秋田市郊外の丘陵、雑木林に囲まれた国際教養大学のキャンパスに、半円形の図書館があります。中嶋記念図書館――2008年竣工、仙田満の設計です。半円の階段状に書架が並び、その上を秋田杉の柱と梁が傘のように放射状に開いて覆う。「本のコロセウム」というコンセプトそのままの空間で、24時間365日開いている図書館としても知られています。
まずは基本データ
| 所在地 | 秋田県秋田市雄和(国際教養大学キャンパス内) |
|---|---|
| 用途 | 大学図書館 |
| 竣工 | 2008年 |
| 平面形状 | 半円形平面・段状断面(すり鉢状の閲覧空間) |
| 主要木材 | 秋田杉の芯持材(径 約5〜8寸、長さ 約4〜8m) |
| 屋根架構 | 放射状に開く傘型の木造架構 |
| 設計 | 仙田満+環境デザイン研究所 |
| 構造設計 | 山田憲明 |
| 開館 | 24時間365日(大学の運用による) |

Photo: Mariwlqs / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
集成材ではなく、丸太に近い「芯持材」を使う
この建物で最も特徴的なのは、木材の選び方です。中大規模木造の定石は集成材やCLTといったエンジニアードウッド。品質が均質で、強度計算がしやすく、大断面も自由につくれます。
中嶋記念図書館は、そこであえて秋田杉の芯持材を選びました。芯持材とは、丸太の中心(髄)を含んだまま製材した材のこと。径5〜8寸(約15〜24cm)、長さ4〜8m程度という寸法は、山から出てくる一般的な人工林のスギをほとんど加工せずに使えるサイズです。
技術的にはハードルが上がります。芯持材は乾燥にともなって背割れが入り、ねじれや反りも出やすい。集成材のように「設計どおりの部材が工場から届く」わけではありません。それでも芯持材を選んだのは、秋田杉という地域資源を、製材所レベルの流通で、追加設備なしに建築へ通せるようにするためです。集成材にするには工場を経由し、コストと輸送が乗る。芯持材なら地域の製材所がそのまま供給者になれます。
傘型架構という解き方
とはいえ、径15〜24cm程度の部材で大空間の屋根を支えるのは容易ではありません。長い距離を一本で飛ばすことができないからです。
そこで採られたのが傘型の架構です。中心付近に立てた柱から放射状に部材を開かせ、傘の骨のように屋根面を支える。放射方向に部材を並べれば、一本あたりが負担するスパンは短くなり、細い材でも成立します。半円形の平面と段状の断面は、この傘型架構ときれいに対応しています。すり鉢状に下がっていく閲覧空間の中心に力の集まる点があり、そこから外へ向かって木が開いていく。構造の原理と空間体験が完全に一致した構成です。
秋田杉のいまと、この建物の位置
秋田杉は木曽ヒノキ・青森ヒバと並ぶ日本三大美林のひとつです。ただし「天然秋田杉」の伐採は2012年度をもって全面的に終了しており、現在流通する秋田杉は基本的に人工林材です。
つまりこの図書館が使ったのは、銘木としての天然秋田杉ではなく、これから大量に利用期を迎える人工林のスギでした。2008年という竣工年は、公共建築物等木材利用促進法(2010年)より前。制度が動く前に、「人工林の中小径材をそのまま建築に使う」という問いに一つの答えを出していたことになります。
同じ秋田県内では、1997年の大館樹海ドームが秋田スギ集成材で大空間をつくりました。集成材で大断面をつくる道と、芯持材のまま架構で解く道。秋田という一つの県に、木の使い方の二つの方向性が並んで建っているのは示唆的です。
よくある質問
Q. 学外の人も入れますか?
大学の図書館ですが、一般開放の枠組みが設けられています。利用条件・時間帯は大学の公式案内で確認してください。24時間365日開館は在学生向けの運用です。
Q. 芯持材と芯去り材の違いは何ですか?
丸太の中心(髄)を含んで製材したものが芯持材、髄を外して製材したものが芯去り材です。芯持材は歩留まりがよく細い丸太からも取れる一方、乾燥時に背割れが入りやすい性質があります。
Q. 天然秋田杉は今も使えるのですか?
天然秋田杉の伐採は2012年度で全面終了しました。現在「秋田杉」として流通するのは人工林材です。中嶋記念図書館で使われた芯持材も人工林由来のものです。

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