外生菌根菌(ECM)とは:マツ・ナラ・ブナを支える森林共生菌の生態と林業応用

外生菌根菌(ECM)とは | Forest Eight

外生菌根菌(ECM、Ectomycorrhizal Fungi)は、マツ・ナラ・ブナといった温帯林・北方林の主役級の樹木を、地下から支えている菌のグループです。じつは、私たちがよく知るマツタケ・トリュフ・イグチ・テングタケも、その多くがこのECM菌の仲間。日本ではマツ・ナラ・ブナ・カラマツ・トドマツ・エゾマツなど、多くの造林樹種がECM樹種にあたります。ここでは「ECM菌って何者?」という基本から、マツタケ生産や林業への応用までを、できるだけかみくだいて紹介します。

目次

ECM菌とはどんな菌か

ECM菌は、おもに担子菌や子嚢菌など複数の系統にまたがる大型の菌類グループで、温帯〜北方林の樹木種のおよそ6割と共生します。主な仲間には、マツタケを含むTricholoma(キシメジ属)、トリュフのTuber属、ポルチーニで知られるBoletus(ヤマドリタケ属)、カラフルなRussula(ベニタケ属)、テングタケのAmanita属などがあり、食用キノコから猛毒キノコまで幅広く含まれます。地球に登場したのは約1.5億年前と、植物と4.6億年連れ添ってきたアーバスキュラー菌根菌(AM菌)に比べるとずっと新しい共生戦略です。

根の「外側」で手をつなぐ ── ハルティヒネット

ECMという名前は「外生(ecto-)」に由来します。AM菌が根の細胞の内側に入り込むのに対し、ECM菌は細胞の外側で共生するのが最大の特徴です。具体的には次の3つの構造を作ります。

  • 菌鞘(mantle):細根の表面を菌糸がびっしり覆う層。樹種によって厚さも色もさまざまです。
  • ハルティヒネット(Hartig net):菌鞘から根の細胞のすき間に網目状に入り込む部分。ここで樹木と栄養をやり取りします。
  • 外生菌糸:菌鞘から土の中へ広がる菌糸網。水や栄養を集める本体で、成熟するとキノコ(子実体)を作ります。
ECM共生の構造と外生菌糸ネットワーク 細根表面の菌鞘、細胞間隙のハルティヒネット、土壌中の外生菌糸、子実体の概念図。 ECM共生(外生菌根)の構造 細根 菌鞘(mantle) ←ハルティヒネット (細胞間隙) 外生菌糸→ →外生菌糸 子実体 (マツタケ等) 菌糸が地上に 子実体形成
図1:ECM共生(外生菌根)の構造(Smith & Read 2008 を参照して作図)

ECM菌が広がったのは、寒冷・湿潤で栄養の乏しい北方林という環境です。こうした場所では土の中の窒素が無機態として手に入りにくいため、ECM菌は有機物を分解する酵素を出して有機態の窒素を直接植物に届ける——という独自の戦略でニッチを切り開きました。AM菌が「普遍的な共生」として全植物に広がったのに対し、ECM菌は「AM菌だけでは足りない厳しい環境」で力を発揮するわけです。

ECM菌が森の成長を左右する

近年の研究で、ECM菌は「樹木のおまけ」どころか、林分全体の生産性を直接動かす存在だとわかってきました。Anthonyらが2022年にThe ISME Journalで発表した、欧州15カ国・1万3,000本以上の樹木を解析した大規模研究では、ECM群集の機能的な組成だけで樹木の成長速度を最大3倍の差で説明できることが示されました。成長の速い林では無機の窒素を効率よく取るタイプのECMが、遅い林では有機の窒素を取るタイプが優勢になる——という戦略の違いが決定的だったのです。林業の現場では、ECM群集をどう保全し選ぶかが、それ自体が大切な施業判断になることを示した画期的な成果です。

