【ネズコ】Thuja standishii|茶室天井板の最高級材、木曽五木の軽量耐朽スペシャリスト

ネズコ(Thuja standishii)
気乾比重0.38(0.36〜0.42)軽軟曲げ強度45-55MPa中剛性別名クロベ・木曽五木国有林資源耐朽性★★★★天井板の名材
図:ネズコの主要スペック(代表値)

茶室の天井をそっと見上げると、淡い飴色の上品な板が静かに広がっている——その素材としてよく選ばれてきたのがネズコ(Thuja standishii、別名クロベ)です。ヒノキ・サワラ・ヒバといった有名な兄弟たちの陰に隠れがちですが、「軽くて、湿気に強くて、削りやすい」という絶妙なバランスで、伝統建築の天井板に欠かせない存在になってきました。木曽五木の一員でもあるこの木の、地味だけれど確かな魅力を紹介します。

目次

ネズコとクロベ、どっちが正しい?

どちらも同じ木の呼び名です。標準和名は「ネズコ」で、流通名・地域名として「クロベ」が広く使われます。木曽地方では「ネズコ」、奥秩父や関東では「クロベ」と呼ぶことが多い、というくらいの違い。ヒノキ科ですが、ヒノキ・サワラがヒノキ属なのに対し、ネズコはクロベ属という別グループです。本州中部〜四国の標高800〜1,800mほどの山地、とくに沢沿いの湿った場所を好み、純林を作ることは少なく、ヒノキやサワラに混じって生えています。

日本の山地に自生するネズコの木
本州の山地に自生するネズコ(左の常緑樹)。沢沿いの湿った場所を好み、純林は作らずヒノキやサワラに混じって生える。写真: (Thuja standishii and unidentified plants in Mount Karamatsu, Japan) – DPLA – 173363fac5f7cee61bf76fb8668325f8 by Carlquist, Sherwin John, 1930-2021 / CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

見分け方——「白い模様が薄い」のがネズコ

ヒノキ科の仲間は葉裏の白い気孔帯で見分けるのが基本ですが、ネズコは少し変わっています。

  • ネズコ:葉裏の白斑が薄くぼんやりしていて目立たない。これがかえって目印になります。
  • ヒノキ:はっきりしたY字。
  • サワラ:はっきりしたX字。

白斑が頼りにならない分、決め手になるのは球果(まつぼっくり)です。ネズコの球果は楕円形で長さ8〜10mm、鱗片が6〜8枚。サワラの小さな球形とは形が違います。樹皮は赤褐色で薄く縦に剥がれます。

ネズコの鱗片状の葉のクローズアップ
ネズコの枝葉。ヒノキ科らしい鱗片状の葉だが、葉裏の白斑は薄くぼんやりしていて、はっきりしたY字のヒノキ・X字のサワラとは対照的。写真: Thuja standishii (Japanese arborvitae) 3 by James St. John / CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(リサイズのみ・内容の改変なし)

天井板の名材になれる理由

ネズコの真価は、構造材ではなく天井板で発揮されます。天井板は柱や梁のような強さは要りませんが、別の難しさがあります。大きな一枚板が撓まない軽さ、反りや割れを起こさない寸法安定性、そして茶室の格にふさわしい上品な木目と色。ネズコはこれらを高い水準で満たします。気乾比重0.38ほどと軽く、年輪幅0.5〜1.5mmの緻密で均質な木目をもち、淡褐色〜淡赤褐色の落ち着いた色合いが時とともに渋い飴色に育っていきます。

天井板は年輪が長手方向に並ぶよう柾目取りするのが原則で、これで湿度変化による反りや割れを最小限に抑え、数十年〜数百年にわたって美しさを保てます。茶室の侘び寂び、書院造の格天井、寺社の本堂——ネズコはこうした日本建築の「天井の品格」を静かに支えてきました。軽くて削りやすい性質は、仏像や装飾彫刻の木彫材、押入板や建具にも生きています。

ネズコと主要針葉樹の力学特性プロファイル気乾比重曲げ強度圧縮強度せん断強度耐朽性ヤング率ネズコスギヒノキスギを基準とした相対値(外側ほど高性能)
図:ネズコとスギ・ヒノキの力学特性比較
項目 ネズコ サワラ ヒノキ
気乾比重 0.36〜0.42 0.34〜0.40 0.40〜0.45
曲げ強度(MPa) 45〜55 50〜60 70〜80
耐朽性 中〜高

表からわかるように、ネズコはサワラより腐りにくく、ヒノキより軽いという中間ポジション。この「軽量耐朽材」というニッチが、天井板や内装材にぴたりとはまるわけです。

木曽五木と「停止木(ちょうじぼく)」

ネズコは、サワラやヒノキと並ぶ木曽五木の一員です。江戸時代、木曽を治めた尾張藩は森林資源の枯渇を受けて、1708年(宝永5年)にヒノキ・サワラ・アスナロ・コウヤマキの4樹種を「停止木」として伐採を禁じ、1728年(享保13年)にネズコを加えて五木としました。「木一本、首一つ」と言われるほど厳しい罰則で、それだけ貴重な戦略物資だったのです。この制度のおかげで木曽の森は守られ、上松町の赤沢自然休養林(約760ha)などに今も残る天然林の基盤となりました。木曽五木の保全は、日本の森林文化を語るうえで欠かせない事例です。

北米の親戚「ベイスギ」との関係

ネズコと同じクロベ属には、北米産のベイスギ(Thuja plicata、ウェスタンレッドシダー)がいます。住宅の外壁材やウッドデッキ材として日本でもおなじみの輸入材です。性質は似ていますが、ベイスギのほうがさらに軽くて低剛性。輸入量・流通量とも、希少な国産ネズコとは比較にならない規模です。とはいえ用途も流通も異なるため、両者は競合というより補完関係。国産ネズコは、無節・柾目・樹齢証明付きの最高級材として、茶室・寺社の修復需要に特化することで独自の価値を保っています。

よくある質問

Q. ネズコとクロベは同じ木?

はい、同じ木の別名です。標準和名が「ネズコ」、地域名・流通名で「クロベ」が使われます。

Q. ヒノキ・サワラとの違いは?

属が違い、ネズコはクロベ属です。葉裏の白斑がネズコは薄くて目立たないのに対し、ヒノキはY字、サワラはX字ではっきりしています。耐朽性はサワラより高くヒノキ並み、軽さはサワラに次ぐ位置づけです。

Q. 住宅の構造材に使える?

使えますが、強度・剛性がヒノキやスギより低いため、柱・梁より内装材や天井板、羽目板向きです。耐朽性が中〜高なので軒裏や屋根下地にも適します。

Q. 木曽五木のネズコはどこで見られる?

長野県木曽地方(赤沢自然休養林、奈良井・上松周辺)や岐阜県飛騨地方の国有林などで観察できます。

おわりに

ネズコは、強さや香りで主役を張るタイプの木ではありません。けれど「軽くて、湿気に強くて、削りやすい」という三拍子で、茶室の天井という日本建築の繊細な部分を静かに受け持ってきました。木曽五木として300年近く守られてきた歴史も、その価値の証です。次に和室の天井を見上げる機会があれば、この控えめな名材のことを少し思い出してみてください。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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