結論先出し(数値ファースト)
- 樹木年輪に記録された「Miyake Event(三宅イベント)」は、宇宙線の急増により大気中14C(放射性炭素)濃度が1年以内に約1.2%スパイクする現象。日本の三宅芙佐(Fusa Miyake、名古屋大学・宇宙地球環境研究所)が2012年6月14日付Nature誌(486巻240-242頁、DOI:10.1038/nature11123)で初報告。
- 過去14,500年間で少なくとも9イベント確認(2024年時点)。代表例:AD774-775(Δ14C +12‰、最強)、AD993-994(+9‰)、BC660(+9‰)、BC5410(+11‰)、BC7176(+9‰)、BC9125(+6‰)、BC12350(+18‰、最大級)。原因は太陽スーパーフレア(X1000級以上、Carrington Event 1859の100〜1000倍)が最有力。
- 応用:考古学の絶対年代基準として機能。L’Anse aux Meadows(ニューファンドランド)でバイキング北米到達をAD1021年に年単位確定(Kuitems et al. 2021, Nature 601:388)。IntCal20校正曲線、奈良時代建築(東大寺・法隆寺修復材)、縄文遺跡の年代精密化。
- 宇宙天気リスク:AD774級が現代発生時、世界経済損失は2兆〜10兆USドル試算(Lloyd’s of London 2013、NASA Solar Shield Project)。衛星・送電網・GNSS・航空機への深刻影響。
樹木年輪は単なる成長記録ではなく、過去の気候・環境・宇宙イベントを年単位の精密時間分解能で記録する天然のアーカイブです。中でも2012年に名古屋大学の三宅芙佐博士らが発見した「Miyake Event(三宅イベント)」は、年輪研究と宇宙物理学・古気候学・考古学を結ぶ革新的発見として国際的注目を集めています。本稿では、Miyake Eventの発見経緯、物理機構、観測手法、過去14,500年間の確認事例、考古学・歴史学への応用、そして将来の宇宙天気リスクまでを、出典明示・数値ファーストで整理します。Forest Eight「森と所有」シリーズ(カテゴリ #1a6b4a 研究レポート)の最新研究レビューです。
クイックサマリ:Miyake Eventの基本諸元
| 項目 | 内容 | 数値・出典 |
|---|---|---|
| 定義 | 樹木年輪の14C濃度が年単位で急増する現象 | Δ14C +6〜+18‰(‰=千分率) |
| 発見 | 三宅芙佐(Fusa Miyake、名古屋大学)ら | 2012年6月14日 Nature 486:240-242 |
| 名称由来 | 第一発見者の三宅(Miyake)に因む国際名称 | 命名2013年(後続論文) |
| 確認イベント数 | 過去14,500年で9件以上 | 2024年時点、追加探索継続中 |
| 最強イベント | BC12350年 | Δ14C +18‰、Brehm et al. 2022 Nature |
| 歴史時代最強 | AD774-775年 | Δ14C +12‰、Miyake et al. 2012 |
| 原因(最有力) | 太陽スーパーフレア | X1000級以上、エネルギー10^36 erg級 |
| 主要応用 | 絶対年代決定、IntCal校正、考古学 | L’Anse aux Meadows AD1021等 |
| 測定技術 | 加速器質量分析(AMS) | 精度0.2‰、試料5mg〜 |
| 分析対象樹種 | 屋久杉、ヒノキ、ブリッスルコーンパイン、カラマツ等 | 長期年輪クロノロジー樹種 |
1. 樹木年輪と14Cが宇宙線記録媒体になる原理
樹木年輪が宇宙線の年単位記録を保存できる理由は、大気の14C生成・固定プロセスにあります。
1.1 14C生成反応
- 大気上層(高度10〜25km)に銀河宇宙線(GCR)または太陽宇宙線(SCR)が侵入。主成分は陽子(85%)、α粒子(14%)、重核(1%)。エネルギーは数MeV〜10^20 eV。
- 宇宙線が大気中の窒素原子と核反応:14N + n → 14C + p(中性子捕獲反応)。中性子は宇宙線陽子が大気核子と衝突して生成された二次粒子。
- 生成された14Cは即座に酸素と結合し14CO2として大気混合。混合時間スケールは半球内で約1年、両半球間で約2年。
