【ウラジロモミとは】Abies homolepis|亜高山針葉樹林の指標種、白木と気候適応の現代林業

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目次

クイックサマリー

ウラジロモミ(Abies homolepis)は、マツ科モミ属に属する日本固有の常緑針葉樹で、本州・四国の標高800〜2,000メートルの冷温帯〜亜寒帯に分布します。葉裏に2条の鮮やかな白い気孔線(ストマ・バンド)を持つことから「裏白樅」の名を得ました。モミ(A. firma)が暖温帯〜冷温帯で生育するのに対し、ウラジロモミはより高標高・低温域を主分布域とし、亜高山針葉樹林(コメツガ・シラビソ・オオシラビソ・コメツガ群落)の構成樹種として極相林の重要な一員を成します。木材は白色・軽軟・無臭で加工容易、気乾比重0.42前後、ヤング率6〜8kN/mm²で、構造材としての主力にはならない一方、パルプ・卒塔婆・絵馬・楽器響板・梱包材・クリスマスツリー苗木として独自の市場を形成しています。本記事ではウラジロモミの生態学的位置づけ、林業上の役割、亜高山林モニタリングへのスマート林業活用、気候変動下のリスクと保全戦略を整理します。

気乾比重0.40(0.34〜0.46)軽軟曲げ強度50-70MPaモミに準じる葉裏純白(2気孔線)識別最大の特徴分布上限1,500-2,000m亜高山帯下部
図1:ウラジロモミの主要スペック(含水率15%基準・代表値)

1. 学名と分類学的位置

学名は Abies homolepis Sieb. et Zucc.、和名はウラジロモミ(裏白樅)。マツ科(Pinaceae)モミ属(Abies)に属し、日本固有種です。属内の近縁種としては、低標高側にモミ(A. firma)、高標高側にシラビソ(A. veitchii)・オオシラビソ(A. mariesii)・トドマツ(A. sachalinensis)が並び、垂直分布の中継ぎ的な位置を占めます。種小名 homolepis はギリシア語の homo-(同じ)と lepis(鱗)に由来し、球果鱗片が同形であることを示します。命名はシーボルトとツッカリーニ(Philipp Franz von Siebold、Joseph Gerhard Zuccarini)が1842年の『日本植物誌(Flora Japonica)』で行ったものです。日本のモミ属植物分類は、葉裏の白色気孔線、球果苞鱗の長さ、樹皮の質感の三点で識別されるのが古典的方法ですが、近年は核DNAマーカー(ITS領域、psbA-trnH等の葉緑体マーカー)による系統解析が併用されています。

2. 生態と分布

ウラジロモミの自然分布は本州(福島県以南)・四国の標高800〜2,000メートル域に集中し、八ヶ岳・浅間山・富士山・奥秩父・南アルプス・大台ヶ原・剣山などに点在します。同属のモミより冷涼な立地を好み、年平均気温4〜10℃、年降水量1,500〜3,000ミリの湿潤冷温帯〜亜寒帯下部が典型適地です。陰樹で耐陰性が高く、林床下でも長く生き延びる「耐陰世代」を形成するため、極相林の構成樹種となります。

群落生態学的には、コメツガ(Tsuga diversifolia)・シラビソ・オオシラビソ・トウヒ(Picea jezoensis var. hondoensis)と混生する「亜高山針葉樹林(subalpine coniferous forest)」の優占種の一つとして位置づけられます。八ヶ岳硫黄岳東斜面(標高1,800〜2,200メートル)では、ウラジロモミ・コメツガ混交林の単位面積あたり立木本数が約1,200本/ヘクタール、平均樹高22〜26メートル、林分材積約450立方メートル/ヘクタールという数値が森林総合研究所の長期モニタリングで報告されています。

気候変動の影響は、本種にとってモミ・スギなど暖温帯樹種より深刻です。林野庁・森林総合研究所の予測では、2100年までに分布下限の標高が現在の800メートルから1,200〜1,400メートルに上昇する可能性が示されており、これは亜高山林全体の縮退(垂直方向の押し上げ)に直結します。生育適地そのものが縮小するため、長期保全戦略としては高標高域の保護林ネットワーク強化、種子バンク(林木育種センター森林バイオ研究所)への系統保全、衛星・ドローンによる連続モニタリングが進められています。

