林野庁予算、2027年度要求は27.1%増の3,956億円──大幅増の正体は「補正の付け替え」

林野庁2027年度予算概算要求 27.1%増の3,956億円 | Forest Eight
📌 ポイント

  • 林野庁の2027年度(令和9年度)予算概算要求は、総額3,956億円。2026年度の当初予算3,112億円と比べて27.1%の増で、8月末に財務省へ提出された。
  • 内訳は公共事業費2,562億円(+28.6%)、非公共事業費1,393億円(+24.5%)。治山事業816億円・森林整備事業1,653億円は、そろってちょうど30.0%増という切りのいい数字が並ぶ。
  • 大幅増の背景は、高市内閣が掲げる「脱・補正依存」2026年度当初+2025年度補正の合計4,531億円と比べると、要求額はむしろ12.7%少ない。増加分の多くは「付け替え」の性格を持つ。
  • 新規の目玉は「森の国・木の街」創造連携イニシアティブ事業(83億円)。都道府県がつくる計画が、関連3事業の「優先枠」へのパスポートになるという設計で、補助金の配り方そのものを変えようとしている。
  • 概算要求は各省の「言い値」にすぎず、12月の政府案で査定される。実際の事業量が見えるのは年末以降になる。

林野庁の2027年度予算の概算要求が固まりました。専門紙『林政ニュース』(2026年9月7日)などが報じたもので、要求総額は3,956億円、前年度の当初予算に対して27.1%の増。数字だけを見れば久しぶりの大幅増ですが、この「27.1%」は例年の要求とは意味合いが違います。何がどう増えたのか、そして今回いちばん中身のある新規事業「森の国・木の街」創造連携イニシアティブとは何なのかを、公表資料に当たって整理します。

目次

要求の全体像

林野庁が公表した「令和9年度林野庁関係予算概算要求の概要」(2026年8月)の総括表は次のとおりです。

区分 2026年度
当初予算
2027年度
概算要求
対前年比
公共事業費 1,992億円 2,562億円 128.6%
 一般公共事業費 1,899億円 2,469億円 130.0%
  治山事業費 628億円 816億円 130.0%
  森林整備事業費 1,271億円 1,653億円 130.0%
 災害復旧等事業費 93億円 93億円 100.0%
非公共事業費 1,120億円 1,393億円 124.5%
合計 3,112億円 3,956億円 127.1%

林野庁「令和9年度林野庁関係予算概算要求の概要」より。金額は関係ベース、四捨五入のため内訳の合計が総額と一致しない場合がある。

林野庁予算:2027年度概算要求と前年度当初予算 単位:億円 4,000 3,000 2,000 1,000 3,112 3,956 1,992 2,562 1,120 1,393 合計 公共事業費 非公共事業費 2026年度 当初予算額 2027年度 概算要求額
図1:林野庁「令和9年度林野庁関係予算概算要求の概要」(2026年8月)をもとに作成。

農林水産省全体の要求は3兆1,377億円(2026年度当初2兆2,956億円に対し136.7%)で、林野庁はその一部です。シーリング(要求上限)を外した『「強く豊かな日本」投資枠』が農水省全体で4,272億円あり、そのうち林野庁分は370億円とされています。

「27.1%増」は補正の付け替えを含む

ここが今回いちばん大事なところです。治山も森林整備もそろって「ちょうど30.0%増」という、実務ではあまり見ない切りのいい数字が並んでいます。個別事業を積み上げた結果というより、「前年の1.3倍で要求する」という枠が先にあったことをうかがわせます。

その背景が、高市内閣が2027年度予算編成で掲げる「脱・補正依存」です。日本の予算は長く、当初予算を控えめに組み、あとから大型の補正予算で足すパターンで動いてきました。政府はこれを改め、本来必要な経費は最初から当初予算に積む方向に舵を切っています。2027年度が「責任ある積極財政」の初年度という位置づけです。

つまり増えた分のかなりは、「新しく増えたお金」ではなく「補正から当初へ移したお金」です。実際、2025年度(令和7年度)の補正予算では森林整備事業に523億円、治山事業に340億円が計上されていました。林野庁の要求資料自体が、各事業に前年度当初予算額と前年度補正予算額を併記しており、通算で読むことを前提にした作りになっています。