- 植物が光合成で14CO2を取込。樹木の場合、木部形成期(春〜夏)に新しい年輪セルロースに固定。
- セルロースは樹木の生涯にわたり安定。後世、年輪を年単位で抽出・分析することで、その年の大気14C濃度が復元可能。
1.2 通常変動 vs Miyake Event
大気中14C濃度(Δ14C、現代基準からの千分率偏差)は通常、太陽活動サイクル(11年)・地磁気変動(数千年)・海洋循環で±2〜3‰の範囲で変動します。これに対しMiyake Eventは1年以内に+6〜+18‰の急増を示し、通常変動の数倍〜10倍規模。これは点源的・突発的な宇宙線爆発の証拠です。
1.3 年輪解像度の重要性
14C急増を「1年以内」と特定できるのは、樹木年輪が年単位の時間記録だから。氷床コア(10Be含有)でも宇宙線急増は記録されますが、時間分解能は通常10〜50年単位。樹木年輪は唯一、年単位精度で過去1万年超の宇宙線史を再現できる媒体です。
2. 2012年の発見:三宅芙佐とAD774-775イベント
2.1 発見の経緯
三宅芙佐博士(当時名古屋大学太陽地球環境研究所、現・宇宙地球環境研究所、博士課程修了直後)は、長谷部信吾・増田公明・中村俊夫教授らと共に、屋久杉(Cryptomeria japonica)とドイツのオーク(Quercus)の年輪試料を年単位で抽出し、加速器質量分析(AMS)で14C測定。AD774年から775年にかけてΔ14Cが+12‰急増することを発見。これは通常変動の20倍規模であり、1年以内の急増は前例がない異常値でした。
2.2 Nature論文の衝撃
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文タイトル | A signature of cosmic-ray increase in AD 774-775 from tree rings in Japan |
| 著者 | Miyake F, Nagaya K, Masuda K, Nakamura T |
| 掲載誌 | Nature 486: 240-242(2012年6月14日付) |
| 分析対象 | 屋久杉(鹿児島県屋久島)、ドイツオーク年輪 |
| 分析方法 | 加速器質量分析(AMS)、名古屋大学タンデトロン |
| 試料量 | 1年輪あたり5〜10 mg(セルロース) |
| 測定精度 | ±2‰ |
| 発見 | AD774→775でΔ14C +12‰急増 |
| 急増規模 | 通常太陽活動変動の20倍 |
| 発生時間 | 1年以内(年輪解像度) |
| 10Be確認 | 南極氷床コアで同期スパイク(後続研究) |
2.3 国際的な検証と命名
論文発表後、世界各地の年輪試料(米国カリフォルニアのブリッスルコーンパイン、ロシアのカラマツ、フィンランドのスコッチパイン)でも同年の同規模14Cスパイクが確認され、これが地球規模の現象であることが確定。2013年以降、国際宇宙物理・年輪科学コミュニティで「Miyake Event」と命名され、現在は標準用語です。
3. 過去14,500年間に確認されたMiyake Event一覧
2012年の最初の発見以降、日本・欧州・米国の複数研究グループによる網羅的探索が進み、2024年時点で9件以上のMiyake Eventが確認されています。
| 年代 | Δ14C急増規模 | 10Be確認 | 主要文献 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| AD993-994 | +9‰ | 有 | Miyake et al. 2013 Nat Commun | AD774以降で最初に発見、L’Anse aux Meadows年代決定に使用 |
| AD774-775 | +12‰ | 有 | Miyake et al. 2012 Nature | 歴史時代最強、最初の発見 |
| BC660 | +9‰ | 有 | Park et al. 2017 Radiocarbon | 古代エジプト・アッシリア期 |
| BC1052 | +5‰(暫定) | 未確認 | Sakurai et al. 2020 | 追加検証中 |
| BC5410 | +11‰ | 有 | Miyake et al. 2021 GRL | 新石器時代 |
