秋葉原に木造+鉄骨の9階建て「KiGi AKIHABARA」開業──鉄59.1tを木材に置き換えた都心オフィス

KiGi AKIHABARA 外周が木造・コアが鉄骨の9階建てオフィス | Forest Eight
📌 ポイント

  • サンケイビルが同社初の木造中高層オフィスビル「KiGi AKIHABARA」を東京都千代田区東神田に建設し、2026年7月22日に開業した。
  • 地上9階建て、敷地面積169.27㎡・延床面積1,072.04㎡中央のコアは鉄骨造、外周部は木造フレームというハイブリッド構造。
  • 同規模の鉄骨造と比べて鉄を約59.1t(約19%)木材に置き換え建設時のCO2排出を約112.3t削減したとしている。
  • 柱・梁・床の木質耐火部材「環境配慮型λ-WOODⅡ」など3つの技術を日本初採用。国土交通省「令和6年度優良木造建築物等整備推進事業」先導枠に採択されている。
  • 木材使用量は61.7㎥。2階ラウンジの共用家具には群馬県みなかみ町「赤谷の森」の間伐材が使われ、開業後も森とつなぐ運営を掲げる。

敷地は169.27㎡。都心では珍しくない、決して広くない土地です。そこに地上9階を積み上げ、しかも構造の相当部分を木でつくる――7月22日に開業した「KiGi AKIHABARA」は、そんな条件から出発した建物です。

事業主はフジサンケイグループの不動産デベロッパー、株式会社サンケイビル(東京都千代田区、飯島一暢社長)。同社にとって初の木造中高層オフィスビルにあたります。設計は熊谷組一級建築士事務所、施工は熊谷組と住友林業。両社が2021年に立ち上げた中大規模木造建築ブランド「with TREE」のプロジェクトでもあります。HULIC &New GINZA 8日本橋本町三井ビルディング &forestと並ぶ、都心の木造オフィスの一例が増えたことになります。

目次

建物の概要

名称 KiGi AKIHABARA(キギ アキハバラ)
所在地 東京都千代田区東神田二丁目8-16(JR秋葉原駅から徒歩約10分)
事業主 株式会社サンケイビル
設計・施工 設計=熊谷組一級建築士事務所/施工=熊谷組・住友林業/空間デザイン監修=Puddle
規模 地上9階建て
敷地面積 169.27㎡
延床面積 1,072.04㎡(総貸室面積 711.57㎡)
構造 木造+鉄骨造のハイブリッド(コア=鉄骨造、外周部=木造フレーム)
用途 1階=カフェ、2階=共用ラウンジ、3〜9階=オフィス、屋上テラス
竣工・開業 2026年5月29日竣工/2026年7月22日開業
木材使用量 61.7㎥(集成材・LVL・CLTなどのエンジニアリングウッド)

賃料は坪当たり月3〜4万円で設定されていると報じられています(『林政ニュース』第778号)。秋葉原の中小規模オフィスとしては特別に高いわけではなく、木造であることを理由に賃料を上げにいく物件ではないという点は、この規模の事業性を考えるうえで見落とせないところです。

コアは鉄、外周は木──なぜ混ぜるのか

純木造で9階を建てることは、技術的には可能です。大林組のPort Plusが純木造11階・44mを実現しています。それでもこの建物が木造と鉄骨造を混ぜたのは、敷地169㎡という条件と無関係ではありません。

建物中央のコア(階段・エレベーター・設備シャフト)を鉄骨造とし、外周部を木造フレームで構成する。こうすると、地震力を負担する部分と、床を支えて空間を囲う部分の役割を分けられます。狭い敷地では、コア部分が占める面積の効率がそのまま貸室面積に響くため、断面を細くできる鉄骨がコアに向きます。一方、居室に面する外周部は木を現しにできるので、内装で覆ってしまうより空間の質に直結します。

混構造は「木造にしきれなかった妥協」と見られがちですが、この規模ではむしろ合理的な選び方です。都心の中小敷地に建つビルは、日本の建築ストックの圧倒的多数を占めます。そこに手が届く工法が増えることの意味は、超高層の記録更新とはまた別の重さがあります。

階別の主要構造部材と耐火性能 主要部材 耐火性能・備考 9F ドレスウッド(柱) 木ぐるみHB(有孔梁) CLT床(厚さ210mm) 鉄骨を木材で耐火被覆 最上階に木を現しで見せる 6〜9F λ-WOODⅡ 柱・梁 λ-WOODⅡ CLT床 60分耐火 3〜5F λ-WOODⅡ 柱 λ-WOODⅡ 梁 λ-WOODⅡ 小梁(3〜4F) 120分耐火 90分耐火 90分耐火 2〜5F λ-WOODⅡ CLT床 120分耐火 2F KS木質座屈拘束ブレース 国産カラマツの耐震部材 ※ 建物中央のコアは鉄骨造。外周部を木造フレームで構成する。
図:サンケイビル・住友林業の公表資料および『林政ニュース』第778号の構造部材図をもとに作成。

