8.5億円、6課題、2014年10月〜2019年度。

2. 主要参画機関 京都大学化学研究所、理研CSRS、名大ITbM、東大、東北大、岡山大、農研機構等。

3. 成果1:受容体構造解析 D14受容体の結晶構造とリガンド加水分解機構を解明(Yao et al. 2016; Tal et al.)。共有結合性受容体という新概念を確立。

4. 成果2:蛍光プローブ「Yoshimulactone Green」 土屋雄一朗ら(名大ITbM)が、SL受容と同時に蛍光を発するプローブを開発(Tsuchiya et al., Science 2015)。Striga受容体ShHTLの動態を可視化。

5. 成果3:SPL14分解経路 DWARF53/SMXL系を介した転写抑制因子分解の全容を解明、イネ分げつ制御の分子設計を可能に。

6. 後継プロジェクト CREST「植物頑健性」(2017〜)、JST未来社会創造事業、ムーンショット型農林水産研究開発事業(2020〜)に展開。

7. 出光興産 出光は2010年代からSL関連事業を探索。Striga対策剤研究を国際機関と連携、ICRISAT・Toyota Tsushoとの共同農業実証等を実施。アフリカでのモロコシStriga抑制実証を進める。

8. 宇部興産(現UBE) ファインケミカル部門でSL誘導体の合成研究、農薬開発候補のスクリーニング協業。

9. 住友化学・クミアイ化学 SLアゴニスト・拮抗剤の独自スクリーニングを実施。クミアイは枝分かれ制御剤候補の特許出願あり。

10. 大学発ベンチャー 京大・名大の研究シーズを基盤にAgriculture Technology系スタートアップが複数設立。SL誘導体ライブラリの提供事業など。

研究の最新動向(2023–2026)

1. 構造多様性のデータベース化 既知SL誘導体は40種以上、植物種ごとのプロファイルがデータベース化。

2. 受容体の進化的多様性 寄生植物のShHTLファミリー(Striga 11種、Orobanche数種)が独自進化、宿主SLを高感度検出。

3. 構造ベース農薬設計 ShHTL構造を起点とした抗Striga剤設計が活発化。

4. AI・機械学習 SL受容体–リガンド相互作用の予測モデル、新規アゴニスト探索に応用。

5. 微生物代謝 根圏細菌・真菌がSLを代謝・修飾する報告増加、根圏ホロバイオント概念へ。

6. 気候変動応答 CO2上昇・乾燥下でのSL動態研究が進展。

7. ゲノム編集 CRISPR-Cas9でMAX1・CCD8等の改変による分げつ・耐乾性改変イネ・トマト系統が報告。

8. 国際協力 Strigアフリカ(Kelloggプログラム、BMGF助成)、欧州COST Action、日本ムーンショット8が連携。

9. 商業化動向 Strigaサスサイダル発芽資材は試験圃場段階。実用化は2030年前後と予測される。

10. 日本の国際貢献 山口・秋山・土屋らのグループは引き続き世界研究の中心。日本発SL研究は植物科学の象徴的成功例。

FAQ:よくある質問10項目

Q1. ストリゴラクトンは植物の根からどれくらい分泌される?

A. リン酸十分条件で根滲出液中濃度は10⁻¹⁰〜10⁻⁹ M、リン欠乏で10⁻⁸ M前後まで上昇。AM菌誘引には10⁻⁹ M、Striga発芽誘導には10⁻¹² Mで充分と微量で機能。

Q2. なぜ植物は寄生植物に発芽信号を送るのか?

A. SLは本来AM菌呼び寄せの「共生シグナル」。寄生植物はこの普遍シグナルを進化的に「盗聴」して宿主検出に利用するようになった。植物にとっては不本意な副作用。

Q3. 自殺発芽(suicidal germination)とは?

A. SLアゴニストを耕作前に圃場散布し、土壌中のStriga種子を宿主不在で発芽させて枯死させる戦略。種子バンクを枯渇させる長期対策。MP3、Nijmegen-1等の候補化合物が試験中。

Q4. CREST「ストリゴラクトン」プロジェクトの規模は?

A. JSTのCREST(2014–2019、総括:山口信次郎)として運営、総予算8.5億円規模、6研究課題、京大・理研・名大ITbM等の連携体制。受容体構造解明・蛍光プローブ・分げつ制御等の成果を挙げた。

Q5. 出光興産のStriga対策事業は?

A. 出光は2010年代後半からアフリカ・サブサハラでのStriga抑制ソリューションを国際協力機関・現地大学と共同開発。SLアゴニストではなくSL認識阻害(拮抗剤)方向の探索も含む。商業化はまだ研究実証段階。

Q6. 個人で関連製品を入手できる?

A. 研究用試薬としてGR24等が国内外試薬会社(Toronto Research Chemicals、Olchemim等)から購入可。農業資材としての商品化は限定的で、菌根接種剤は購入可能だがSL単体製剤は普及していない。

Q7. AM菌根菌との関係を一言で言うと?

A. 約4億年共進化してきた共生のキーワード分子。植物が「ここに宿主がいる」と発する化学呼び鈴。AM菌は10⁻⁹ Mで菌糸を分枝させ植物根に到達する。

Q8. 樹木・森林分野での実用化は?

A. 穀物に比べ研究蓄積が少なく、実用は限定的。スギ・ヒノキの菌根接種補助、ポプラの樹形制御、街路樹のコンパクト化等が研究段階。森林総研・京大農で樹木SL研究が進展中。

Q9. 気候変動とどう関係する?

A. SLは乾燥応答・栄養欠乏応答に関与する環境センサー。CO2上昇下でのSL動態変化、乾燥耐性育種、菌根活用による土壌健全化の3軸で気候変動対応の鍵分子と位置付けられる。

Q10. 日本のSL研究の国際的位置付けは?

