葉も実もクヌギにそっくり。でも幹を手のひらで押すと、指がぐっと沈み込む——この厚いコルク質の樹皮こそが、アベマキ(Quercus variabilis、別名ワタクヌギ)の正体です。クヌギと見分けがつかないほど似た西日本の里山のナラ類でありながら、東アジアでただ一つ、コルクをまとう木。その個性を見ていきます。
クヌギとの見分け方は「指で押す」
アベマキとクヌギは、本当によく似ています。葉は細長い披針形で縁に針のような鋭い鋸歯、ドングリは球形で殻斗(帽子)の鱗片が反り返る——ここまで全部共通で、葉やドングリだけでは見分けがつきません。混生地ではプロでも迷うほどです。
決め手は二つ。一つは樹皮で、アベマキはコルク質が5〜15cmと極端に厚く、指で押すと凹みます。クヌギは1〜3cmと薄く硬い。もう一つは葉の裏で、アベマキは灰白色の星状毛(中心から放射状に伸びる毛)が密生して銀白色に見えるのに対し、クヌギは無毛で緑色のまま。この毛は乾燥や紫外線から葉を守る役割があり、尾根筋の乾いた場所の個体ほど密になります。アベマキがクヌギより乾燥した斜面上部を好むのも、この適応力ゆえです。
なぜこんなに厚いコルクをまとうのか
アベマキの厚いコルク層は、外樹皮が毎年積み重なってできたもの。樹齢40〜80年の木では、樹皮の8割以上がコルクで、内側の生きた組織はわずか1〜2cmしかありません。コルク細胞は中空でスベリンという撥水性の脂質を含み、密度はとても軽く、断熱性・撥水性・弾力に優れます。
この厚い鎧には、れっきとした生存戦略があります。山火事への耐性です。コルクは熱を通しにくく、地表を火が走っても内部の形成層を60℃以下に保てる。だから幹が黒く焦げても、内側は生き残って再び芽吹けるのです。地中海のコルクガシ(ワインの栓の木)も同じ仕組みで、まったく別の系統なのに似た形質にたどり着いた「収斂進化」の例として知られます。実際、伝統的に火入れ(野焼き)が行われてきた里山では、アベマキの占める割合が高くなる傾向があります。
戦争が呼んだ、コルクの代用
このコルクが歴史の表舞台に立ったのが、第二次世界大戦中でした。1941年の開戦で地中海産コルクの輸入が途絶えると、軍需用の断熱材・絶縁材・救命具の浮き・瓶の栓などの代わりとして、岡山・広島・兵庫を中心にアベマキ林が集中的に伐採されたのです。方言名「ワタクヌギ(綿橡)」は樹皮が綿のように柔らかいことに由来し、貝原益軒の『大和本草』(1709年)にも記されています。「コルクガシ」という地域名も、この代用普及期に瀬戸内で定着しました。
ただ品質では本場に及びませんでした。欧州のコルクガシ(密度0.12〜0.20g/cm³)に比べてアベマキは0.25〜0.35とやや重く、圧縮後の戻りも劣る。だから今ではワインコルクにはほぼ使われていません。一方、原産地の中国(中国名・栓皮櫟)では事情が違い、世界第2位のコルク生産国として年間30万トン規模を生産。樹齢25年以上の木から9〜10年周期で採取し、一本から生涯200年以上にわたって何十回も収穫できます。
里山では今も現役
木材としてのアベマキは、力学的にはクヌギとほぼ同等の超重量・超高剛性。シイタケの原木として優れ、菌の活着や収量もクヌギと差がないため、生産者は両種を区別せず混ぜて使うほどです。発熱量の高い薪炭にもなり、白炭は備長炭の代わりにも。かつて瀬戸内の塩田では、製塩用の大量の薪をアベマキ・クヌギ混交林の萌芽更新がまかなっていました。
萌芽力がとにかく旺盛で、伐った株から3〜8本の若芽が一斉に吹き出します。これを2〜3本に間引いて育てれば、20〜25年でまた薪炭級に。植え直す手間も初期費用もいらない、縄文以来の持続的な里山の知恵です。今では森林環境譲与税を使い、放置されていたアベマキ林を地域のバイオマス資源として活かし直す取り組みが各地で進んでいます。夏にはカブトムシやクワガタが樹液に群がる、子どもたちの観察スポットでもあります。
よくある質問
Q. アベマキとクヌギの違いは?
樹皮のコルク厚と葉裏の毛が決め手です。アベマキは樹皮が厚く指で押すと凹み、葉裏に灰白色の星状毛が密生。クヌギは樹皮が薄く硬く、葉裏は無毛で緑色です。葉やドングリだけでは区別が難しいので、必ず幹を触ってみてください。
Q. どこで多く見られますか?
本州中部以西〜九州、特に岡山・広島・兵庫南部など瀬戸内の温暖少雨地域に多く、優占する林もあります。東北・北海道・沖縄には自生しません。
Q. ナラ枯れの被害は受けますか?
受けますが、厚いコルク層がカシノナガキクイムシの侵入を物理的に妨げるため、クヌギ・コナラより被害率はやや低めとされます。とはいえ大径木では油断は禁物で、早期発見と感染木の処理が基本です。

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