大苗植栽の有効性:下刈り回数を半減するコンテナ苗60cm以上の活用戦略

大苗植栽の有効性 60cm | Forest Eight

植林した後、若い林でいちばんお金がかかる作業は何かご存じでしょうか。木を植えること自体ではなく、その後5〜10年も続く「下刈り」――雑草や低木を刈り払う作業です。ha当たり累計で100〜200万円規模にもなり、林野庁の白書でも地拵え・植付・下刈りの三工程のうち下刈りが約4〜5割を占めます。再造林をためらう最大の経済的ハードルがここにある。その下刈りを大幅に減らせる切り札が「大苗(おおなえ)植栽」です。

目次

大苗とは何か、なぜ効くのか

大苗とは、ざっくり言えば苗長60cm以上・容量300cc以上に育てたコンテナ苗のこと。標準的なコンテナ苗(150cc級、苗長30〜50cm)より一回り大きく育ててから植えます。さらに苗高1.0〜1.5m級の「特大苗」も実用段階に入っていて、北海道のササ繁茂地や東北のススキ繁茂地で施業効率をぐっと改善しています。

なぜ効くのか。理屈はシンプルです。植えてから数年は、ササやススキが年1.0〜1.5mも伸びるのに対し、標準苗の年間伸長は20〜40cmしかない。だから苗木が雑草の下に埋もれた状態が長引き、その間ずっと下刈りが要るわけです。樹種ごとに「これより高くなれば下刈り不要」という臨界高さの目安があり、スギ・ヒノキで120〜150cm、トドマツ・エゾマツで80〜120cmほど。標準苗だとここに届くまで4〜6年かかりますが、植えた時点ですでに60〜120cmある大苗なら、初年度〜2年目で雑草の頭を抜けてしまう。特大苗にいたっては、植栽直後から葉が競合植生の頭上に出て、初年度の下刈りすら省ける例も報告されています(北海道立総合研究機構 林業試験場のトドマツ大苗試験区)。

標準苗 vs 大苗の植栽後成長比較 標準苗が雑草臨界高さに5〜6年で到達、大苗は2〜3年で到達。 標準苗 vs 大苗:植栽後成長と下刈り回数 0cm 50 100 150 樹高(cm) 0 1 2 3 4 5 6 植栽後経過年数 雑草臨界高さ100cm 標準苗 大苗(60cm苗長) 下刈り:標準苗 5〜6回(毎年)/大苗 2〜3回(早期離脱)
図1:標準苗と大苗の植栽後成長の比較(概念図)。大苗は早く雑草の臨界高さを抜けるため下刈り回数が減る。

お金の話:苗代は上がるが、下刈り代がそれ以上に減る

気になるコストを並べてみましょう。大苗は苗木単価こそ標準苗の1.5〜2倍ですが、それを上回って下刈り代が浮きます。3,000本/ha換算の試算がこちらです。

項目 標準苗(5〜6回下刈り) 大苗(2〜3回下刈り) 特大苗(1〜2回下刈り)
累計下刈りコスト 120〜180万円/ha 50〜90万円/ha 20〜60万円/ha
下刈り削減額 70〜90万円/ha 100〜120万円/ha
苗木費の増加分 +10〜20万円/ha +30〜45万円/ha
正味の削減額 50〜70万円/ha 55〜90万円/ha

つまり、苗木に10〜20万円多く投資すると、下刈り代が50〜70万円浮く。投資対効果ははっきり有利です。さらに植栽密度を従来の3,000〜4,500本/haから2,000〜3,000本/haへ下げる「低密度植栽」と組み合わせれば、苗木費総額を抑えつつ下刈り対象の本数も減るので、省力化が二重に効きます。森林総合研究所の試算では、低密度(2,000本/ha)×大苗の組み合わせで植栽から保育までの累計コストが従来比で約30〜40%削減されると報告されています。

施業パターン 密度 苗の種別 累計コスト(植付〜10年保育)
従来型 3,000本/ha 標準裸苗 180〜220万円/ha
標準コンテナ 3,000本/ha 標準コンテナ苗 160〜200万円/ha
低密度・大苗 2,000〜2,500本/ha 大苗 110〜150万円/ha
低密度・特大苗 2,000本/ha 特大苗 100〜140万円/ha

ただし密度を下げすぎると枝下高が短くなって用材価値が落ちるので、目標とする林相しだいで適正密度を決める必要があります。一般材狙いなら2,500本/ha、無節材狙いなら3,000本/haが一つの目安です。

どこで効くか――地域と植生で向き不向きがある

大苗はどこでも万能というわけではありません。効果がはっきり出るのは、ササ・ススキ・クズが繁茂する場所、北海道・東北のような冷涼地、トドマツ・エゾマツのように成長の遅い樹種、そして下刈り作業員の確保が難しい地域です。逆に九州・四国の温暖地ではスギ早生品種の年間伸長が60cmを超えることもあり、標準コンテナ苗でも臨界高さに早く届くため、大苗のコスト優位はやや限定的になります。