3. 形態的特徴と識別ポイント

ウラジロモミは樹高30メートル、胸高直径100センチに達する常緑高木で、樹冠は若齢期は円錐形、壮齢期に入ると円柱形〜やや扁平な頂端形に推移します。樹皮は灰白色〜灰褐色で、若齢期は平滑、老齢になると浅く縦に割れ、薄い鱗状にはがれます。これがモミ(鱗状はがれが顕著)とウラジロモミ(はがれが少ない)の現場識別ポイントです。

葉は線形で長さ1.5〜3センチ、先端は浅く2裂またはわずかに凹み、表面は濃緑色で光沢があり、裏面に2条の鮮やかな白い気孔線が走ります。これが「裏白」の名称由来です。気孔線の白色度はシラビソ(やや青白い)・オオシラビソ(白)・モミ(黄味白)と微妙に異なり、慣れれば現場で識別可能です。球果は直立性で長さ8〜12センチ、未熟時は紫色、成熟後は淡褐色になり、初冬に脱落します。雄花序は前年枝の葉腋に多数つき、5月中旬〜6月上旬に開花します。

4. 木材物性:白色・軽軟・無臭の加工適性

ウラジロモミと主要針葉樹の力学特性プロファイル気乾比重曲げ強度圧縮強度せん断強度耐朽性ヤング率 ウラジロモミ スギ ヒノキスギを基準とした相対値(外側ほど高性能)
図2:ウラジロモミとスギ・ヒノキの力学特性比較
100% 75 50 25 0 残存曲げ強度(%) 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 節径比 d/h 影響無視範囲 20-30%低減 40%以上低減 ▲構造材として注意 節径比と残存曲げ強度の関係
図3:節径比d/hと残存曲げ強度の関係(JAS構造用製材規格の経験則)

ウラジロモミ材は心材・辺材の境界が不明瞭で、ほぼ全層が淡い乳白色〜淡黄白色を呈します。気乾比重は0.40〜0.45、ヤング率6〜8kN/mm²、曲げ強度50〜60N/mm²で、針葉樹の中では軽軟材グループに位置します。香りはほぼ無臭で、これがヒノキ・スギなど芳香性針葉樹との決定的な差です。

項目 ウラジロモミ モミ シラビソ 参考: スギ
気乾比重 0.40〜0.45 0.42〜0.46 0.36〜0.42 0.30〜0.40
ヤング率(kN/mm²) 6〜8 7〜9 6〜8 6〜8
耐朽性
香り ほぼ無臭 ほぼ無臭 ほぼ無臭 強い杉香
主用途 パルプ・卒塔婆・響板 包装・卒塔婆・響板 パルプ・梱包 柱・梁・羽柄

耐朽性が低い理由は、心材形成が不完全で抗菌性のあるテルペン類(フェノール性化合物)の蓄積量が少ないためです。木材保存学的には JIS K 1571 に基づく耐久性区分で「D3(低耐朽性)」に該当し、屋外暴露用途には不向きです。一方、白色・無臭・割れにくさという特性は、文房具・玩具・楽器・宗教用具など「色や香りを付けたくない用途」に最適であり、これが独自市場を形成する基盤となっています。

5. 用途展開:宗教用具・楽器・クリスマスツリー

ウラジロモミの市場用途は次のようにセグメント化されます。

(1) パルプ・チップ:白色度が高く、繊維長が中程度(2.5〜3.5ミリ)で、上質紙・コピー用紙原料として高評価。年間消費量は国産モミ属合計で約45万立方メートル、うちウラジロモミは約12〜15万立方メートル。

(2) 卒塔婆・絵馬・神具:白木の清潔感と無臭性が宗教的清浄観に適合し、卒塔婆業界では「東日本のモミ・ウラジロモミ材」が伝統的標準品。年間生産量は約8万立方メートル相当(卒塔婆換算で約1,800万本)。

(3) 楽器響板:軽量・均質・適度な弾性により、ピアノ響板・和楽器(箏・三味線胴)の二次部材として利用。ヨーロッパスプルース(Picea abies)の代替として、国産ウラジロモミが一部国産楽器メーカーで使われます。

(4) クリスマスツリー:樹形が円錐形で美しく、針葉のチクチク感がドイツトウヒ(P. abies)より穏やかなため、近年は国内クリスマスツリー苗木市場でウラジロモミ系統がシェア拡大中。長野県・山梨県の苗木業者で年間出荷量約60〜80万本規模。

