森林環境譲与税の市町村における使途は、森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律第34条で「森林の整備に関する施策」「森林の整備を担うべき人材の育成及び確保」「木材の利用の促進」「普及啓発」の4類型と定められています。2023年度の市町村全体の使途実績では、森林整備関連が約38%、人材育成・確保が約12%、木材利用促進が約20%、普及啓発が約8%、基金積立が約22%という構成になっています。本稿では4使途類型の具体内容、市町村別の使途パターン、境界明確化・地域林政アドバイザー・公共施設木造化の実例、基金積立22%という滞留問題、第6次基本計画に向けた使途明確化の論点を整理します。
この記事の要点
- 森林環境譲与税の使途は法定4類型(森林整備・人材育成・木材利用・普及啓発)。2023年度実績は森林整備38%・木材利用20%・人材育成12%・普及啓発8%・基金積立22%という構成。
- 森林整備の中心は境界明確化(地籍調査48%の補完)と森林経営管理制度の意向調査・所有者特定。市町村が新たに担う森林管理機能の運用基盤として機能。
- 木材利用は公共施設の木造化(庁舎・学校・保育園等)が中心で、年間100施設超が譲与税により木造化。地域林政アドバイザーは2023年度に全国400名超が市町村に配置され、林政専門人材確保の枠組み。
クイックサマリー:譲与税使途の基本数値
| 使途類型 | 構成比 | 主要内容 |
|---|---|---|
| 森林整備 | 約38% | 境界明確化・経営管理制度・間伐 |
| 木材利用促進 | 約20% | 公共施設木造化・木製品調達 |
| 人材育成・確保 | 約12% | 地域林政アドバイザー・林業就業者研修 |
| 普及啓発 | 約8% | 森林環境教育・木育・広報 |
| 基金積立 | 約22% | 翌年度繰越・複数年度事業積立 |
| 境界明確化執行面積 | 年間約20万ha | 林地48%の地籍未了補完 |
| 公共施設木造化 | 年間100施設超 | 庁舎・学校・保育園 |
| 地域林政アドバイザー | 全国400名超 | 2023年度実績 |
| 使用率(譲与額対比) | 約75% | 残25%は基金積立 |
| 使途公表義務 | 2020年度以降 | 市町村ホームページ等で公表 |
法定使途4類型の構造
森林環境譲与税の使途は、森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律(平成31年法律第3号)第34条第1項に明示されており、市町村は譲与税を以下の事務に充てなければならないと規定されています。第1類型「森林の整備に関する施策」、第2類型「森林の整備を担うべき人材の育成及び確保」、第3類型「木材の利用の促進」、第4類型「森林の有する公益的機能に関する普及啓発」です。これら4類型以外への使用は法的に認められません。
使途の柔軟性は、市町村ごとの林政課題に応じた配分が可能な点にあります。山村部では森林整備・人材育成が中心、都市部では木材利用促進・普及啓発が中心という具合に、地域特性に応じた配分が観察されます。総務省・林野庁の使途実績調査(毎年度公表)によれば、2023年度の全市町村平均で森林整備38%・木材利用20%・人材育成12%・普及啓発8%・基金積立22%という構成となっています。
森林整備使途の中身:境界明確化と経営管理制度
森林整備使途38%の中核は、境界明確化と森林経営管理制度の運用です。日本の地籍調査は2024年時点で全国進捗率52%(林地48%)に留まり、林地境界の不明確さが森林経営の根本的障害となっています。譲与税はこの境界明確化を市町村レベルで補完する財源として機能し、年間約20万ha規模の境界明確化が譲与税により実施されています。地籍調査本体(国土交通省所管)と並行して、市町村が森林整備のため独自に境界確認を行う仕組みです。
森林経営管理制度(2019年4月施行)の運用にも譲与税が広く活用されています。所有者意向調査(2024年度累計約30万件)、所有者特定調査(同10万件規模)、市町村経営計画策定(同5,000ha規模)の3つが中心活動で、これらは森林整備地域活動支援交付金(30億円)と組み合わさって運用されます。譲与税の市町村森林整備使途のうち、約60%が経営管理制度関連活動に充当されているケースが多く、譲与税は「市町村森林管理機能のインフラ財源」として機能しています。
| 森林整備内訳 | 構成比 | 具体内容 |
|---|---|---|
| 境界明確化 | 約25% | 境界杭・標識設置・GPS測量 |
| 経営管理制度関連 | 約35% | 意向調査・所有者特定・計画策定 |
| 間伐・主伐後再造林 | 約20% | 林家負担分の上乗せ補助 |
| 作業道整備 | 約10% | 市町村独自路網の開設 |
| 森林情報整備 | 約10% | 森林簿更新・GIS整備・LiDAR測量 |
