日本の木材輸出が、この10年ほどで大きく伸びたのをご存じでしょうか。2013年に約123億円だった輸出額は、2021年に約475億円、2022年に約527億円へ。2023年は約505億円とやや調整したものの、2024年は約538億円、2025年は約596億円と過去最高を更新しました。10年あまりでおよそ4〜5倍の規模になった計算です。林野庁は、輸出額のさらなる拡大を政策目標に掲げています。
では、何がこの伸びを支えたのか。どんな木材が、どこの国へ、どの港から運ばれているのか。そして「丸太に偏りすぎている」という構造的な弱さをどう乗り越えようとしているのか——数字をたどりながら見ていきましょう。

10年あまりで約4〜5倍——何が押し上げたのか
輸出額の伸びは、いくつかの追い風が重なった結果でした。為替は2013年の1ドル100円前後から2022年以降は140〜150円台へと円安が進み、ドル建ての価格競争力が改善。中国の建設現場では足場・型枠・梱包用の安価な丸太需要が高まり、日本産スギの追い風になりました。そこに、戦後に植えたスギ人工林がちょうど主伐期(おおむね50年生前後)を迎え、供給を増やせたことや、林野庁・地方自治体の輸出支援策が加わって、おおむね右肩上がりを続けたのです。
2014〜2017年の急伸はスギ丸太の中国向け積み出し拡大が主役、2020年代に入ってからの再加速は、米国・フィリピン向けの製材・合板の伸びが加わったものです。2023年にやや調整が入ったのは、中国の不動産市場の減速や海上運賃の変動が重なったため。とはいえ、住宅・家具・脱炭素マテリアルなどの需要から、中期的には拡大基調が続くとの見方が業界では共有されています。
輸出されているのは何か
2025年の品目構成を金額で見ると、丸太が約5割(約299億円)、製材が約18%(約109億円)、合板が約14%(約86億円)で、この3品目で8割強を占めます。残りが木製建具やLVL、木製品などです。注目したいのは、数量で見ると丸太の比重がさらに高くなる点。丸太は単価が低い分、量が大きい。つまり、製材や合板に加工して付加価値を生む工程が、相手国側に流れてしまっているのです。
丸太の中心はスギで、大半を占めます。九州などの港から中国・韓国へ運ばれ、建設用の足場・型枠・梱包材として使われます。中国向け丸太は輸出丸太の約9割にのぼります。一方、近年伸びているのが米国・フィリピン向けです。米国向けは製材(フェンス材や造作材など)が中心で、フィリピン向けは合板が輸出合板のおよそ9割を占めます。集成材やCLTといった高付加価値品の輸出はまだ限られており、そこをどう増やすかが今後の焦点です。
相手国は中国に大きく傾く
2025年の輸出先を見ると、中国が約53%(約315億円)と突出しています。続いてフィリピンが約19%(約114億円)、米国が約12%(約69億円)、そして韓国・台湾。上位3か国で8割を超えます。中国は丸太輸出の大半を占める最大の相手国で、それだけに輸出全体への影響が大きく、同時に「一国偏重リスク」としても意識されています。
| 相手国 | 2025年 金額(概数) | 主な品目 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 約315億円(約53%) | 丸太が中心 | 建設用の足場・型枠・梱包 |
| フィリピン | 約114億円(約19%) | 合板が中心 | 建材・家具 |
| 米国 | 約69億円(約12%) | 製材が中心 | フェンス材・造作材ほか |
| 韓国 | 約31億円 | 製材・建具 | DIY・住宅建材 |
| 台湾 | 約23億円 | 製材・建具・LVL | 住宅・寺社建築 |
面白いのは、相手国によって「加工度」がまるで違うことです。中国向けは丸太集中で単価が低い——中国国内に製材・加工インフラが揃っているので、原料の丸太のまま輸入するのが経済合理的なのです。フィリピン向けは合板、米国向けは製材と、相手国ごとに求められる形が分かれます。加工度を上げるほど1m³あたりの単価は上がりますが、中国向けの丸太が量として大きいため、金額全体では丸太が半分を占める構図が続いています。
九州の港が握る7割
木材輸出を語るうえで外せないのが、港の偏りです。志布志港(鹿児島)、博多港(福岡)、伊万里港(佐賀)、細島港(宮崎)、八代港(熊本)——この九州5港だけで、輸出量のおよそ75%を占めます。九州が国産スギの一大産地であることに加え、中国・韓国向け航路の地理的な近さが効いています。
なかでも志布志港は丸太輸出量で日本最大。中国・韓国・台湾・東南アジア各港への国際フィーダー航路が週に複数便就航しており、コンテナ単位の輸出オペレーションが回しやすいのが強みです。博多港・伊万里港は製材・建具・LVLといった高付加価値品の比重が高め。北海道の釧路港や秋田港、敦賀港は、道産のカラマツ・トドマツや本州産材の輸出拠点として役割を担っています。
「丸太のまま」から「加工品」へ
こうして見えてくるのが、日本の木材輸出が抱える3つの宿題です。一つは丸太偏重と単価の低さ。丸太より製材、製材より集成材・CLTと、加工度を上げるほど1m³あたりの単価は数倍になります。二つ目は中国偏重で、不動産市場の動向や為替が輸出全体を直撃するリスク。三つ目は円安への依存度の高さで、円高に振れれば競争力が揺らぎます。
丸太の一部でも製材・集成材へ転換できれば、輸出額の上積みが見込めるうえ、その付加価値の大半は国内の地域に還元されます。地方経済への波及や雇用の創出という点でも、丸太から加工品への転換は理にかなっています。米国・カナダで広がるマスティンバー(中大規模木造建築)、東南アジア新興国の住宅需要、脱炭素志向の建築、ESG投資のもとでの木造評価の高まり——こうした新しい需要は、いずれも高単価品目へのシフトを後押しするものです。
輸出額の目標を実現するには、丸太から製材・集成材・CLTへの構造転換、相手国の多角化、そして地域材ブランドの国際的な認知度向上、この3つを同時に進める必要があります。林業・製材業・商社・住宅メーカーがどれだけ足並みを揃えられるか。日本の森が生んだ木材が、世界の街並みの一部になっていく——その未来は、ここからの数年の動きにかかっています。
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