当初+補正で見ると、要求額はむしろ下回る 単位:億円 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 3,112 1,419 計 4,531 3,956 ▲575 (−12.7%) 2026年度 当初予算 +2025年度 補正予算 2027年度 概算要求 (補正は今後) 当初予算 補正予算 概算要求
図2:林野庁「令和9年度林野庁関係予算概算要求の重点事項」に併記された前年度当初予算額・前年度補正予算額をもとに作成。2026年度の補正予算は本稿執筆時点では未編成のため、右側は当初要求のみ。

2026年度当初3,112億円に2025年度補正1,419億円を足すと4,531億円。要求額3,956億円は、これより575億円(12.7%)少なくなります。もっとも、2026年度についても今後補正予算が組まれる可能性はあるので、この比較がそのまま「実質減」を意味するわけではありません。それでも、「27.1%増」という見出しの数字だけで事業量が3割増えると読むのは誤りだ、ということは言えます。

同じことは個別事業でも起きています。花粉症解決に向けた総合対策は当初0.4億円から73億円へと一見激増していますが、前年は56億円を補正で措置していました。森林の総合保全対策も7億円→22億円で、前年補正は9億円。当初予算の前年比だけを見ると、実態より大きな変化に見えてしまいます。

新規の目玉「森の国・木の街」創造連携イニシアティブとは

今回の要求で、金額以上に中身が新しいのが「森の国・木の街」創造連携イニシアティブ事業です。要求額は83億4,100万円(新規)。名前だけでは何をする事業か分かりにくいので、公表された事業説明資料を読み解きます。

何を目指す事業か

「森の国・木の街」は、2026年6月5日に閣議決定された新しい森林・林業基本計画が初めて掲げた副題「百年つづく『森の国・木の街』へ」から来ています。この事業は、その理念を予算の配り方に落とし込む最初の仕掛けという位置づけです。

掲げられた事業目標はひとつだけで、明快です。

事業目標:国産材の供給・利用量の増加

3,500万m³(2024年)  4,000万m³(2030年まで)

基本計画のほうは2035年に国産材利用量4,200万m³、木材自給率約49%を目標としています。今回の事業目標である2030年4,000万m³は、その途中の通過点にあたります。木材自給率は2023年に43.0%で過去最高を記録したあと2024年は42.5%とわずかに下げており、あと10年で500万〜700万m³を上積みできるかが問われる局面です。

仕組み:都道府県の計画が「優先枠へのパスポート」になる

この事業の設計でいちばん特徴的なのは、83億円を直接ばらまく事業ではないという点です。骨格はこうなっています。

「森の国・木の街」創造連携イニシアティブの仕組み 要求額83億円(新規)/目標:国産材利用量 3,500→4,000万m³ ① 都道府県が「森の国・木の街創造連携計画」を策定 地域の将来像、林業適地のゾーニング、目指す将来見込などを記載 ② 川上から川下+企業・市民による協議会を設置 コスト構造の相互理解、再造林基金・森林J-クレジット等で民間投資を呼込み ③ 計画に位置づけて集中支援する主な取組 ①森林の 集積・集約化 リモセン活用 ②路網整備と 省力・低コスト 再造林 ③スマート林業 技術の実装 遠隔操作・林業DX ④木材製品の 付加価値向上 需要拡大 ④ 関連3事業に「優先枠」等の優遇措置を設けて重点支援 森林循環利用・ 付加価値創出対策 186億円 スマート林業等 新技術推進総合対策 7億円 森と木の 人材育成・確保総合対策 57億円
図3:林野庁「「森の国・木の街」創造連携イニシアティブ事業」(令和9年度概算要求資料)をもとに作成。下段の金額は各関連事業の要求総額で、優先枠が設けられるのはこのうち特定のメニュー。

つまり都道府県が計画をつくり、そこに位置づけた取り組みが、関連事業の補助金審査で優先的に扱われるという構造です。優先枠が設けられるのは、次の3事業の特定メニューです。