木材利用促進:公共施設木造化の動向
木材利用促進使途20%の中心は、公共施設の木造化です。市町村庁舎、小中学校、保育園・幼稚園、図書館、コミュニティセンター、避難所等の公共施設について、新築・改築時に木造または木質内装化を採用する事業を譲与税で支援する仕組みです。林野庁の集計では、譲与税により木造化された公共施設は2020〜2023年度の累計で約400施設、年間100施設超のペースで木造化が進んでいます。
「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(2010年施行、2021年改正で「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改題)が公共施設木造化の上位法で、低層公共建築物の原則木造化を国・地方自治体に求めています。譲与税はこの法律と連動し、公共施設木造化のコスト差額(木造は鉄骨造・RC造より建設費が10〜20%程度高くなる場合がある)の一部を市町村が負担する財源として位置付けられています。
人材育成:地域林政アドバイザー制度
人材育成使途12%の中核は、地域林政アドバイザー制度の運用です。地域林政アドバイザーは、市町村が森林・林業に関する専門的知識を有する者を雇用または委嘱し、森林経営管理制度の実装、森林計画策定、林業政策推進等を補佐する制度で、2017年度に総務省が制度化しました。アドバイザーの人件費・活動費は特別交付税措置の対象となり、これに譲与税を組み合わせて運用するケースが一般化しています。
2023年度の地域林政アドバイザー配置数は全国で400名超に達し、2017年度の配置開始以来、毎年100名規模で増員されてきました。アドバイザーの出身は退職した林野庁職員・都道府県林業普及指導員・森林組合経験者・林業大学校卒業者・林業コンサルタント等多様で、市町村が必要とする専門性に応じた人材確保が進められています。1名当たりの人件費年間400〜600万円規模で、市町村の譲与税使途のうち人材育成枠の最大支出項目となっています。
| 人材育成内訳 | 構成比 | 具体内容 |
|---|---|---|
| 地域林政アドバイザー | 約45% | 専門人材の雇用・委嘱 |
| 林業就業者研修 | 約25% | 緑の雇用補完・チェーンソー安全 |
| 市町村職員研修 | 約15% | 林政担当者向け研修参加費 |
| 林業大学校等支援 | 約10% | 県立林業大学校への補助 |
| 新規就業者支援 | 約5% | 独自の就業支援金等 |
普及啓発:森林環境教育と木育
普及啓発使途8%は、森林環境教育(小中学校での森林学習)、木育イベント(地域住民・子供向けの木材体験)、広報パンフレット・動画作成、森林フィールドワーク等の事業に充てられます。森林環境教育は学校教育のカリキュラムに組み込まれる形で実施され、市町村教育委員会と連携した運用が一般的です。木育は、木材の温かみや木材利用の意義を体験的に学ぶプログラムで、保育園・幼稚園・小学校での木製おもちゃ・遊具の導入、木工体験等が含まれます。
都市部の市町村では普及啓発の比重が高く、人口指標による配分が大きい横浜市・大阪市・名古屋市等では、譲与税の30〜40%を木材利用促進+普及啓発に充てるケースが多く見られます。これらは「都市住民の森林への関心醸成」「都市木造建築の推進」という譲与税創設時の理念を実装する形で運用されています。
基金積立22%の構造的問題
譲与税使途調査で看過できないのが、基金積立22%という滞留問題です。市町村が譲与額の約4分の1を即年度に使用せず、翌年度以降に持ち越している状態を意味します。基金積立の主な理由は、(1)市町村職員の林政専門人材不足により事業計画策定が遅れること、(2)複数年度にわたる大規模事業(公共施設木造化・基幹的境界明確化等)の準備積立、(3)隣接市町村との広域事業調整が未了、(4)譲与税運用ノウハウの不足、です。
都市部の市町村では基金積立比率が30%を超えるケースが目立ち、譲与税が「使途なき財源」として滞留する事例が散見されます。これに対し林野庁・総務省は2023年度より「森林環境譲与税の使途明確化」を強化し、基金積立比率の高い市町村に対する助言・指導を実施するとともに、基金活用の好事例集の公表により他自治体への波及を図っています。第6次森林・林業基本計画(2026年予定)では、基金積立比率の上限ガイドライン設定(10〜15%程度)が論点として浮上しています。
市町村類型別の使途パターン
譲与税の使途は市町村類型により明確な相違が観察されます。山村型市町村(人工林面積大・人口少)、地方中核型市町村(人工林面積中・人口中)、都市型市町村(人工林面積小・人口大)の3類型で、使途構成は次のように異なります。
使途公表義務と透明性確保
