高知おおとよ製材 社員寮(高知)|国内初のCLT構造建築

高知県大豊町。人口3,000人ほどの山間の町にある製材工場の敷地に、3階建ての小さな寮が建っています。延床267m²、25m²のワンルームが並ぶだけの建物です。それでも高知おおとよ製材 社員寮は、日本の木造建築史に必ず記録されます。2014年3月竣工、国内で初めてCLTを構造材として用いた実建物だからです。

目次

まずは基本データ

所在地 高知県長岡郡大豊町
用途 社員寮・賃貸住宅(25m²ワンルーム)
竣工 2014年3月
規模 地上3階/延床面積 約267m²
構造 木造軸組+国産ヒノキCLT耐震壁のハイブリッド構造
位置づけ 国内初のCLT構造による実建物
CLT製造 銘建工業
構造設計 日本システム設計
高知おおとよ製材(高知県大豊町)。国内初のCLT構造建築となった社員寮は、この製材工場の敷地内に建つ。
高知おおとよ製材(高知県大豊町)。国内初のCLT構造建築となった社員寮は、この製材工場の敷地内に建つ。
Photo: 運動会プロテインパワー / CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

基準がない状態で設計する

この建物の最大の難所は、構造でも施工でもなく制度でした。2014年3月竣工ということは、設計は2013年前後。当時、日本にはCLTを構造材として使うための技術基準が存在しませんでした。

時系列で並べると事情がよく分かります。

2013年12月 CLTの日本農林規格(JAS)制定
2014年3月 高知おおとよ製材 社員寮 竣工
2016年4月 CLTを用いた建築物の一般的な設計法に関する告示が施行

材料としてのJASができたのが竣工の3か月前、設計ルールとしての告示に至っては竣工の2年後です。つまりこの寮は、「どう計算すれば安全と認められるか」が定まっていない段階で設計・確認・施工まで通されました。個別の性能評価と大臣認定を積み上げ、実験データで一つずつ裏づけていく作業が必要だったということです。

全面CLTではなく、耐震壁として使う

構造形式にも注目すべき点があります。この建物は全体をCLTパネルで組んだ、いわゆるCLTパネル工法ではありません。木造軸組(在来工法)を骨格とし、そこに国産ヒノキのCLTを耐震壁として組み込んだハイブリッド構造です。

この選択は現実的でした。軸組は日本の大工が慣れた工法で、施工体制がそのまま使えます。一方、3階建ての住宅で難しくなるのは水平力への抵抗、つまり地震や風で建物がねじれたり倒れたりしないようにすることです。CLTは厚い面材なので、壁として使うと非常に高い剛性と耐力を発揮します。「軸組の弱点をCLTの面で補う」という割り切りが、前例のない材料を最小限のリスクで導入する道になりました。

使われたCLTは国産ヒノキ製。製造は岡山県真庭市の銘建工業で、日本のCLT生産をほぼ単独で立ち上げた企業です。同社が拠点を置く岡山県真庭市は、日本のCLT供給の中心地であり続けています。

図:構法の選択と、CLTをめぐる制度の時系列軸組+CLT耐震壁骨格は在来の木造軸組水平力をCLTの面が負担大工の施工体制が使えるこの社員寮が採用CLTパネル工法壁・床・屋根をCLTで構成部材点数が少なく速い工場と輸送の体制が要る2016年の告示以降に普及制度が追いつく前に建った2013年12月CLTの日本農林規格(JAS)制定2014年3月高知おおとよ製材 社員寮 竣工2016年4月CLTの一般的な設計法に関する告示が施行材料のJASは竣工の3か月前、設計ルールの告示は竣工の2年後だった。
図1:軸組にCLT耐震壁を組み合わせる構成と、CLT関連制度の整備時期。

なぜ製材工場の社員寮だったのか

発注者は高知おおとよ製材。2013年に操業を開始した高知県最大規模の製材工場です。人口減少の続く山間部で、工場を動かすには従業員の住まいを確保しなければならない。その必要から建てられたのが、この寮でした。

結果として、これは非常に良い実験場になりました。まず規模が小さい。延床267m²であれば、万一設計に見直しが生じても影響は限定的です。次に発注者が木材事業者であり、新技術の導入に対する理解と動機がある。そして工場敷地内なので、施工中の観察やデータ取得がしやすい。前例のない構法を実物で試すうえで、これ以上ない条件が揃っていました。

高知県はその後、CLTの利用促進に県として力を入れ、高知県森林組合連合会会館など、県内でのCLT建築が続いていきます。日本のCLTは真庭と大豊という二つの山間の町から始まった、と言って差し支えありません。

CLTのいまと、この一棟の位置

2016年の告示整備以降、CLT建築は全国に広がりました。中層の集合住宅、庁舎、事務所、宿泊施設と用途も多様化しています。とはいえ、生産量・コストの両面で普及の途上にあるのが実情です。

そうした状況のなかで、この社員寮は「最初の一棟」として参照され続けています。技術基準がない段階でも実物は建てられる。そして実物が建てば、基準は後からついてくる。中大規模木造の技術がどう社会に入っていくかを、延床267m²の建物が示した例です。

よくある質問

Q. CLTとは何ですか?

Cross Laminated Timber(直交集成板)の略で、挽き板を繊維方向が直交するように積層接着した厚い木質パネルです。面として強度を発揮するため、壁・床・屋根をパネルで構成できます。日本農林規格(JAS)は2013年に制定されました。

Q. 全部がCLTでできているのですか?

いいえ。木造軸組を骨格とし、CLTを耐震壁として組み込んだハイブリッド構造です。壁・床すべてをCLTパネルで構成するCLTパネル工法とは異なります。

Q. 見学できますか?

企業の社員寮および賃貸住宅であり、一般公開されている施設ではありません。外観は工場敷地の外から確認できますが、居住者のプライバシーに配慮が必要です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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