「山火事」と聞くと、カリフォルニアやオーストラリアの真っ赤に燃える山々を思い浮かべるかもしれません。けれど日本でも、林野火災は年に平均1,300件ほど起きています。焼ける面積は年約700ha。実は意外なことに、この数字は過去30年でぐっと減ってきました。とはいえ近年は気候変動の影で雲行きが怪しく、2022年には岩手県の釜石・大船渡で86haが焼ける大規模延焼も起きています。日本の山火事の「いま」を、データから読み解いてみましょう。
30年で件数は5分の1に
1980年代後半まで、日本の林野火災は年6,000件・焼失3,000haという規模でした。それが1990年代以降ぐんぐん減り、直近5年の平均は件数で約1,300件、面積で約700ha。件数はおよそ5分の1、面積は4分の1にまで縮んでいます。
減ってきた理由は大きく3つあります。ひとつは農山村の人口減少と高齢化で、たき火や野焼き、火入れ自体が減ったこと。ふたつめは「春の山火事予防運動」が定着し、乾燥時の入山自粛や火気使用の許可制が浸透したこと。みっつめは無線やヘリ消火、GPS誘導といった初動技術が向上し、大きく燃え広がる前に消し止められるようになったことです。ただし2017年以降は、気候変動による乾燥や強風で焼失面積が1,000haを超える年も出てきており、楽観はできません。
9割は人のしわざ
意外に思われるかもしれませんが、日本の山火事の原因はそのほとんどが人為的なものです。落雷などの自然発火は1%未満。原因が分かったケースの約9割が、人の火の不始末によるものなのです。
第1位の「たき火」は、農山村でのゴミ焼きや落ち葉焼き、畑の整理に伴うものが多く、登山者のたき火は実は少数派です。火入れ(山林や原野での野焼き)は森林法で市町村長の許可制になっており、無許可の火入れには罰則があります。家庭や事業所での野外焼却を減らし、火入れの許可と立会を徹底し、たばこの始末に気をつける――この3つが対策の柱です。
春に集中する理由
山火事は2〜5月の乾燥期に集中し、この4か月で年間件数の60%、焼失面積の70%超を占めます。とくに3月は単月で全体の約25%に達するピーク。冬の間に枯れ草や落ち葉、落ち枝がたっぷり積もったところへ、気温が上がり、湿度が下がり、春一番のような強風が吹く。林床に「燃えやすい燃料」がもっとも溜まる季節なのです。
夏に少ないのは、梅雨の湿り気と夕立が燃料を湿らせてくれるから。林野庁や消防庁の予防キャンペーンが3〜5月に集中するのは、こうした気象のしくみに合わせてのことです。
東日本の太平洋側が要注意
都道府県別に見ると、岩手・福島・茨城・広島・福岡などが上位に並びます。とくに岩手・宮城・福島の太平洋側は、冬から春の乾燥日が多く、強い北西風(からっ風)が吹き、農山村の野焼きも残っているという条件が重なり、件数も規模も大きくなりがちです。
| 都道府県 | 年間平均件数 | 年間焼失面積(ha) | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 岩手県 | 60〜90 | 50〜200 | 三陸沿岸・北上山地で大規模化 |
| 福島県 | 50〜80 | 40〜120 | 阿武隈高地で多発 |
| 茨城県 | 40〜60 | 15〜40 | 乾燥日数が全国上位 |
| 広島県 | 35〜55 | 20〜60 | 瀬戸内の乾燥気候 |
| 北海道 | 30〜50 | 25〜80 | 融雪後の野火・遠隔山林 |
おもしろいのは、件数と焼失面積が必ずしも比例しないことです。件数は人が火を使う機会の多さで決まりますが、1件がどこまで燃え広がるかは地形や植生、そして消火のしやすさで変わります。岩手や北海道で1件あたりの面積が大きいのは、消防車が入れない遠い山奥での火災が多いから。都市近郊の里山火災と、ヘリ頼みの遠隔山林火災とでは、必要な備えがまるで違うのです。
世界と比べれば「小規模・高頻度型」
世界に目を向けると、日本の山火事はかなり小さい部類です。米国の年間焼失面積は約280万ha、オーストラリアは100〜500万ha、カナダは200〜400万ha。日本の700haは、文字どおり桁違いに小さい。1件あたりの平均も0.5haで、欧米の数十〜数百haとは比べものになりません。日本は「件数は多いが1件は小さい」高頻度・小規模型なのです。初動の早さ、入り組んだ地形、湿潤な梅雨が、大規模化を抑えてくれています。
とはいえ油断は禁物です。気候変動で気温が上がり、乾燥日や強風日が増えれば、この前提は崩れかねません。森林研究・整備機構の試算では、いまの年700ha規模が将来1,500〜2,500haに拡大する可能性も指摘されています。ひまわり(気象衛星)の10分間隔観測やAIによるリスク予測、ドローン消火といった新しい技術を、従来の地上消防・航空消火・地域の初動という3層の体制に組み込みながら、備えを固めていくことが、これからの課題です。私たち一人ひとりにできるのは、まず火の始末に気をつけること。それが、いちばん確実な山火事対策なのかもしれません。
よくある質問
日本でいちばん山火事が多い県はどこですか?
近年5年平均で岩手県(年60〜90件)が最多で、福島・茨城・広島・福岡が続きます。発生密度や1件あたりの焼失面積では東北の太平洋側が突出しています。乾燥日の多さ、強い北西風、農山村に残る野焼きが主な要因です。
出火原因の第1位は何ですか?
たき火が約30%で最多、次いで火入れ(17%)、たばこ(11%)と続きます。原因が判明したケースの約9割が人の火の不始末によるもので、落雷などの自然発火は1%未満です。家庭・事業所の野外焼却、農山村の野焼き、入山者の火気使用が主な火源です。
米国やオーストラリアと比べてどのくらいの規模ですか?
年間焼失面積でみると、日本の700haに対して米国は約280万ha、オーストラリアは最大1,900万ha(2019〜2020年)にのぼり、日本は数千分の1から1万分の1ほどの規模です。日本は「件数が多く1件は小さい」、欧米豪は「件数は少なく1件が巨大」という対照的な構造になっています。

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