社寺の森を歩いていて、幹の樹皮が丸い斑点状にぽろぽろ剥がれ、まるで子鹿の背中のようなまだら模様になった木に出会ったら、それがカゴノキ(鹿子の木、Litsea coreana)です。和名はそのまま「鹿の子(しかのこ)模様の木」という意味。関東以南の照葉樹林や鎮守の森に育つクスノキ科の常緑高木で、幹を見ただけで名前が分かる、樹木観察にうってつけの一本です。
樹皮の鹿の子模様ができるしくみ
カゴノキの幹が肥大していくと、いちばん外側のコルク層が引き伸ばされて亀裂が入り、直径2〜5cmほどの薄片となって剥がれ落ちます。剥がれた跡には淡い黄白色の若い樹皮が顔を出し、時間とともにまた暗くなっていく。これが繰り返されるので、暗い地色に淡い斑点が散らばる鹿の子模様が、常に更新されながら保たれるのです。
この模様が出てくるのは、おおむね樹齢15〜25年、幹の直径が5〜10cmを超えたあたりから。直径20cmを超える壮齢期には、見事な斑紋が完成します。若木のうちは樹皮がつるりとしていて分かりにくいので、その場合は葉や花で見分けます。葉は長楕円形で長さ7〜13cm、厚い革質で光沢があり、揉むとクスノキ科らしい弱い芳香があります。なお、似たまだら模様の木にカリンやサルスベリ、リョウブがありますが、いずれも別の科の落葉樹。常緑で革質の葉を持つカゴノキとは、葉と季節を見ればすぐ区別できます。
晩秋に咲き、社寺の森で大木になる
カゴノキはタブノキやスダジイ、アラカシが優占する照葉樹林の、中木層から亜高木層を担う樹種です。花は9〜10月という晩秋に咲き、淡黄色の小花を葉のつけ根に密につけます。雌雄異株で、実をつけるのは雌株だけ。直径7mmほどの実は翌秋に黒紫色に熟し、ヒヨドリやメジロが食べて種を運びます。蜜源の乏しくなる晩秋に咲くため、ミツバチやハナアブにとって貴重な花でもあります。
とりわけ社寺の境内林(社叢林)に大木が多いのが特徴です。鎌倉の鶴岡八幡宮、京都の伏見稲荷大社、奈良の春日山原始林、宮崎の高千穂神社などで、樹齢数百年級の堂々たる個体が記録されています。神域として長く伐採を免れてきたことで、カゴノキの大木がこうした森に生き残ったのです。市町村指定の天然記念物になっている古木も各地にあります。耐陰性が高く、暗い林の下でも芽生えがじっと待機できるため、極相林の安定した構成種として世代を継いでいきます。
緻密で重い、味わいのある材
カゴノキの木材は気乾比重0.6ほどの中〜重硬材。スギやヒノキよりずっと重く、ケヤキとほぼ同じくらいで、緻密で耐摩耗性に富みます。流通量はわずかですが、地域材として独特の使われ方をします。とくに人気なのが、あの樹皮の鹿の子模様をそのまま意匠として生かした数寄屋建築の床柱や、皮付き丸太のテーブル。ほかにも家具材、火持ちのよい薪炭材、農具の柄やまな板といった耐摩耗性の求められる小物に使われてきました。乾燥時に狂いが出やすいので、製材後はじっくり乾かす工程が欠かせません。
カゴノキは大規模な植林の対象ではありませんが、暖温帯照葉樹林や社叢林の保全、地域広葉樹の小ロット利用、自然観察の教材という観点から見直されつつあります。こうした照葉樹林・社叢林の整備は森林環境譲与税の活用対象でもあり、詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照ください。
よくある質問
樹皮がカリンに似ていますが?
模様は似ていますが別の科です。カリンはバラ科の落葉樹で、葉に鋸歯があり春にピンクの花、秋に大きな黄色い実をつけます。カゴノキはクスノキ科の常緑樹で、革質の全縁の葉と晩秋の淡黄色の小花が特徴。葉と季節を見ればすぐ分かります。
鹿の子模様はいつから出ますか?
幹の直径が5〜10cmになる樹齢15〜25年ごろから剥離が始まり、直径20cmを超える壮齢期に典型的な模様が完成します。若木のうちは樹皮がなめらかなので、葉や花で見分けてください。
庭木にできますか?
関東以南の暖地なら可能です。樹皮の景観美が魅力で、自然風の庭や社寺、公園に向きます。日向〜半日陰の適度に湿った土を好み、樹形が乱れにくく管理しやすい木です。植えてから10年ほどで鹿の子模様が出始めます。

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