共立(KIORITZ):国産チェーンソー先駆ブランドの歴史とCS362・CS501S・CS621S

共立(KIORITZ) 362 | Forest Eight

STIHLやHusqvarnaといった欧州勢に隠れがちですが、日本にも世界に誇れる老舗の動力機械メーカーがあります。それが共立(KIORITZ)です。じつはこの会社、いま世界中の現場で当たり前に使われている「肩掛け式の刈払機」を世界で初めて商品化した、刈払機の生みの親。1947年の創業から戦後日本の林業と農業を足元から支え続け、いまは新ダイワ・ECHOと並ぶ「やまびこ」グループの一翼を担っています。その歩みと、国内林業で選ばれ続けるチェーンソーを見ていきましょう。

目次

噴霧機から始まり、刈払機で世界初を取った

共立の出発点は、戦後復興期の農薬散布機械でした。1947年に東京で創業し、当初は背負式の噴霧機を主力に、食糧増産政策にともなう水田・果樹園の防除需要をつかんで国内シェアを築きます。

転機は1956年。共立は2サイクルエンジンを積んだ肩掛け式の動力刈払機を世界で初めて商品化しました。それまで傾斜地や畔(あぜ)、林の縁といった機械が入れない場所の草刈りは、鎌をふるう完全な手作業。共立の刈払機は「小型2サイクルエンジン+シャフト+金属刈刃」という、いまも続く刈払機の基本構造を確立し、その形式は60年以上にわたって世界標準になりました。STIHLやHusqvarnaが刈払機に参入してくるのは1968年以降のこと。この分野では、共立が紛れもない先駆者だったのです。

戦後植林ブームが育てた国産チェーンソー

1950〜70年代の拡大造林政策で、日本にはスギ・ヒノキを中心に約1,000万ヘクタールもの人工林が造成されました。この膨大な施業を支えるため国産チェーンソーの需要が一気に高まり、共立は1963年に初の国産機を投入します。当時主流だったカナダ・米国製の輸入機に比べて軽くてコンパクトで、日本人作業者の体格や急峻な地形に合った設計が支持を集めました。「軽い=安全」という、いまも続く国内市場の評価軸は、この時期の共立機が作ったといっても過言ではありません。

その後も共立のチェーンソー作りは「軽量・小型・国内地形への最適化」という一貫した思想で進化します。注目すべきは、STIHLやHusqvarnaが電子燃料噴射やコンピュータ制御で先行するなか、共立は故障の少ない枯れた技術を現場の感覚に合わせて磨くという日本的なアプローチを選んだこと。修理のしやすさ、可搬性、部品の入手しやすさまで含めたトータルコストで、国内ユーザーの信頼を守り続けてきました。

現場の主力 ── CS501S・CS621S

共立のチェーンソーは家庭用から大径木プロ機まで揃いますが、国内林業の標準的な選択肢になっているのが中型プロ機のCS501S(50cc・2.6kW・4.7kg)と、大径木向けのCS621S(62cc・3.6kW・5.7kg)です。CS501SはSTIHL MS261やHusqvarna 545に対抗する位置づけで、12〜15万円とやや手頃な価格が魅力。CS621Sは胸高直径40cm前後の大径木伐倒に対応し、東北・北海道のスギ造林地で標準機の一つになっています。i-30スターターで始動時の引きひも負荷を約3割軽くするなど、長時間作業の疲労を抑える工夫も共立らしさです。

1972年、ECHOで北米へ打って出る

共立は早くから海外へ目を向けました。1972年、米国イリノイ州にECHO Incorporatedを設立し、北米向けブランド「ECHO」を立ち上げます。当時の米国市場はMcCullochやHomeliteなど地元勢がひしめき、日本メーカーが直接入り込む隙はわずか。そこで共立は「新興ブランドを米国で育て、独立系の専門ディーラー網に深く食い込む」という戦略を取りました。