(5) 梱包材・パレット:軽量・低価格で扱いやすく、機械部品・果実出荷用木箱の素材として採用。北関東・東北の中堅製材所が主要供給源。

(6) 内装材・羽目板:和室天井板・棚板など、香りを残したくない上質内装に使われます。市場価格はヒノキ内装材の60〜70%水準。

6. 林業経済:低単価・補助金依存型のセグメント

ウラジロモミの用途別市場価格レンジ建具・造作材白さ活用5〜9万円/m³卒塔婆葬祭具7〜12万円/m³パルプ材低質材0.5〜0.9万円/m³0万2万4万6万8万10万12万
図4:ウラジロモミの用途別市場価格レンジ(市況により変動。取引時の参考値)

ウラジロモミ単独の人工林面積は全国で約2.8万ヘクタールと推定され、スギ・ヒノキ・カラマツに比べて極小規模です。素材生産においても主役にはならず、亜高山林の択伐・施業によって混交材として産出されるケースが大半です。立木価格は1立方メートルあたり3,500〜5,500円(2024年)、これは同属のモミ(4,500〜6,500円)よりやや低位、スギ(7,500〜10,000円)の半値水準です。

典型的な収益構造(長野県亜高山域・1ヘクタール択伐・対象材積100立方メートル)を示します。

項目 金額(千円/ha) 備考
素材売上(100m³×4,500円) 450 混交材として算定
伐採搬出費 -380 架線系・急傾斜地
運搬費 -90 40km
市場手数料・税 -30 約7%
純収益 -50 赤字
森林環境譲与税・補助金 +150〜200 市町村経由
補助込み実質収支 +100〜150 黒字化

このように、ウラジロモミ施業は補助金(森林環境譲与税・造林補助金・治山補助金)の併用なしには経済的に成立しません。一方で、亜高山林の保全・水源涵養・観光景観・生物多様性といった非木材便益の総合価値は、CVMベースで1ヘクタールあたり年間18〜35万円相当と試算されており、生態系サービス支払(PES)スキーム下では正味の社会的便益はプラスです。

7. スマート林業との接続:亜高山林の遠隔モニタリング

急峻地形・高標高・厳冬期アクセス困難という三重苦のため、ウラジロモミ林の地上調査は伝統的に高コストでした。ここにLiDAR・衛星データ・ドローンを組み合わせたスマート林業技術が決定的な役割を果たします。

林野庁の航空機LiDAR取得は2024年度時点で全国66%カバレッジに達し、亜高山域も主要山岳地帯(八ヶ岳・南アルプス・奥秩父・大台ヶ原)はほぼ完了しました。1メートル解像度のDTM・DCHM(樹冠高モデル)と樹種分類アルゴリズム(深層学習ベースのU-Net・Random Forest)の組み合わせにより、ウラジロモミ・シラビソ・オオシラビソの種別樹冠分類が95%超の精度で可能になっています。

衛星リモートセンシングでは、Sentinel-2の10メートル解像度マルチスペクトル画像を5日周期で取得・処理し、葉緑素吸収帯(赤縁波長帯、Red Edge、705ナノメートル付近)の経年変動から、亜高山針葉樹林の活性度低下や枯損進行を準リアルタイムで把握できます。森林総合研究所と国立環境研究所の共同研究では、本手法でウラジロモミ林の集団枯損(気候ストレス起因)の早期検出に成功した事例が複数報告されています。

ドローンによる超解像(5センチ/ピクセル)撮影は、特定試験地での精密モニタリングに用いられます。長野県環境保全研究所の長期試験区では、毎年6月・10月の2回、固定ルートでドローン撮影を実施し、樹冠変化・着花量・球果数の時系列データを蓄積しています。これにより気候変動と亜高山林動態の関連性が定量解析可能になりつつあります。

8. 政策接続:保護林・森林環境譲与税・J-クレジット

ウラジロモミ林の多くは林野庁の「保護林」(学術参考保護林・植物群落保護林・水土保全保護林)あるいは「自然公園特別保護地区」に指定され、商業的素材生産の対象外となっています。八ヶ岳中信高原国定公園、南アルプス国立公園、富士箱根伊豆国立公園、奥秩父多摩甲斐国立公園のいずれも、ウラジロモミ・シラビソ・オオシラビソ混交林を主たる保護対象に含みます。

