山地災害|豪雨・地震・火山による森林被害

山地災害 | Forest Eight

毎年、夏から秋にかけてニュースを賑わせる「山が崩れた」「土石流が集落を襲った」という映像。その多くは、私たちが普段あまり意識しない山林で起きています。林野庁の集計では2023年の山地災害は1,470件、被害額は約1,200億円。過去10年平均(年約1,000件・約900億円)を上回り、近年は増加傾向にあります。なぜ山は崩れるのか、どこで起きやすいのか、その背景にある豪雨・地震・火山という3つの要因を見ていきます。

目次

山地災害はなぜ起きるのか

山地災害は大きく「山腹崩壊」「土石流」「地すべり」「渓流荒廃」の4つに分けられます。2023年の内訳でいうと、斜面の表層や深層がまるごと崩れ落ちる山腹崩壊が約6割、渓流に沿って土砂や倒木が一気に流れ下る土石流が約2割、土の塊がゆっくり滑り動く地すべりが約1割。下流に人家があると土石流の被害がとくに大きくなります。

引き金となる原因では、豪雨が約75%と圧倒的で、地震が約15%、残りが融雪・凍結・火山などです。つまり山地災害のほとんどは「雨」が降らせるもの。だからこそ、雨の降り方が変わってきていることが、そのまま災害の増加につながっています。

気候変動で豪雨が増えている

気象庁の観測によれば、1時間に50mm以上というバケツをひっくり返したような短時間強雨の発生回数は、1976〜1985年の年平均226回から、2014〜2023年の328回へと約45%増えました。40年でおよそ1.45倍。山地災害の主因である豪雨が確実に頻発化していることが、データにはっきり表れています。

時間雨量50mm以上の発生回数推移 1976年から2023年までの短時間強雨発生回数の推移を示す 時間雨量50mm以上の発生回数(年平均) 400 300 200 100 0 1976-85 226 1986-95 237 1996-05 269 2006-15 293 2014-23 328 40年で1.45倍に。今後30年でさらに2-3割増加の予測(IPCC AR6・気象庁)。
図1:時間雨量50mm以上の発生回数推移(出典:気象庁「気候変動監視レポート2023」より作成)

実際、2010年代以降は激甚な豪雨災害が続きました。なかでも2019年の令和元年東日本台風は、関東・甲信越・東北の山岳地帯で同時多発的に斜面が崩れ、森林被害だけで約2,500億円という過去最大規模に達しています。主な災害をまとめると次の通りです。

災害名 時期 主要被災地域 森林被害額
令和元年東日本台風 2019年10月 関東・甲信越・東北 約2,500億円
平成30年7月豪雨 2018年7月 広島・岡山・愛媛 約700億円
熊本地震 2016年4月 熊本・大分 約450億円
平成29年九州北部豪雨 2017年7月 福岡・大分 約400億円
能登半島地震 2024年1月 石川県奥能登 約350億円(推計)
山地災害被害額の推移 2014年から2023年までの山地災害被害額の年次推移を示す 山地災害被害額の推移(億円) 3,000 2,000 1,000 500 0 2014 350 2015 560 2016 820 2017 1,200 2018 1,440 2019 2,500 2020 1,330 2021 880 2022 760 2023 1,200 2019年(東日本台風)が突出。10年平均は約900億円で増加トレンド。
図2:山地災害被害額の推移2014-2023(出典:林野庁「治山事業」、被害状況統計より作成)

地震が残す、時間差の傷

地震による山地災害には、揺れの直後だけでなく、後からじわじわ被害が広がるという厄介な特徴があります。本震で根が傷み、土壌の構造が壊れた斜面に、その後の梅雨や台風の雨が降ると、二次的な崩壊が起きるのです。熊本地震(2016年)では、本震直後の崩壊が約1,200haだったのに対し、翌年6月の梅雨でさらに約500haが追加で崩れました。

2024年1月の能登半島地震でも、輪島市や珠洲市を中心に多数の山腹崩壊と道路寸断が発生し、森林被害は約350億円(推計)。林道網の復旧には5〜10年規模の時間がかかると見込まれています。政府は南海トラフ地震が今後30年で70〜80%の確率で起きると推計しており、四国・近畿・東海の人工林地帯では、森林被害だけで数千億円〜1兆円規模になる可能性も指摘されています。

崩れやすい山、強い山

被害が集中するのは、森林率が高く、人工林が多く、雨量が多く、地震活動も活発――こうした条件が重なる地域です。長野・広島・岡山・愛媛・福岡・熊本・大分・高知などが過去10年の被害額の上位を占めます。中央構造線沿いの脆い破砕帯、新潟・富山の地すべり地帯といった地質的な要因も大きく効いています。

見逃せないのが人工林の弱さです。戦後の拡大造林で植えられたスギ・ヒノキの単純林は、間伐が遅れると林の中が暗くなって下草が育たず、表土が流れやすく崩れやすい構造になります。逆に、適切に間伐された森は崩壊リスクが3〜5割低くなることが研究で確認されています。間伐の推進、針葉樹と広葉樹を混ぜた森づくりこそが、災害を減らす最も基本的な手立てなのです。林野庁の治山事業(2024年度予算約700億円)は、こうしたハード・ソフト両面の対策を担っています。森林がもつ土砂流出・崩壊防止の機能はおよそ37兆円分と試算されており、700億円の予算と比べれば、いかに費用対効果の高い投資かが分かります。

よくある質問

山地災害は今後も増えますか?

気象庁やIPCCの予測では、今後30年で時間雨量50mm以上の発生回数はさらに2〜3割増えるとされます。豪雨型の山地災害は件数・規模ともに増加トレンドが続く見通しです。ただし、間伐など適切な森林管理と治山事業の事前対策によって、被害の拡大を抑える余地は十分にあります。

森林の防災効果はどれくらいの価値がありますか?

林野庁の「森林の多面的機能の評価」では、森林全体の機能は年間約70兆円と試算されています。このうち土砂流出・崩壊防止だけで約37兆円分。治山事業の予算700億円と比べると、自然が果たしている防災の役割がいかに大きいかが分かります。

個人所有の森林でも治山事業は受けられますか?

受けられます。治山事業は所有形態を問わず、保安林や山地災害危険地区を中心に実施されます。私有林であっても、人家の保護や流域保全の観点で重要と判断されれば対象になります。実施には所有者の同意と自治体との調整が必要です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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