「木を燃やして発電する」と聞くと国産材を思い浮かべるかもしれませんが、実際に日本のバイオマス発電を支えているのは、その大半が輸入燃料です。2023年の木質バイオマス輸入は、木質ペレットが約500万t、PKS(パーム椰子殻、Palm Kernel Shell)が約400万t、合わせて約900万t。2014年と比べると、わずか10年で約20倍に膨れ上がりました。
背景にあるのはFIT制度(再生可能エネルギー固定価格買取制度)です。発電した電気を一定価格で買い取ってもらえる仕組みのおかげでバイオマス発電所が一気に増え、その燃料として安価な輸入バイオマスが選ばれてきました。市場規模はいまや年間およそ1兆円。この記事では、財務省貿易統計と資源エネルギー庁のデータをもとに、ペレットとPKSがどこから来て、どんな構造で使われているのかを整理します。
ペレット500万t、ベトナムが半分近く
木質ペレットは木屑や端材を圧縮成形した粒状の燃料です。含水率10%未満、発熱量は約4,500 kcal/kgで、石炭の代わりに大型バイオマス発電所で燃やされます。日本の輸入は2014年の約20万tから2023年の500万tへと25倍に急増。内訳はベトナム225万t、カナダ110万t、米国65万t、インドネシア40万t、マレーシア30万t、その他30万tで、アジアと北米の2極構造です。
ベトナム産が急拡大したのは2018年以降。日本でFIT制度のもとバイオマス発電所の建設が進むと、安くて大量に供給できるベトナム産が選ばれました。原料は植林ゴムの廃材やアカシア人工林の端材で、ベトナムはいまや米国に次ぐ世界第2位のペレット輸出国です。カナダ産はブリティッシュコロンビア州の針葉樹端材、米国産は南部諸州の植林端材が中心。これらは英国などの欧州市場にも大量供給されているため、日本と欧州の調達競合が燃料価格や調達リスクに影響します。
PKS400万t、熱帯プランテーションの副産物
PKS(パーム椰子殻)は、パーム油を搾ったあとに残る殻です。固いリグニン構造を持ち、発熱量は約3,800〜4,500 kcal/kg。取扱いはペレットよりやや難しいものの、価格がペレットの3分の2程度と安いため、発電所の主力燃料として重宝されています。日本の輸入は2023年で約400万t、インドネシア240万t、マレーシア150万tと、この2カ国だけで95%超を占めます。
PKSには持続可能性という課題がついて回ります。パーム油生産は熱帯雨林の伐採や泥炭地の破壊につながると国際的に批判されており、その副産物であるPKSにも「ちゃんと持続可能なパーム油由来か」の証明が求められます。RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)やISCC(国際持続可能性炭素認証)の取得が、FIT認定発電所での採用条件として広がりつつあり、未認証のPKSは調達しにくくなってきています。EUの森林破壊規制(EUDR)の影響もあり、調達コストとリスクは構造的に上がる方向です。
すべてはFIT制度の買取価格で決まる
FIT制度は2012年7月に始まった、再エネ電力を電力会社が一定価格・一定期間で買い取る仕組みです。バイオマス発電は燃料の種類や出力規模で区分が分かれ、買取価格が変わります。輸入バイオマスは主に「一般木材等」区分で、2024年度の新規認定は24円/kWh(20年間)です。
| FITバイオマス区分 | 主な燃料 | 2024年度買取価格 |
|---|---|---|
| 未利用木材(〜2,000kW) | 国産未利用材 | 40円/kWh |
| 未利用木材(2,000kW超) | 国産未利用材 | 32円/kWh |
| 一般木材等(10,000kW未満) | 輸入ペレット・PKS等 | 24円/kWh |
| 一般木材等(10,000kW以上) | 輸入ペレット・PKS等 | 入札制 |
| 建設資材廃棄物 | 建廃木材 | 13円/kWh |
この価格差が、燃料の調達構造をそのまま決めています。国産未利用材区分(40円/kWh)は林業活性化を狙った高めの価格ですが、燃料の調達量が確保しにくく、小規模発電所が中心。一方、大規模発電所が使う一般木材等区分(24円/kWh)では、安く大量に手に入る輸入ペレット・PKSが燃料の主軸になります。結果として、FIT認定発電所全体での国産バイオマス自給率は10%以下にとどまっています。
