スウェーデン北部、ボスニア湾に面した人口3.5万人ほどの地方都市シェレフテオ。その中心部に2021年9月、地上20階・高さ75メートルという世界最高層級の木造ハイブリッド建築が誕生しました。Sara Kulturhus Center(サラ・クルトゥルフス・センター)です。劇場・コンサートホール・図書館・美術館に213室のホテルまでを一棟に束ねた、北欧でも類を見ない複合文化施設で、設計はスウェーデン最大級の建築事務所White Arkitekter。なぜ人口わずか3.5万人の街に、これほどの木造タワーが建ったのか――その背景と中身を見ていきます。
「木の街」戦略が生んだ複合文化タワー
シェレフテオは19世紀末から林業と製紙で栄えた街で、近年はNorthvolt社のEVバッテリー工場誘致で人口が急増しています。市はこの成長を受け止めるため「木造都市シェレフテオ(Trästaden)」という都市戦略を掲げ、その文化の核として本施設を計画しました。2016年の国際設計コンペでWhite Arkitekterの案が選ばれ、2018年着工、総工費は約12億スウェーデンクローナ(当時で約160億円)。市内に分散していた劇場・図書館・美術館を一棟に集約し、ガラス越しに各機能が見える「縦の文化通り」として設計されたのが大きな特徴です。
低層と高層で使い分けるハイブリッド構造
20階建てを木でどう支えるのか。答えは、低層部と高層部で構造を切り替えるハイブリッド方式でした。劇場やホールのような大空間が必要な低層部はCLT壁と大断面集成材(GLT)の梁で組み、ホテル客室が並ぶ高層部は、工場で完成させた六面体のCLTモジュール(住戸ユニット)を現場で積み上げる方式を採用。エレベーターや階段を収める鉄筋コンクリートのコア2基が、水平方向の揺れを抑えつつ火災時の避難経路も担います。
| 階層 | 主用途 | 主要構造 |
|---|---|---|
| 1〜6階 | 劇場・図書館・美術館 | RC+GLT大梁+CLT壁 |
| 7〜19階 | オフィス・ホテル客室 | CLT 3次元モジュール(工場プレファブ) |
| 20階 | 屋上スカイバー・スイート | CLT+鉄骨補強 |
| 全階 | コア(EV・階段・設備) | RC(2基) |
使われた木材はCLT・GLT・LVL合わせて約12,200立方メートル。CLTパネルはStora Ensoと地元シェレフテオのMartinsonsが分担して供給し、ホテル部のモジュールはMartinsonsの工場で配線・配管・内装の一部まで組み込んでからトラックで現場へ運び、クレーンで積み上げました。1ユニットは約8×4×3メートル、重さ20〜25トンほどです。
木材は半径60キロの森から
この建物のもう一つの象徴が、構造材をシェレフテオ近郊の北方林に集中して調達した点です。施設から半径60キロ圏のスプルース(オウシュウトウヒ)とパインを主原木とし、地元の製材所で加工された木材が約60キロ離れたCLT工場に集約されました。輸送距離が短いぶん、輸入材に比べて運搬由来のCO2を大きく削減できます。原木はFSC・PEFC認証材が中心で、樹齢80〜120年の年輪が詰まった良質な北方材です。
White Arkitekterによるライフサイクル評価では、約9,000トンのCO2を木材として貯留し、これが建設時に排出した約7,500トンを上回ったと報告されています。算定の境界の取り方で数値には幅がありますが、「同規模の鉄筋コンクリート建築に比べてCO2を4〜5割削減」というレンジは複数の評価でおおむね一致しています。
世界の高層木造のなかでの位置づけ
同時代の高層木造と並べると、Sara Kulturhusの個性がはっきりします。
| 建物 | 国 | 高さ | 階数 | 用途 | 竣工 |
|---|---|---|---|---|---|
| Ascent MKE | 米国 | 86.6 m | 25 | 住宅 | 2022 |
| Mjøstårnet | ノルウェー | 85.4 m | 18 | 複合(住宅・ホテル) | 2019 |
| HoHo Wien | オーストリア | 84.0 m | 24 | 複合(オフィス・ホテル) | 2019 |
| Sara Kulturhus | スウェーデン | 75.0 m | 20 | 複合(文化・ホテル) | 2021 |
| Brock Commons | カナダ | 53.0 m | 18 | 学生寮 | 2017 |
MjøstårnetやAscent MKEは高さでは上回りますが、用途は住宅やオフィスが中心です。これに対しSaraは、劇場・図書館・美術館という公共の文化機能と、ホテル・レストランという商業機能を構造的に一棟へ統合した「文化複合タワー」である点で際立っています。設計者が一貫して語るのも、高さ競争ではなく「社会的機能の集約と街への貢献を木で実現した」ことでした。Prix Versailles 2022をはじめ国際賞を相次いで受賞し、いまや各国の建築・林業関係者の視察先として定着しています。
日本への示唆
Saraの開館は、世界の中・高層木造に具体的な手本を示しました。日本でも住友林業のW350構想、大林組のPort Plus(横浜・11階・44m、2022年)、各地のCLTオフィスや集合住宅などが進んでおり、「複合機能・地域材・モジュール工法・LCA配慮」というSaraのパッケージはしばしば参照されています。20階・75メートル級の木造はまだ国内に例がありませんが、耐火集成材やモジュール工法の進歩を考えると、2030年代には商業ベースで現実味を帯びてくるはずです。
よくある質問
Q. ホテルに一般予約で泊まれますか?
はい。The Wood Hotel by Eliteとして運営され、公式サイトや主要予約サイトから泊まれます。最上階のSky Barは市街と川を一望でき、宿泊客以外も利用できます。
Q. 12,000立方メートルの木材って、どのくらいの量ですか?
木造戸建て(30坪・軸組)の構造材を約20立方メートルとすると、おおよそ600棟分に相当します。これで約9,000トンのCO2を建物に貯め込んでいる計算です。
Q. 高さ75メートルで風揺れは大丈夫なのですか?
鉄筋コンクリートのコア2基と木造モジュールを組み合わせ、揺れを居住性能の基準内に収めています。北欧は地震が少なく、設計上の主な課題は風と雪の荷重で、構造減衰の工夫で実用上の問題は出ていません。

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