森林環境譲与税の使途|境界明確化・人材育成・木材利用

森林環境譲与税の使途 | Forest Eight

「森林環境税」として住民税に年1,000円が上乗せされていることに気づいた方も多いと思います。その税を原資に、市町村へ直接配られているのが森林環境譲与税です。2019年に始まり、年間総額は2024年度で約540億円、2029年度の完全運用時には約620億円規模に達する見込み。森林の手入れが追いつかない山村にも、森を持たない都市にもお金が届くよう設計された、いまの森林政策で最も重要な新しい財源です。ここでは、何にどう使えるのか、市町村は実際どう活かしているのかを見ていきます。

森林環境譲与税の財源・配分・使途構造 森林環境税 1人年1,000円 約6,200万人課税 国に集約 約620億円/年 (完全運用時) 市町村へ譲与 全国1,700市町村 5:2:3で配分 主な使途4分野 森林整備 間伐・林地境界明確化 主伐後の再造林 経営管理権集積 人材育成 林業従事者育成 青年林業者支援 資格取得支援 木材利用 公共建築の木造化 地域材使用拡大 学校・公民館等 普及啓発 環境教育 森林体験 広報活動 市町村は地域実情に応じて4分野を自由に組み合わせ活用可能
図1:森林環境譲与税の財源・配分・主要使途4分野(出典:林野庁、総務省「森林環境税」関連資料)
目次

なぜ課税より先に配り始めたのか

制度の土台ができたのは2018年です。森林経営管理法が成立し、所有者が手入れできない森を市町村が引き受ける新たな枠組みが整いました。それを動かす財源として、同年12月に森林環境税・譲与税の法律が成立し、翌2019年4月から譲与税の配分が先行スタートしています。

不思議なのは、税の徴収開始が2024年6月と、配分より5年も遅れたことです。理由は二重課税を避けるため。東日本大震災の復興特別税(個人住民税に年1,000円)が2014〜2023年度に課されていたので、それが終わるのを待って、入れ替わるように森林環境税を課す設計にしたのです。住民から見れば負担額は実質変わらないまま、財源だけが森林分野へ切り替わった格好になります。

配分の物差しが変わった

市町村への配り方は、2024年度に大きく見直されました。当初(2019〜2023年度)は私有林面積9:林業就業者数1:人口0という、ほぼ森林面積一辺倒の基準でしたが、現在は私有林面積5:就業者2:人口3に変わっています。

期間 私有林面積 林業就業者数 人口
2019〜2023年度 9(90%) 1(10%) 0(0%)
2024年度〜 5(50%) 2(20%) 3(30%)

人口を3割組み込んだのは、森林率の低い都市部にも一定の配分を行き渡らせるためです。森林環境税は全国民が負担するのだから、その還元が都市にもあるべき――この公平感が制度の支持を支えます。結果として東京・大阪・愛知などの都市部の配分が増え、島根・高知・徳島など森林率の高い県への配分は相対的に縮みました。とはいえ絶対額では今も森林県の市町村が最大の受益者で、森林整備への充当が現実の使い道であり続けています。

4つの使い道

譲与税の使途は法律で「森林整備に関する施策」として大きく4分野に整理され、市町村が地域に合わせて自由に組み合わせられます。中心は森林整備で、間伐や主伐の支援、林地境界の明確化、主伐後の再造林、経営管理権の集積、路網整備、シカ食害対策などが含まれます。次いで人材育成(新規就業者の研修、若年層への給付金、林業大学校の支援、資格取得支援)、木材利用(公共建築の木造化、地域材の優先使用)、普及啓発(学校での森林環境教育、森林ボランティア育成、自然体験イベント)が続きます。

2019〜2023年の実績を分野別に見ると、全体では森林整備が約55%、木材利用が約23%、人材育成が約12%、普及啓発が約10%。ただし地域で傾向ははっきり分かれます。森林県の市町村は森林整備が約65%を占める一方、都市部の市町村は森林が少ないぶん木材利用が約50%と中心になります。同じ制度の下で、それぞれの地域事情に応じた使われ方をしているわけです。

分野 全体 森林県の市町村 都市部の市町村
森林整備 約55% 約65% 約25%
人材育成 約12% 約15% 約5%
木材利用 約23% 約15% 約50%
普及啓発 約10% 約5% 約20%

森林経営管理制度を動かすエンジン

この譲与税の戦略的な意味は、2019年に始まった森林経営管理制度と一体で回ることにあります。所有者への意向調査や境界確認、経営管理権を市町村に集める作業、意欲ある林業事業体への再委託、再委託が難しい森を市町村が直接管理する場合の運営費――そのいずれもが譲与税でまかなわれます。

もっとも、進み具合はゆっくりです。2019〜2023年の5年間で経営管理権を集積できた森林は累計約15万ha。制度の対象とされる「経営意欲が低い森林」約700万haから見れば、まだ2%程度です。森を動かすには時間がかかる。だからこそ今後10〜20年にわたり、譲与税が中核の財源であり続けると見込まれています。

使いこなしの差という課題

制度開始から数年、2023年度には譲与額の約9割が使われるようになりました。それでも課題は残ります。開始初期には効果的に使えず繰越額が積み上がる市町村があり、とくに都市部で目立ちました。背景にあるのは市町村職員の林業・森林管理の専門知識の不足です。使途の自由度が高いぶん、効果的な事業設計が各自治体の創意工夫に委ねられ、実績に大きな差が出ています。森林整備を担う林業事業体そのものが足りない地域では、お金があっても事業が進まないという壁もあります。

こうした差を埋めるため、林野庁は「森林環境譲与税の活用事例集」を毎年公表し、先進事例の横展開を促しています。例えば鳥取県智頭町は林業事業体の経営強化と地域材活用に集中投入、高知県本山町は森林組合と組んで経営権集積を加速、東京都中野区は区内の保育園・公民館の木造化や子ども向け森林学習に充てています。横浜市のように、友好都市の林業県(長野・山梨など)の森林整備を支援し、都市部の譲与税を森林県へ「再配分」する取り組みも生まれています。都道府県による市町村支援や専門人材の派遣も広がりつつあります。

都市の木造化と、これから

都市部での代表的な使い道が公共建築物の木造化です。2010年制定の公共建築物木材利用促進法と連動し、市町村が自ら発注する学校・公民館・福祉施設・庁舎などを木造化することで地域材の需要を生み出します。2030年までに公共建築物の木造化率を5割超とする目標が掲げられており、譲与税はその達成を支える財源として期待されています。市町村自身の発注なら地元産木材を積極的に使う動機が強く、地域経済への波及も大きいのが利点です。

森林環境譲与税は、造林補助などの既存の森林整備事業を経由しない、市町村が直接森林整備に向けられる珍しい財源です。完全運用時の年620億円が長く投じられれば、森林経営管理制度の本格展開、林業の活性化、2050年カーボンニュートラルへの森林の貢献といった目標を下支えします。単なる新税ではなく、日本の森林管理を未来へつなぐ橋渡しとして、その真価はこれから数十年かけて見えてくるはずです。鍵を握るのは、市町村の工夫と、林業事業体や住民との連携です。

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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