令和6年度に譲与総額629億円規模に拡大した森林環境譲与税は、保護林・自然公園特別保護地区も交付対象に含まれ、長野県・山梨県・静岡県では本税を活用した亜高山林の植生モニタリング・登山道侵食防止・シカ食害対策が実施されています。譲与税の制度設計・譲与基準・市町村活用事例の詳細は【森林環境譲与税とは】629億円規模・市町村実施率82%の最新動向を参照されたい。

J-クレジット制度(森林分野FO-001森林経営活動)では、ウラジロモミ単独林の認証申請事例は少ないものの、亜高山針葉樹混交林の一部としてカウントされるケースがあります。本種の年成長量は標高1,800メートル付近で約3〜5立方メートル/ヘクタール(炭素換算1.5〜2.5トンCO₂/ヘクタール・年)と低水準ですが、土壌炭素ストックは厚い腐植層により表層50センチで150〜250トン炭素/ヘクタールと高水準で、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)対応における自然資本の貨幣評価で重要な要素となります。3方法論の参加要件・吸収量算定式の詳細は【J-クレジット制度森林管理プロジェクトとは】FO-001/002/003方法論を参照されたい。

9. 気候変動下のリスクと保全戦略

ウラジロモミは気候変動下で最も脆弱な国産樹種の一つです。森林総合研究所の気候適地モデルでは、RCP8.5シナリオ(高排出継続)下、2100年までに本種の生育適地面積が現在比60〜75%減少する予測が示されています。具体的なリスクは次の通りです。

  • 分布下限の標高上昇:低標高側からの押し出しによる適地縮小。八ヶ岳の例では、適地下限が現在800メートルから2100年に1,400メートル付近まで上昇すると予測。
  • 夏季高温・乾燥ストレス:気孔閉鎖時間の延長による炭素固定量低下、乾燥年における集団枯損リスク。
  • シカ食害の激化:温暖化と森林分断化によるニホンジカ個体群拡大、ウラジロモミ稚樹の食害深刻化。長野県・山梨県の調査では、シカ食害ありの林分で天然更新成功率が60〜80%低下。
  • 病害虫の北上:温暖化に伴うトウヒハバチ・モミハダニ等の高標高侵入。

これらに対する保全戦略としては、(1) 高標高保護林ネットワークの拡張、(2) 林木育種センターによる耐暑性系統の選抜・種子バンク保管、(3) シカ防護柵・捕獲事業の継続、(4) ドローン・衛星モニタリングによる早期警報システムの構築、(5) 公園管理計画・登山者教育を含む統合的施策が必要とされます。

10. 樹種比較:日本のモミ属5種

項目 モミ ウラジロモミ シラビソ オオシラビソ トドマツ
学名 A. firma A. homolepis A. veitchii A. mariesii A. sachalinensis
主分布 本州・四国・九州 本州・四国 本州中部 本州中北部 北海道
典型標高(m) 200〜1,500 800〜2,000 1,500〜2,500 1,500〜2,500 0〜1,500
気乾比重 0.42〜0.46 0.40〜0.45 0.36〜0.42 0.36〜0.42 0.40〜0.45
主用途 建築・響板 パルプ・楽器 パルプ パルプ 建築・パルプ

11. 民俗・歴史:社寺林とウラジロモミ信仰

ウラジロモミは「白木の清浄性」が宗教文化と深く結びついた樹種です。神社の社叢林(ちんじゅのもり)の構成樹種として、長野県諏訪大社・山梨県北口本宮冨士浅間神社・静岡県富士山本宮浅間大社など、富士山周辺・八ヶ岳山麓の主要神社の社叢に保存林として残されています。神道では「白木」が清浄・神聖の象徴であり、神具・社殿造営材として代々重用されてきました。

仏教文化圏でも、卒塔婆・位牌・仏壇内装に白木モミ・ウラジロモミが用いられ、東日本では「東のモミ、西のヒノキ」という地域分業が伝統的に確立しています。年間の卒塔婆需要は全国で約1,800〜2,200万本、うち東日本(東北・関東・中部・甲信越)の約60%でモミ属白木が使われ、その主要産地が長野・山梨・福島・新潟の山岳地帯です。これは林業経営として補助金以外の市場収益源を提供する重要なセグメントとなっています。

