流木災害|山地崩壊と河川インフラ被害

流木災害 | Forest Eight

豪雨のあと、川にびっしりと折り重なった大量の流木――近年の水害のニュースで、すっかりおなじみの光景になってしまいました。2018年の西日本豪雨では推計約30万m³もの流木が川や海に流れ出し、橋を壊し、川をせき止め、港の機能まで奪いました。流木は単なる「木のごみ」ではありません。氾濫を増幅させ、被害額を膨らませる、災害の増幅装置です。なぜこれほどの流木が出るのか、どんな被害を生み、どう防ぐのか。その正体に迫ります。

目次

流木はこうして生まれる

流木は、山腹崩壊・土石流・渓岸侵食・倒木という4つの経路から発生します。大雨で山の斜面が崩れると、立っていた木が根こそぎ引き抜かれ、土砂と混ざって「土石流」となって渓流を流れ下る。その途中で両岸の木をさらに巻き込み、流木の量は雪だるま式に増えていきます。やがて本流に達した流木は、橋脚にぶつかり、橋桁に引っかかり、川をふさぐ。下の図が、その一連の流れです。

流木発生から下流被害までのプロセス 山腹崩壊から橋梁被害までのプロセスフロー 流木災害の発生プロセス 山腹崩壊 立木+土砂 渓流流下 土石流化 渓岸侵食 追加倒木 本流到達 流木累積 橋脚衝突 河道閉塞 各段階の典型値(西日本豪雨ベース) ・崩壊面積:1渓流当たり1-10ha、立木1ha当たり300-500m³(人工林) ・渓流流下:流速10-30m/s、土石流の80%は土砂・10-15%が流木 ・渓岸侵食:渓流両岸の立木が追加で巻き込まれ流木量2-3倍に ・本流到達:流域全体で20-30万m³規模が下流に集積 ・橋梁被害:流木の橋脚衝突で部分損壊・全流失発生 主要対策:山腹工(崩壊防止)・流木止工(捕捉)・河川改修(流下能力確保)の3点 出典:林野庁・国交省・土木学会論文集(2018-2020年)より作成
図1:流木災害の発生プロセス(出典:林野庁・国交省「流木対策に関する技術指針」より作成)

流木の大きさは、長さ5〜20m、直径20〜50cmが標準。生木なら1m³でおよそ1トンの重さがあり、秒速10〜30mで流れてくるその破壊力は、橋脚や護岸を簡単に打ち砕くほどです。

豪雨のたびに数十万m³

2017年以降の主な豪雨では、毎回20〜30万m³規模の流木が発生しています。これは国産丸太の年間生産量(約2,400万m³)の1%に相当する量が、たった一度の災害で出ているということ。流木災害はもはや特別な出来事ではなく、近年の豪雨につきものの常態になってしまいました。

主要豪雨災害の流木発生量 2010年代後半以降の豪雨災害における流木発生量を比較する棒グラフ 主要豪雨災害の流木発生量(万m³) 35 25 15 10 5 2017 九州北部 21万m³ 2018 西日本 30万m³ 2019 東日本台風 20万m³ 2020 熊本豪雨 13万m³ 2021 熱海・関東 8万m³ 毎災害で十数〜30万m³規模。降雨量・流域面積・人工林比率により変動。
図2:主要豪雨災害の流木発生量(出典:林野庁・国交省・土木学会の災害調査資料より作成)

とりわけ2018年の西日本豪雨は流木量30万m³と過去最大級で、広島・岡山・愛媛を中心に橋がおよそ100橋も流失・損壊しました。岡山県倉敷市真備町などでは、流木が橋に絡んで川がせき止められ、堤防を越えた水が一気に町を襲いました。流木が氾濫の引き金になった、典型的なケースです。

