建築物LCA制度が法制化──5,000㎡以上の事務所は着工前にCO2の届出、公布から2年以内に施行

建築物のライフサイクルと評価範囲 資材製造・施工・使用・解体 | Forest Eight
📌 ポイント

  • 改正建築物省エネ法が7月24日の参議院本会議で可決・成立。改正後の法律名は「建築物のエネルギー消費性能の向上及び脱炭素化の促進に関する法律」になる。
  • 新設されるのは「建築物のライフサイクルカーボン評価制度」(建築物LCA制度)。資材の製造から施工・使用・解体までのCO2排出を一本の物差しで測る
  • 延べ面積5,000㎡以上の事務所などには、着工前の評価結果を国へ届け出る義務。着工の14日前までが期限とされる。
  • 住宅を含むすべての建築物には評価が努力義務となり、設計を受託した建築士には建築主への説明義務が課される。
  • 施行は公布から2年以内(大臣認定・上位住宅トップランナー関係は1年以内)。木材にとっては追い風だが、排出原単位の整備と安定供給が前提になる。

建物のCO2を語るとき、これまでは「使っているあいだにどれだけエネルギーを消費するか」がほぼすべてでした。断熱を厚くし、設備の効率を上げ、太陽光を載せる。2025年4月には新築の省エネ基準適合が全面義務化され、その方向はひととおり制度化されています。

今回成立した改正法が加えるのは、その手前と、その後ろです。鉄をつくるとき、コンクリートを焼くとき、木を挽いて乾かすとき。そして建物を解体するとき。建てる前から壊した後までを一本の物差しで測る「建築物LCA制度」が、法律に位置づけられました。木材を扱う立場からは、素材の選択が制度の土俵に上がったという意味で、無視できない改正です。

目次

7月24日に成立、名前も変わる

「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律の一部を改正する法律案」は、2026年3月27日に閣議決定され、6月4日に衆議院、7月24日に参議院本会議で可決・成立しました。改正後の法律名は「建築物のエネルギー消費性能の向上及び脱炭素化の促進に関する法律」。法律名に「脱炭素化の促進」が入ったことが、この改正の性格をそのまま表しています。

施行は公布の日から2年以内。ただし後述する大臣認定制度と上位住宅トップランナー制度については、公布の日から1年以内の施行と、二段構えになっています。

なぜライフサイクル全体なのか

国土交通省の資料によれば、国内のCO2排出量のうち建築分野は約4割を占めます。その内訳は、建築物の使用による排出が約3割、資材製造・施工・解体による排出が約1割。これまでの制度が見てきたのは前者の約3割の部分だけで、残り約1割は評価の外に置かれていました。

しかも、使用段階の省エネが進むほど、相対的に資材段階の比重は増していきます。ZEH・ZEB水準の建物が当たり前になれば、運用時の排出はゼロに近づき、残るのは「建てるときに出したCO2です。ライフサイクル全体を測る制度が必要になるのは、省エネが成功した結果でもあります。

建築物のライフサイクルと評価範囲 資材製造 鉄・コンクリート・木材 施工 建設・輸送 使用 冷暖房・給湯・照明 解体 除却・廃棄 約3割 合わせて約1割 (同上) 国内CO₂排出量に占める割合(建築分野は合計で約4割) これまでの省エネ規制 建築物ライフサイクルカーボン評価制度(今回の新設)
図:国土交通省「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律の一部を改正する法律案 概要」をもとに作成。

誰に、どんな義務がかかるのか

制度の骨格は、大きく3層に分かれます。

① 関係者の役割を明確化(努力義務)

建築主、建築士、建設業者、そして建築材料・建築設備の製造事業者まで含めて、ライフサイクルカーボン削減に取り組む役割が法律上に位置づけられます。とくに製造事業者に対しては、自社製品の炭素排出量の原単位を表示する努力義務が想定されており、これは製材・集成材・合板といった木材製品の供給側に直接関わります。

② 国が「統一の算定ルール」を策定

LCAは、算定範囲や係数の取り方ひとつで結果が変わります。だからこそ国が評価の指針=統一の算定ルールを定めることが法律に書き込まれました。ここで木材の炭素貯蔵をどう扱うか、伐採後の再造林をどう見るかは、木材の評価を左右する論点になります。HWP(伐採木材製品)のCO2貯蔵期間の考え方が、いよいよ実務の数字に落ちてくる局面です。

③ 大規模な事務所などは着工前に国へ届出

一定の建築物の新築等については、建築主が着工前のライフサイクルカーボン評価結果を国土交通大臣に届け出る義務を負います。国交省の資料では、その対象は延べ面積5,000㎡以上の事務所のイメージで示されており、期限は着工の14日前まで。具体的な用途と規模は政令で定められる予定です。

対象 かかる措置 性格
延べ面積5,000㎡以上の事務所など
(用途・規模は政令で規定予定)
着工前のLCC評価結果を国へ届出(着工14日前まで) 義務
すべての建築物
(住宅・非住宅を問わない)
ライフサイクルカーボンの評価 努力義務
設計を受託した建築士 評価に必要な事項の建築主への説明 義務
建築材料・建築設備の製造事業者 製品の炭素排出量原単位の表示 努力義務