  • 森林循環利用・付加価値創出対策のうち森林集約・循環利用対策交付金――森林集積・集約の地域活動支援、路網整備、先進的な林業機械の導入、木材加工流通施設、木質バイオマス利用促進施設、特用林産振興施設、木造公共建築物等の整備、多様な林業経営体の確保・育成
  • スマート林業等新技術推進総合対策のうち、デジタル情報の基盤整備と林業DX推進対策
  • 森と木の人材育成・確保総合対策のうち、木造建築物の設計者・施工者育成

補助の流れは事業によって2系統に分かれます。交付金系(上記1つめ)は国 →(定額、1/2・1/3以内等)→ 都道府県 → 林業経営体等。スマート林業・人材育成系(2つめ・3つめ)は国 →(定額、1/2以内等)→ 都道府県・民間団体等という形です。

計画に何を書かせるのか

都道府県がつくる「森の国・木の街創造連携計画」(仮称)の記載事項として挙げられているのは、地域の強みを活かす森林・林業・木材産業の将来像と、基本計画と連動した「目指す将来見込」の設定です。取組のイメージとしては、林業適地のゾーニング、森林の集積・集約化、路網等の基盤整備、スマート林業技術の実装、木材製品の付加価値向上・需要拡大が並びます。

注目したいのは「林業適地のゾーニング」が計画の柱に入っていることです。今回の公共事業側にも「林業適地における路網整備・再造林等の推進」(254億円・新規)が立っており、条件のよい林地に資源を集中させるという方針が予算全体を貫いています。日本の路網密度は平均24m/haと欧州に大きく劣り、再造林コストも高止まりしています。全域を一律に整備するのではなく、採算の立つ場所を選ぶ――その線引きを都道府県に描かせる、というのが今回の設計思想です。

協議会と「民間のカネを呼び込む」仕掛け

もうひとつ、計画づくりと並行して求められるのが協議会等の場の設置です。参加するのは川上(森林所有者・林業経営体)から川下(製材・建築・流通)までの関係者に加え、企業や一般市民まで含まれます。ここで狙われているのは2つです。

  • 木材のコスト構造の相互理解――再造林や素材生産から加工、消費に至るまでのコストを関係者で共有する。山元立木価格が1980年のピークから8割減という現実を、川下側も含めて直視させる狙いがうかがえます。
  • 民間投資の呼び込み――再造林基金森林J-クレジットの活用が名指しされています。国費だけで再造林を賄う発想からの転換で、森林環境譲与税とはまた別の民間財源をどう積み上げるかという話です。

すでに動いている「づくり宣言」との関係

「森の国・木の街」という言葉自体は、基本計画より先に動き出しています。林野庁は2025年10月1日から「森の国・木の街」づくり宣言の募集を始めました。自治体や企業が建築物の木造化などの木材利用木材利用の効果(炭素貯蔵・CO₂排出削減)の見える化に取り組むと宣言する仕組みで、2026年9月6日時点で635者(都道府県36、市町村等84、企業・団体515)が宣言しています。

背景には、2026年4月から温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(SHK制度)で木材利用の効果が新たに位置づけられたことがあります。企業にとって木を使う理由が「イメージ」から「開示できる数字」に変わりつつあるわけで、2026年7月に法制化された建築物のライフサイクルカーボン評価制度とも同じ方向を向いています。都心の中高層木造が相次いで竣工している流れも、この制度整備と無縁ではありません。

今回のイニシアティブは、宣言(意思表示)→ 都道府県の計画(実行体制)→ 優先枠(お金)という順に、川下の需要づくりと川上の供給体制を1本の線でつなごうとするものだと読めます。

