アーバスキュラー菌根菌(AM菌)とは:陸上植物80%が依存する4億年共生システム

ラー菌根菌(AM菌)とは 80% | Forest Eight

森林は「樹木」と「土壌」だけでできているわけではありません。その間には、無数の菌が網目状に張りめぐらされた地下のネットワークが広がっています。そのなかで最も古くから——なんと約4.6億年前から——植物と一緒に生きてきたのが、アーバスキュラー菌根菌(AM菌、Arbuscular Mycorrhiza)です。陸上植物の約80%がこの菌に頼っていて、スギ・ヒノキ・カエデ・モミ・サクラといった日本の主要な造林樹種も、そのほとんどがAM菌と手を組んでいます。ここでは「AM菌って何者?」という基本から、林業の現場でどう役立つのかまでを、できるだけわかりやすく整理します。

陸上植物依存率 80 % 維管束植物 主要造林樹を含む 共進化年代 4.6 億年 オルドビス紀 陸上植物と同期 吸収面積拡張 10〜1000 対 根単独 菌糸網による 樹木の炭素投資 10-30 % 光合成産物比 菌糸へ転流
図1:AM共生の主要数値(出典:日本菌学会、FFPRI、Smith & Read 2008)
目次

AM菌とはどんな生き物か

AM菌は、菌界のなかでも独立した門「Glomeromycota(グロムス門)」に分類されます。記載されている種は約230〜340種ですが、まだ見つかっていないものを含めると1,500〜3,000種いると推定されています。主な属はGlomus、Rhizophagus、Funneliformis、Gigasporaなど。農林業の現場で名前を見かけるのはこのあたりです。

最大の特徴は絶対共生性。つまり、宿主となる植物がいなければ成熟した胞子を作れず、シャーレで純粋培養することが極めて難しい菌です。この性質は、植物が海から陸へ上がったオルドビス紀後期(約4.6億年前)に獲得されたと考えられていて、スコットランドの約4億年前の化石(ライニーチャート)でも、初期陸上植物の根のなかにAM菌そっくりの構造が確認されています。植物の上陸そのものを、AM菌が支えていたわけです。

根の中で何が起きているのか

AM菌の名前の由来でもある「アーバスキュル(樹枝状体)」が、共生の主役です。菌糸が根の細胞の内側まで入り込み、そこで樹の枝のように細かく分岐します。この樹枝状の構造が植物の膜に包まれた状態になり、その膜を通して、植物と菌のあいだで物質がやり取りされます。さらに菌は「嚢状体(vesicle)」という脂肪の貯蔵タンクも作り、受け取った炭素を蓄えておくので、宿主が休眠期に入っても活動を続けられます。

よく対比されるのが外生菌根(ECM)です。ECMは根の表面を菌の鞘で包むのに対し、AMは細胞の内側に入り込む——という違いがあります。日本の樹種でいうと、スギ・ヒノキ・モミ・サワラ・カラマツはAM型、ブナ・ナラ類・マツ類はECM型です。

リンと炭素の「物々交換」

AM共生は、ひとことで言えば双方向の取引です。樹木は光合成で作った糖や脂質を菌に渡し、菌は土から吸い上げたリンや窒素、水、微量元素を樹木に渡します。とくにリンは、植物が手に入れる総量の20〜90%をAM菌経由でまかなうこともあり、菌糸網が根の有効吸収面積を10〜1,000倍に広げてくれるおかげです。代わりに樹木は、光合成で作った産物の10〜30%を菌に投資しています。

面白いのは、この取引が「市場原理」で動いていること。2011年のScience誌の研究では、植物はリンをたくさんくれる菌により多くの炭素を渡し、菌は炭素をたくさんくれる宿主にリンを優先的に分配する、という「お得意様優先」の関係が実証されました。お互いにメリットのある相手を選び合うからこそ、4億年も続いてきたのです。

日本の造林樹とAM菌

日本のスギ・ヒノキ人工林は1,000万haを超えます。その主要造林樹種の多くがAM依存型なので、AM共生を理解することは林業の生産性に直結します。森林研究・整備機構(FFPRI)の研究では、スギ苗木のAM感染率と初期成長量に強い相関があり、感染率50%以上の苗は無接種苗に比べ、植栽3年後の樹高が15〜25%高い傾向が報告されています。