橋を壊し、川をふさぐ

流木による被害は、橋の流失・損壊、橋脚の足元がえぐられる洗掘、護岸の破損、川がふさがれての氾濫、そして海に流れ出ての港湾阻害――と多岐にわたります。なかでも深刻なのが橋。とくに橋桁と水面の間の余裕が小さい低い橋は、流木が引っかかりやすく脆弱です。

被害タイプ 主な発生メカニズム 復旧コスト目安
橋梁流失 流木が橋桁に堆積→水圧上昇→橋桁流出 1橋10-100億円
橋脚洗掘 流木衝突+流速増大による橋脚基礎の侵食 1橋1-10億円
護岸破損 流木の衝突による護岸ブロックの剥離・倒壊 100m当たり数千万円
河道閉塞 流木の堆積による流下能力低下→堤防越流 広域氾濫で数百億円
港湾漂着 海域に流出した流木による港湾機能阻害 撤去費数億円

こうした被害を受けて、国土交通省は橋梁の設計基準も見直しを進めています。橋桁の余裕高を大きくとる、流木の衝突荷重を構造計算に組み込む、橋脚を水の流れに沿った流線形にする、といった工夫です。新しい橋では標準化されつつありますが、全国に約75万もある既設の橋を更新するには、数十年単位の時間がかかります。

「出さない」と「受け止める」の二段構え

流木対策は大きく2つの考え方に分かれます。ひとつは、そもそも山を崩さず流木を「出さない」治山事業。もうひとつは、出てしまった流木を中流で「受け止める」流木止工です。流木止工には、ふだんは土砂と水を通しつつ大雨時に流木を捕まえるスリットダム、格子状のスクリーン、ワイヤーネット式などがあり、全国で累計約2,000基が稼働、年間およそ100基が新設されています。すでにある治山ダム(約13.5万基)にスクリーンを後付けする方法は費用効率がよく、優先的に進められています。

ただ、日本の渓流は約23万カ所。流木止工2,000基はそのわずか1%にすぎず、完全な整備には30〜50年規模の時間が必要です。だからこそ、川や橋の対策だけでなく、森そのものの手入れが効いてきます。間伐が遅れて根の浅い密生人工林は、崩れたときに木が流木になりやすい。林野庁の調査では、手入れ不足の林の流木発生量は適切に管理された林の2〜3倍にのぼります。間伐を進め、針葉樹と広葉樹を混ぜた森にしていくこと――それが流木災害を減らし、同時に林業を元気にする道でもあるのです。

なお、発生した流木は撤去・処分が中心ですが、現地で砕いてバイオマス発電の燃料にする取り組みも広がっています。災害ごみの処理費を抑えながら再生可能エネルギーに変える、一石二鳥の試みです。事前対策への投資1に対し被害軽減効果は5〜10倍と試算されており、流木対策は経済的にも理にかなった備えだといえます。

よくある質問

流木災害は今後さらに増えますか?

気候変動による豪雨の頻発化、人工林の高齢化(間伐遅れの拡大)、地震活動の活発化が重なり、今後20年ほどは流木災害の増加傾向が続く見通しです。ただし流木止工の整備拡大、間伐の推進、橋梁設計基準の見直しが進めば、被害の拡大はある程度抑えられると考えられます。

流木の撤去費用は誰が負担するのですか?

河川や港湾の流木撤去は、国(一級河川・主要港湾)や都道府県・市町村(二級河川・地方港湾)が予算を負担します。災害時には国費補助率が引き上げられ、自治体の負担が軽くなります。森林内・治山区域内の流木は林野庁が処理を担い、所有者の負担は限定的です。

山林の所有者にできる対策はありますか?

適期の間伐、渓流沿いに広葉樹を混ぜた保護林帯を設けること、林道の排水をきちんと設計することなどが現実的です。間伐費用は森林環境譲与税や森林整備事業の補助で大部分がまかなえます。災害リスクの高い流域では、市町村と所有者が協力して森林整備を進める例も増えています。まずは市町村の林務窓口や森林組合への相談が第一歩です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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