実際、北海道ではトドマツ・エゾマツ造林でササによる下刈り負担が大きく、大苗導入が積極的に進んでいます。道立総合研究機構林業試験場は苗高1.2m級トドマツ大苗を石狩・上川・根室で長期モニタリングし、植栽5年生時点で標準苗比2.0〜2.3倍の樹高に達し、下刈りを6回から2回に減らせることを定量的に確認しています。東北の岩手・秋田ではススキ・クズ繁茂地のスギ大苗化が広がり、岩手県林業技術センターは5年生時点で大苗区が樹高3.8m(標準苗区2.6m)に達し下刈りを5回→3回に削減できたと報告。秋田ではエリートツリー(少花粉・無花粉スギ)の大苗化で花粉症対策と低コスト造林の両立をねらう政策が動いています。

つまり、大事なのは「自分の山の植生・気候・労務状況」を見極めること。植被率70%以上のササ・ススキ繁茂地、シカ密度の高い地域、人手の足りない過疎地域なら、大苗を優先する判断が安全です。

シカ害対策・機械化との合わせ技

大苗のもう一つの利点が、シカ食害への強さです。シカは地面から2mほどの高さを食べるので、最初から樹高を稼げる大苗は食害リスクを下げられます。シェルター(苗木保護筒)と組み合わせると相乗効果が大きく、北海道・東北・関東の鹿害多発地では「大苗+シェルター+忌避剤」の三段構えが標準になりつつあります。森林総合研究所の試験では、苗高1.2m級特大苗にハイガード型シェルター(高さ1.5m)を併用すると、無対策区比でシカ食害発生率が90%以上削減されたとのこと。長野県のカラマツ大苗ではシカ害発生率を30%から10%以下に下げた事例もあります。

一方で、大苗は重くて嵩張るぶん運搬・植付の負担が増えます。これを補うのが機械化です。オーガ式の小型植穴掘削機なら直径20〜30cmの植穴を5〜10秒で掘れて大苗の根鉢にぴったり。1台40〜80万円程度で補助対象にもなっていて、急傾斜地では運材索道やモノレールで苗を直送する方式が広がっています。機械補助があれば1日1人当たりの植付本数は手植えの200〜300本から500〜700本へ伸びます。

5haモデルで見る費用対効果

イメージをつかむために、北海道トドマツ造林・密度2,500本/ha・シカ密度中程度・ササ繁茂地という典型条件で、5haの再造林を試算してみます。

費目 標準苗(基準) 大苗活用 差額
苗木費(5ha×2,500本) 125万円(@100円) 225万円(@180円) +100万円
植付費(オーガ式併用) 140万円 165万円 +25万円
下刈り費 625万円(25万円/ha×5回) 250万円(×2回) −375万円
シカ害対策費(忌避剤) 50万円 30万円 −20万円
累計(10年保育まで) 1,040万円 770万円 −270万円(約26%減)

5ha事業で約270万円、ha換算で54万円の純削減。ここに造林補助金(経費の約68%補助)が乗れば自己負担額はさらに下がり、初期投資のハードルも和らぎます。そして金額以上に大きいのが、下刈り作業員の人日が5ha事業で約30人日減ること。人手が確保できない地域では、これが事業を続けられるかどうかそのものを左右します。単純な金額比較を超える価値がここにあります。

導入前に確認したいこと

大苗を検討するなら、まず植栽予定地のササ・ススキ・クズの被度、シカの生息密度、下刈り班・植付班の確保見通し、地元苗木業者の大苗対応可否と発注リードタイムを押さえておきましょう。特大苗は2〜3年前の発注が標準なので、3〜5年単位の事業計画に落とし込んでおくと効果を最大化できます。森林環境譲与税や造林補助、各県独自の上乗せ補助も使えるので、所在市町村・森林管理署・林業普及指導員への事前相談が計画の精度を高めます。

よくある質問

大苗は植えにくくないですか?

標準苗よりやや大きな根穴が要るので植付労務は10〜20%ほど増えますが、しっかりした根鉢で活着率が高く(90〜97%)補植も少ないため、トータルでは標準苗と同等〜やや楽になります。オーガ式植穴掘削機を使えば1孔10秒ほどで掘れ、むしろ労務は減らせます。

植栽の時期はいつがいい?

コンテナ苗の利点を活かせるので、春・秋・夏(盛夏除く)と幅広く植えられます。北海道・東北は融雪後の4〜5月、九州・四国は落葉後の11〜12月、本州中部は春と秋の二期植えが標準です。特大苗は重いので、降雨後の地盤が緩んだ時期は避けると効率的です。

エリートツリーの大苗化は進んでいますか?

進んでいます。エリートツリー(少花粉品種・成長優良系統)は初期成長が標準系統比1.3〜1.5倍速いので、大苗化と組み合わせると下刈り回数をさらに減らせます。低コスト造林の中核技術として、林野庁・各県林業センターで生産が加速しています。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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