林業労働災害|死傷年千人率22.8・全産業の約10倍

林業は日本一危険な仕事

日本のあらゆる産業のなかで、林業は群を抜いて危険な仕事です。労働災害の発生率を示す「死傷年千人率」は令和5年(2023年)で22.8。全産業平均2.4の約10倍で、全産業でもっとも高い水準です。なぜここまで突出するのか、どんな事故が多いのか、そして本当に減らせるのか——数字で見ていきます。

目次

千人率22.8とは、どれくらい危険なのか

死傷年千人率22.8とは、働く人1,000人のうち年間22.8人が、休業4日以上の労働災害に遭うという意味です。林業就業者は約4.4万人ですから、毎年1,000人前後が休業災害に遭っている計算になります。これは「たまたま事故が多い年」の話ではなく、林業現場のいわば標準的なリスクレベルです。

業種別死傷年千人率の比較 林業・水運業・陸上貨物運送・建設業・製造業・全産業の死傷年千人率を棒グラフで比較 業種別 死傷年千人率(令和5年) 林業 22.8 陸上貨物運送 9.0 建設業 4.4 製造業 2.7 全産業平均 2.4 林業は全産業平均の約10倍、建設業の約5倍のリスク水準。
図1:業種別 死傷年千人率(休業4日以上)の比較。令和5(2023)年。出典:林業・木材製造業労働災害防止協会「産業別死傷年千人率」(厚生労働省「労働者死傷病報告」等より作成)

この高さの裏には、急傾斜地での作業、立木を倒すという物理的な危険、チェーンソーや重機の高いエネルギー、読みにくい天候と地形、そして少人数作業が多いこと——これらが重なっています。いずれも技術や教育だけでは消しきれない、林業に構造的に組み込まれたリスクです。

何で命を落とすのか:かかり木が最大の難所

林野庁によると、林業の死亡災害の約7割が伐木作業中に起きています。とくに多いのが「かかり木」がらみの事故です。伐り倒した木が隣の立木に引っかかり、宙ぶらりんのまま止まってしまう状態。いつ落ちるか予測できないのに、処理する人は「なんとか地面に下ろそう」とつい近づいてしまいます。別の木を倒して外そうとして連鎖事故を起こす、ロープで引いた瞬間に崩れて身体を直撃する——労働安全衛生規則はこうした危険な手段を禁じていますが、急場の判断ミスで死亡事故が起き続けているのが現実です。

伐木以外では、急傾斜地での転落・滑落、チェーンソーによる切創(大腿部・足部が多い)、フォワーダやグラップルなど機械の操作中の事故、玉切りした丸太の転がり——といった型が続きます。2018〜2022年の5年間で、林業の死亡者は158人にのぼりました(年およそ32人)。

事故に遭うのは、経験の浅い人と高齢者

白書は、死亡災害の傾向として二つの層を挙げています。ひとつは経験年数の少ない従事者。かかり木処理の判断ミスやチェーンソーの不慣れが背景にあります。もうひとつは高齢者です。林業就業者そのものの高齢化を映してもいますが、加齢による反射神経や筋力の衰えが事故リスクを押し上げている面もあります。だから安全教育も一律ではなく、経験と年齢に応じて設計する必要があるわけです。

小さな現場ほど危ない

もうひとつ見逃せないのが、事業体の規模による差です。安全管理体制、教育の頻度、機械化投資、安全衛生委員会の設置——大きい事業体ほどこれらが整っているため、小規模な現場ほど災害率が高くなる傾向がはっきり出ています。日本の林業事業体の多くは10人未満の小規模で、最も危険な規模に最も多くの事業体がぶら下がっている、という構造が業界全体の災害率を押し上げています。

機械化が安全対策の本丸

「林業だから仕方ない」のでしょうか。答えのヒントは機械化にあります。ハーベスタやフォワーダを使う車両系の作業システムでは、伐倒も搬出もほぼ運転席のなかでの作業になり、作業員が立木に身体を触れる場面そのものが減ります。実際、機械化が進んだ事業体ほど災害率が低い傾向が出ています。

北欧の林業国はハーベスタ・フォワーダの導入がほぼ全面的で、労働災害率も日本よりはるかに低い水準です。日本で同じ水準に近づけるには、路網整備(日本の林道密度は平均で20m/ha台、ドイツは100m/ha規模)と急傾斜地用機械の普及が前提で、長期の投資が要ります。逆にいえば、進むべき道筋ははっきりしている。機械化と路網整備こそが、安全対策の本丸なのです。

減ってはいる。でも、まだ遠い

救いもあります。林業の労働災害件数は2000年以降、半分以下に減りました。安全衛生規則の強化、チェーンソー作業の特別教育、防護衣やフルハーネスの普及、そして機械化による危険作業の置き換え——これらが効いています。2019年8月からは、チェーンソーで伐木等の作業を行う際の下肢の切創防護具(防護ズボン・チャップス等)の着用が義務化されました。

ただし、千人率(就業者あたりのリスク)の改善幅は限定的です。件数が減ったのは、就業者数そのものが縮んで分母が小さくなった面も大きい。一人ひとりが背負うリスクは、依然として高いままです。山間部では救急搬送に時間がかかり、急峻地では現場到達まで長時間を要することもあるため、現場での止血や心肺蘇生といった応急処置スキル、ドクターヘリの活用が救命率を直接左右します。

林野庁は、令和3年(2021年)を起点に10年を目途として、死傷年千人率を半減させる目標を掲げています。機械化の推進、経験・年齢別の安全教育、複数人作業の徹底、応急処置体制の整備。労働災害の多さは、若者が林業を敬遠する大きな理由でもあります。安全を高めることは、そのまま担い手を呼び込むことにつながる——林業の安全対策は、産業そのものの未来を握っているのです。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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