「実」ではなく「軸」を食べる――そんな変わり者の木が、ケンポナシ(玄圃梨/Hovenia dulcis)です。秋も深まると、果実をぶら下げている柄の部分(果柄)がぷっくり肥大し、赤褐色〜黒褐色になって、ナシのような甘さ(糖度18〜24 Brix)をたくわえます。食べるのはこの太った軸のほう。さらにこの果柄は、二日酔いに効くとされる漢方薬「枳椇子(しきぐし)」の原料でもあり、お隣の韓国では一大健康食品ジャンルを築いています。日本の里山にひっそり立つ、知る人ぞ知る面白い木です。
食べるのは実ではなく「軸」
ケンポナシの一番の見どころは、なんといっても果柄です。果実本体は直径6〜8mmの小さな核果で、果肉も薄くて食べ応えがありません。その代わり、実をつないでいる柄が秋に節くれだって太り、赤褐色から黒褐色に色づいて甘くなる。これがケンポナシ属だけが持つ独特の生態で、英名 Japanese Raisin Tree(日本のレーズンの木)の由来です。種小名 dulcis も「甘い」を意味します。
味はナシに近い甘さに、軽い渋みとほのかな酸味、そしてシャクシャクした食感。りんごとなつめと干し柿を足したような複雑な香りがあります。面白いのは、初霜を浴びて凍結と融解をくり返すほど甘くなること。山里では昔から「霜が3度降りたら食べ頃」と言い伝えられてきました。新潟・長野・福島・岐阜・鳥取・島根などの山村で、生食はもちろん、焼酎漬けの果実酒、ジャム、ケンポナシ茶として細々と受け継がれてきた、隠れた里山の味です。
二日酔いの薬「枳椇子」
陰干しした果柄は、漢方薬「枳椇子(しきぐし)」になります。お酒の毒を解き、肝臓をいたわる生薬として、唐代の薬物書『唐本草』(659年)に登場して以来、1300年以上にわたって東アジアで使われてきました。日本でも江戸時代の貝原益軒『大和本草』に紹介され、宴会のあとに煎じ茶を飲んで「酒の毒消し」にする習慣が一部の地域に残っています。
現代の研究でも、ケンポナシ抽出物に含まれるジヒドロミリセチン(DMY)という成分が、アルコールやアセトアルデヒドを分解する酵素(ADH・ALDH)の働きを助けることが、試験管や動物の実験で報告されています。韓国では「ヘオングリ(헛개)」として缶入りドリンクやサプリが幅広く流通し、年間200〜300億円とも言われる巨大市場を形成。日本でも近年、機能性表示食品の素材として使われています。ただし日本では薬機法・健康増進法の制約上、「二日酔いを治す」と直接うたうことはできず、「健康な肝機能の維持」といった表現になります。あくまで食品であり薬ではないので、過信は禁物です。
木材・蜜源としての顔
用材としては気乾比重0.55〜0.65の中重量材で、ナラとサクラの中間くらいの緻密さと硬さ。家具や造作材、火持ちのよい薪炭材として地域で使われてきましたが、果柄や薬用のほうが価値が高いため、用材目的で植えられることはまずありません。また6〜7月に咲く淡い黄白色の小花は蜜が豊富で、ミツバチの大切な蜜源。琥珀色の「ケンポナシ蜂蜜」が採れることもあります。
見分け方
- 果柄:秋(10〜11月)に肥大して赤褐色〜黒褐色になり、甘く食べられる――これが一番確実な目印です。実ではなく軸が膨らむのはケンポナシ属だけ。
- 葉:広卵形で8〜15cm、ふちに細かいギザギザ、互生。3本の太い葉脈がはっきり目立ちます(クロウメモドキ科の特徴)。秋は黄〜橙に色づきます。
- 樹皮:若木は灰褐色でなめらか、老木で縦に浅く裂けて鱗片状にはがれます。
- 紛らわしい木:ナツメ(同じ科)は葉に托葉のトゲ、ヤマナシは果実本体が梨型。秋に果柄が膨らんで食べられる木は、本州〜九州ではケンポナシだけと考えてよいでしょう。
よくある質問
果柄はどうやって食べますか?
初霜のあと、黒っぽくなった果柄を採って生で食べるのが基本。ナシのような甘さとシャクシャク食感が楽しめます。焼酎に3〜6か月漬ければ琥珀色の果実酒に、煮詰めればジャム、陰干しして煎じればケンポナシ茶になります。なお人の山や国有林・保護区での無断採取はできないので、必ず所有者の許可を取ってください。
本当に二日酔いに効くのですか?
有効成分ジヒドロミリセチンがアルコール分解酵素を活性化することが実験で報告されており、韓国では二日酔い予防商品の定番素材です。ただし日本では「二日酔いを治す」とは表示できず、機能性表示食品でも「健康な肝機能の維持」程度の表現にとどまります。食品であって薬ではないので、飲みすぎの帳消しにはなりません。持病がある方や薬を服用中の方は医師に相談を。
庭木として育てられますか?
本州〜九州で植栽でき、耐寒性は-15℃前後。樹高10〜15mの中型で、半日陰〜日なた・水はけのよい肥沃な土を好みます。秋の黄葉と、何より珍しい果柄の収穫が楽しめる家庭果樹として面白い存在。植えてから10〜15年で果柄が採れるようになります。

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