そのほかの主な要求項目

  • 林業適地における路網整備・再造林等の推進<公共>:254億円(新規)――木材の供給力強化に向け、条件のよい林地に的を絞って路網と再造林を重点整備。
  • 森林循環利用・付加価値創出対策:186億円(前年92億円)――集積・集約化、森林境界の明確化、低コスト再造林、先進的な林業機械の導入、広葉樹の利活用、林野火災予防の森林情報マップ整備、木材加工流通施設や木造公共建築物の整備、日本産木材製品の輸出促進、木育など。
  • 花粉症解決に向けた総合対策:73億円花粉の少ない苗木の生産拡大:28億円(新規)――スギ人工林の伐採・植替えの加速、少花粉・無花粉スギの大量増産技術(細胞増殖技術)の開発と広域流通、スギ材需要の拡大、花粉飛散量の予測、スギ花粉米の検証など。
  • 森と木の人材育成・確保総合対策:57億円(前年49億円)――「緑の雇用」による新規就業者研修、林業大学校生への給付金、森林プランナー育成、労働安全対策、木造建築物の設計者・施工者育成。
  • 森林の総合保全対策:22億円(前年7億円)/鳥獣被害防止対策等:4億円――効果的・効率的なシカ捕獲、森林病害虫対策。
  • スマート林業等新技術推進総合対策:7億円(前年3億円)――林業DXの基盤整備、フィジカルAI等の先端技術を使ったスマート林業機械・木質系新素材の開発と実証、地域の林業DX戦略拠点の構築。
  • 森林整備事業<公共>:1,653億円治山事業<公共>:816億円――間伐、主伐後の再造林、幹線林道の開設・改良、林野火災対策、クマ・シカ等対策、花粉発生源対策。治山は国直轄の集中復旧と予防治山。

この先のスケジュール

概算要求は、各省庁が「これだけ欲しい」と財務省に示す出発点にすぎません。ここから査定を経て、例年12月下旬に政府予算案が閣議決定され、年明けの通常国会で審議されます。要求額がそのまま通ることはまずなく、圧縮されるのが通例です。

2027年度は「脱・補正依存」で編成の建て付けが変わるため、当初予算案の数字と、その後に組まれる補正予算を合わせて初めて、実際にどれだけの事業ができるのかが見えることになります。年末の政府案、そして来年度以降の補正の規模まで、続けて追う必要があります。

編集部の視点

「予算27.1%増」という見出しは景気のいい話に聞こえますが、林業・木材の現場にとって重要なのは伸び率ではなく、再造林や路網といった継続事業に安定した財源が付くかです。その意味で、補正頼みだった経費が当初予算に移ること自体は――金額が実質的に増えていなくても――予見可能性が上がるという点で前向きな変化だと受け止めています。単年度の補正に左右されるより、複数年の計画が立てやすくなるからです。

一方で、当初予算は補正より査定が厳しく、国会審議も正面から通ります。「1.3倍で要求する」という枠で膨らんだ要求が、査定でどこまで残るかは未知数です。ちょうど30.0%増という数字の作り方を見るかぎり、要求額の全額確保を前提に事業設計を語るのは早計でしょう。ちなみに新規計上の3事業(83億円+254億円+28億円=365億円)は、林野庁分の投資枠370億円とほぼ符合します。投資枠が削られれば、新規事業がまとめて縮む構造になっている可能性があります。

そして「森の国・木の街」創造連携イニシアティブです。補助金の総額を増やすのではなく、優先順位のつけ方を変えるという設計は、財政が厳しいなかでの現実的な打ち手だと思います。都道府県に将来像とゾーニングを書かせ、それを補助金の入口に据える――理屈は通っています。

ただし懸念もあります。ひとつは計画策定の体力差です。林務職員が手厚い県と、数人で回している県とで、計画の質に差が出れば、支援の届き方も差がつきます。森林経営管理制度が市町村の体制差で進捗にばらつきを生んだ前例もあります。もうひとつは「林業適地のゾーニング」が事実上の選別になるという点です。適地から外れた森林をどう扱うのかは、この資料からは読み取れません。水土保全や公益的機能の観点からの手当てが並走しなければ、条件不利地が置き去りになります。

制度設計の詳細と、査定後の予算額。年末に向けて、この2つを見ていきます。8月に就任したばかりの長崎屋長官にとって、最初の本格的な予算折衝になります。

出典・参考

※ 本記事は公表資料および報道をもとに編集部が整理したものです。金額はいずれも概算要求時点のもので、年末の政府予算案で変更されます。事業名に「(仮称)」とあるものは要求時点の名称です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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