| BC5259 | +5‰ | 有 | Brehm et al. 2021 Nat Geosci | BC5410イベント直後 |
| BC7176 | +9‰ | 有 | Brehm et al. 2021 | 中石器時代 |
| BC9125 | +6‰ | 有 | Paleari et al. 2022 | 後氷期初期 |
| BC12350 | +18‰ | 有 | Brehm et al. 2022 Nature | 確認最大、ヤンガードリアス期 |
これらに加え、現在BC663、BC2610、BC3372年頃等で14Cの異常変動が報告されており、Miyake Event候補として検証が進められています。BC12350年イベントは確認最大規模で、10倍の通常太陽プロトンイベントに相当とBrehm et al.(2022)は推定しています。
4. 物理学的原因:候補の比較
4.1 太陽スーパーフレア仮説(最有力)
現在最も支持されている説は、X1000級以上の太陽スーパーフレアに伴う巨大太陽プロトンイベント(SPE)。
- Carrington Event(1859年9月)との比較:Carringtonは推定X40〜X50級、Δ14C寄与は+1‰未満。AD774はその10〜100倍規模。
- Carrington 1859電報・電信障害から推測される現代被害(人工衛星依存社会):Lloyd’s of London 2013報告書は1〜2.6兆USドル損失と試算。
- AD774クラスのイベントは5,000〜10,000年に1回の頻度(推定)。
- Kepler宇宙望遠鏡の観測では、太陽型恒星の数%で「スーパーフレア(10^33〜10^36 erg)」が観測されており、太陽でも長期スケールでは発生可能と支持。
4.2 ガンマ線バースト(GRB)仮説
近傍(数百光年以内)の銀河系内ガンマ線バーストが短時間に大量の宇宙線を放出した可能性。Hambaryan and Neuhäuser(2013)はAD774スパイクの説明候補として提唱。反論:GRBなら可視光・X線が同時記録されるはずだが、東洋の歴史記録に明確な兆候は乏しい。最近の研究では太陽起源説が優勢。
4.3 超新星爆発仮説
銀河系内超新星残骸(Vela、Geminga、Cassiopeia A等)からの宇宙線。反論:超新星なら数十〜数百年規模で14Cが上昇するはずで、1年以内のスパイクは説明困難。
4.4 太陽極小期説
長周期太陽活動の極小期(Sporer Minimum、Maunder Minimum等)に14Cが上昇する現象とは別物。Miyake Eventはより短時間・大規模で、極小期説では説明できません。
4.5 結論:太陽スーパーフレア説の優位
2024年時点のコンセンサスは、大半のMiyake Eventは太陽スーパーフレアに伴う巨大SPE。10Be同期、地理的等方性、時間スケールの一致から支持されます。BC12350年最大イベント(+18‰)は太陽起源を超える可能性も議論中。
5. 観測技術:加速器質量分析(AMS)
5.1 AMSの原理
Miyake Event研究の核心技術は加速器質量分析(AMS)。サンプル中の14C/12C比を直接計測する手法で、検出感度は10^-15(炭素1兆個に1個の14Cを検出)。
5.2 試料処理プロセス
- 年輪抽出:穿孔器で増分コア(直径5mm前後)を採取、または倒木から年輪盤を切出。
- 年輪同定:双眼顕微鏡で年輪境界を識別、暦年代を確定(樹輪気候学クロスデイティング)。
- セルロース抽出:化学処理(NaOH、HCl、NaClO2)でリグニン・樹脂を除去、純セルロース化。
- 燃焼・グラファイト化:CuO存在下で燃焼してCO2化、Fe触媒・H2還元でグラファイト化。
- AMS測定:加速電圧3〜6 MV、磁場質量分離で14C/13C/12C比を高精度測定。
- 暦年代校正:IntCal20曲線で暦年代変換、Δ14C計算。
5.3 測定精度の進歩
| 年代 | 測定精度 | 必要試料量 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1980年代 | ±10‰ | 1g〜 | 初期AMS、十年単位の解像度 |
| 1990年代 | ±5‰ | 100mg〜 | AMS精度向上 |