すでに農業分野では、トマトやトウモロコシなどでAM菌資材による肥料節減効果が広く実証されています。林業でも、コンテナ苗の培土に菌資材を混ぜる方法を中心に試験が進んでおり、次のような効果が報告されています。

  • 成長:植栽後1〜3年で樹高・直径が15〜30%向上(リンが乏しい土壌でとくに顕著)
  • 活着率:5〜15ポイント向上(乾燥地や荒廃地で効果大)
  • 耐病性・耐乾性:根腐病・立枯病を30〜50%低減、水ストレス耐性も向上
  • 肥料削減:リン酸肥料を50〜90%削減できる可能性(2025年のメタ解析)

苗1本あたり5〜30円の接種コストで、活着率や初期成長の向上が見込めるため、費用対効果は十分に成立します。注意点は、リン酸肥料を与えすぎるとAM菌の定着がかえって抑えられること。「肥料を控えめにする」のがコツです。

森をつなぐ「地下のネットワーク」

AM菌の菌糸は、1本の樹木だけでなく複数の樹木の根を同時につなぐ「共通菌根ネットワーク(CMN)」を作ります。このネットワークを通じて、樹木どうしが炭素・窒素・水、さらには病虫害を知らせるシグナル物質までやり取りしていることが分かってきました。母樹から実生の苗へ炭素が移ったり、食害が起きたときに警報シグナルが菌糸経由で伝わったり——森は単なる樹木の集まりではなく、地下でつながった「コミュニティ」なのです。この視点は、人工林の更新や混交林づくりを考えるうえでも大切になっています。

気候変動時代に効いてくる共生

気候変動が進むほど、AM共生の価値は高まると考えられています。乾燥ストレス下では菌が水分供給を助けて樹木の生存率を上げ、高CO2環境では菌糸ネットワークが拡大してリン吸収が向上します。2025年のメタ解析(Ahmed et al., IMA Fungus)では、AM接種によって穀物の肥料依存度が最大90%削減されることが示されました。これは林業にも応用でき、リン酸施肥を大幅に減らしながら成長を保つ「低投入森林経営」の科学的な後ろ盾になります。農林水産省の「みどりの食料システム戦略」でも化学肥料の30%低減(2050年目標)が掲げられており、AM共生を活かす技術は政策的にも追い風を受けています。

よくある質問

Q. AM菌とECM菌、何が違うのですか?

共生のしかたと相手の樹種が違います。AM菌(記載約230〜340種)は根の細胞内に入り込み、スギ・ヒノキ・カエデなど陸上植物の約80%と共生して、おもにリンを供給します。ECM菌(2万種以上)は根の表面を包み、マツ・ナラ・ブナなどと共生して、おもに窒素を供給します。マツタケやトリュフのように地上にキノコを作るのはECM菌で、AM菌はキノコを作りません。混交林をつくるときは、両方のタイプを組み合わせると栄養循環が多様になります。

Q. 皆伐したあとの土地でも使えますか?

有効です。AM菌の胞子は土のなかで数年〜数十年休眠でき、撹乱後にも発芽します。ただし皆伐や表土流亡のあとは胞子密度が大きく下がり、回復に5〜15年かかることもあるため、再造林時に菌資材を投入するメリットが大きくなります。表土の保全と菌資材投入をセットで考えるのがおすすめです。

まとめ

アーバスキュラー菌根菌は、陸上植物の8割と造林樹種の大半が頼る、文字どおり森林の「見えざる基盤」です。菌糸網が根の吸収面積を桁違いに広げ、リンや水を樹木に届ける一方、樹木は光合成産物の一部を菌に投資する——4億年続いてきたこの物々交換を理解し、苗木接種や低投入造林に活かすことは、これからの日本林業のレジリエンスを左右する鍵になります。まずは苗畑での試験導入や、植栽地の土壌の状態を意識することから始めてみるとよいでしょう。

出典・参考

  • 日本菌学会『Mycoscience』各年号
  • 森林研究・整備機構(FFPRI)森林微生物研究領域
  • 農林水産省「みどりの食料システム戦略」(2021年5月策定)
  • Smith S.E., Read D.J. (2008) Mycorrhizal Symbiosis 3rd ed., Academic Press
  • Kiers E.T. et al. (2011) Science 333: 880–882
  • Ahmed N. et al. (2025) IMA Fungus AM接種による肥料依存度低減メタ解析
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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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