第三者認証・表示制度と、もう2つの仕組み

今回の改正には、LCA制度のほかに3つの措置が同居しています。

  • 第三者認証・表示制度――建築主等は、ライフサイクルカーボン評価の結果と省エネ性能について登録機関による第三者認証を受け、標章を表示できるようになります。同時に紛らわしい表示は禁止されます。グリーンウォッシュへの歯止めであり、裏を返せば「正しく低いこと」を示せた建物・素材が市場で評価される仕掛けです。
  • 先導的な省エネ技術を評価する大臣認定――現行の基準では評価しきれない技術(例として自然換気システムが挙げられています)を用いた建築物について、大臣が個別にZEH・ZEB水準適合を認定します。
  • 上位住宅トップランナー制度――既存の住宅トップランナー制度(市場の上位おおむね1/2を占める事業者が対象)に加えて、おおむね市場の1/4を占める住宅供給事業者を上位区分として指定し、中長期計画の策定と毎年度の取組報告を求めます。

なお、法案の背景資料では、脱炭素につながる設計・施工の変革の例として木材活用が明示され、「ライフサイクルカーボンの比較により木造を採用することで製造時CO2排出を削減」と書かれています。図中に掲げられた実例は、大林組の研修施設Port Plus(横浜市)。純木造11階建てという国内最高高さの木造ビルです。新技術の例としてはペロブスカイト太陽電池も挙げられており、いずれも「建てるときの排出」を減らす方向の技術です。

施行までの流れ

時期 内容
2026年3月27日 改正法案を閣議決定
2026年6月4日 衆議院本会議で可決
2026年7月24日 参議院本会議で可決、成立
公布から1年以内 大臣認定制度・上位住宅トップランナー制度を施行
公布から2年以内 LCA評価制度・第三者認証表示制度などを施行(この間に指針・政令・省令を整備)

木材にとっての追い風と、その条件

製造・廃棄の過程を通じてCO2排出の少ない材料が選ばれるようになれば、自然素材である木材は鉄やコンクリートに比べて有利――ここまでは、多くの人が同意する話です。CASBEEのような既存の評価手法でも、木造の環境性能は繰り返し示されてきました。

ただし、制度になると話は変わります。制度が求めるのは「木はやさしい」という定性的な理解ではなく、この製品は何kg-CO2/㎥なのかという数字です。実際、7月に開業した秋葉原の木造+鉄骨造9階建て「KiGi AKIHABARA」は、鉄を約59.1t木材に置き換えて建設時CO2を約112.3t削減した、と数字で説明しています。こうした説明が任意のアピールから制度上の申告に変わるのが、今回の改正です。ここに2つの宿題があります。

宿題1:品目別の排出原単位を揃えること

木材の優位性を制度の枠組みに合わせて客観的に示すには、製材・集成材・CLT・合板といった品目ごとの排出原単位が必要になります。林野庁と業界団体は、この整備を進めています(『林政ニュース』第778号)。原単位が整わない品目は、制度の上では「不利ではないが、有利とも言えない」位置に置かれてしまいます。

宿題2:大型物件に供給できる体制

届出義務がかかる5,000㎡級の物件は、建てるときに大量の材料を要します。CO2排出量の少ない木材製品を、限られた工期のなかで品質を確保しながら安定的に供給できるか――設計側が木造を選びたくても、ここが詰まれば選択肢に残りません。制度対応と同じ速度で、供給側の体制整備が求められます。

編集部の視点

この制度でいちばん効いてくるのは、届出義務そのものより「統一の算定ルール」だと考えています。義務がかかるのは当面5,000㎡以上の事務所という限られた層ですが、ルールが定まれば、それは義務の有無にかかわらず市場全体の共通言語になります。発注者が「LCCの数字を出してほしい」と言い始めた瞬間、努力義務は事実上の要件に変わる――省エネ基準がたどった道筋と同じです。

そのとき木材側が持っていなければならないのは、樹種や産地の物語ではなく、製品ごとの検証可能な数字です。原単位の整備は地味な作業ですが、これを持たない品目は、制度の土俵に上がる前に検討リストから外れます。逆に言えば、いま原単位を整えておける事業者にとっては、2年以内という猶予は決して長くありません。

もうひとつ気になるのは、「安く低炭素な材」への需要が、どの山に向かうかです。都市部の大型物件が求めるのは、数量とロットと納期です。国産材がそこに応えられなければ、低炭素という評価軸を輸入材や海外製CLTに持っていかれる展開もありえます。自給率の議論が、環境評価という別の入口から問い直されることになりそうです。

施行は2年以内。指針も政令もこれから固まります。いま出ている情報は「何を測るか」までで、「どう測るか」はまだ書かれていない――そこが決まるまでが、意見を届けられる時間でもあります。

出典・参考

※ 本記事は公表資料および報道をもとに編集部が整理したものです。届出義務の対象用途・規模、施行期日などの詳細は今後の政令・省令等で定められます。実務上の判断は国土交通省の公表資料および所管窓口でご確認ください。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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