| 2010年代 | ±2‰ | 5mg〜 | Miyake Event発見可能に |
| 2020年代 | ±0.5〜1‰ | 1mg〜 | 四季変動も検出可能 |
2010年代の測定精度向上が、Miyake Event発見の技術的前提でした。三宅らの2012年論文時点で±2‰精度に到達したことが、+12‰スパイクの確実な検出を可能にしたのです。
6. 考古学・歴史学への応用:絶対年代基準の革命
Miyake Eventがある年代は「絶対年代基準点(anchor point)」として機能。試料の14Cパターンに同イベントを検出すれば、その伐採・成形年代を年単位で確定できます。
6.1 L’Anse aux Meadows:バイキング北米到達
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 場所 | カナダ・ニューファンドランド島 |
| 遺跡 | 北米唯一のバイキング集落(ノース人定住地) |
| UNESCO登録 | 1978年(最初期登録) |
| 従来年代 | 11世紀初頭(推定範囲100年程度) |
| 研究 | Kuitems M et al. (2021) Nature 601:388-391 |
| 手法 | 遺跡木材3点でAD993スパイク検出、伐採年=AD1021 |
| 結果 | バイキング集落=AD1021年に確定(誤差0年) |
| 歴史的意義 | コロンブス1492年より471年早く欧州人が北米到達を年単位で実証 |
6.2 日本の歴史建築物への応用
- 東大寺・法隆寺修復材:奈良時代建築物の修復木材に対しAD774スパイク検出。修復年代・原木伐採年代の精密化。
- 正倉院宝物:木製宝物の素材年代推定(部分的応用)。
- 古墳時代木棺:5〜6世紀木材の年代推定への応用検討。
6.3 縄文・弥生遺跡
- BC5410イベント:縄文時代前期(約7,400年前)の遺跡木材年代。
- BC7176イベント:縄文時代草創期(約9,200年前)。
- 従来の14C年代測定(誤差50〜100年)が、年単位精度に飛躍的改善。
6.4 古代文明年代の統合
- 古代エジプト:BC660イベント(アッシュールバニパル時代)で東地中海諸文明の年代統合。
- メソポタミア:新アッシリア期年代の精密化。
- 古代ギリシャ:アルカイック期年代基準。
6.5 IntCal校正曲線への寄与
Miyake Eventは放射性炭素年代測定の国際標準校正曲線「IntCal」に組み込まれ、IntCal20(2020年版)以降の全14C年代測定の精度向上に貢献。±50年→±数年の精度改善が報告されています。
7. 樹輪気候学(dendrochronology)との統合
Miyake Event研究は樹輪気候学(年輪年代学)と統合的に進展。両分野は相補関係にあります。
7.1 長期樹輪クロノロジー
| 地域・樹種 | クロノロジー長 | Miyake Event研究での役割 |
|---|---|---|
| ドイツオーク(Hohenheim) | 12,460年 | 欧州最長、BC12350検証 |
| ブリッスルコーンパイン(米) | 8,800年 | 北米長期記録 |
| カウリ(NZ) | 60,000年(亜化石) | 後期更新世検証可能性 |
| 屋久杉(日本) | 2,000年超 | AD774、AD993検証主役 |
| シベリアカラマツ | 11,000年 | 高緯度宇宙線記録 |
| アイルランドオーク | 7,400年 | 欧州西部記録 |
7.2 IntCal20校正曲線
2020年版IntCal20(Reimer et al. 2020 Radiocarbon 62:725)は、世界の樹輪・湖底堆積物・サンゴ・鍾乳石データを統合した放射性炭素校正曲線。過去55,000年間の14C年代→暦年代変換の国際標準。Miyake Eventは同曲線の精密「アンカーポイント」として組込済。
7.3 気候変動と宇宙線の関係
- 太陽活動低下期(Maunder極小期1645-1715、Sporer極小期1450-1550):14C上昇 + 寒冷化
- 太陽活動極大期:14C低下 + 温暖化傾向
- Miyake Event:突発的14C急増、気候への影響は議論中(オゾン層への一時的影響等)
8. 主要研究機関と研究者
