高知県森林会館:CLT普及拠点と高知おおとよ製材社員寮

高知県森林会館:CLT普及拠点と… | Forest Eight

高知県は、県土の84%が森林という日本有数の山国です(森林率は全国2位、全国平均66%を大きく上回ります)。平地が少なく農地を広げにくかったぶん、昔から「林業で食べていく」しかなかった土地。その高知が、いまCLT(直交集成板)建築の全国普及拠点として注目を集めています。その象徴が、高知市丸ノ内に建つ高知県森林会館です。

所在地 高知県高知市丸ノ内
規模 地上4階/延床約1,900㎡
構造 CLT+集成材ハイブリッド木造
主要木材 高知県産スギ・ヒノキ(CLT約500m³規模)
完成 2017年
目次

「県産材で県の林業を語る建物」

森林会館は、ただの県の事務所ではありません。林業振興部門のオフィスでありながら、1階エントランスにはCLTパネルの実物や断面サンプル、ラミナ構成の解説パネルが並ぶ「展示場」でもあります。年間を通じて建築士や施工業者、自治体関係者がここを視察に訪れ、CLT技術研修や林業見学ツアーの起点になっています。

構造はCLTパネル一辺倒ではなく、CLT+集成材のハイブリッド。会議室や展示室のような大空間は柱・梁を大断面の集成材ラーメンで組み、外周壁・床版・階段室コアにCLTパネルを使うという合理的な組み合わせです。CLTの「面材としての強み」と集成材の「線材としての強み」を両取りするこの構成は、いまや日本の中規模公共建築をCLT化するときの事実上の標準解になっています。

大豊町の小さな工場が支える供給網

高知のCLT普及を語るうえで欠かせないのが、人口約3,000人の山間自治体・大豊町にある高知おおとよ製材のCLT工場です。2014年に稼働したこの工場は、岡山・真庭市の銘建工業に次ぐ国内第2のCLT生産拠点で、四国・西日本の地域材CLT供給の中核を担っています。同じ年、工場敷地内に建った3階建ての社員寮は、日本初級の本格的なCLT建築物のひとつとして建築界の注目を集めました。森林会館(2017年)より3年早い、いわば高知CLTの先駆けです。

高知のモデルが面白いのは、「林業→製材→CLT加工→建築施工」を地域のなかでほぼ完結させている点です。森林組合が県産スギ・ヒノキを伐り、県内の製材所がラミナにしてCLTパネルへ加工し、県内のゼネコン・工務店が建てる。輸送距離はおおむね100km圏内に収まり、CO2排出も抑えられます。林野庁が「地材地建(地域材で地域を建てる)」として全国展開を推進する政策フレームの、その原型がここにあります。

丸太からCLTへ——付加価値が8〜10倍に

木材は、加工度を上げるほど価値が跳ね上がります。スギ丸太がm³あたり1万2,000〜1万5,000円ほどなのに対し、製材品で3万〜4万5,000円、構造用集成材で6万〜9万円、そしてCLTパネルになると10万〜15万円。丸太からCLTまで進むと、付加価値はおよそ8〜10倍に広がる計算です。

だからこそ林野庁や経産省は、丸太のまま中国などへ輸出するより、国内でCLTに加工して地域経済への波及を生む方向を志向してきました。高知おおとよ製材のCLT工場は約50〜80名の地域雇用を生み、素材生産業者の受注を底上げし、県内の設計事務所にCLT設計のノウハウを蓄積させています。山間部の雇用維持という、金額に換算しにくい価値もそこにあります。

留山から続く、土佐の森の物語

高知(旧土佐藩)の林業史は、江戸期の留山(とめやま)制度に遡ります。土佐藩は山林を「御留山」「藩山」「百姓山」に区分して優良木材の伐採を厳しく管理し、仁淀川や四万十川の水運で木材を運び出して藩財政を支えました。明治以降の造林奨励、戦後の拡大造林を経て、いまのスギ・ヒノキ人工林資源が形づくられます。そして高知県は2003年、全国に先駆けて独自の森林環境税(年500円)を導入しました。森林会館は、この400年続く土佐の森の物語の延長線上に立つ「21世紀の留山政策の象徴」ともいえる建物です。

高知の地域材建築は森林会館だけではありません。隈研吾の建築が6棟集まり「隈研吾の聖地」と呼ばれる梼原町(人口約3,300人に年間数万人の視察・観光客)、四万十町役場、高知県立林業大学校(香美市)など、県内を縦断する「木造建築回廊」を形づくっています。森林会館はその玄関口として、高知駅から徒歩圏という立地を活かし、視察ツアーの起点になっています。

残された宿題

順風満帆に見える高知のCLTにも、宿題はあります。CLTは依然としてRC造より2〜3割高く、補助金依存からの脱却が課題。主伐したあとに苗を植え直す再造林率は約30%にとどまり、放置林化のリスクを抱えます。林業従事者の高齢化も全国共通の悩みです。それでも高知県は2050年カーボンニュートラルに向けて、森林の吸収量と木材によるCO2固定量の最大化を県政の柱に据えています。延床1,900㎡の森林会館は、それ自体が「都市のなかの人工林」として炭素を抱え込みながら、これから数十年、政策の象徴として機能し続けることになりそうです。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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