江戸期の文献記録では、ウラジロモミは「アオモミ」「ヤナギモミ」とも呼ばれ、社寺造営における三大白木材(ウラジロモミ・モミ・コウヤマキ)の一翼を担っていました。明治以降の近代林業統計でも、長野県・山梨県のモミ属生産量の約3割をウラジロモミが占め、戦前期には鉄道貨車の床板・枕木・電柱用にも一部利用された記録があります。

12. 病虫害とリスク管理

ウラジロモミに影響を与える主要な病虫害は次の通りです。

  • モミハダニ(Oligonychus ununguis:高温乾燥条件で大発生し、針葉表面の葉緑素を吸汁、葉色を黄褐色化させます。気候変動下で発生地域・期間ともに拡大傾向。
  • トウヒハバチ類(Pristiphora spp.):幼虫が新葉を集中加害、成長低下と着花不全を引き起こします。シラビソ・オオシラビソでも同様被害。
  • もみさび病(Pucciniastrum spp.):ハイマツ・ツガ類との中間宿主関係を持つ銹菌病。葉裏に橙色胞子堆を形成し、激発時に集団枯死を引き起こす可能性があります。
  • モミノキキクイムシ・モミノキキバチ:暴風被害木・衰弱木に大量発生し、健全木への二次加害が懸念されます。
  • ニホンジカ食害:稚樹・若齢木の枝先・樹皮を採食し、天然更新を阻害。長野県・山梨県・静岡県の調査では、防護柵未設置地のウラジロモミ更新成功率は防護柵設置地の20〜30%にとどまります。

これら諸リスクは亜高山針葉樹林の管理において複合的に作用するため、林野庁・各都道府県は2020年代以降「亜高山林総合管理計画」を策定し、保護林の生態系健全性指標を統合的にモニタリングしています。指標には樹冠衰退指数(Crown Defoliation Index)、シカ嗜好度指数、土壌pH変化、優占種比率変動などが含まれます。

13. 国際比較:世界のAbies属とウラジロモミの位置

モミ属は北半球温帯〜亜寒帯に約50種が分布し、商業的に重要な種は世界各地でクリスマスツリー・パルプ・梱包材・建材として利用されています。ウラジロモミと国際比較すると次の通りです。

種名 主産地 気乾比重 主用途
ウラジロモミ A. homolepis 日本本州・四国 0.40〜0.45 パルプ・宗教用具・楽器
ノルマンディーモミ A. nordmanniana コーカサス・トルコ 0.38〜0.43 クリスマスツリー(欧州標準)
ノーブルファー A. procera 北米西海岸 0.36〜0.42 クリスマスツリー・建材
ダグラスファー(別属だが類縁) 北米西海岸 0.45〜0.55 構造材(参考)
シベリアモミ A. sibirica シベリア 0.36〜0.42 パルプ・建材
欧州モミ A. alba 中欧アルプス 0.40〜0.48 パルプ・建材・響板

欧州ではノルマンディーモミがクリスマスツリーの最高級ブランド(年間出荷5,000万本超)として確立しており、日本のウラジロモミがその国産代替として育成されつつあります。EUDR(規則EU 2023/1115)対応で欧州輸入クリスマスツリーへのトレーサビリティ要求が強まる中、国産ウラジロモミの市場ポジションには中長期の追い風が吹いています。

14. 種苗供給と栽培技術

ウラジロモミの種子は採種園・天然林の母樹から採取され、種子千粒重は約11〜13グラム、発芽率は新鮮種子で60〜75%、低温乾燥保管(5℃以下、含水率6〜8%)で5年程度品質維持が可能です。林木育種センターの遺伝資源バンクには、長野県・山梨県・静岡県・福島県・愛媛県(剣山系統)の地域系統が保管されています。

苗木生産は、播種後2〜3年の床替(移植)を経て、4〜5年生苗(樹高30〜50センチ)として出荷するのが標準です。施業地への植栽密度は2,500〜3,000本/ヘクタール、初期下刈期間は5〜7年と長めに設定するのが亜高山域の標準です。陰樹であるため、稚樹期は強い直射日光下での乾燥障害(針葉褐変)が発生しやすく、植栽地の選定では既存林冠下や林縁部が好まれます。