A. 山口信次郎(京大化研)、秋山康紀(大阪公大)、土屋雄一朗(名大ITbM)らが世界をリード。2008年の植物ホルモン認定論文(Umehara et al., Nature)以降、日本発の概念・ツール・知見が国際標準となっており、植物科学における日本の最大級の貢献分野の一つ。

用語解説:押さえておきたい15キーワード

SLを巡る議論で頻出する専門用語を、初学者向けに整理します。

1. 植物ホルモン オーキシン・ジベレリン・サイトカイニン・ABA・エチレン・ブラシノステロイド・ジャスモン酸・SAに次ぐ「第9のホルモン」がSL。微量で多機能、長距離輸送が可能。

2. AM菌根(アーバスキュラー菌根) Glomeromycota門の菌類が植物根皮層細胞内に樹状体(arbuscule)を形成する内生菌根。陸上植物の70%以上が共生、リン・窒素吸収を補助。

3. ECM菌(外生菌根菌) マツ・ブナ・ナラ等の樹木と共生するハラタケ目・イグチ目等の担子菌。AM菌とは経路が異なるがSLの関与が示唆される。

4. カノニカル型SL ストリゴール・オロバンコール・ソルゴラクトン等、ABCD全環を保持する古典型誘導体群。

5. 非カノニカル型SL メチルカーラクトン酸(MeCLA)等、ABC環の一部を欠く新型。シロイヌナズナはこちらが主流。

6. カーラクトン(CL) CCD8により生成される最初のSL様中間体(C₁₉H₂₆O₃)。MAX1がさらに酸化変換する基質。

7. GR24 Zwanenburgらが合成した代表的SLアゴニスト。標準ツール化合物として世界で使用。

8. D14 被子植物のSL受容体。α/βヒドロラーゼ型でリガンドを加水分解しつつ認識する珍しい機構。

9. ShHTL Striga hermonthicaのSL受容体ファミリー(11種)。寄生戦略のため進化的に多様化。

10. MAX2/D3 F-boxタンパク質。D14と複合体を作り、抑制因子SMXL/D53のユビキチン化分解を導く。

11. SMXL/D53 SL応答の負の制御因子。受容後にプロテアソーム分解されることで下流遺伝子発現が解除。

12. 自殺発芽 Striga種子を宿主不在で発芽させ枯死させる戦略。圃場種子バンクの長期削減を目指す。

13. ホロバイオント 植物本体と共生微生物群を一個体として捉える概念。SLは中核シグナル。

14. CREST JST(科学技術振興機構)の戦略的創造研究推進事業の一形態。SL研究では2014–2019年に8.5億円規模の研究領域が運営された。

15. ムーンショット型農林水産研究開発事業 2020年度開始の内閣府主導大型プログラム。SL関連はムーンショット目標8(気候変動対策)でも参照される。

研究データの所在と参考リソース

SL研究を深掘りしたい読者向けに、主要文献・データベース・機関情報をまとめます。

1. 主要原著論文 Cook 1966(J. Am. Chem. Soc.)、Akiyama 2005(Nature)、Gomez-Roldan 2008(Nature)、Umehara 2008(Nature)、Tsuchiya 2015(Science)、Yao 2016(Nature)。

2. 総説(日本語) 化学と生物、植物の生長調節、日本農芸化学会誌、現代化学等で山口信次郎・秋山康紀らによる総説が多数。

3. 総説(英語) Annu. Rev. Plant Biol., Trends Plant Sci., Curr. Opin. Plant Biol.でSL関連総説が頻出。

4. 国際会議 International Symposium on Strigolactones(ISS)が隔年開催。第7回は2024年Kyoto開催実績。

5. データベース PubChem、ChEBI、KEGGにSL誘導体構造データ収載。Plant Hormone Database(理研CSRS)も参照可。

6. 主要ツール化合物 GR24(rac-GR24, GR24⁵ᴰˢ)、TIS108(合成阻害剤)、Yoshimulactone Green(蛍光プローブ)、MP3、Nijmegen-1。

7. 試薬入手 Toronto Research Chemicals(カナダ)、Olchemim(チェコ)、Strigolab(伊)等で研究用試薬として購入可能。

8. 国内研究拠点 京都大学化学研究所、理研CSRS、名古屋大学ITbM、大阪公立大学、森林総合研究所、農研機構、東京大学農学生命科学。

9. 海外研究拠点 Wageningen Univ.(オランダ)、Univ. of Queensland(豪)、INRA Versailles(仏)、ICRISAT(インド)、IRRI(フィリピン)、CIMMYT(メキシコ)。

10. 助成プログラム 日本:科研費・JST CREST・ムーンショット。国際:ビル&メリンダ・ゲイツ財団(BMGF, Striga抑制助成)、欧州COST Action、Horizon Europe。

まとめ

ストリゴラクトンは、1966年に寄生雑草の発芽因子として偶然発見された化合物が、半世紀の研究を経て植物ホルモン・菌根共生シグナル・寄生植物誘発因子という三役を担う「マスターホルモン」と判明した稀有な分子です。日本の研究者がCRESTを核に世界をリードし、農業(Striga対策・菌根活用・分げつ制御)、林業(樹形制御・耐乾性)、医薬探索、気候変動応答研究と、応用先が広がり続けています。出光興産・UBE等の企業連携、ICRISATやBMGFを介した国際協力により、サブサハラの食料安全保障に直結する社会実装フェーズに移行しつつあります。森と所有のフィールドにおいても、菌根接種苗(B19)研究や樹木の根圏管理にSL知見が活用される時代が間近に迫っています。

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