これが見事に当たります。ECHOは米国全土の約8,000店、カナダの約700店にのぼる直販ディーラー網を築き、STIHL・Husqvarnaに次ぐ北米第3位の業務用屋外動力機器ブランドへと成長。とくに日々機械を酷使する造園業者(ランドスケーパー)向けの業務機で高い信頼を獲得し、いまもグループの海外売上を牽引する成長エンジンになっています。

2008年、新ダイワと統合して「やまびこ」へ

2000年代、屋外動力機器の世界市場はSTIHL・Husqvarnaの二強と、電動化を進める米国勢の挟み撃ちにあい、再編が加速しました。そんな中、2008年に日本の老舗2社――共立と新ダイワ工業が経営統合し、株式会社やまびこ(東証プライム・6250)が誕生します。開発・購買・生産・販売を集約することで、グループ売上は約1,500億円規模、海外売上比率は約7割にまで拡大しました。

現在は3つのブランドを役割分担で使い分けています。下の図のとおり、国内農林業の伝統ブランド「共立」、国内で並列展開する兄弟ブランド「新ダイワ」、そして北米中心の海外を担う「ECHO」。生産工場や基幹部品は共通化しながら、市場と販売チャネルごとに商品を最適化する仕組みです。

やまびこグループの3ブランド体制 共立・新ダイワ・ECHOの市場分担と製品関係。 やまびこグループ 3ブランド体制 株式会社やまびこ 共立(KIORITZ) 国内市場・農林 CS362、CS501S、CS621S 老舗ブランド 新ダイワ(Shindaiwa) 国内市場・農林 E系統機種 兄弟ブランド ECHO(エコー) 海外市場・北米中心 CS-7310, CS-680等 国際展開 3ブランドで国内外市場を効率カバー、基幹部品の共通化で開発・製造を効率化
図1:やまびこグループの3ブランド体制(公式資料を参照)。

国内シェア2割超、強みは「止まらない支え方」

国内のチェーンソー市場は、おおむねSTIHLが3割強、Husqvarna・ゼノアが3割弱、そして共立・新ダイワ合計で2〜2割半という構図です。欧州二強に伍する確かな存在感で、とくに岩手・青森・北海道・四国・九州といった地域林業の現場では、地域ディーラー網と修理対応の早さから根強く支持されています。

国内チェーンソー市場のブランドシェア目安 STIHL・Husqvarna/ゼノア・共立/新ダイワ・マキタ/HiKOKI・その他の構成比。 国内チェーンソー市場シェア目安(推計) STIHL 32% Husqvarna/ゼノア 28% 共立/新ダイワ 22% マキタ/HiKOKI 13% その他 5% 出典:販売店ヒアリング・業界推計(2024〜2025年時点の概算) プロ用大径木機ではSTIHL/Husqvarna優勢、地域林業・準プロでは共立/新ダイワ強い
図2:国内チェーンソー市場のブランドシェア目安(業界推計)。

この強さの源泉が、全国に張りめぐらされた販売・修理ディーラー網です。森林組合や素材生産業者にとって、チェーンソーが止まる時間はそのまま売上の損失。半日以内に修理や代替機を確保できるかどうかは死活問題です。共立・新ダイワは農機・林機の総合ディーラーを軸に部品在庫を厚くし、とくに岩手工場直送の純正部品供給の速さが、現場で繰り返し評価されてきました。欧州勢が技術の先進性と最大級のプロ機ラインで攻めるのに対し、共立は軽さ・適正価格・きめ細かな国内サポートで勝負する――選ぶ決め手は、結局のところ「親しみのある販売店が近くにあるか」に行き着きます。

電動化の波にも、北米ECHOブランドの56V「eFORCE」シリーズを軸に対応を進めており、住宅地や公園での騒音規制強化、自治体の機械更新需要を背景に、今後数年で国内でも電動・ハイブリッド機の比重が高まっていく見込みです。世界初の刈払機から始まった共立の現場主義は、形を変えながらこれからも続いていきます。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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