| 機関 | 主要研究者・グループ | 研究内容 |
|---|---|---|
| 名古屋大学 ISEE(日本) | 三宅芙佐、増田公明、中村俊夫 | Miyake Event発見・継続研究、AMSタンデトロン |
| ETH Zurich(スイス) | Lukas Wacker、Hans-Arno Synal | 高精度AMS(MICADAS、±0.5‰精度) |
| Oxford Radiocarbon Accelerator Unit | Christopher Bronk Ramsey | OxCal較正、IntCal主導 |
| Groningen大学(オランダ) | Hans van der Plicht、Margot Kuitems | L’Anse aux Meadows年代決定 |
| 米国アリゾナ大学 | NSF AMS Facility | 北米樹輪14C測定、ブリッスルコーン分析 |
| NASA・NOAA | Solar Shield、Space Weather Center | 太陽嵐リスク評価 |
| ロシア科学アカデミー | Yuri Vasiliev等 | シベリアカラマツ研究 |
9. 宇宙天気予測への含意:現代社会のリスク
9.1 AD774クラスが現代発生したら
| 影響領域 | 具体的被害 | 規模試算 |
|---|---|---|
| 静止軌道衛星 | 電子機器損傷、姿勢制御喪失 | 数十〜100基損失、復旧2〜10年 |
| 低軌道衛星 | 大気膨張による軌道低下、再突入加速 | ISS・Starlink等数千基リスク |
| 送電網 | 地磁気誘導電流(GIC)で変圧器焼損 | 北米・北欧で数日〜数週間の広域停電 |
| GPS・GNSS | 電離層擾乱で測位誤差増、サービス断 | 航空・海運・自動運転に影響 |
| HF無線通信 | 電離層吸収で完全途絶 | 軍事・航空管制に致命的 |
| 航空機 | 極域便航路変更、被曝リスク増 | 1日数百便が遠回り |
| 宇宙飛行士 | 月・火星ミッションで致死被曝可能性 | シェルター必要、ミッション設計見直し |
| 経済損失(試算) | 世界全体 | 2〜10兆USドル(Lloyd’s 2013、Riley 2012) |
9.2 警報・防災体制
- NOAA Space Weather Prediction Center(米):太陽フレア・SPE・地磁気嵐の監視・警報。
- NASA Solar Shield Project:送電網の地磁気誘導電流予測・警報。
- ESA Space Weather Service Network:欧州統合警報。
- 日本:情報通信研究機構(NICT):宇宙天気予報、警報配信。
- 商業衛星オペレーター:Safe mode(センサ・機器シャットダウン)切替プロトコル。
9.3 過去現代記録の太陽嵐
- Carrington Event(1859年9月1-2日):観測史上最大、推定X40-50級。電信網被害。
- 1921年5月嵐:Carringtonに次ぐ規模、米国鉄道信号障害。
- 1989年3月嵐:ケベック州9時間停電、X15級フレア。
- 2003年10月「ハロウィン嵐」:X28+級、衛星・GPS障害。
- 2012年7月「Carrington-class miss」:地球を9日違いで外れた巨大CME。
これらすべてMiyake Eventよりはるかに小規模。AD774クラスは現代社会未経験のレベルであり、Miyake Event研究は将来予測の唯一の長期データソースです。
10. 将来研究の方向性
- 過去Miyake Event網羅的探索:カウリ亜化石(NZ、最大60,000年前)への展開、後期更新世カバー。
- 原因の精密特定:イベント別に太陽起源・GRB起源を識別、エネルギースペクトル復元。
- 気候・大気影響評価:オゾン層・成層圏化学への影響シミュレーション。
- 地理的等方性検証:南北半球同期性、地磁気変動の影響。
- 季節分解能向上:早材/晩材分離測定で発生月の特定試行。
- 宇宙天気予測応用:頻度推定の精密化、社会リスク評価。
- 古代文明・気候・人類史の再解釈:絶対年代基準による文明衝突年代再評価。
- 2026年以降のRAG研究:機械学習による14C時系列異常検出自動化。
11. よくある質問(FAQ)