森をつなぐ「ウッド・ワイド・ウェブ」

ECM菌は1本の樹木とだけ手をつなぐのではなく、複数の樹木の根を菌糸でつなぐ「共通菌根菌ネットワーク(CMN)」を作ります。Suzanne Simardらは同位体追跡実験で、母樹から実生の苗へ光合成産物が菌糸経由で移っていることを実証し、これは「ウッド・ワイド・ウェブ(Wood Wide Web)」として森林生態学の中核概念になりました。Kleinらは2016年、スイスのマツ・ブナ・ナラ・モミの混交林で、4樹種のあいだに炭素のやり取りがあることをCO2同位体で確かめています。伐採や台風のあとの森の回復過程でも、このネットワークが大きな役割を果たすと考えられています。

マツタケ ── 日本のECMキノコの代表

マツタケ(Tricholoma matsutake)は、日本のECMキノコの代名詞。おもにアカマツ林の細根に共生します。発生する林には「やせた土壌・適度な日照・若齢〜中齢のアカマツ・落葉が積もりすぎていないこと」といった条件が必要で、1940年代には年1万トン以上あった生産量が、いまや数十〜数百トン規模まで激減しました。原因は、松枯れ(マツノザイセンチュウ被害)によるアカマツ林の消失、林床に落葉が積もりすぎる富栄養化、若いアカマツ林の減少などが重なったものです。

生産を回復させるには、昔ながらの「マツタケ山入り」と呼ばれる手入れが欠かせません。落葉や腐葉土をかき出し、雑木を除き、若いアカマツ林を保つ——こうした地道な管理で、うまくいけば1ha当たり年100〜500kgが目安とされます。近年は京都大学や森林総研などでマツタケ菌の感染苗を作る技術も確立されつつあり、商業栽培にはまだ時間がかかるものの、確かな前進です。

ECM接種苗 ── 林業への応用

マツ・カラマツ・トウヒの再造林では、あらかじめECM菌を接種した苗木の活用が一部で実用段階に入っています。代表的な接種菌は、乾燥や酸性土壌に強くマツ用標準菌として世界中で使われるPisolithus tinctorius、北米でよく使われるRhizopogon属、寒冷地のカラマツ・トウヒに向くHebeloma属などです。接種剤は胞子液・菌糸ペレット・接種土壌などの形で苗木の根域に与えます。海外の大規模造林地では植栽後の活着率が無接種比で20〜40%向上したという実証もあり、日本では森林総研や林業大学校などで試験が進んでいる段階です。

気候変動とECM群集

温暖化が進むと、ECM群集の構成も変わります。平均気温が上がるとECMの種多様性が下がり、無機窒素を取るタイプが増え、有機窒素を取るタイプが減る傾向が報告されています。これは森林の炭素貯蔵能の低下とも連動します。さらに、温暖化で北上する樹種に対してECM菌が追いつかない「樹木と菌のミスマッチ」も観察されつつあり、新しい分布域での実生の定着や成長を妨げる要因になりかねません。これからの林業では、再造林時の母樹選びだけでなく、ECM菌の保全や接種、伐採後の林床保護までを含めて、樹木・菌・土壌をひとつのシステムとして捉える視点がますます重要になります。

よくある質問

Q. ECM樹種にAM菌の接種剤を与えても効果はありますか?

基本的には限定的か無効です。ECM樹種にはECM菌を、AM樹種にはAM菌を、というように相手を選ぶ必要があります。マツなどの一部のECM樹種は若いうちだけ短期間AM菌とも共生しますが、林業の実用上は樹種に合った専用の接種が必要です。

Q. ECM群集を守るには、林業でどんな配慮が必要ですか?

主伐や地拵えの強度を抑えて表土や有機物層を残すこと、小面積で段階的に伐ること、母樹を残してECM菌の供給源を確保することが有効です。皆伐後に一気に裸地化すると、ECM菌に大きなダメージを与えてしまいます。

Q. ECMキノコの食用と毒のあるものはどう見分ければいいですか?

属レベルである程度の傾向はありますが(テングタケ属の多くは毒など)、見た目だけの素人判断は危険です。地域の専門書やきのこアドバイザー、保健所の相談制度を活用し、「初心者は必ず専門家に確認」を原則にしてください。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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