【ウラジロモミとは】Abies homolepis|亜高山針葉樹林の指標種、白木と気候適応の現代林業

ウラジロモミとは | Forest Eight

ウラジロモミ(Abies homolepis)は、本州・四国の標高800〜2,000メートル、亜高山帯のひんやりした森に生きる日本固有のモミの仲間です。葉をひっくり返すと裏側に2本のくっきりした白い線が走っていて、これが「裏白樅(うらじろもみ)」という名前の由来。同じモミ属でも、低い山に多いモミ(A. firma)よりずっと寒い高所を好み、コメツガやシラビソと肩を並べて極相林をつくる、いわば高地の常連メンバーです。

気乾比重0.40(0.34〜0.46)軽軟曲げ強度50-70MPaモミに準じる葉裏純白(2気孔線)識別最大の特徴分布上限1,500-2,000m亜高山帯下部
ウラジロモミの主要スペック(含水率15%基準・代表値)
目次

「裏白」を見分ける

名前のとおり、最大の手がかりは葉の裏。線形の葉(長さ1.5〜3センチ、先がわずかにへこむ)をめくると、2本の鮮やかな白い気孔線が走ります。同じ亜高山帯のシラビソはやや青白い白、オオシラビソは白、低地のモミは黄味がかった白、と微妙に色味が違うので、慣れれば現場でも見分けがつきます。

もう一つのポイントは樹皮。モミは老木になると鱗のようにはがれが目立ちますが、ウラジロモミははがれが少なく、灰白色のまま比較的なめらかです。樹高は30メートル、直径1メートルに達する立派な高木で、若いうちは三角の円錐形、年を重ねると円柱形に近づきます。球果(まつぼっくり)は上向きにつき、未熟なうちは紫色、熟すと淡褐色になって初冬にぱらぱらと崩れ落ちます。

どんな森に育つか

自然分布は福島県以南の本州と四国。八ヶ岳、浅間山、富士山、奥秩父、南アルプス、大台ヶ原、剣山などに点在します。年平均気温4〜10℃、降水量1,500〜3,000ミリという、湿って冷涼な土地が好み。日陰でもじっと耐えて育つ「陰樹」なので、林床で長く生き延びて最後に主役になる極相林の構成種になります。コメツガやシラビソ、トウヒと混じり合った亜高山針葉樹林が、本種の典型的な住みかです。

ただ、この冷涼好きが気候変動には弱点になります。森林総合研究所の予測では、温暖化が進むと分布の下限が現在の標高800メートルから1,200〜1,400メートルへ押し上げられる可能性があり、生育適地そのものが縮んでいきます。亜高山林全体が「上へ上へ」と追いやられる縮退のなかで、ウラジロモミは最も気候ストレスを受けやすいグループの一つです。

白くて軽くて、無臭

木材はほぼ全体が淡い乳白色で、心材と辺材の境目がはっきりしません。気乾比重0.40〜0.45の軽軟材で、ヒノキやスギのような香りがほとんどないのが大きな特徴です。下のグラフはスギ・ヒノキとの力学特性を比べたものですが、強度面では針葉樹のなかで中庸といったところ。

ウラジロモミとスギ・ヒノキの力学特性プロファイル気乾比重曲げ強度圧縮強度せん断強度耐朽性ヤング率 ウラジロモミ スギ ヒノキスギを基準とした相対値(外側ほど高性能)
ウラジロモミとスギ・ヒノキの力学特性比較

弱点は耐朽性の低さ。抗菌作用のあるテルペン類の蓄積が少ないため、屋外で長く使う用途には向きません。でも裏を返せば、「色がつかない・匂いがしない・割れにくい」という性質は、色や香りを乗せたくない用途にぴったり。これがウラジロモミ独自の市場を生み出しています。

項目 ウラジロモミ モミ 参考: スギ
気乾比重 0.40〜0.45 0.42〜0.46 0.30〜0.40
香り ほぼ無臭 ほぼ無臭 強い杉香
耐朽性
主用途 パルプ・卒塔婆・響板 包装・卒塔婆・響板 柱・梁・羽柄

卒塔婆、響板、そしてクリスマスツリー

無臭で白い木は、意外なところで活躍しています。

卒塔婆・神具:白木の清潔感と匂いのなさが宗教的な清浄観によく合い、東日本では卒塔婆や絵馬の伝統的な定番材です。全国の卒塔婆需要は年間1,800〜2,200万本ほどで、東日本のおよそ6割でモミ属の白木が使われ、その主産地が長野・山梨・福島・新潟の山岳地帯です。

楽器の響板:軽くて均質、ほどよい弾力があるため、ピアノやお箏・三味線の響板部材に。本来はヨーロッパトウヒ(スプルース)が定番ですが、その国産代替として一部の楽器メーカーが使っています。

クリスマスツリー:きれいな円錐形の樹形で、しかも針葉がドイツトウヒほどチクチクしない。この扱いやすさが評価され、近年は国産ツリー苗木としてシェアを伸ばしています。長野・山梨の苗木業者で年間60〜80万本規模の出荷があります。

このほかパルプ・チップ(白色度が高く上質紙の原料に向く)、梱包材・パレット、和室の天井板など、地味ながら確かな出番があります。

採算は厳しい、でも森としての価値は高い

ウラジロモミ単独の人工林は全国で2.8万ヘクタール程度と、スギ・ヒノキ・カラマツに比べてごく小規模。多くは亜高山林の択伐のなかで混交材として産出されます。立木価格は1立方メートルあたり3,500〜5,500円(2024年)と、スギの半値水準です。