3つの「日本初」──木質耐火部材の中身

サンケイビルは、この建物で3つの技術を日本で初めて採用したとしています。いずれも「木を使いながら、耐火建築物としての性能をどう確保するか」という一点に向けた技術です。

環境配慮型λ-WOODⅡ(ラムダウッド・ツー)

熊谷組が開発した木質耐火部材で、柱・梁・床に使われています。耐火性能は部位と階によって60分・90分・120分と使い分けられ、上階ほど要求性能が下がる建築基準法の考え方にそのまま対応しています。報道では、接着剤を使わないため解体時の分別がしやすい点も特徴として挙げられています。使い終わったあとに材料として戻せるかどうかは、ライフサイクル全体で評価する時代には効いてくる性質です。

ドレスウッド

こちらは発想が逆で、鉄骨を木材で耐火被覆した部材です。9階の柱に採用されています。構造は鉄が担い、木が耐火の役割と見え方を担う。木を「構造材」としてだけでなく「性能材」として使う例です。

KS木質座屈拘束ブレース

熊谷組と住友林業が開発した耐震部材で、2階に採用されています。特筆すべきは国産カラマツを使っている点です。戦後造林で100万ha規模まで広がったカラマツは、ねじれや割れの扱いにくさから用途開拓が長く課題でしたが、集成材化を経て構造用途が広がってきました。地震力を受け止める部材に使われるというのは、その延長線上にある到達点です。

このほか、9階の梁には住友林業と日本集成材工業協同組合の「木ぐるみHB(有孔梁)」、床には厚さ210mmのCLTが使われています。

数字で見る削減効果

59.1t
同規模の鉄骨造と比べて
木材に置き換えた鉄の量(約19%)
112.3t
建設時のCO2排出削減量
61.7
木材使用量
(集成材・LVL・CLT)

運用面ではZEB Readyの認証を取得し、使用電力は実質100%再生可能エネルギーで賄う計画です。加えて、金属スクラップを鋼材に再利用したこと、ペロブスカイト太陽電池による発電システムを採用したことも公表されています。

施工面で興味深いのは、既存杭を避けた位置に新しい杭を打ち、上部は鉄骨造、南北の持ち出し部分は荷重の軽い木造とすることで地盤への負荷を軽減したという工夫です(『林政ニュース』第778号)。既存杭の存在は都心の建替えでほぼ必ずぶつかる制約で、「軽さ」という木材の性質が、環境性能ではなく施工条件の解決策として効いた例と言えます。木造化の理由がCO2だけではないことを示す、実務的なエピソードです。

森とつなぐ運営を掲げる

この建物がやや異色なのは、建てて終わりにしない仕掛けを用意している点です。

  • 2階ラウンジの共用家具には、群馬県みなかみ町の「赤谷の森」で間伐された「イヌワシ木材」が使われています。イヌワシの狩り場となる開けた林分をつくる目的で行われる間伐から出た材で、生物多様性の保全と木材利用が同じ作業でつながっている例です。
  • 開業後は、木の枝葉や端材を活用した「森ごとクレヨン」の制作ワークショップを開催。
  • 入居者には「MODRINAE(戻り苗)」と呼ばれる苗木育成プログラムの苗を配布する予定です。

オフィスビルの運営としては手間のかかる部分ですが、都市と森林をつなぐ拠点という位置づけを、テナントが日常的に触れる形で置いた点に意味があります。木造ビルの記事はどうしても構造の話に寄りますが、実際に建物を評価するのは毎日そこで働く人たちです。

編集部の視点

この建物でいちばん注目したいのは、規模の小ささです。延床1,072㎡、9階建て、貸室は各階100㎡前後。話題になる木造ビルは、たいてい記録に関わる大きさを持っています。純木造11階、高さ84m、地上18階――そうした建物は技術の到達点を示しますが、そのまま真似できる事業者は多くありません。

一方、敷地170㎡弱の中小ビルは全国に無数にあります。そこで成立する工法とコストの組み合わせが示されたことは、量的な波及という意味では大きい。「木造だから高い」を賃料に転嫁しない前提で成立させていることも含めて、追随可能性の高い事例です。

もっとも、そこには条件があります。λ-WOODⅡもドレスウッドもKS木質座屈拘束ブレースも、いまはまだ特定企業の技術です。国交省の優良木造建築物等整備推進事業(先導枠)という補助の支えもありました。これが補助なしで回る標準工法になるかどうかは、これから数年の採用実績次第でしょう。

そしてもうひとつ。7月24日に改正建築物省エネ法が成立し、建築物のライフサイクルカーボン評価が法制度に位置づけられました。「鉄を59.1t減らしてCO2を112.3t減らした」という説明が、任意の環境アピールではなく制度上の数字として意味を持つ時代が、2年以内にやってきます。KiGi AKIHABARAのような物件は、そのとき制度の想定する解答例のひとつとして参照されることになるはずです。

出典・参考

※ 本記事は各社の公表資料および報道をもとに編集部が整理したものです。数値は発表時点のもので、算定条件は各社の公表内容によります。賃料等の条件は変動する場合があります。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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