【エゾマツ】Picea jezoensis|北海道道木にして世界の楽器響板用材、軽量・高剛性の構造特性と音響適性

エゾマツ | Forest Eight

エゾマツ(Picea jezoensis)は、北海道を代表する針葉樹です。1966年に北海道の道木に指定され、トドマツと並んで道の亜寒帯林をつくる主役。木材としては軽くて剛性が高く、ピアノやバイオリンの響板用材として、欧州産トウヒ・北米産シトカトウヒと並ぶ世界的な銘材として知られています。学名のjezoensisは「蝦夷(えぞ)の」という意味です。

エゾマツ(Picea jezoensis)の分布と材特性 分布の概略 北海道:全道、特に道東・道北の亜寒帯林に多い 本州中部高山:標高1,500m以上の亜高山帯(南アルプス・八ヶ岳等) 国外:サハリン・千島・カムチャツカ・朝鮮半島北部 混交林の構成樹種 ・エゾマツ(Picea jezoensis)— 主軸 ・トドマツ(Abies sachalinensis)— 隣接 ・ダケカンバ(Betula ermanii) ・ミズナラ・ハリギリ等 材特性 気乾比重 約0.43(軽量・高剛性) 心材:淡黄褐色、辺材:白色 木理通直・年輪緻密、音響特性に優れる 樹高40m級・寿命300〜500年
エゾマツの分布・混交林・材特性の概観
目次

トドマツとどう違う?

北海道で「エ・トド」とセットで呼ばれるエゾマツとトドマツですが、属レベルで別物です。エゾマツはトウヒ属(Picea)、トドマツはモミ属(Abies)。一番わかりやすい見分け方は球果(まつぼっくり)で、エゾマツは枝から下向きに垂れ下がり、トドマツは上向きに立ちます。葉はエゾマツのほうが硬く尖り、樹皮は紫黒色〜灰褐色のウロコ状。トドマツの灰白色でなめらかな樹皮とは雰囲気が違います。

樹高は30〜40メートル、大径木では50メートル級に達し、寿命は天然林で300〜500年。分布は北海道全域と本州中部の高山(標高1,500メートル以上)で、国外ではサハリン・千島・カムチャツカ・朝鮮半島北部まで広がります。北海道では、このエゾマツとトドマツが混じり合う「エゾマツ・トドマツ林」が亜寒帯林の代表的な姿です。

世界が認める響板用材

エゾマツの名を世界に知らしめたのは、何といっても楽器の響板用材としての価値です。木材としては気乾比重0.43前後の軽軟材ですが、軽い割に剛性が高く、振動を効率よく伝えて音を増幅する「音速比剛性」に優れます。これが、ピアノの響板やバイオリンの表板に最適な性質を生みます。

北海道の冷涼な気候でゆっくり育つため、年輪が1ミリ前後と細かく均一で、木目がまっすぐ。無節で長尺の柾目板が取れる良材は、ヤマハ・カワイなど国産ピアノメーカーや、琴・三味線といった和楽器の響板に使われてきました。欧州産のオウシュウトウヒ(Picea abies)、北米産のシトカトウヒと並ぶ「世界三大トウヒ」の一角です。

楽器グレードの選別はきわめてシビアで、良質な大径木1本から「楽器用」に使える柾目板が取れるのは原木の1〜3割ほど。残りは建築・家具・パルプ材に回されます。この希少性ゆえ、楽器用の銘木級は1立方メートルあたり数十万〜200万円と、通常の建築材(同3〜8万円)の10倍以上の値が付くこともあります。

北海道の建築と暮らしを支える

とはいえ、量で見ればエゾマツの主戦場は建築・構造材です。軽くて施工しやすく、強度・寸法安定性のバランスがよいため、北海道の在来木造住宅の柱・梁・桁から、集成材・合板・床板・家具材まで幅広く使われます。北海道産住宅資材の国産材比率は8割を超え、全国平均(42.4%)を大きく上回る道内自給型の供給構造を支えているのが、このエゾマツとトドマツです。近年はCLT(直交集成板)の原料としても活用が進んでいます。

アイヌ文化では、エゾマツは「スンク」と呼ばれ、住居や儀礼の用材として大切にされてきました。明治の開拓期にも建築材として大量に使われ、札幌の時計台(1878年)など歴史的建造物にもエゾマツ・トドマツが用いられています。世界的な楽器材としての名声と、北海道在来種としてのアイデンティティが結びついた、特別な木なのです。

これからの課題

戦後の伐採急増で、北海道のエゾマツ・トドマツ天然林はおよそ半減し、現在は約50万ヘクタールの天然林と若い再造林とが併存しています。エゾマツは古い倒木の上に芽生える「倒木更新」という独特の更新パターンを持ち、天然更新には適度な明るさと湿度が必要なため、皆伐後の自然回復がうまくいかないことも多い樹種です。そのため近年は人工再造林との併用が標準になっています。

課題も複合的です。約65万頭まで増えたエゾシカによる稚樹の食害、欧州でオウシュウトウヒに大規模被害を出しているヤツバキクイムシへの警戒、そして温暖化による分布南限の縮小。2100年には道内の生育適地が現在の6〜7割程度に縮むとの予測もあります。北海道は道有林・国有林の比率が高く、択伐や複層林化を軸にした公的な森林経営のなかで、道木エゾマツを次世代へ引き継ぐ取り組みが続いています。

よくある質問

Q. エゾマツとトドマツの見分け方は?
球果の向きが一番確実です。エゾマツは下向きに垂れ、トドマツは上向きに立ちます。葉はエゾマツのほうが硬く尖り、樹皮も紫黒色でウロコ状です。

Q. なぜ楽器の響板に向くの?
軽い割に剛性が高く、振動を効率よく伝える「音速比剛性」に優れるためです。冷涼地で育つので年輪が細かく均一で、無節の柾目板が取れる点も理想的です。

Q. オウシュウトウヒとの違いは?
物理特性はよく似ていますが、エゾマツは明るく澄んだ音色傾向で国産ピアノや和楽器に、オウシュウトウヒは深い音色傾向でバイオリン名器に好まれる傾向があります。

出典・参考

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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