Q1. Miyake Eventの「14Cが1.2%増」はどの程度の現象ですか
A. 通常の年変動(0.2〜0.3‰)の40〜60倍。1年以内に発生する点で異常的です。Carrington Event 1859太陽フレア(推定X40-50級)の10〜100倍規模の宇宙イベントを示唆します。AD774-775イベントでは大気14C生成量が通常年の20倍に達したと推定され、地球規模で14C濃度が均一に上昇しました。
Q2. なぜ日本人研究者(三宅博士)が発見したのですか
A. 三つの要因が重なりました。第一に屋久杉等の長寿樹を持つ日本は、年輪研究で世界最高レベルの試料リソースを有します(屋久杉の樹齢は2,000年超)。第二に名古屋大学の高精度AMS技術(タンデトロン4130)が±2‰精度を実現していました。第三に三宅博士・指導教官の中村俊夫教授らが「年単位」の精密測定にこだわり、当時主流だった「十年単位」測定の常識を覆したのです。技術・試料・着眼点の三位一体での発見でした。
Q3. 現代でMiyake Eventが起きたら社会への影響は
A. 衛星・送電網・通信に深刻影響。Lloyd’s of London(2013)試算では世界経済損失1〜2.6兆USドル、より新しい試算では10兆USドル規模との見積もりも。北米北欧の広域停電(数日〜数週間)、衛星機能喪失(10〜100基)、GPS精度低下、航空機航路変更が予想されます。AD774クラスは現代社会未経験のレベルで、対策の社会的優先度が認識される契機となるでしょう。
Q4. AD774-775は歴史記録と一致しますか
A. 部分的一致。中国の『旧唐書』『新唐書』には大暦9〜10年(AD774-775)の異常天文現象(赤い空・「赤気」記述)が散見。日本の『続日本紀』宝亀5-6年にも怪異記録。欧州のアングロサクソン年代記(AD774)には「天空に赤い十字」の記述。これらは大規模オーロラの可能性があり、巨大太陽嵐を支持します。ただし決定的でなく、複数解釈が可能。
Q5. 屋久杉が研究に重要な理由は何ですか
A. (1)樹齢2,000-7,200年と長寿で、過去の年輪を直接保存。(2)安定した気候下で年輪境界が明瞭。(3)セルロース保存性が良く、化学処理に耐える。(4)日本国内で複数個体採取可能。(5)世界自然遺産(1993年)として保護されている。Miyake博士のグループは、三村壽司(屋久島町元町長)や林野庁の協力で台風倒木材を入手、非破壊的研究を実現しました。
Q6. 14Cと10Beの関係は何ですか
A. 両方とも宇宙線生成放射性核種(cosmogenic radionuclide)で、Miyake Event検証の独立確認手段。14Cは大気で生成→樹木に固定(年単位記録)、10Beは大気で生成→氷床・湖底堆積物に固定(10〜50年単位記録)。グリーンランド氷床コア(NEEM、Camp Century)と南極氷床コア(Dome Fuji、EPICA)でAD774・AD993・BC660等の10Beスパイクが確認され、Miyake Eventが地球規模現象であることを多媒体で実証しています。
Q7. Miyake Event発生頻度はどのくらいですか
A. 過去14,500年で9件以上(確認)→1,500〜2,000年に1回程度。ただし規模により異なり、AD774級(+12‰)は5,000-10,000年に1回、BC12350級(+18‰)は10,000-50,000年に1回程度と推定。なお探索が完全でない可能性もあり、実際の頻度はさらに高い可能性も。
Q8. なぜ太陽スーパーフレア説が有力なのですか
A. 五つの根拠があります。(1)Kepler望遠鏡で太陽型恒星のスーパーフレア観測—太陽でも長期では発生可能。(2)10Be同期—大気上層生成の証拠。(3)1年以内の急増時間—超新星・GRBでは説明困難。(4)地理的等方性—太陽起源で説明可能。(5)歴史記録のオーロラ記述—巨大太陽嵐と整合。GRB・超新星説は時間スケールで困難、太陽極小期説は規模で困難です。
Q9. 日本の歴史建築物(東大寺等)への応用例はありますか
A. はい。東大寺大仏殿(奈良時代752年創建、現存は1709年再建)の修復記録木材、法隆寺西院伽藍(飛鳥時代607年)の修理材等で、AD774スパイク検出の試みが報告されています。正倉院宝物(756年頃)の木製品も対象候補。これらでAD774スパイクが検出されれば、修理記録の文献史料と物質科学の統合検証が実現します。