ウラジロモミの用途別市場価格レンジ建具・造作材白さ活用5〜9万円/m³卒塔婆葬祭具7〜12万円/m³パルプ材低質材0.5〜0.9万円/m³0万2万4万6万8万10万12万
ウラジロモミの用途別市場価格レンジ(市況により変動。取引時の参考値)

急傾斜地での架線搬出にコストがかかるため、択伐だけでは赤字になりがちで、森林環境譲与税や造林・治山補助金を併用してようやく収支が成り立つのが実情です。それでも、水源涵養や観光景観、生物多様性といった「木材以外の恵み」を金額換算すると1ヘクタールあたり年間18〜35万円相当という試算もあり、森全体としての社会的価値は十分にプラスです。

近づきにくい森を、上空から見守る

急峻・高標高・冬はアクセス困難という三重苦のため、ウラジロモミ林の地上調査は昔から高コストでした。そこで力を発揮するのがスマート林業です。航空機LiDARは2024年度時点で全国の約66%をカバーし、八ヶ岳や南アルプスなど主要山岳はほぼ完了。深層学習による樹種分類で、ウラジロモミ・シラビソ・オオシラビソの区別が95%超の精度でできるようになりました。

さらにSentinel-2衛星の5日周期データから葉緑素の経年変化を追えば、気候ストレスによる集団枯損の兆候を準リアルタイムで掴めます。森林総研と国立環境研究所の共同研究では、この手法でウラジロモミ林の枯損を早期検出した事例が複数報告されています。近づきにくい森ほど、空からのモニタリングが効いてくるわけです。

神社の社叢に残る白木信仰

ウラジロモミは、白木の清浄性ゆえに宗教文化と深く結びついてきました。諏訪大社や富士山周辺の浅間神社など、八ヶ岳・富士山麓の主要神社の社叢林(鎮守の森)に保存林として残されています。神道では白木が清浄と神聖の象徴であり、神具や社殿の用材として代々重んじられてきました。

仏教の世界でも卒塔婆や位牌に白木のモミ・ウラジロモミが使われ、東日本では「東のモミ、西のヒノキ」という地域の住み分けが伝統的に根づいています。江戸期には「アオモミ」「ヤナギモミ」とも呼ばれ、ウラジロモミ・モミ・コウヤマキは社寺造営の三大白木材とされていました。補助金以外でこの木が稼げる数少ない市場が、こうした宗教用具の世界なのです。

気候変動という最大の試練

すでに触れたとおり、ウラジロモミは国産樹種のなかでも気候変動に最も弱いグループです。森林総研の高排出シナリオ(RCP8.5)では、2100年までに生育適地が現在比60〜75%減少すると予測されています。リスクは複合的です。

  • 分布下限の上昇:低標高側から適地が削られ、八ヶ岳では下限が800メートルから1,400メートル付近まで上がると予測。
  • 夏の高温・乾燥:気孔を閉じる時間が延びて成長が鈍り、乾燥年には集団枯損のリスク。
  • シカ食害:温暖化で増えたニホンジカが稚樹を食べ、防護柵のない場所では更新成功率が柵ありの20〜30%にまで落ち込みます。
  • 病害虫の北上:モミハダニやトウヒハバチ類が高標高へ侵入。

対策としては、高標高の保護林ネットワークの拡張、林木育種センターによる耐暑性系統の選抜と種子バンク保管、シカ防護柵と捕獲、ドローン・衛星による早期警報の整備を組み合わせた多層的なアプローチが必要とされています。多くのウラジロモミ林はすでに国立公園の特別保護地区や林野庁の保護林に指定され、商業伐採の対象外として守られています。

世界のモミと並べてみる

モミ属は北半球に約50種。欧州ではコーカサス原産のノルマンディーモミがクリスマスツリーの最高級ブランドとして年間5,000万本超を出荷しています。欧州輸入ツリーにトレーサビリティを求めるEUDR(EU森林破壊防止規則)が動き出すなか、国産ウラジロモミがその代替として中長期の追い風を受ける可能性も出てきました。

種名 主産地 主用途
ウラジロモミ A. homolepis 日本本州・四国 パルプ・宗教用具・楽器
ノルマンディーモミ A. nordmanniana コーカサス・トルコ クリスマスツリー(欧州標準)
ノーブルファー A. procera 北米西海岸 クリスマスツリー・建材
欧州モミ A. alba 中欧アルプス パルプ・建材・響板

よくある質問

Q. ウラジロモミとモミはどう見分ける?
葉裏の白さ(ウラジロモミの方が白い)、樹皮のはがれ(モミの方が鱗状にはがれる)、育つ標高(ウラジロモミの方が高い)の三点が目安です。

Q. 構造材には使えない?
強度的には柱に使えますが、耐朽性が低いため長く使う建築の主要構造には不向き。短期の内装材や仮設材なら成立します。

Q. クリスマスツリーとして栽培できる?
できます。長野・山梨で年60〜80万本規模の出荷実績があります。樹形の美しさと針葉の柔らかさが魅力ですが、夏の高温で枯れやすいため標高800メートル以上の栽培地が推奨されます。

出典・参考

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この記事を書いた人

ハウスメーカーで住宅の構造を担当したのち、林業の世界へ。林業・木材・建築の3領域を横断する視点で、Forest Eight の記事を編集しています。

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