- 林野庁が新設した「森業アワード2026」の受賞者が10月16日に発表された。応募85件のうち、グランプリは谷林業(農林水産大臣賞)、準グランプリ(林野庁長官賞)は8件。
- 「森業」は、森林空間の利用、体験・研修の場の提供、J-クレジットや未利用資源の活用など、木材販売以外で森林の価値を活かす取組。林野庁は期待する効果に収入源の多角化を挙げている。
- 表彰式は10月29日(木)、新木場の木材会館。傍聴は定員200名・10月26日(月)締切。
- 発表資料にないこと:各受賞の評価理由、評価項目の細目、応募資格の詳細(実施要領)、2027年度以降の予定。
林業とは、木を伐って売る仕事である。辞書的にもそうだし、収入の仕組みもそうだった。林野庁は今年、そこに別の名前を持ち込んだ。「森業」である。10月16日、その最初のアワードの結果が出た(林野庁)。
林野庁は、期待する効果の一つに「森林経営における収入源の多角化」を挙げている。多角化という言葉は、本業だけでは足りないときに使う。
85件の応募、賞に入ったのは9件
賞に入らなかった76件にも「グリーンパートナー2026」の称号と、PR用のマークが付く。応募するだけで肩書きが増える、親切な設計である。
審査委員5名の所属は、日本農福連携協会、モリアゲ、フリーアナウンサー、日本関係人口協会/ソトコト、竹中工務店。素材生産の専門団体が並んでいない顔ぶれは、森業の評価軸が従来の林業の外にあることを示している、と読める。
グランプリは、本拠ではなく「近所の里山」だった
グランプリの谷林業は、吉野郡に約1,500haの人工林を持つと紹介されている会社だ。奈良県の王寺町・上牧町にまたがる都市近郊の里山林、「陽楽(ようらく)の森」である。
- 作業道を整備し間伐したことで、薄暗かった森に人が訪れるようになった。マルシェや音楽の催し、障害のある人の就労支援や放課後等デイサービスの場にもなっている
- 大和森林管理協会が申請した「陽楽の森」は、2023年10月に環境省の「自然共生サイト」に認定された
- 林野庁の公開資料には、2025年6月に川上村と木材利用の協定を結び、王寺町の集客施設に川上村産の木材を使う構想が示されている
森に人を集め、福祉や飲食と組み合わせ、施設に地域材を使う。木材以外にも価値が回る形だ。ただし評価理由は発表資料にないので、これは公開情報からの読み取りである。
準グランプリ8件を、一行ずつ
- 十山(静岡市):井川社有林約24,430haのうち1,161haをJ-クレジットに登録。天然生林が約93%
- 根羽村(長野県):矢作川の源流の村(面積の約92%が森林)。下流の安城市と組んだ「源流留学」
- モビリティリゾートもてぎ(栃木県):約420haの森を20年以上管理し、植物は5,800種超(ホンダモビリティランドの発表)
- 山のダイゴミ・プロジェクト:良品計画が宮崎県の素材生産者と進める。山で出る未利用材を商品にし、林業ツアーも行う。2022年に始めたプログラムが、2024年にプロジェクトになった(無印良品の紹介)
- BASE TRES(静岡県西伊豆):2012年から古道を再生してマウンテンバイクのツアーに活用。整備で出た木材を薪にして、レストランの熱もまかなう
- ReNeW津軽(弘前市):2021年から漆の苗木を植える市民団体。弘前大学などと連携
- T-FORESTRY(小田原市):約300年続く約70haの森で、約13年前にフォレストアドベンチャーを導入。「森を使って守る」
- Wans Laugh ワンコの森あそび(三重県大台町):愛犬家族向けの森林プログラム。トヨタ三重宮川山林が拠点で、案内した数は「3,657人+2,768頭」(三重県の資料)
社有林の95%以上はクレジット登録の対象外だ。それでも登録した1,161haの9割以上が天然生林というのは、発表自身が「非常に稀」と書いている。
Wans Laughは、来場者を「人+頭」で数えている。漆は、今年植えた苗から最初の漆が採れるのは2040年代になる計算だ。時間の単位が、ふつうの事業計画と違う。
9件に共通すること:取組名に「木材」がない
9件の取組名に、「木材」の字は一つも出てこない。林野庁の賞で、である。
空間・体験や学びを柱にした取組が多く、木材以外の資源を持つ取組も5件ある。J-クレジットを事業として確認できたのは、確認できた範囲では十山だけだった。環境価値の収益化は、まだ広がっていない。
表彰式の傍聴は、10月26日まで
表彰式は10月29日(木)、木材会館7階大ホールで、第1部(12時40分〜13時40分)。そのあと第5回森林づくり全国推進会議(第2部)、受賞者が登壇するパネルディスカッション(第3部、15時45分〜17時)が続く。傍聴は専用フォームから、定員200名、10月26日(月)締切(林野庁の発表)。
編集部の視点
森に人が来る。人が対価を払う。木を伐らなくても収入になる。聞けば簡単だが、人が来るためには、まず道が通っていなければならない。本稿で確認できた範囲では、都市近郊の森、観光地、大規模な社有林など、人が集まりやすい条件を持つ取組が目立つ。人里から遠い小規模な私有林で、同じことができるのかは、受賞者の紹介からは分からない。
次に見たいのは、数年後だ。受賞者の取組が続いているか。表彰式のあとの追跡が、この制度の中身を決める。受賞者の詳細が林野庁のサイトで公開されたら、改めて掘り下げたい。
関連:J-クレジット/森林ツーリズム/うるし国産化政策/林業所得/立木価格の取り分/ネイチャーポジティブ
- 森業アワード2026受賞者決定!(林野庁、2026年10月16日)/報道発表資料(PDF)/受賞者一覧(PDF) ― 応募件数、受賞者・取組名、森業の定義、審査委員、グリーンパートナー。
- 森業アワード創設!7月7日から募集開始!(林野庁、2026年7月7日)― 募集期間、賞の種類、準グランプリの枠。
- 森業アワード(林野庁)― 森業の定義と目的。
- 「森林(もり)づくりシンポジウム2026」を開催!(林野庁、2026年10月6日)― 表彰式の日時・場所・傍聴の申込み。
- 十山㈱が保有する「井川社有林」をJ-クレジット創出プロジェクトに登録(十山・しずおかフィナンシャルグループ、2024年3月12日)。
- モビリティリゾートもてぎが「森業アワード」林野庁長官賞を受賞(ホンダモビリティランド、PR TIMES、2026年10月16日)。
- みえの「森業」スタートアップセミナー案内(三重県委託事業、2026年10月30日開催)― Wans Laughの経歴と案内実績。
- 山のダイゴミプロジェクトから生まれた「山の木っ端」シリーズ(無印良品)― 山のダイゴミ・プロジェクトの概要。
- 陽楽の森プロジェクト/自然共生サイト「陽楽の森」(環境省)/谷林業の木材利用の促進に関する構想(林野庁公開資料)
- BASE TRES/T-FORESTRY/ウルシ林造成技術マニュアル(青森県) ― 各取組の公開情報。
※ 林野庁の発表資料と各受賞者の公開情報をもとに編集部が整理したものです。受賞の評価理由は発表資料に記載がなく、各取組の説明は公開情報にもとづきます。図4の分類は編集部によるもので、林野庁の審査結果ではありません。

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