日本の木材輸出が、この10年で驚くほど伸びたのをご存じでしょうか。2013年に約123億円だった輸出額は、2022年には過去最高の654億円へ。じつに5.3倍の拡大です。2023年は621億円とやや調整したものの、500〜650億円規模で推移しています。林野庁は2025年に1,000億円、2030年代には2,000億円規模を視野に入れた目標を掲げています。
では、何がこの伸びを支えたのか。どんな木材が、どこの国へ、どの港から運ばれているのか。そして「丸太に偏りすぎている」という構造的な弱さをどう乗り越えようとしているのか——数字をたどりながら見ていきましょう。

10年で5.3倍——何が押し上げたのか
輸出額の伸びは、いくつかの追い風が重なった結果でした。為替は2013年の1ドル100円水準から2022年には150円水準へと円安が進み、ドル建ての価格競争力が3〜4割改善。中国の住宅市場では足場・型枠・梱包用の安価な丸太需要が高まり、日本産スギの追い風になりました。そこに、戦後に植えたスギ人工林がちょうど主伐期(45〜60年生)を迎え、供給を増やせたことや、林野庁・地方自治体の輸出支援策が加わって、ほぼ毎年2桁成長を続けたのです。
2014〜2017年の急伸はスギ丸太の中国向け積み出し拡大が主役、2020〜2022年の再加速は米国向けのCLT・集成材輸出が牽引しました。2023年にやや調整が入ったのは、中国の不動産市場の減速や米国の住宅着工の鈍化、コンテナ運賃の調整が重なったため。とはいえ、住宅・家具・脱炭素マテリアルなどの需要から、中期的には再び拡大基調に戻るとの見方が業界では共有されています。
輸出されているのは何か
品目の構成を金額で見ると、丸太が約45%、製材が約25%、合板が約15%、残り15%が木製建具やLVL、チップなど。注目したいのは、数量で見ると丸太の比重がさらに高くなり、全体の7割以上を占める点です。丸太は単価が低い分、量が大きい。つまり、製材や合板に加工して付加価値を生む工程が、相手国側に流れてしまっているのです。
丸太の中心はスギで、その約8割を占めます。九州や中部の港から中国・韓国へ運ばれ、建設用の足場・型枠・梱包材として使われます。価格は1m³あたり1万5,000〜3万円ほど。一方、近年とりわけ元気がいいのが米国向けの製材です。集成材やCLT(直交集成板)といった高付加価値製品が中心で、米国向け集成材の輸出額は2020年の約30億円から2023年には約95億円へと、3年で3倍以上に伸びました。ポートランドやシアトル、ニューヨークの中層木造建築で日本産集成材が採用される例が増えているのです。合板は韓国・台湾・フィリピン向けが中心で、家具や建材として年間20万m³ほどが安定的に流れています。
相手国は中国に大きく傾く
輸出先を見ると、中国が約45%と突出しています。続いて韓国15%、台湾10%、米国8%、フィリピン5%という顔ぶれ。中国は丸太輸出の約7割を占める最大の相手国で、それだけに輸出全体への影響が大きく、同時に「一国偏重リスク」としても意識されています。
| 相手国 | シェア | 主な品目 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 約45% | 丸太・製材 | 建設用足場・型枠・梱包・家具 |
| 韓国 | 約15% | 製材・合板・建具 | DIY・住宅建材・家具 |
| 台湾 | 約10% | 製材・建具・LVL | 住宅構造材・寺社建築 |
| 米国 | 約8% | 集成材・CLT・建具 | マスティンバー・高級住宅 |
| フィリピン | 約5% | 合板・木製品 | 家具・建材 |
| ベトナム | 約4% | 家具材料・チップ | 家具製造OEM・パルプ原料 |
| タイ・他 | 約13% | 多品目 | 家具・包装等 |
面白いのは、相手国によって「加工度」がまるで違うことです。中国向けは丸太集中で単価が低い——中国国内に製材・加工インフラが揃っているので、原料の丸太のまま輸入するのが経済合理的なのです。韓国・台湾向けは住宅・DIY・建具向けの中位加工品が中心で単価は中国向けの2〜3倍。米国向けは集成材・CLTという高付加価値品が中心で、単価は中国向け丸太の4〜5倍にもなります。
九州の港が握る7割
木材輸出を語るうえで外せないのが、港の偏りです。志布志港(鹿児島)、博多港(福岡)、伊万里港(佐賀)、細島港(宮崎)、八代港(熊本)——この九州5港だけで、輸出量のおよそ75%を占めます。九州が国産スギの一大産地であることに加え、中国・韓国向け航路の地理的な近さが効いています。
なかでも志布志港は丸太輸出量で日本最大。中国・韓国・台湾・東南アジア各港への国際フィーダー航路が週に複数便就航しており、コンテナ単位の輸出オペレーションが回しやすいのが強みです。博多港・伊万里港は製材・建具・LVLといった高付加価値品の比重が高め。北海道の釧路港や秋田港、敦賀港は、道産のカラマツ・トドマツや本州産材の輸出拠点として役割を担っています。
「丸太のまま」から「加工品」へ
こうして見えてくるのが、日本の木材輸出が抱える3つの宿題です。一つは丸太偏重と単価の低さ。丸太は1m³あたり2万円ほどですが、製材なら5万5,000円、集成材・CLTなら8〜10万円と、加工度を上げるほど単価は2〜5倍になります。二つ目は中国偏重で、不動産市場の動向や人民元レートが輸出全体を直撃するリスク。三つ目は円安への依存度の高さで、円高に振れれば競争力が揺らぎます。
仮に、いまの丸太輸出のうち30万m³を集成材へ転換できたとしたら——歩留まりを考慮しても、年間500〜800億円規模の輸出額の上積みが見込める計算です。しかも製材・集成材の付加価値は、その大半が国内の地域に還元されます。地方経済への波及や雇用の創出という点でも、丸太から加工品への転換は理にかなっています。米国・カナダで広がるマスティンバー(中大規模木造建築)、東南アジア新興国の高級住宅需要、中東の脱炭素志向の建築、ESG投資のもとでの木造評価の高まり——こうした新しい需要は、いずれも高単価品目へのシフトを後押しするものです。
2030年代に2,000億円という目標を実現するには、丸太から製材・集成材・CLTへの構造転換、相手国の多角化、そして地域材ブランドの国際的な認知度向上、この3つを同時に進める必要があります。林業・製材業・商社・住宅メーカーがどれだけ足並みを揃えられるか。日本の森が生んだ木材が、世界の街並みの一部になっていく——その未来は、ここからの数年の動きにかかっています。

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