真庭市役所本庁舎(岡山・真庭)|地域材の内外装と100%木質バイオマス

岡山県北部、人口4万人ほどの真庭市。市役所の本庁舎は、外装にも内装にも真庭産のスギ・ヒノキが使われ、冷暖房と電力は100%が自然再生エネルギーでまかなわれています。木を「構造材として何m³使ったか」で測ると、この建物はさほど目立ちません。それでも建築図鑑に置く価値があるのは、木の使い道が構造だけではないことを、一棟でまとめて見せているからです。

目次

まずは基本データ

所在地 岡山県真庭市
用途 市庁舎
開庁 2011年4月
木材の使い方 真庭産材を内装材・外装材に活用
エネルギー 100%自然再生エネルギー(木質ペレット・チップによる冷暖房+太陽光発電)
CLTの使用箇所 敷地内のバス待合所(建物本体の構造材ではない)
その他 電気自動車の急速充電器を設置
真庭市役所本庁舎
真庭市役所本庁舎(岡山県真庭市)。真庭産材を内外装に多用し、冷暖房と電力を100%自然再生エネルギーでまかなう。
Photo: Phronimoi / CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

庁舎を木質バイオマスで動かす

この庁舎のいちばんの特徴は、構造でも意匠でもなくエネルギーです。冷暖房の熱源は木質ペレットと木質チップ、電力は太陽光発電。市の中枢施設が、化石燃料に頼らず地域の木で動いています。

木質バイオマスの熱利用は、発電に比べて地味な扱いを受けがちです。しかしエネルギー変換効率で見れば、熱利用のほうがはるかに有利です。木質バイオマス発電の発電効率は規模にもよりますが2〜3割程度にとどまるのに対し、ボイラーで熱として使えば8割前後を取り出せます。「燃やして電気にする」より「燃やして温める」ほうが、木のエネルギーを無駄なく使えるということです。

公共施設は、この熱需要をまとめて持っています。庁舎、学校、病院、温浴施設。真庭市がやっているのは、その熱需要を地域の木材需要へ振り替える作業です。製材で出る端材や林地残材といった、そのままでは売り先の乏しい材に、確実な出口をつくることになります。

目に触れる木を、地域の木にする

内装材・外装材に真庭産材を使うという方針は、構造材で使うのに比べて木材量そのものは小さくなります。それでも意味があるのは、二つの理由からです。

ひとつは、見えることです。庁舎は市民が日常的に出入りする建物で、木が使われていれば必ず目に入ります。「木のまち」を掲げる自治体にとって、市役所そのものが常設の展示になる。

もうひとつは、内装材・造作材の市場は構造材とは別だということです。構造材は強度等級と価格で選ばれ、産地はあまり問われません。一方で内装材は、色味・木目・手触りといった質で選ばれ、産地ブランドが効きます。単価も高い。地域材の出口として、実は内装材のほうが利幅を取りやすい面があります。

CLTがあるのは建物ではなく、バス待合所

真庭とCLTは結びつけて語られることが多いのですが、この庁舎の本体構造はCLTではありません。CLTが使われているのは、敷地内のバス待合所です。

時系列を見れば理由がわかります。庁舎の開庁は2011年4月。CLTの日本農林規格(JAS)が制定されたのは2013年12月、CLTを用いた建築物の一般的な設計法に関する告示が施行されたのは2016年4月です。2011年の時点で、CLTを構造材として庁舎に使う制度的な土台はまだありませんでした。

真庭がCLTの中心地として語られるのは、建物ではなく供給側の話です。市内に本社を置く銘建工業が国内のCLT生産をほぼ単独で立ち上げ、いまも国内シェアの中心を占めています。同社が製造したCLTは、国内初のCLT構造建築となった高知おおとよ製材 社員寮(2014年)にも使われました。真庭は「CLT建築のまち」ではなく「CLTをつくるまち」です。

木を余さず使うという考え方

真庭のやり方を貫いているのは、カスケード利用という考え方です。木は、まず価値の高い用途に使い、そこで出た端材を次の用途へ回し、最後に燃料として熱に変える。1本の木から、できるだけ長い時間と多くの段階の価値を取り出す。

第1段階 建築の構造材・内装材として使う(数十年単位で炭素を固定)
第2段階 製材端材を集成材・CLT・ボード類へ
第3段階 それでも残る木くず・樹皮をペレット・チップへ
第4段階 燃料として熱・電力に変え、化石燃料を置き換える

市役所本庁舎は、この流れの第1段階(内外装材)と第4段階(ペレット・チップ暖房)を同時に体現しています。木造建築の議論は構造材の話に集中しがちですが、林業の収支という観点では、価値の低い材をどう捌くかのほうがしばしば切実です。庁舎が示しているのは、そちら側の答えでもあります。

よくある質問

Q. 木造の庁舎ですか?

本庁舎の構造が木造であるとは公表資料で確認できていません。確認できるのは、真庭産材を内装材・外装材に活用していること、およびバス待合所がCLT製であることです。本記事は構造ではなく木材の使い方とエネルギー利用に絞って扱っています。

Q. 100%自然再生エネルギーとはどういう意味ですか?

木質ペレット・木質チップを燃料とする冷暖房と、太陽光発電によって庁舎のエネルギーをまかなっているという意味です。

Q. 見学できますか?

市庁舎なので開庁時間内であれば内部に入れます。真庭市はバイオマス関連の産業観光ルートを整備しており、庁舎もその立ち寄り先のひとつになっています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次