なお、FIT認定容量は約800万kWありますが、実際に稼働しているのは約450万kW(2023年時点)。残りは認定済みでも、燃料調達のめどや建設費高騰で稼働が遅れているケースが少なくありません。
持続可能性の確認は3段構え
FIT認定発電所が燃料を調達するときは、3つの仕組みで「使ってよい燃料か」を確認します。1つ目は合法性確認(伐採届やFSC・PEFC認証など)、2つ目は持続可能性証明(ペレットはFSC・PEFC、PKSはRSPO・ISCC)、3つ目はライフサイクルGHG排出量基準です。3つ目は2022年に導入されたもので、輸送・製造段階まで含めた発電の温室効果ガス排出が一定基準以下であることを求めます。
議論されている基準は、ペレット・PKSともに石炭比70%削減という水準。これらの要件が燃料調達契約に組み込まれることで、認証コストやGHG計算コストが上乗せされ、発電所の採算を圧迫する面もあります。それでも認証取得は、調達リスク管理やESG投資対応、将来の規制対応の観点で避けて通れず、コスト負担を上回るメリットがあると評価されています。
主要発電所と燃料調達
代表的な発電所には、北海道の苫小牧バイオマス発電(112MW、PKS主体)、福岡県の豊前バイオマス発電(112MW、ペレット主体)、宮城県の仙台パワーステーション(112MW、PKS・ペレット)などがあります。中部電力・JERA・三菱商事・住友商事・伊藤忠商事といった大手商社・電力会社が長期の燃料調達契約を結び、安定供給体制を組んでいます。
112MW級の発電所だと年間40〜60万tの燃料を消費するため、2〜4万t積みの専用バルク船が年に10〜15隻入港する計算になります。荷役のための専用バース・サイロ・ベルトコンベアなどの港湾インフラは発電所建設と一体で整備され、初期投資は数十〜数百億円規模。海上輸送は天候や港湾混雑、地政学リスクで遅れることもあるため、複数国・複数サプライヤーからの分散調達や現地中継ターミナルの活用といった調達戦略の高度化が進んでいます。
国産材との競合という宿題
FIT制度の大きな政策課題が、輸入バイオマスと国産未利用材の競合です。国産材を使う「未利用木材」区分は買取価格が高く設定されているものの、集材や運搬のコストが高く、ha単位の収集効率も低いため、大規模発電所の燃料供給には向きません。だからこそ大規模需要は輸入に流れ、国産の自給率は1割を切ったままなのです。
これを変えるには、路網整備や収集運搬の効率化による国産材の調達コスト削減、中規模(5,000〜10,000kW)発電所への優遇、地域熱供給やコージェネレーション(電熱併給)への展開などが鍵になります。森林環境譲与税や森林経営管理法による森林整備の加速、林業経営体の集約化も、燃料供給力を底上げする政策軸です。ただ、現状の自給率10%以下から30〜50%まで引き上げるには、10〜20年単位の時間がかかると見られています。林野庁・経産省・環境省の3省庁が連携し、国産材活用とエネルギー政策の整合性を高める方向で動いています。
よくある質問
なぜ国産でなく輸入バイオマスなのですか?
理由は3つあります。輸入燃料のほうが単価が安いこと、大規模・安定的な供給量を確保しやすいこと、そしてFIT一般木材等区分(24円/kWh)の発電所では国産材主体だと採算が取りにくいことです。国産材は集材・運搬コストが高く、大規模発電の燃料供給には構造的に向きません。
バイオマス発電に本当にCO2削減効果はありますか?
燃焼で出るCO2は、樹木が成長過程で吸収したCO2と相殺されるため、ライフサイクルで見れば石炭比70〜90%の削減効果があるとされます。ただし輸送・製造段階のGHG排出を含めると削減効果は目減りします。これがFIT制度のGHG基準(70%削減など)の根拠であり、持続可能性認証が重視される理由でもあります。
家庭でもペレットは使えますか?
使えます。家庭用ペレットストーブ・ボイラーは北海道・東北・北陸など寒冷地を中心に普及しています。機器は1台30〜80万円、年間消費量は家庭規模で1〜3t、燃料費は灯油と同等〜やや割安。地域材活用の観点から、自治体が10〜20万円程度の補助金を設けている例も多くあります。

コメント