クリスマスツリー苗木としての商業栽培では、長野県の塩尻・茅野・伊那、山梨県の北杜・甲斐・富士河口湖、静岡県の御殿場・小山などの標高800〜1,200メートル域が主要産地です。苗木1本あたり2025年市場価格は4年生で約450円、6年生で約1,800円、8年生(クリスマスツリー出荷規格)で約4,500〜6,500円という相場です。原産地表示・FSC/PEFC認証取得も近年の差別化要素となっており、認証取得苗木は約20%の単価プレミアムが観測されます。

15. FAQ

Q1. ウラジロモミとモミはどう見分けるのか?
葉裏の白色度(ウラジロモミ>モミ)、樹皮の鱗状はがれ(モミ>ウラジロモミ)、典型生育標高(ウラジロモミ>モミ)の三点で識別します。確実な識別には葉の気孔線数・球果苞鱗形状を顕微鏡観察する方法もあります。

Q2. 構造材として使えないのか?
強度上は柱材として使用可能ですが、耐朽性が低く心材抗菌性も乏しいため、長期使用建築の主要構造には不向きです。短期内装材・仮設材としては成立します。

Q3. クリスマスツリー苗木として商業栽培できるか?
可能です。長野・山梨の苗木業者で年間60〜80万本規模の出荷実績があります。樹形美と針葉の柔らかさが評価されますが、夏季の急激な高温で枯死リスクがあるため、栽培地は標高800メートル以上が推奨されます。

Q4. 気候変動でウラジロモミは絶滅するのか?
RCP8.5シナリオ下でも全絶滅は予測されていませんが、生育適地は現在比60〜75%縮小し、低標高個体群は局地的に消滅する可能性が高いと予測されています。高標高保護林の連結・種子バンク保管・系統選抜が長期保全の鍵となります。

Q5. なぜ亜高山針葉樹林にウラジロモミ・シラビソ・オオシラビソが混在するのか?
三種は微妙に異なる標高・地形・微気候条件を選好するため、結果として複合的なモザイク群落を形成します。ウラジロモミは比較的低標高の谷底や尾根部、シラビソは中〜高標高の安定斜面、オオシラビソはさらに高標高の積雪深い立地、と棲み分けが見られます。

Q6. ウラジロモミの「裏白」は冬に変化するのか?
気孔線の白色度は基本的に通年安定ですが、冬期の凍結ストレスで葉緑素含量が低下すると相対的に白色度が増します。これが冬期に「裏白感」が強まる理由です。

Q7. J-クレジット申請でウラジロモミは何に注意すべきか?
本種は単独では人工林面積が小さいため、亜高山針葉樹混交林として申請する方が現実的です。年成長量が低水準のためクレジット発行量も少なめですが、土壌炭素ストックが厚い腐植層に蓄積されている点を「保全活動による排出回避」として算定する手法(VCS REDD+方法論を参考に国内拡張)が議論されています。

Q8. EUDRやTNFDで本種が話題になる理由は?
クリスマスツリー輸出入におけるトレーサビリティ要求と、亜高山林の自然資本価値開示の二本柱です。欧州輸入クリスマスツリーへのEUDR適用を機に、国産ウラジロモミ苗木へのスイッチング需要が一部で見込まれます。TNFDでは亜高山林の生物多様性ホットスポット価値が、企業の自然関連リスク・機会の一部として開示対象になりつつあります。

16. 結論:縁の下の力持ち、亜高山林の指標種

ウラジロモミは、構造用材としては地味な存在ながら、亜高山針葉樹林の極相構成種として日本の山岳生態系を支える重要な樹種です。白木・無臭・軽軟という材質特性は、宗教用具・楽器・クリスマスツリー苗木という独自の市場を形成し、補助金併用の択伐施業によって細々と経済価値を維持しています。気候変動下で最も脆弱なグループに属する本種の長期保全には、高標高保護林ネットワーク、種子バンク、ドローン・衛星モニタリング、シカ食害対策、生態系サービス支払スキームを統合した多層的アプローチが不可欠です。森林環境譲与税・J-クレジット・TNFD対応の三本柱を最大限活用しながら、亜高山林の生態系サービス価値を経済システムに内部化していく作業が、これからの政策フロンティアとなります。

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