譲与税は、市町村に対し使途実績の公表が義務付けられています。森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律第34条第3項により、各市町村は譲与税の使途を毎年度「インターネットの利用その他の方法により公表しなければならない」と規定されており、市町村ホームページでの使途内訳・事業実績の公開が標準化されています。林野庁・総務省はこれを集約した全国版の使途実績集計を毎年度公表し、政策評価・改善に活用しています。
透明性確保は、譲与税が「目的税的性格」を持つことの裏付けです。一般財源と異なり使途4類型に限定され、かつ公表義務が課されることで、納税者(個人住民税均等割を負担する個人)に対する説明責任が制度に内包されています。納税者にとっては「自身が支払った1,000円がどう使われたか」を市町村ホームページで確認できる仕組みで、この透明性が森林環境譲与税の制度的信頼性を支えています。
第6次基本計画への論点
2026年策定予定の第6次森林・林業基本計画では、譲与税の使途明確化が重点論点として浮上しています。具体的には、(1)使途4類型の細分化と標準分類(境界明確化30%・人材育成20%・木材利用20%・森林整備20%・普及啓発10%等の目安提示)、(2)基金積立比率の上限ガイドライン設定、(3)市町村間連携事業への譲与税活用促進(広域木材調達・流域森林整備)、(4)森林経営管理制度の市町村実施率82%から100%への引き上げ、(5)森林吸収量・J-クレジット創出への譲与税活用検討、の5点が中心です。
これらの論点は、譲与税が単なる「市町村への財源移転」ではなく、市町村森林管理機能の質的向上を促す政策装置として活用されることを目指す方向性を示します。森林・林業基本計画の上位概念であるカーボンニュートラル2050年・地球温暖化対策計画と連動させ、譲与税の使途を森林吸収量3,800万t-CO2目標達成に向けた地方インフラ財源として位置付ける方針です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 森林環境譲与税は何に使えますか?
法定4類型「森林整備」「人材育成・確保」「木材利用促進」「普及啓発」のいずれかに限定されます。具体的には境界明確化・森林経営管理制度の運用・公共施設木造化・地域林政アドバイザー雇用・森林環境教育等が代表例です。一般財源としての使用や、上記4類型以外の事業への充当は法的に認められていません。
Q2. 公共施設の木造化はどのくらい進んでいますか?
譲与税により2020〜2023年度に約400施設が木造化され、年間100施設超のペースで増加しています。種別では保育園・幼稚園33%、小中学校28%、庁舎15%、コミュニティセンター12%、その他12%という構成です。低層公共建築物の原則木造化を求める法律(2010年制定、2021年改正)と連動して運用されています。
Q3. 地域林政アドバイザーとは何ですか?
市町村が森林・林業の専門的知識を持つ人材を雇用・委嘱し、森林経営管理制度の運用・森林計画策定・林業政策推進を補佐する制度です。2023年度配置数は全国400名超で、人件費年間400〜600万円規模が譲与税・特別交付税で支援されます。退職林野庁職員・林業普及指導員・森林組合経験者等が中心的な担い手です。
Q4. 基金積立22%が問題視される理由は何ですか?
譲与額の約4分の1が即年度に使われず翌年度以降へ繰り越される滞留状態を意味します。市町村職員の林政専門人材不足、事業計画策定の遅れ、運用ノウハウの不足が主因で、譲与税が「使途なき財源」として機能不全に陥るリスクがあります。第6次森林・林業基本計画では基金積立比率の上限ガイドライン設定が論点となっています。
Q5. 市町村は使途を公開する義務がありますか?
あります。森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律第34条第3項により、市町村は譲与税の使途を毎年度公表する義務を負います。市町村ホームページでの使途内訳・事業実績の公開が標準化されており、林野庁・総務省はこれを集約して全国版の使途実績集計を毎年度公表しています。納税者に対する説明責任の制度的担保です。
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まとめ
森林環境譲与税の使途は法律で定められた4類型(森林整備・人材育成・木材利用・普及啓発)に限定され、2023年度実績では森林整備38%・木材利用20%・人材育成12%・普及啓発8%・基金積立22%という構成です。森林整備は境界明確化と経営管理制度運用が中心、木材利用は公共施設木造化(年間100施設超)、人材育成は地域林政アドバイザー(全国400名超)が主要事業。基金積立22%の滞留問題、市町村類型別の使途パターン差、第6次森林・林業基本計画での使途明確化論点が今後の運用改善の焦点となります。

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