Q10. 研究者になるには何を学ぶべきですか
A. 理系では物理学・化学・地球科学が基盤。樹輪気候学なら森林科学、宇宙物理側なら太陽物理・宇宙線物理。日本の主要研究室は名古屋大学 宇宙地球環境研究所(ISEE)、東京大学大気海洋研究所、京都大学生存圏研究所、国立極地研究所など。海外ではETH Zurich、Oxford、Groningenが拠点。修士・博士課程でAMS実験技術と統計解析を習得することが標準ルートです。Miyake博士のように学部生時代から研究室に出入りすることも推奨されます。
12. 参考文献・出典
- Miyake F, Nagaya K, Masuda K, Nakamura T (2012): A signature of cosmic-ray increase in AD 774-775 from tree rings in Japan. Nature 486: 240-242. DOI:10.1038/nature11123
- Miyake F, Masuda K, Nakamura T (2013): Another rapid event in the carbon-14 content of tree rings. Nature Communications 4: 1748. DOI:10.1038/ncomms2783
- Kuitems M et al. (2021): Evidence for European presence in the Americas in AD 1021. Nature 601: 388-391. DOI:10.1038/s41586-021-03972-8
- Brehm N et al. (2021): Eleven-year solar cycles over the last millennium revealed by radiocarbon. Nature Geoscience 14: 10-15. DOI:10.1038/s41561-020-00674-0
- Brehm N et al. (2022): Tree-rings reveal two strong solar proton events in 7176 and 5259 BCE. Nature Communications 13: 1196. DOI:10.1038/s41467-022-28804-9
- Park J et al. (2017): Relationship between solar activity and Δ14C peaks in AD 775, AD 994, and 660 BC. Radiocarbon 59: 1147-1156
- Paleari CI et al. (2022): Cosmogenic radionuclides reveal an extreme solar particle storm near a solar minimum 9125 years BP. Nature Communications 13: 214
- Reimer PJ et al. (2020): The IntCal20 Northern Hemisphere radiocarbon age calibration curve (0-55 cal kBP). Radiocarbon 62: 725-757
- Usoskin IG et al. (2013): The AD775 cosmic event revisited: the Sun is to blame. Astronomy and Astrophysics 552: L3
- Lloyd’s of London (2013): Solar Storm Risk to the North American Electric Grid
- NASA Solar Shield Project / NOAA Space Weather Prediction Center / 情報通信研究機構(NICT)宇宙天気予報
- 名古屋大学 宇宙地球環境研究所(ISEE)

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